異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第150話「白い山」

 

 森の奥は針葉樹が多かった。とはいえ日本の植林した杉林や檜林のように、同じ高さ、同じ樹齢の木が密集して暗い森になってるわけではない。自然の針葉樹林は、様々な高さや太さの木が生え、日の光がまだらに地面にも届いていて結構明るい。下草や苔に覆われた地面には所々に切り株や倒木があり、そこも様々なキノコが生えている。空気は全般的に湿っぽかった。

 

「ねえサンドラちゃん。アイポメアニールが生えてたところは、もっと空気がカラッとしてたよね。ここはだいぶ雰囲気が違うようだけど」

「そうなの。だからアイポメアニールなんて採れそうな感じしないよね。ここの特産品って言ったら、やっぱりキノコだもん」

「こっちの道入ってから、確かにキノコを見る量が半端ないけど」

「だからアイポメアニールの群生地を見つけたのは偶然でもあるの」

「そうだったの?」

 

 

 いよいよ道らしきものが無くなり、森の中に伸びる細い獣道が移動ルートとなった。明確な一本の道というものはなくて、それらしい道筋が何本も木の間を縫っている。

 

「どの獣道を行けばいいの?」

「どれでも大丈夫なの。もし途切れても、目に入る他の道を渡り歩いて行けば、最終的には高台に向かっていくの」

 

 広く見渡せば、それらは総じて少しずつ高台へ向かって登っていく1本のルートとなってるようだ。

 

 途中ではいくつもの沢を横切った。殆どが岩のごつごつした沢だ。ところが今目の前に現れた沢には、白い砂が沢山堆積していた。どうやらそれが目印らしい。

 

「この沢の上にあるの」

 

 やっとアイポメアニールの元群生地の近くまで来たようだ。

 サンドラちゃんが上流の方を仰ぎ見た。沢は尾根を回り込んでいるみたいで、上がどうなっているか尾根が邪魔で見えない。ここから見た感じは相変わらず山の中である。

 

「若、魔素計の数値が跳ね上がりました。この沢の周囲は濃度4です」

 

 クーノさんが、魔素の濃さによって反応する魔石を並べた簡易な魔素計を見て言った。

 

「4だって? ものすごくヤバイじゃないか! ワイバーンがブレス攻撃できる濃度だぞ」

 

 ユスティニアス中隊長の表情が険しくなる。

 

「こりゃあ当たりだな。イレム、魔物の反応はないか?」

「まだないよ。でもなんかもやもやする。いそうな気がする」

 

 ユスティニアス中隊長は不安なのか、落ち着きなくしきりに周りを見回している。レオさんはその肩をポンと叩いた。

 

「そうビクつくな。魔物が近付けばイレムの探知に引っかかる」

「レオナルド殿下はそんなにその子供を信用してるのですか?」

「ああ。実際に見てきたからな。特に魔物にしか反応しないってところがいい」

 

 レオさんに褒められてイレムは嬉しくなって、鼻の穴を広げた顔でどうだと中隊長に自慢顔を向ける。

 

「とはいえ、まだまだ場数踏んでねえイレムだ。未経験の事態が起こらないとは限らねえ。皆細心の注意を払って進むぞ」

 

 皆は頷いた。

 

 

 

 

 沢の横の獣道を進んで、尾根を回ったところで、イレムがいつものセリフを叫んだ。

 

「魔物の反応だ!」

 

 ユスティニアス中隊長が間髪入れず剣に手をかけ、ヴェルディ様を庇うように前に立った。そう慌てなさんなとレオさんが制する。

 

「いいぞイレム。どの辺だ?」

「ええと、800m先だ。方角はあっち」

 

 イレムは沢の上流の左の方を指差した。

 そっちへ目を向けたサンドラちゃん。

 

「そっちはちょうどアイポメアニールの元群生地の方なの」

「つぅことはサンドラの予想した通りのようだな。魔物の数は?」

「ええとええと……ろくじゅうと2匹だ」

「す、凄い。イレムが指の数以上の数を普通に数えた」

「んだとガキババア、ちょとこっち来い!」

 

 わたしに食ってかかるイレムをひっつかんでレオさんは続けた。

 

「いいからマヤの言うことなんかほっとけ。魔物の種類は分かるか?」

「大きい反応の15匹はきっとワイバーンだ。それより一回り小さい反応が2匹。何だろうな遭ったことねえやつだ。他のはだいたいでかいウルフとオークみたいなのだ」

 

