異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「アイポメアニールの元群生地!」
サンドラちゃんが叫んだ。
皆の視線がサンドラちゃんに集まる。
「アイポメアニールは日当たりの良い砂地に生えるの。だから群生地は開けてるわ。北の森には、一昨年のシーズンから枯れちゃってて使えないアイポメアニールの元群生地があるの」
「そうなのか?」
ジオニダスさんが疑問形で応答した。
アイポメアニールの採取は群生地さえ知っていれば難しくないので、低ランク
そんな低ランク者が抑えてる群生地でさえ今年は不作だったので、領都は疫病流行を恐れた大騒ぎになり、先の緊急アイポメアニール採取クエストが出されたのだ。
アイポメアニールは数年で枯れて群生地が移り変わるので、常日頃から次採る群生地や、どこが群生地になりそうか目を光らせておかなければならない。
サンドラちゃんは薬草に関しては比類なき観察眼と行動範囲で、いくつかの独自候補地から新しく群生地になりそうな所を予想でき、不作の年にも対応できたのだ。
その知識の中から、元群生地の情報も出てきたということだ。
「元アイポメアニール群生地がワイバーン発着地になっていて、その側に転移魔導具がある。そして3人目の魔族がそこにいる。そういう事ですよね。ワハイム沼と魔素通信できるという条件にも合う。これで話が全部繋がるじゃないですか」
わたしがそう言うと、ヴェルディ様はサンドラちゃんにニッと微笑んだ。
「すごおい。サンドラちゃんの頭の冴えるお茶のおかげだよ」
そうかなぁと照れるサンドラちゃんに、ヴェルディ様が尋ねた。
「サンドラ、場所は分かるか?」
「もちろんなの」
すかさず、ばさあっとユスティニアス中隊長が机の上に地図を広げた。
「どの辺だ?」
中隊長が顔を上げてサンドラちゃんを見る。だけどサンドラちゃんは地図を前にした途端、ダラダラと冷や汗をかき始めた。
「えっと、あ、あの……」
あ、そうだ。サンドラちゃんはまだ地図の見方や使い方を習得してなかったんだっけ。
そういう時はリネールさんだ。サンドラちゃんは、自分の目線で道中にある物を目印にして道を進む。地図を読めるリネールさんは、その話を聞きながらサンドラちゃんの歩む道を地図に落とすことができたはず。前にもやってたもんね。
「リネールさん、手伝ってあげてよ」
わたしはリネールさんに助け舟を出すよう促す。ところがリネールさんは困った顔をする。
「俺、サンドラとは北の森の薬草採取に行ったことないんだよね。たぶん一緒に行ってたのはチトレイじゃないかな」
チトレイさんとはリトバレー村の青年で、『リフト』法力を持ってる人だ。今は村にいる。
わたしは心配な顔をサンドラちゃんに向ける。
「そうなると、サンドラちゃんに直接案内してもらわないとになっちゃうよ?」
「いいよ、案内するの!」
地図で道を指し示せなかったサンドラちゃんは、名誉挽回とばかりに返事をする。
「でも朝からずっと行軍し通しだったし、ここに着いてからもずっと怪我人の治療に対応してたから、疲れてるんじゃ……」
「体力には自信あるから大丈夫なの!」
むんと力こぶポーズを取るサンドラちゃん。
そうだった。田舎の娘のサンドラちゃんは、わたしなんかよりはるかに体力あるんだった。体を張って尽くす方が性に合っているのだ。
「サンドラ、頼めるか?」
「勿論なの!」
ヴェルディ様の頼みに即答するサンドラちゃん。
「一応聞くが、いいのかヴェルディ? そこの場所に賭けちまって。いなかったら空振り。時間的にやり直しはできないぞ?」
レオさんが問う。
「ほう、レオナルド王子は他の場所の可能性もあると思っているのか?」
ヴェルディ様の問い掛けへの返しに、レオさんは方眉を上げた。
「いや、俺の勘は、サンドラの所で間違いねえと言ってるな」
「なら俺と同じだ。こういう時の俺の直感は当たるんだ」
「大将に迷いがないってのはいいねえ」
二人はニヤリと微笑みあった。
気が合うねえこの人達は。
それじゃあと、サンドラちゃんはポーチに手を突っ込むと紙を一枚取り出し、何やらサラサラと書いてパーティータグの紋様を取って、ギルドマスターに差し出した。
『領都北の森の元アイポメアニール群生地への道案内依頼』
ジオニダスさんはうげっという顔をした。
サンドラちゃんとて
「抜け目ねぇな。だがこの依頼出すのは俺じゃなくて、国じゃねえか?」
依頼書はヴェルディ様に渡った。
