異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
基地への帰り道。
「まさかヴェルディ様に伝説の法力がお有りとは思いませんでした」
リエラさんの一言で、わたし達の話題はヴェルディ様の法力『真相の打ち明け』一択となった。
いつもは先頭に立ちたがるレオさんが、なぜだかちょっと距離をとった気がする。それに気付いたヴェルディ様は、顔だけ振り返ってレオさんに言った。
「心配するな。いつも法力を使って話をしているわけじゃない。あとこれを話題にするなら近くに寄れ。大っぴらにはできないことだ」
ヴェルディ様が目くばせすると、ユスティニアス中隊長が兵士や
わたしも話題に入っていいみたいなので、近くに行く。胡散臭そうな顔でレオさんが寄ってきたところで、リエラさんが口を開いた。
「法力はどれくらいの距離まで影響するんですか?」
「数メートルだな。近いほど強く影響する」
ひっとわたしは肩をこわばらせた。
「近くに寄れって言ったのは、それゆえですか?」
ヴェルディ様は笑う。
「さっきも言った通り、普段使うことはないんだ」
そ、そうよね。もし法力『真相の打ち明け』をバリバリ使われてたら、わたしの法力の秘密もみんなしゃべらされていたはずだもの。結構ヤバい法力って認識されてるみたいだけど、それでも法力を使って聞いてこなかったってことは、使う場面ってのを慎重に選んでるってことね。
「人それぞれ心に思うことは多々ある。それは自然なことだし、頭の中であれこれ思慮することは精神を保つ上でも必要なのだ。そんなもの全て聞き出したところで物事がすんなり進むかというと、そういうものでもない。むしろその人間は壊れちまう」
恐ろしい。頭の中をさらけ出させられるというのは精神攻撃にもなるのね。
「だから本当にここぞという時にしか使わん。そんなことしなくても、相手が嘘をついている、貶めようとしているといったことは、察せられるしな」
「それも法力の効果なんですか?」
「法力は関係ないと思うがな。マヤもこいつ嘘くせぇなって感ずることあるんじゃないか? それが物凄く鋭いようなもんだ」
「それって、リトバレー村に入植したヴェルディ様のご先祖様の家臣の能力と同じなんじゃ……」
「そういえば、マヤはリトの事を知っていたな」
リトっていうのは初代ヘキサリネ王の家臣で、リトバレー村を開拓した人だ。
リトバレーに住んでる人達は、心配になるくらい正直で人が良い。騙されたりしないの? って聞いたら、開祖のリトさんがそういうのを見抜くのが得意だったのだそうだ。そして今の村長さんも法力とか持ってるわけじゃないけど、嘘や策略に鋭いんだって。
リトバレー村とその周辺は、意図的に開発しないようにしている。効能の高い薬草が取れる森を守るためだ。それ故に不便なので、欲がなくて正直者を貫く人でないとやっていけなかったらしい。それがリトと、一緒に入植した人達。その末裔は、今でもその性質を守ったままに生きている。
「リトとヘキサリネ初代王は、実は遠縁の関係だったんだ。ひょっとすると俺は、先祖返りしてるところがあるのかもしれんな」
「なるほど」
「俺も国主として諸外国と渡り歩かねばならんから、相手によっては一物腹に持って挑まざるを得ない時もあるが、基本はリトバレー村の住民のようであるようにしているつもりだ」
話を聞いていたリエラさんは、いちいち頷きを返していた。
「そうなのですね。だからか、おそばにいると私も心を砕いてしまいます。レオナルド王子、だから怖がらずもっとお寄りなさいな」
「それとも腹の中に黒い物が詰まりすぎて、怖くて近寄れんか?」
レオさんは、けっと舌打ちすると、ずかずかとヴェルディ様の真横にやってきて、そっぽを向きながら口を尖らす。
「俺はそんなコソコソとしたやり方はしねえ。どんな相手でも正面からどうどうと挑む。探りたきゃ探れ。それが俺だ」
ヴェルディ様はかっかっかと笑った。
「俺の目にも、レオナルド王子はこれまで会ったワリナのお偉いさんでは一番の正直者だ」
「えー、これで正直者?」
「なんだマヤ。俺のどこが正直でなかったというんだー!?」
「わわわ、暴力反対! 正直者というより欲求に忠実でした!」
「待ててめえ!」
「ほら、いじめたい欲求に率直に従うところとか! きゃーっ」
基地へ戻ると、魔物との戦いで負傷した兵士、
