異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第143話「ハヤブサ岩強行偵察 その1」

 

 最前線基地北門にヘキサリネ兵と探検者(エクスプローラー)は集結していた。

 そこでは探検者(エクスプローラー)集団のワハイム沼強行偵察隊の実働リーダーであるデッカーが、組んだ腕の上で指をせわしなく動かしながらイライラを募らせていた。

 

「なんで門の外に出ちゃいけねえんだ!」

「あまり先へ行くと死ぬといわれているので。マヤ殿というマスターが連れてきた探検者(エクスプローラー)が何か仕掛けをしているそうです」

「またあのうさん臭い女か!」

「事実、魔物が来なくなってるじゃないですか」

 

 門扉のところにいる兵士が、なんとかなだめていた。

 

「ユスティニアス中隊長とギルドマスター ジオニダス様が到着しました!」

「やっと来たか、待っていたぞ!」

 

 立ち上がって目を向けると、中隊長とマスターに続いてレオナルドやマヤも一緒にやってきたので、デッカーは苦い顔をして何か言いたげに口を開いたが、ヴェルディ領主もやってきたので口をつぐむ。が、ますます苦い顔になった。

 目の前にやって来たマヤを2階から見下ろすような目線で睨むと、挑発的な態度で話しかけた。

 

「その後、俺は5頭のワイバーンの止めを刺した。ゴブリンもオークも20頭は下らねえ。サンダーウルフも10頭倒してる。お前はちったあ戦果上げたのか、アンリミテッド・パーティー?」

 

 目線を合わすと首が悲鳴を上げるので、マヤは正面を向いたままぶつぶつと返した。

 

「競争なんかしてないって言ったのに。だいたいそのワイバーンだって、地上に落っことしたのは、わたしがやったようなものよね? わたしが魔素取っ払ったからでしょ」

「ふん。地上に降ろしたからって、無傷のワイバーンの戦闘力は並の魔物の比じゃない。仕留めるにはそれなりの実力が必要なんだぜ」

「わたしだってこの基地入る前に3頭輪切りにしたじゃん。それにゴブリンもオークもわたしの方がもっと倒してるんじゃないかしら……」

 

 マヤは聞こえないくらいの小声でぶつぶつと呟く。パンと手を叩くと顔を上に向けた。

 

「はいはい、そんなに競争したいんなら、こっからわたしちょっとがんばりますよ。勝ったら何してくれんのかしら」

 

 デッカーは意地悪そうにニヤァっと笑った。

 

「魔物のランク補正入れた上で、Aランク1頭差がつく毎に高級蒸留酒1本ってのでどうだ? 上位探検者(エクスプローラー)の定番だ。アンリミテッド・パーティーならそれぐらいやったっていいだろう?」

 

 魔物のランク補正とは、簡単に言えばAランクの魔物1頭を倒すのは、他のランクの魔物だと何頭倒すのに相当するか、という換算値だ。正確な力量を表すものではないが、こういった賭け事ではよく使われる。例えばAランクはBランク4頭分、Fランクだと1024頭分といった具合だ。

 横耳で聞いていたユスティニアスが、まったく探検者(エクスプローラー)は好きだねぇと呆れていた。

 

「わたしお酒飲まないんだけどなあ。わたしが勝ったら、1頭差につきリトルウィングの皆に、商業ギルドサロンの大盛りフルーツパフェ、トッピング乗せ放題を1つずつね」

「いいだろう。へん、当分酒代はいらねえな」

「デザート一生タダで食べられるわ」

 

 二人がそれぞれ勝ち誇った顔でふっふっふと笑っていると、ジオニダスがやってきた。そしてマヤに向かってニヤついているデッカーの肩に手をポンと置いた。

 

「いろいろ言いたいことはありそうだが、ひとまず抑えておけ。変な約束してないだろうな? ろくな目にあわないぞ」

「ふっ、もう遅いぜ」

「もう遅いわ」

「?」

 

 ジオニダスは怪訝な顔をするが、すぐいつもの怖い顔に戻って仕事の話をした。

 

「『龍の鱗』は遠距離視法力者を連れて、ハヤブサ岩への突入と、そこからのワハイム沼の半島を偵察してくれ。岩までの道はヘキサリネ軍が開ける」

「わかった」

 

 

ちなみにこの時点でのスコアを比較すると。

 

<1日目途中経過スコア(ハヤブサ岩強行偵察前)>

・デッカー(Aランクプラス)

   オーク・ソルジャー11頭+ワイバーン9頭(共同4頭)。ゴブリン20頭以上。オーク20頭以上。サンダーウルフ10頭。

・マヤ(Fランク アンリミテッド・パーティー 5階級差違反制裁中)

   オーク・ソルジャー62頭。タイガー・スパイダー45匹。カメレオ・タイガー・スパイダー1匹。ワイバーン4頭(うち1頭共同)。オーク・ジェネラル1頭。オーク50頭。サンダーウルフ50頭。ゴブリン30頭。