「むう、抜け目ないな。国庫の金むしり取る気か。しかしサンドラを指名しての依頼には違いないし。しかたねえな」
ヴェルディ様が依頼主欄にタグの紋様を写し取る。緊急依頼でもあり、他の人には頼めない案件である。そして思いっきり危険地帯に入らねばならない。そういったことを勘案しジオニダスさんと相場を相談の結果、依頼難易度はB、報酬は金貨10枚、つまり100万円という依頼となった。依頼承認欄にギルドマスターも紋様を写し、リトルウィングへの依頼書の発行を認めた。
サンドラちゃんとリネールさんは、依頼書に記されたその金額を見て目が飛び出て、きゃあと抱き合って依頼受注を喜んだ。
年齢が中学生程度のサンドラちゃんだから高そうな報酬に聞こえるけど、危険度や重要度からしたら、ぜんぜんお安いと思う。
それはそうとして……
「そ、そうなると、またもやわたしが一番の体力無しのお荷物ってことに……」
都会っ子のわたしは、領都から殆ど歩き通しだったうえに、たまに戦闘なんかしちゃったので、既にかなりのお疲れモードなのだ。
「疲れちゃったの? そしたらエナジ草で、疲れもポンって忘れちゃうドリンク作ってあげるの。これ飲めば疲労を感じなくなっちゃうの」
「……疲労もポンって忘れちゃうのは、エナジードリンクじゃなくて、昭和の初め頃は薬局でも売ってたっていう覚醒しちゃうおクスリなのでは……。それって本当に疲労回復するの? 続けて飲んでると、飲まずにはいられなくなったりしない?」
「どうかな。村の薬師様のレシピメモでは、続けて飲むのは2回までで、次飲むまで1週間の間を空けること、ってなってるの。疲労は忘れるだけで本当は疲れたままだから、早く帰って休んだ方がいいの」
「やっぱりそれ、ヤバいやつじゃん!」
「飲まないで済むならそれに越した事ないけど、疲れて動けなくて、魔物から逃げられなくなるよりはいいの。割と普通に使われてるよ?」
「うう、倫理観が違うのかしら。まあ間を開けて飲むなら常習性もないみたいだから、仕方ないかぁ」
ゲームとかラノベでも、ポーションでドーピングしながら戦い続けるってシーンはよくある話だし。
どっかの原住民は蚊を寄せ付けない為に、小さい子供のうちからタバコをすぱすぱ吸うなんてところもあったもんね。肺ガンで死ぬよりマラリアで死ぬ方が、遥かに確率が高いからとか。ところ変われば非常識も常識になるっていう次元の話だ。
「じゃあちょっとエナジ草ドリンク作ってくるねー」
24時間戦うのをうたったブラックな昭和の終わり頃の栄養ドリンクよりもっとヤバそうな、昭和の前半頃のものを作りに、サンドラちゃんは出ていった。そう考えると、昭和って長くて変化の凄かった時代なんだな。
サンドラちゃんの後ろ姿を見届けると、ヴェルディ様は再び向き直って、話の続きをした。
「最後に、元群生地へ向かうメンバーの人選だ。少数精鋭で行って奇襲をかけたい。大所帯で行っては、気付かれて魔族に逃げられる可能性がある」
皆はなるほどと頷いた。
「まず、魔族がいたらそいつを尋問するためにも、俺は行かねばならん」
王様みたいな立場の人が自ら行くなんて、何言ってんだこいつって思ったのはわたしだけかしら。
「マヤは必須だ。お前には転移魔導具を破壊してもらわねばならんからな」
「やっぱり? でもまあ道案内でサンドラちゃんが行くから、あの子守るためにも行きますよ」
「領主よりサンドラか」
「わたしの優先順なんで」
何言ってんだこいつって、特に軍の参謀達にジト目で見られたのはわたしの方だった。
でも仕方ない。わたしの最優先はサンドラちゃんであり、次いでサンドラちゃんのお家があるリトバレー村と村民であり、それから村を治めてる国であるヘキサリネと領主様と続くのだから。
「領主様が行くとなれば、直衛に私が行かぬということはあり得ませんな」
ユスティニアヌス中隊長がすっくと立った。
「お前の実力は申し分ないが、基地の方は大丈夫か?」
「他の者に領主護衛の責任を押し付ける方が酷です」
「こういう立場の人が直接動くって、かえって迷惑よねえ。ふげっ」
わたしの頭を支えにしてレオさんが立ち上がった。
「少数精鋭だから、立場云々のことは一切忘れて、必要性と実力で決めていこうぜ。俺とクーノ、ケンも参加だ。Aランクパーティーの実力、西の森で転移魔導具の破壊に居合わせたこと、そしてマヤの扱いに慣れていること。申し分ねえ」
リエラさんも立ち上がった。
「私とフィリアも参加ね。レオさんのところと同じ理由」
迷惑な立場の人達が次々と挙手してくる。
