異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
さてじゃあ基地を出ようかとしたところで、ひと悶着あった。レオさんとこの護衛騎馬兵である。
「ここで待っていろとはどういうことですか!?」
「言葉の通りだ。俺が戻るまでここで待機していろ」
「しかし王太子殿下はまた危険な所へ赴かれるのですよね!? であれば護衛は必須。我々も連れて行って下さい!」
このやり取りはキャンプ・スプリングから
「護衛にはケンとクーノがいる。今回は少数精鋭で隠密行動しなければならねえんだ。お前達では馬が目立ち過ぎるし、小回りもきかねえ」
「なら馬を置いていきます!」
「我々だって盾くらいにはなります!」
「だめだ。隠密行動という戦術面でもだが、これは高度に政治的な事案でもある。兵力バランスを見ても、これ以上ワリナのメンバーを増やすのは何かあった時にも良くない。とにかく」
これが最後の言葉だと、有無を言わさぬ支配者の覇気を纏って言った。
「お前達はここで俺が戻るのを待て」
「……どうか無事ご帰還を」
◇◇◇
サンドラちゃんの道案内で、わたし達はキャンプ・スプリング方向へ道を戻り、途中から北の森の猟場へと向かう脇道の一つに入った。
その脇道は細くて足元も悪く、サンドラちゃんはよくこんな所へ行く気になったなと思う。
「どうしてこんな所に行ったの?」
サンドラちゃんにそう質問したくなるのも無理はない。
「この先のキノコ場はわりと有名なの。わたしも薬用のキノコが欲しくて、暫く通った時があったの」
「キノコ場ねえ」
マツタケ山みたいなもんだろうか。
暫く行くと、古い倒木が折り重なって山のようになっていた。突っつくと木はふかふかになっていて、すっかり真菌類の菌糸がはびこっているのが分かる。ちょんと突いただけでポロポロと崩れるほどで、土に帰る一歩手前といったところだ。これらの倒木がキノコの苗床になっているということだ。クワガタの幼虫とかいないかな。
「この倒木の積み重なりようからすると、昔土石流みたいなのが起きて、流されてここに溜まったのかなあ」
「薬用で使うのは、こういうのなの」
サンドラちゃんが手に取ったのは、サルノコシカケみたいな石か木みたいな硬いキノコだった。
「見たことある。漢方薬でも使いそうなやつだ。おいしくなさそうだねぇ」
「おかずになるようなのじゃないの」
キノコ地帯を乗り越えると、何だか思いつめたような顔のフィリアさんが、レオさんにぽそりと言った。
「レオナルド様の護衛の騎兵は本当に連れてこなくてよかったのですか?」
「騎兵?」
帰国するレオさんの馬車列には、自前の護衛騎士が付き添っていた。しかし魔物に占拠されたキャンプ・スプリングの対応のところから、レオさんにくっついていく護衛は減らされていき、最前線基地まで来たのはケンさんとクーノさんの他は4騎の騎馬騎兵のみ。その4騎兵も、この奇襲部隊からはついに外されてしまった。
勿論騎兵さん達は抵抗したけど、とうとう説き伏せられてしまった。
「やり取りは聞いてたろ? 少数精鋭、国ごとのメンバーのバランス、そして政治的な判断だ」
「無謀を押して突き進むご主人様を護衛する為に、なんとかここまで付いてきたというのに、バッサリと切り捨て……」
フィリアさんは小声でそう言うと、血の気のない黄昏れた顔をする。似たような任務を帯びてる
『無謀を押して突き進むご主人様』に
レオさんの横にいる
「おい、無謀って何だ。目的に合わせて必要な人員は誰かってだけの話だ。ケンとクーノは護衛はもちろん、攻勢に打って出る時も使えるし、政治の話になっても通じる家臣だ。必然的に側にいる事が多くなるのは仕方ねえだろ。ここまで人員を選りすぐるとなれば、
フィリアさんは目に薄っすらと涙を浮かべてリエラさんへ振り返った
「政治の話となると私は……。次またふるいにかけられる事あれば、私は、お、置いてかれてしまうのですか?」
やっぱり自分と重ねてたのか。
立場も家柄もぜんぜん足りないですぅと落胆した顔を見せると、リエラさんは右手をフィリアさんの頬にゆっくりと添えた。
「安心なさい。私にとっては、どんな場面でもフィリアが一番側に置いておきたい人なのよ」
「マ、マリエラ様……」
今度は感激で涙目になるフィリアさん。
「ケンさんやクーノさんのように有力貴族のご子息ということもないから、遠慮なく危ない所にも送り出せるし、無茶もさせられるし、こんなに使い勝手の良い人はいないわ」
一瞬で哀しい涙に変わるフィリアさん。ジェットコースターのように激しく感情が起伏する彼女を、わたしはまあまあとなだめる。
「護衛侍女が何人いるか知らないけど、その中でフィリアさんを選んでるってのは、やっぱりフィリアさんの実力を一番買ってるからだよ。だからそう落ち込むことないよ」
「私はマリエラ様にとって一番便利な捨て駒……」
フィリアさんの傾いだ顔は、相変わらず口だけ笑って目が死んでいた。
なのでさらに励ましの言葉を掛ける。
「あはは。まあ便利に使われてるところは否めない気はするけど、いつもフィリアさんを側に置きたがるってのは、やっぱりリエラさんにとって、フィリアさんが捨て駒なんかじゃなくて、特別な存在だからだと思うよ。
何しろ
フィリアさんがリエラさんの気持ちを確かめるように顔を上げる。リエラさんはすました顔で大人しく聞いていた。
「それにねぇ、法力使いすぎて倒れちゃったフィリアさんを介抱してた時のリエラさんの表情は、単なる仕事だけの関係には見えないのよねえ」
リエラさんの顔が急に赤くなって、焦りを見せ始めた。
フィリアさんは同じ涙目でも、感情が変わって、うるうるした目になった。
「マリエラ様が仕事以外にも私に求めているものがあると?」
「う、うん」
フィリアさんの頬がぽうっと桃色に染まって、ほわわわとなる。
「マヤさん……たまには良い事言いますねぇ」
「たまには?」
「あ、あのマヤさん! あまり期待を持たせるようなこと言わないでおいてね。後でこじれて面倒になるので」
言ったそばからさっそく面倒なことになって、マリエラさまぁ~とすり寄ろうとするフィリアさんを手で押しのけるリエラさん。
迷惑そうにするリエラさんだけど、やっぱりそれは仲良しの女の子どうしのじゃれ合いに見えるのだ。
わたし達は倒木地帯を通り過ぎ、針葉樹林帯に入った。