 

 

 

 

 北門が開くと、ユスティニアス中隊長が一番最初に門を出た。後ろに続くのは兵士ではなく、マヤとレオナルド、イレム、そしてリエラとフィリアだった。そこから少し間を空けて、やっと兵士が姿を現す。探検者(エクスプローラー)と装甲獣2頭が付いてくる。

 

 門を出て暫く行くと、踏み均されて広くなった道に、魔物がバタバタと倒れているのが見え始めた。兵士や探検者(エクスプローラー)達はその光景に「何だこれは」と息をのむ。

 

「イレム、魔物の反応は?」

「500m先に100匹ほどいる。大きさはオークよりでけえ」

「それ結界の外ですね」

「マヤ、結界の位置を移動させろ。500m前進」

「はーい」

 

 レオナルドの指示通り、マヤは両手を空に向かって持ち上げて結界をずらした。

 

 暫くして。

 

「やべえレオ兄ちゃん、さっきの100匹の反応が次々に消えてくぞ」

「……」

 

 ユスティニアスが口を開けたまま沈黙した。

 

「あははは、見たくないわー」

「戦いもしねーで魔物倒すなんて、ずるいぞガキババア」

「マヤ、お前本当にやべー野郎だな」

 

 リエラ、イレム、レオがそれぞれ思いを口にする。

 

「やべー野郎ってなんですか。邪悪を滅ぼす女神の力ですよ。はい、500m進んでも大丈夫ですよ」

 

 レオナルドはユスティニアスに振り向いた。

 

「兵士を前へ。500m前進」

「しょ、承知した。500m前進!」

 

 道を進みだすと、路上だけでなく、脇の林の中も、魔物の死体が文字通り山となって折り重なっているのが見えた。後ろから来た魔物が、倒れた魔物を乗り越えようとしてそこで息絶え、また後ろから魔物が登り、そして息絶えというのを繰り返して山が作られているらしい。

 死んでる魔物の顔を見たフィリアが「ひぃい、またこの顔ですぅ」と怯えて顔を引き攣らせた。マヤの法力で酸欠死すると、どれももの凄い苦しそうな顔をして息絶えるのである。これも孤児院の子がマヤを破壊神(ザ・デストロイヤー)と呼ぶ一因となっていた。

 

「な、なんでこんな顔して死んじゃうかなぁ……」

 

 そう言って顔に斜線を浮かべていると、棒立ちになっているデッカーに気付いた。近付いて声を掛ける。

 

「現在進行系で魔物やっつけてますけど、賭けのこと忘れてないですよね?」

 

 デッカーの顔は蒼白になっていた。かろうじて声を絞り出した。

 

「い、いったいを何やったらこんな……。だだだ、だいたいいくら数倒そうが、ゴブリンなんぞFランク。Aランク1頭と引き換えるにゃあ1024匹倒さねえと……」

「この辺からEランクのオークに変わりましたけど。あっちのはDランクのサンダーウルフとタイガー・スパイダー? あれ、あの大きな人型のは何です? 見たことない」

「こ、こりゃあオーガだぞ。こ、こんなの領都の周辺にぁ生息してませんぜ」

「転送とかいうので連れてこられたってことか」

「それがこの数!? オーガ兵団ですよこれ。人型魔物では最強の軍勢です」

「その凶暴なオーガ兵の集団でさえこんなあっさりと……」

 

 額に角が生えたオーガも百の単位で倒れている。勿論皆この世の苦しみを一身に受けたような表情である。

 

「うぅ……鬼が“鬼の形相”を超える恐ろしい顔で……」

 

 フィリアがリエラの後ろに隠れて、顔だけ出して震えている。護衛はどうしたのだろうか。

 

「オーガってランク何なんです?」

 

 マヤが聞くと、ユスティニアス中隊長が声を震わせて答えた。

 

「オ、オーガはBランクだ。その中でも戦闘力は抜きん出ていて、限りなくAランクに近い上位種と位置付けられている。だが兵団を組んでるとなると、クエストではしっかりAランクの難易度だったはず……。魔物補正(賭け事)ではBランクのままなので、4頭でAランク1頭分となるが……」

「ふーん。そのオーガさんも100頭は下らなそうね」

 

 中隊長は気の毒そうにデッカーに目を向ける。デッカーは色を失って全身真っ白にしていた。他の兵士や探検者(エクスプローラー)もマヤの方へ向き直り、そしていつものUMAを見る目になって呟き始めた。

 

「やべえぜ、デストロイ現象……」

「これがデストロイ現象……」

「やはりマヤ殿はザ・デストロ……」

 

 マヤは慌てて両手をバタバタと振って機先を制した。

 

「そ、その先は言っちゃだめえっ!」

 

 

 

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