異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「見えた、あれだ」
イレムが探知法力で光って見えるという魔物を見つけて指差した。
指差した先にいたのは二足歩行の魔物……じゃなくて、それはローブを頭から被ったまさしく魔族だった。
「い、いた! リ、リエラさん、魔法使いですよ、魔法使い!」
「わ、分かったからマヤさん、慌てないで。頭引っ込めて」
リエラさんに頭を押されてわたしは窪地にうずくまる。
魔法使いのいるさらに奥には、木々の隙間からピンク色の光の柱が見えた。
「あれ、転移魔導具の上に立ってた光ですよね?」
「西の森で見たのと同じね。と言うことは、あそこに転移魔導具があるに違いないわ」
クーノさんがポケットから単眼鏡を出して、光柱の方を観察した。
「光を発している元に、台形を逆さにした大きな石があります」
「それだ。それが転移魔導具だ」
レオさんが喜ぶ。
「俺にも見せてくれ」
ヴェルディ様が出した手にクーノさんは単眼鏡を預けた。
「ほう、あれが。……整形した石のようだな。……光の柱の下で回っているのは魔法陣か?」
ヴェルディ様は転移魔導具を見るのは始めてのようで、とても興味深そうだ。
「若。あの転移魔導具、西の森にあったのと形は同じですが、あれよりずっと大きいように思います」
クーノさんが単眼鏡で観察した様子をレオさんに伝えた。
「なんだと? そういえば光の柱も太いような気がするな。それに光の中に何か見える。転送中か? ヴェルディ、何かわかるか?」
「ちょっと待て」
単眼鏡を覗いていたヴェルディ様は、焦点を調整してさらに詳細を見ようとする。わたしやリエラさんも目だけ出して光の柱をよーく見た。
光を発しているところには、確かに台形を逆さにした大きな石があった。アイポメアニール採取クエストで見た転送装置と同じ形だ。ただクーノさんが言う通り、大きさが桁違いに大きそうだ。
そして光の柱の中には、薄ボンヤリと何かの輪郭が浮かんでいる。レオさんが言ったように、何か転送しようとしてるみたいだ。大きな魔石が浮いていて、その輪郭はワイバーンを凌ぐ大きさがありそうだ。
……なんだろうあれは。龍のような形に見える。輪郭の外側にはメラメラと燃える炎のようなのが揺らいでいる。
「やばいのが見える」
ヴェルディ様は小声でそう言った。
「わ、私には、ファイア・ドレイクのように見えるんだけど」
リエラさんの小声には焦りの色が滲んでいた。
「よく見えるな。その通りだ。あれはファイア・ドレイクだ」
「ファイア・ドレイクって何です?」
わたしが何気にケンさんに質問すると、ケンさんは緊張で強張った顔で教えてくれた。
「ファイア・ドレイクってのは、火を吐くドラゴンの一種だ。炎を全身に纏っていて、ワイバーンよりずっと格上の魔物だ。ランクだとAAになる」
「AAーっ!?」
ええーっ!?
それってAランクよりも上ってことよね!?
ケンさんの額の汗が、そうだと答えていた。続くヴェルディ様の言葉がそのヤバさに拍車をかけた。
「こいつが暴れたら、一帯は荒れ地になってしまうとも言われている。高ランクの大物魔獣専門の賞金稼ぎパーティーだって、こいつに出くわしたら尻込みするだろう」
「そ、そんなに物騒な魔物なの!?」
いつも余裕を見せているヴェルディ様が、今回ばかりは真剣な眼をして呟いた。
「あれは魔境の奥深くに棲んでるもんだ。一般人がお目にかかることはまずない奴だ。あんなのが人間の居住地域近くに出現したらえらいことになっちまう。魔族の奴ら、本当にここで災厄を起こすつもりらしい」
「す、すげえ」
皆が焦る中、イレムだけは目を輝かせてファイア・ドレイクの輪郭に見入っている。
「どどど、ど、どうしますレオさん!?」
わたしは血相を変えて尋ねる。
「勿論こいつはここで始末だ」
「はい!?」
さも当たり前のように即答された。
あのー、さっきワイバーンより格上とか、災厄とか言ってませんでしたか? それを即刻始末するですと!?