この陣地は既に5倍の数の魔物と戦っていた。しかし戦闘不能になった者は極僅かだ。
医薬品が十分に発達していないこの世界では、負傷の深刻さは半端でない。細菌感染などで傷が悪化し、死亡するか再起不能、または後遺症を残して戦えなくなる者は、戦争の負傷者の実に半数にのぼるという。再び戦場に立てる確率は五分五分なのだ。
なので人員補充もそれを見越してひっきりなしに行わなければならない。だから損耗しにくい軍隊というのは、指揮官にとっては夢なのだ。もし存在すれば、絶対に敵にしたくない軍隊でもある。
それが今、ここにあった。
「予備兵力とかの考え方を変えないとかもしれないわね」
「だとしても、まずは強い兵を作ってからというのに変わりはない」
「そうね。その点でもヘキサリネ兵の高い練度と士気は素晴らしいわ」
テキパキと動き回る兵士達を見ながら、リエラさんとレオさんは、戦争の様相が変わりかねないなとまで言っていた。
そして起こっていた事はそれだけではなかった。
「聖女様!」
「こちらもお願いします、聖女様!」
聖女様と皆から呼ばれていたのはサンドラちゃんだった。
手当てを受けた兵士の一人に聞いてみる。
「なんでサンドラちゃんは聖女様になってるの? なんとなく想像つくけど」
「持ってきてた薬草に加え、基地にもともとあった薬品や薬草を調合して、即席の薬をその場で作ってくださり、軽傷者を次々と手当てしてくれたのです」
「やっぱり」
軽傷者だからと放置せずきちんと手当しろとは、アイポメアニール採取クエストの時、レオさんが言ってた事だ。感染症が怖いこの世界、軽傷だって致命傷になりかねないのだから。
それを可能にしているのはサンドラちゃんの法力『薬効向上』だ。現在その力はさらに成長して、薬効アップ力はどうやら7倍程度にまでなっているらしく、サンドラちゃんのお母さんの薬効アップ10倍もいよいよ射程圏に入ったんじゃないだろうか。
「すげえ、この湿布薬貼ると、痛みが一瞬で消えるぞ」
「腫れが引いてる! あんなに膨れてたのに!」
調合の過程で効果が加えられた薬の効き目が、一段とすごいことになってるよ。
そしてサンドラちゃんを聖女たらしめているのは、どうやら怪我の治療だけではないらしい。現在サンドラちゃんの前に並んでいるのは、全く無傷の元気そうな兵士なのである。ブーツを脱いで。
「それじゃリムーバーかけるの。すごい痛いからお口にハンカチ入れて食いしばって我慢してね」
「なんのそれくらい! どんと来やがれ」
「じゃばああぁ」
「ぬおおおおっ!!」
サンドラちゃんに怪しげな液体をかけられた兵士の足は、皮がずるずると剥けて真っ赤になり、恐怖映画のようだった。
「はい、次これ塗るの」
そこへサンドラちゃんは超回復ポーションをひと垂らしした特性ペーストを塗る。すると赤剥けた足がみるみる治っていく。
「すげえ、痒くない! 水虫が治った!」
「魚の目も取れちまってる!」
「ブーツと足は日に晒してよく乾かしてね。それが原因なの」
どうやら兵隊にありがちな、長時間ブーツを履き続けることによって、蒸れ蒸れで不潔になった足に発症した水虫を治しているらしい。
白癬菌に侵された皮膚を特性の調合薬で削り取ってしまって、超回復ポーション入りの軟膏で皮膚を再生するという荒業を行っていた。うーん、いかにもファンタジーらしい治し方。
水虫は現代でも非常にしつこい面倒な皮膚病だもんね。それが数分で治るともなれば、そりゃもう聖女様と呼ばれるわけだよ。
「皆大袈裟なの。効能上げる力はわたしのお母さんの方が強いのに」
「効能を上げるだけじゃなく、無い薬はその場で調合できる知識も素晴らしいですよ」
「なにより、戦場に来てその力を行使する勇気。口だけの者や、安全な後方でばかり動いてる者なんかとは、比べ物にならない信頼度なんだよ」
すごい。大絶賛だ。
「へへっ、自称のインチキ女神とはえらい違いだな」
わたしの背後でイレムが嫌味を言うが、言い返せないわたしは拳を握りしめて悔しがるのみ。
「こ、このままじゃ、確実に女神の座をサンドラちゃんに取られちゃうわ!」
でも、サンドラちゃんなら仕方ないかぁ。
傷を治すということは、失ったり壊れたりした細胞を大量に修復するということである。それには大量の資材が必要となる。体がそれを求めてくる。
つまりお腹がすくのである。
サンドラちゃんの野戦病院を出た者達は、必ずと言ってよいほどに食事を摂っていた。