異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
傷が治った負傷兵や
戦闘が落ち着いているので、守備についてない兵士達も、この時間を利用して食べる者が出てくる。兵士達が食べていたのは、ゆっくり調理する時間がないこともあって、
そんな様子を見たリエラさんも、自分のお腹を触って小腹が空いたのを認識すると、フィリアさんを呼んだ。
「私達も今のうちに、ちゃちゃっと栄養補給しましょう。フィリア、20人分くらいの支度をしてちょうだい。マヤさん式野戦食で」
「はい、かしこまりました。あ、リネールさん、竈に火を起こしてくださいませ」
「火? 任せて任せて」
法力で火を出せるリネールさんは火熾しが大好きだ。大喜びでかまどを作って火を点ける。
「なんです、わたし式の野戦食って。もしかしてレトルト?」
「ええ。ミリヤ軍での正式採用に向けて、実地検証しているの」
わたしの問いにニコニコ顔で答えたリエラさんが言う野戦食とは、わたしがこの世界の物で開発したレトルトパックの携行食のことだ。わたしはレトルトパウチの代わりになるものとして、ディオネアという魔物の木の実の皮が使えることを、例のアイポメアニール採取クエストの時に発見したのだ。
ディオネアの実は、そら豆のような鞘の中にずらっと12個ほど入っていて、一個一個の大きさはポテチの袋くらいある。一度茹でるとホクホクして美味しく、日持ちもするので、もともと携行食として知られていた。
中身を食べた後の皮がとても丈夫で液漏れもしなかったので、再利用できないかと思い付き、洗った後の皮に美味しいシチューなどを入れて密封し、煮沸殺菌してみたのだ。
結果、この中世文明レベルの異世界で、調理完成品を常温で持ち運べるという画期的なものが完成した。
これを見たリエラさんは真っ先に軍用携帯食への利用に気付き、
フィリアさんはストレージから大鍋とディオネアの実のレトルトパックを20個ほど取り出し、大鍋で湯を沸かし始めた。
「イレム、あなたも手伝いなさいよ。お情けで連れてきてもらってるんだから」
「うぇーい」
わたしに言われて口を尖らせたイレムだけど、素直にフィリアさんに付いて行った。
アイポメアニール採取クエストでは、孤児院の子達がフィリアさんに教わりながら食事の支度を手伝っていた。イレムも例外ではない。孤児院パーティーのリーダーのニーシャに尻を叩かれながらではあったけど。
大鍋の湯が沸くと、イレムがレトルトパックをそこへ放り込む。
ヴェルディ様とギルドマスターが興味深げにそれを眺めていると、ヴェルディ様がリエラさんに質問した。
「報告でディオネアの実の皮を使った携帯食の話は聞いたが、リエラはもう実際に利用し始めているのか?」
「使い勝手とか耐久性とかを確かめてます。もし腐ったりしてても、わたしならお腹も壊しませんし」
「解毒法力があるとはいえ、毒味を皇女様がするってすげぇな」
ヴェルディ様は感心するというか、呆れる。
「マヤさんも使ってるんでしょう?」
リエラさんはわたしにも話を向ける。
「はい。宿でシチュー分けてもらったのを入れて、持ってきてます」
するとギルドマスターがお湯の中で踊るレトルトパックを心配そうな目で覗き込んだ。
「それだが、アイポメアニール採取クエストでお前達と一晩一緒になったパーティーが、これを見様見真似でやって、ひどい下痢をして一週間活動停止になってたぞ。大丈夫なのか?」
ジオニダスさんは不審な顔をわたしに向ける。
たぶんそれは、脳筋メンバーで構成された『虎の爪』パーティーの事だろう。
「それはねぇ、作成過程で重要な工程をやってないからでしょうねえ」
わたしがそう言うと、フィリアさんもウンウンと頷いた。
彼らは煮沸殺菌をしてないのよ。目に見えない細菌の事をわたしから聞いたリエラさんやフィリアさんは、必要性を理解してちゃんと殺菌をしている。
お湯の中で湯煎し終えたら、イレムがそれを引き上げてフィリアさんに渡す。フィリアさんは縛っていた紐を解いて、密封していた口を開けた。
この口はスープを詰めるときに豆の皮の一辺を切り取って開けたところだ。作る時はここから中身を詰めて、空気を抜きつつ割り箸状の木で挟んで、何度か折りたたんで密閉するのだ。
口を開けたら、携帯食でおなじみの石のように硬いパンを中に入れてもう一度口を閉じ、10分ほど浸しておくとシチューの水分を吸ってパンが柔らかくなる。そうすると食べ頃だ。
