異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第14話「捕まえたマンモスに興味を持たれたようです」

 

 ハンターギルドのマスターが受付の後ろへと引っ込もうとしたその時、ギルド入り口のドアをバーンと勢い良く開けて数人が入ってきた。こちらも国外の人のようだ。

 この服の感じは南の隣国、ミリヤ皇国か? ハンターの服装ではなく、濃いブルーの丈の長いサーコート。控えめにしてはいるが飾りがそれなりに付いていることから、貴族の騎士のようだ。鞘に装飾の入った剣もまたそれを裏付けるものだ。外にも一緒に来たらしい騎士らしき者が数名見える。2人を入り口付近に残し、1人だけが受付カウンターに歩み寄ってきた。

 騎士、それも外国の一団がやってきたので、喫茶サロンにいたハンター達は緊張した面持ちになる。掲示板の前に行った女性ハンターも、少し慌てた様子で貼られている依頼カードの方を向いたきりだ。

 

「あらあらー、いらっしゃいませー」

 

 ケイトが一口かじったパンを慌てて飲み込んで受付に立った。

 

「なんだ? ここは冒険…いや探検者ギルドではないのか? いかがわしい店だったか?」

 

 受付カウンターの前に立った騎士に、ケイトは営業スマイルを向けると、いつもより1オクターブ高い声で答えた。

 

「とーんでもございません。領都ヘキサチカのハンターギルド本部でございまぁす」

「そうか。ようやく国交が回復したばかりだから、厳格で有名だったヘキサリネのギルドが、断絶してた間に変貌してしまったのかと思った」

「厳格ですよぉ? ギルドマスターと同じでコチコチの石頭ですからー」

「お前は下がってろ」

 

 見てられず、コチコチ石頭のギルドマスターがケイトを後ろに下がらせてしまった。

 まったく、今日は何なのだ、と大きくため息をつく。

 

「ここのギルドマスターのジオニダスだ。ミリヤ皇国の騎士さんか?」

「うむ。……うむ? なんだかお疲れのようだが、大丈夫か?」

 

 見てわかる程なのか?

 確かに今朝は、勇士トロの弟子とサーベルタイガー、北の隣国の王子、サーベルタイガーの頭の値段交渉、剛毛(心臓に)受付嬢と、いつになく心労が重なっているなと思う。

 しかしジオニダスも若い頃は西の魔境で腕を鳴らした探検者(エクスプローラー)。眠る間もない深部探査に比べればこんなものはである。いや、神経戦オンリーの人間との戦いは、あの頃はなかったか。

 

「……心配ない」

「そうか。私はミリヤ皇国第一近衛師団副団長のチェスター中佐だ。少々聞きたいことがある」

「こちらへ。おい、紅茶を2つくれ」

 

 喫茶カウンターに声を掛けると、応接室へ案内した。

 

 

 

 

 近衛副団長のチェスターを応接室に通すと、ケイトが紅茶を持ってやってきた。

 マスターは、喫茶の者でなくなぜお前が、という目線を向けるが、ケイトは知ったこっちゃないと視線で返す。しかもマスターの横にちょこんと座る。自分の紅茶もきちんと置いてある。

 

「なぜ座る?」

「ここの雑務、事務、裏仕事を手広くやっております私ケイトが、聞かぬわけにはまいりません」

 

 駄目だこれはと、マスターは諦めた。

 

「それで、聞きたいこととは?」

「うむ。市中の肉屋で見かけたのだが、新鮮なマンモスの肉が売られておりました。なんでも今日入荷したとかで、私が見たのは店頭用に切り分けている最中のモモの輪切り肉だったのだが、こんなに大きいのですよ」

 

 広げた腕は、屋久島の千年杉でも抱えようとしているようだった。

 

「あれからすると、その躯体はとんでもない大きさなはず」

「ああ。なんでもはぐれマンモスで、10トンもあるのを仕留めたそうですよ」

「10トン!! 恐竜サイズではないですか!」

 