「なんでヘキサリネの事案なのに、他国の連中の方が多いんだ?」
「立場云々は無しでって事ですしね」
リエラさんがにっこり笑って言うと、レオさんもうんうんと笑顔で頷いた。ヴェルディ様は溜息をついた。懸念はごもっともに思う。
「道案内はリトルウィングで受けたから、リネールさんも行きますよ。彼は生粋のヘキサリネの民でしょ。後はギルドマスター?」
わたしが顔を向けると、ジオニダスさんは首を横に振った。
「そのメンツがいれば俺はいなくてもいいだろう。俺と離れてもマヤのアンリミテッド・パーティーの資格は問題ないしな。俺はこっちで
名の上がった皆はそれぞれの顔を見渡し、頷き合った。結局、アイポメアニール採取クエストの時の顔に、領主様とユスティニアス中隊長が加わったようなもんだ。
「あ、あのよ……」
と、そこへ気まずそうな声がした。声のした方へ向くと、すっかり忘れられていたイレムだった。
「俺はどうすればいい?」
そう言えばこんなのもいたとイレムを見下ろしたレオさんは、少しだけ思案すると答えた。
「お前は俺のパーティーの護衛対象だろ。離れんじゃねえぞ」
「ってことは俺も行っていいんだな!」
イレムは嬉しそうにぱあっと笑顔になった。
「勘違いするんじゃねえぞ。お前は俺達の護衛対象だから、俺達に合わせて動かなきゃいけないってだけだ。俺達が右へ行ったら右へ、左へ行ったら左へ、ちゃんとついて来いよ」
護衛と護衛対象の関係がよく分かんなくなるような発言だ。普通護衛対象を危険なところへ連れてっちゃいけないんじゃないのかしら? まあイレムを護衛ってのは、口実に使っているだけだからいいけど。
軍の参謀達は、領主様を守る兵を付けられないというのにこんな子供は行くのかと、額に青筋を立てかけたが、レオさんの一言で青筋は引っ込んだ。
「俺達の見えるところから消えるんじゃねえぞ。あと探知法力はずっと使ってろよ」
「うん、分かった!」
そうだ。イレムはきかん坊だけど、優秀な魔物探知法力持ちでもあるんだっけ。その性能は魔族のガイアスを捕らえるのに一役買ったことで、参謀達には周知のものになっている。きっとレオさんも、早期警戒レーダーとして役に立つと思って連れてくんだろう。
イレムは嬉しそうにレオさんのパーティーの輪に入った。ケンさんとクーノさんがイレムの頭をくしゃくしゃと撫でる。わたしは、皆甘いなあと思いつつ、イレムが調子に乗らないよう釘をさした。
「迷惑かけないようにしてよね。あんたの面倒はどうせわたしに押し付けられるんだから」
「うるせえ。そっちこそ足引っ張んなよ」
まったく、口の減らない子だわ。
「エナジ草ドリンク作ってきたのー。飲む人ーっ」
そこへサンドラちゃんが鍋を持って戻ってきた。
うわ、小瓶に入れられて配られるんじゃないんだ。こりゃ栄養ドリンクじゃなくて、魔女の秘薬感。
「強行軍になるかもしれねえから、皆飲んでいこう」
領主様にそう言われてしまったら、危ないおクスリでも拒否しづらい。
サンドラちゃんはお玉で掬ってコップに注ぎ、テーブルに並べた。
ケンさんとクーノさん、そしてレオさんはコップを取ると、ぐいっと一気に飲み干した。
「おぅ、甘い。ワリナのとは全然違う」
「ハチミツで甘くしてるの」
「誤魔化し無しで疲れ取れそうだな」
「あのー、レオさんって、毒味とかしてもらわなくていいの?」
わたしが聞くと、
「何を今更。サンドラやフィリアの作ったモン、俺らどれだけ口にしたと思ってんだ」
とあっけらかん。
フィリアさんとリエラさんも手を伸ばす。
「いただきます」
「甘いの? 飲んでみようかしら」
「リエラさんって、こういうの効くの?」
瞬間解毒法力持ちのリエラさんである。毒と良薬の区別なんて法力にはつくまい。わたしはコップの中身を舐めてみてるリエラさんに聞く。
「効かないわね。でも体に良いものには効果が出るものも中にはあるし、栄養にはなるから」
「ふぅん。直接吸収して作用するものは無毒化されちゃっても、漢方薬みたいに腸内細菌に分解されてから発揮するような薬なら、リエラさんでも効くのかな。食べ物は普通に消化して栄養になってるわけだし」
わたしもくいっと飲み干した。
おー、美味い。驚いた、わたしのいた世界の栄養ドリンクの味だよ。エナジ草っていったいなんなの?
暫くすると、本当に体の疲れが取れていった。……じゃなくて、感じなくなったのね。恐ろしい。
「皆、準備はいいか?」
ヴェルディ様が皆を見渡す。皆はうんと頷いた。
「では行こう。サンドラ、道案内頼んだぞ」
「はいなの」