 レオさんはヴェルディ様と目を合わせた。ヴェルディ様は先へ進もうと指を向けた。

 

「近くに行ってみよう。魔族もいるかもしれん」

 

 

 

 

 獣道をさらに進むと、なだらかな白っぽい灰色の小山が木々の間から見えてきた。

 山の3分の2は木が全く生えてなくて、所々に草が生えただけである。後ろの山から一段低い棚のようになっている所にあって、展望台のように下に向かって開けていた。ヘリポートとして使うならうってつけって感じのところだ。

 

「あれがアイポメアニールの群生地だった砂山なの」

 

 サンドラちゃんが指差した小山の姿を見て、わたしはピンときた。

 

「あれって、こないだのアイポメアニール採取クエストで、サンダーウルフの群れがいた砂山と同じものじゃない?」

 

 サンドラちゃんは首を傾げた。

 

「サンダーウルフがいた砂山は、小さな火山みたいな形してたよ? ここのは丸いお山なの」

「たぶんここの山は古いのよ。できた時は同じような火山みたいな形だったんじゃないかな。年月が経つうちに丸く崩れちゃったんだよ。沢に白い砂がいっぱい積もってるのは、この山が少しずつ崩れて流れ出た砂だと思う」

「それじゃあこのお山も、地中から砂が噴き出てできたの?」

「その可能性が高いわね」

 

 アイポメアニール採取クエストで50匹のサンダーウルフの群れと出会ったのは、ミニチュア火山のような形をした砂山での事だった。高さはせいぜい20メートルくらいで、頂上の中央には噴火口のような窪みがあった。なのでわたしは大量の水と砂が地中から噴出してできたとふんでいる。

 そのような砂山はヘキサリネの南の森にもあったので、どうして水が噴出したのかは分からないけど、この辺ではたまに起こる自然現象なのかもしれない。地震とかかな。

 

「それにここは空気も乾燥してる。アイポメアニールの好む環境だね。この砂って湿気も取っちゃうのかな。乾燥剤として使えるかも。少し持っていってみようかな」

 

 砂を手に取って、もう片方の手をかざして法力を発動すると、少しの酸素が取れた。残ったものは光沢のある金属っぽいものが多い。たぶんケイ素だ。砂の主成分は二酸化ケイ素のようだ。自然界では極ありふれたもので、湿気を吸い取りやすいとすれば、珪藻土や乾燥材のシリカゲルなんかに近いのかもしれない。

 わたしが砂を手ですくっていると、リエラさんが感心した面持ちで覗き込んできた。

 

「マヤさん、ホントよくそういうのに気付くわね」

「ま、まーね」

 

 ははは、雑学知識だけは無駄に豊富な21世紀の人間ですからね。

 

 わたしの話を聞いていた他の人は、ふうんと唸るだけで、再び小山を見上げた。

 山の上の方で黒いものが動いている。魔物のようだ。よく見ると、背中には翼らしきものが見える。目を凝らしていたケンさんが言った。

 

「あれ、ワイバーンですね」

「サンドラの見立ては当たってたな」

 

 レオさんがサンドラちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でると、髪がぐしゃぐしゃになるーと逃げていった。

 

「あそこからワイバーンは飛び立ってるってわけだ。イレム、あそこ以外に魔物はいないか?」

「うん、あの辺ので全部だ。見えてねえけど、奥の山の方にも25匹いる。20匹はでかいウルフ。4匹はでかいオーク。1匹はオーク……いやそれより小さい。ゴブリンかな。だけど眩しいくらいに輝いてる」

「輝いてる?」

「うん。他の魔物よりやけに光って見えるんだ」

「……おいそれって、前線基地の監視塔で見たのと同じもんか?」

「あっ!」

 

 イレムも思い当たって、それだと言った。

 

「ヴェルディ、いたぞ」

「うむ、魔族だな?」

 

 レオさんが頷くと、ヴェルディ様はニッと笑った。

 

「その奥の山の方に転移の魔導具がありそうな感じしない?」

 

 リエラさんが言うと、ヴェルディ様も同じ認識だと頷いた。

 

「おそらくそこで転移させた奴を砂山の方へ連れていって、ワイバーンにハドル谷まで運ばせてるんだろう。砂山の縁を回り込んで奥の山の方に行ってみよう。転移魔導具があるか確かめたい」

 

 ヴェルディ様がそう言うと、レオさんはすぐさま行動に移す。

 

「あっちから行こう。皆、音を立てるなよ」

 

 

 

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