 アパトサウルスのような竜脚類ならもっと大きいものがいるが、多く生息している草食恐竜のイグアノドンクラスでも10トン級はめったにいない。

 

「私も聞いてびっくりしました」

「貴国は優秀なハンターを揃えておられる。それで相談なのだが、それだけ大物なら牙も相当な大きさだったろう。ぜひうちで買い取らせてほしいのだ。できたら頭全体が嬉しい」

 

 マスターとケイトはぴたりと固まった。そして見合った。

 

「牙は今度持ってくるって言ってましたね」

「そうなのか?」

「こちらに運び込まれたのでは?」

「ああ、実はハンターギルドには持ち込まず、直接市場の仲買に売ったらしい。というのも、獲ったのは領都から2日くらいの距離の村で、とにかく大物なので運びきれず、現地で解体加工して、その一部だけが今日着いたのですよ。牙はまだ村にあるはずです」

「なんと! そうであったか」

 

 チェスターは思案を始めた。

 

「片道2日か。往復4日。ぎりぎりだな」

 

 ぶつぶつと独り言を言うと顔を上げた。

 

「どこの村でしょう? 運んできた村の者とは接触できるだろうか?」

「狩ったハンター達はうちの登録者だ。おそらくいつもの所に宿を取ってるだろうから、連絡は取れると思う」

「紹介してもらえるか? 村まで行きたい」

「商人でなく、ミリヤ皇国の騎士団が動くのですか?」

 

 そこでチェスター中佐ははっと気づく。

 

「……ああ、それは確かにそうだ。下手な動きをすると軍事行動と取られかねないですな。……よろしい、うちの国の商人を表の窓口に出しましょう。ただ3人ほど近衛師団の者を同行させたい。軍事行動でないという保障として、お目付け役として探検者ギルドで護衛を出してくれまいか」

「なるほど。ヘキサリネ当局に話を通すのが正規かもしれないが、個人が買い付けに動くだけなら単なる経済行為ですし、それを中立のギルドに証人とさせるのはアリですな。仮にギルドの者に手を出したり悪だくみに巻き込むような事があれば、第3勢力の全国ハンターギルドを敵に回すことになり、報復として経済的な打撃を受けるから、普通はそんなことできない」

「決まりですな」

「では、そのハンター達が泊まっている宿までご案内しましょう。受付予備嬢のレーナを出します」

 

 そう言ってすっくと立ち上がったのはケイト。

 

「マンモスの頭を運ぶ荷馬車はそちらの商人様で手配しますか? それともこちらで用意しますか?」

「うちの商人に用意させよう」

「分かりました。あとは護衛依頼書を作成ください。探検者(エクスプローラー)のランクはどれくらいにいたしましょう?」

「Cランク以上だな。それと騎乗で願いたい。スピード重視なんだ」

「馬付きとなるとだいぶ依頼料が高くなりますが?」

「構わん」

「毎度ありがとうございます」

 

 ケイトはお辞儀をした。そしてマスターを上から見下ろす。

 

「マスターは護衛役の探検者(エクスプローラー)を至急集めて下さい。わたしは馬を手配しますので。ああ忙しい」

「なぜお前が仕切っている?」

 

 

 

 

 ギルド1階に戻ると、喫茶で食事していた者達も食べ終えて身支度していた。ハンター受付には受付予備嬢のレーナが、先の若い女性ハンターの依頼受付処理をしていた。

 

「レーナ、至急こちらのお客様を、リトバレー村の人達が泊まっている宿まで案内してください。いつものところでしょうから」

 

 レーナは15歳に成人したばかりで、今年ハンターギルドに入社した新人さんである。

 

「はい。あ、でもこちらの方の依頼受付が……」

「あたしがやるわ」

 

 レーナは女性ハンターにごめんなさいと頭を下げ、カウンターを出て今度はチェスター中佐に挨拶すると、入り口に待たせた騎士を連れて出ていった。入れ替わってケイトが受付カウンターに入る。