「ヴェルディ様もどうぞ。ユスティニアス中隊長、ジオニダスさんも食べてみますか?」
たくさん温めていたことからも、リエラさんは最初から皆に配るつもりだったのだろう。
「いただこう」
「うおお、いいにおいだ」
「こ、これ、野外行動で食べる食い物の匂いじゃないぞ」
ギルドマスターがレトルトパックから漂う食欲を誘う匂いを逃すまいと、ゴォーっと鼻で吸い取っている。近くにいた兵士さん達が、あまりの芳香に手が止まってしまっていた。
「ワリナの方々もどうぞ」
レオさん、クーノさん、ケンさんだけでなく、騎兵の人達にも配られた。
わたしやサンドラちゃん、リネールさん、イレムも一袋ずつもらい、ご相伴にあずかる。
「いただきまーす」
「まーす」
「まーす」
ディオネアの豆の袋にスプーンを入れ、味を吸ったパンを掬って口に入れた。
「~~~!」
「う、うめえ!」
「わあ美味しいの!」
「ええっ? アイポメアニール採取クエストの時、フィリアさんが作ったシチューより美味しい!」
リネールさんとイレムが涙を流し、サンドラちゃんとわたしは、スプーンをかき込む手が止まらなくなる。
フィリアさんは自信満々に、メイド服の野外用エプロン越しでもわかるお胸をぷるんと震わせて語った。
「おほほ、お屋敷の厨房で、最高の食材で作ったシチューを詰めたんですもの。野外の限られた材料や時間で作った物とは違って当然です」
そういうことか。これは野戦食とは別物だ。ホテル監修の料理のレトルトパックみたいなものだ。
そこで思いついた。
「ヴェルディ様、ぜひサーベルタイガーの極旨シチューを詰めて持ってきてください!」
「おおマヤ、それは名案だ! 最前線でもあれが食えるというわけだ!」
「どんだけ高価な野戦食ですか。一般将兵には配れないわ」
リエラさんは半眼になって呆れた。
「わたしはサーベルタイガーの内臓シチューの方がいいの。普通は狩猟したその地でしか食べれない料理だけど、マヤちゃんのレトルトなら遠くへ持って行っても食べられるよね?」
わたしとヴェルディ様の目が、サンドラちゃんを向いて固まった。
「「そ、そ、そ、それだあーー!」」
わたしとヴェルディ様が同時に叫んだ。
なぜかこの世界の肉食獣のお肉は抜群に美味しいのだけど(普通肉食獣の肉は不味いらしい)、冷凍冷蔵技術と輸送技術が未発達なので、遠くへは加工しないと持っていけない。中でも内臓は痛みやすいから、商品にはせず狩猟地で食べてしまっている。そういった問題がレトルトによって解決しちゃうじゃないか。
「素晴らしいアイディアだサンドラ!」
「あのリトバレー村で出された、領主様でも食べた事のない、根菜とサーベルタイガーの内臓シチューだよね? 売れるよ、あれ外国にも超高く売れるよ!」
「他の地でも、地元でしか食えなかった物が商品になるぞ。商業で栄えたいヘキサリネとしては、これは強力な武器になる!」
新たな産業の芽に歓喜するヴェルディ様とわたし。リエラさんとレオさんも、顎を撫でてふーんと唸った。
「なるほどね、軍用用途以外にも使い道があるのね」
「マヤ、確かそのレトルトっての、使うには『とっきょりょう』とかいうのをマヤに払わないと、俺ら使っちゃいけないんだよな?」
そうなのだ。わたしはアイポメアニール採取クエストの時に確立した、このレトルトを含むいくつかの成功事例について、勝手に使わないよう特許料とか使用料を払ったものだけに使用許可を出すと宣言していたのだ。
特許を守らせる強制力がないとその仕組みは実現できない、とレオさんには言われたが、この三国の中では、この技術を秘匿して広まらないようにする代わりに共有を許し、使う場合は特許料をわたしに払うという取り決めをした。今のところ払って使っているのはリエラさんだけだ。
「前も言ったけど、軍用の携帯食用途だけでも、使用料払うだけのメリットはあると思ってるわよ」
「ワリナも、北方に地産地消の郷土料理がある。今度試しにやってみるか」
「ぜひにぜひに。特許料お安くしますよー」
揉み手をしてレオさんに微笑んでると、悔しそうに睨み返された。
「くそっ、マヤに金を払うなんて、なんか腹立つぞ。国に帰っても覚えてたらの話だからな」
レトルトの食事は予想を超えた盛り上がりを見せた。
食べ終わってお腹も膨れ、脳みそにも栄養が回ってきたところで、わたし達は作戦会議を開くことにした。