 

「ごめんなさい、依頼受付の途中で」

「ええ、構わないわ」

 

 女性ハンターは、栗色の髪のはっとするような美人だった。歳の頃は16,7歳といったところか。

 ケイトは女性ハンターが持ってきた依頼書を見た。それはCランク依頼で、アンフィスバエナを狩る依頼だった。依頼者は薬師協会。報酬は1匹当たり1ハーフ金貨だ。

 アンフィスバエナは身体の両端がどちらも頭になっている双頭の魔物の蛇だ。切り落としたメデゥーサの首から滴った血から生まれたとも言われており、非常に生命力があるので、その血が薬に使われるのだ。ただ触れただけでも死にかねない猛毒を持っていて、それを飛ばしてくるため、Cランクの中でも狩るのが難しい上位の魔物である。

 

「お若いのに、もうCランクなんですね」

「一応ね」

「アンフィスバエナは強力な毒を持ってます。魔素が濃いところだと強くなるので、強力化した個体はBランクになる場合もありますけど。受注して大丈夫ですか?」

「心配いらないわ。私は『解毒』の法力があるの」

「あらあ、それじゃむしろ最適ってこと!? 稼ぎ放題ですね」

「うん。それにヘキサリネは魔素が極端に薄いんでしょう? だから他の国と違って獣類が豊富だって。アンフィスバエナもあまり強くないって聞いたわ」

「毒性が強くないだけで、エサになる動物は豊富だから体は肥えていて大きいですよ。だから力が凄いんで、強くないっていうのは語弊がありますねー。あ、タグを出してください」

 

 ケイトはタグを受け取る。タグには次のように刻まれていた。

 

 リエラ

 冒険者ハンター ランクC

 登録国 ミナズミ・ミリヤ

 

 ヘキサリネにおけるライセンス

 ○ 狩猟・採取

 ○ 探査・調査

 ○ 護衛・傭兵

 ○ 雑役

 - 特殊

 

 ケイトは依頼書の受注者欄にタグの陰影を取る。タグの上に紙を置き、パステルで紙をこすって取るのだ。そしてその横にサインをしてもらう。

 

「やっぱりミリヤ皇国の方でしたか。解毒法力の人は大概この国の出身ですもんね」

「強い毒を解毒できる人は少ないけどね。私はたまたま優れてるようだけど」

 

 タグを返すとケイトは言った。

 

「期限縛りのない依頼ですから、慌てずにね。あ、ところで、乗馬はできます?」

「乗馬? できるけど」

「今、Cランクハンター以上で乗馬できる人に、護衛の依頼あるんですけど、どう? 日当1金貨ですよ? 期間は4日です」

「いい報酬額ね。誰を護衛するの?」

「ミリヤの商人の荷馬車です。訳あってミリヤ騎士団の人も同行するんですけど、ミリヤの方ならうってつけじゃないですか。どうです?」

 

 とたんにリエラは首を激しく横に振った。

 

「え、遠慮するわ!」

「あらそうですか。それじゃアンフィスバエナの方、頑張ってください」

「うん。ありがと。それじゃあね」

 

 リエラを送り出すと、ケイトも「ああ忙しい」とのたまって馬を手配しにギルドから出ていった、

 

 昼飯を食っていったハンターもいなくなり、とたんにギルドのサロンは静かになった。ギルドマスターはようやくフーッと一息ついた。まだ護衛役のハンターを見つけてないが、当てはいろいろあるのでそんなに心配はない。

 喫茶カウンターには、さっきマスターが注文した軽食が置かれていた。すっかり冷え切っている。

 

「ジオニダス、温めなおそうか?」

 

 喫茶のマスターがそう問う。お互いマスターな事もあり、二人は名前で呼び合っている。

 

「そうだな。頼む……」

 

 そこでまたバーンと扉が勢いよく開かれた。いい加減にしてくれとジオニダスは思った。

 

 

 

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