「あの、AAランクってことは、そもそも誰なら手を出していいんですか?」
これは大事だ。これ以上階級差違反するわけにはいかない。他の人だってしたくないだろう。
「Aランクパーティーには制限はない」
ということはレオさんやケンさん、クーノさんの担当ってことね。
「あとギルドマスターのパーティーにいるマヤも、もちろん構わねえぞ」
「わたしも!?」
そういえば魔王様でも倒していいって言われてたっけ。
「ここでは力を隠す必要はない。存分に戦ってよし」
なんとリミッター解除されてしまった。
レオさんは続ける。
「アイポメアニール採取クエストの時の転移魔導具の例だと、転送途中の状態では体はまだスカスカで、むき出しの魔石は簡単に破壊できたじゃねえか。ってことは今ならファイア・ドレイクといえど無防備なはずだ。やっつけるなら今のうちだ」
「で、でも、スカスカでも火ぐらい吐いたりするかもですよ!?」
「中途半端なら吐かないかもしれねえじゃねえか。どのみち転送途中の奴をやったことがあるのは俺だけだ。ファイア・ドレイクの相手は俺がする」
俺も、と言いかけたイレムには、みなまで言う間も与えずレオさんのゲンコツが落ちた。
「マヤの目標はあくまでも転移魔導具だ。だがファイア・ドレイクと魔導具の他に、ここには魔族とワイバーン、そして周囲に魔導具を守るウルフ共がいる。戦闘の狼煙は、やはりマヤに上げてもらわなきゃ始まらねえ」
「狼煙? 煙炊くんですか?」
「あほか。戦闘はマヤからおっ始めるって例えだ」
「えええ! わたしにもワイバーンの相手させるつもりですか!?」
怖いんですけど~、特に顔が怖いんですけど~と、わたしはごねる。
「いつもやってるのと同じ手順だ。ワイバーンだって飛べなくすりゃ大型の恐竜とさして変わらん。魔族だって魔法が撃てなくなる」
「あっ、空気清浄。一帯の魔素を取り除けってことですか」
いい加減、魔物との必勝パターンを頭に入れとけと頭を叩かれた。
「褒めて伸ばしてくださいよー」
「言われなくてもやれるようになったらな」
「マヤさんを怖がらせちゃダメだってば」
リエラさんがまたレオさんを叱ってくれる。
「あっ、魔族が歩き出したぞ」
イレムが動きに気付いて知らせてきた。皆は斜面や窪みに隠れる。イレムは隠れたまま探知法力で追跡した。
「オークを4匹連れている。ワイバーンのいる方に行くみたいだ」
「魔導具から魔族が離れるぞ。この隙を使わない手はない」
レオさんはチャンスだと皆に伝える。
「いいか、まずマヤが魔素を取り除く。魔素がなくなったら、俺とマヤは転移魔導具のところへダッシュする。魔導具の所に着いたら、俺は転送途中でスカスカのファイア・ドレイクをやる。俺がファイア・ドレイクをやったら、マヤは魔導具を破壊しろ」
レオさんはヴェルディ様に向いた。
「転移魔導具に何かあれば、魔族は取って返すだろう。ヴェルディの出番だ」
ヴェルディ様はニヤリと笑った。
「分かった。俺と中隊長で魔族を捕縛しよう」
レオさんは頷き、続いてリエラさんの方に向く。
「リエラとフィリアは、基本はヴェルディを支援だ。だが状況を見てヤバい方に加勢しろ」
「分かったわ」
「承知しました」
「ケンとクーノは広場の方に回って、広場の魔物がこっちに来ないよう出口の所で食い止めろ」
「うっす! クーノ、マヤさんが飛べなくしてくれるとはいえワイバーン15頭だ。気合い入れろよ」
「特大のシールドで迎えてやるぜ」
頼もしい家臣にレオさんは満足そうに微笑む。
「とはいえ、二人がワイバーン共を食い止めていられる時間はそう長くないだろう。その間にどこまでできるかで後が楽になる」
レオさんはわたしやヴェルディ様、リエラさんを見回す。
「とにかく最優先は転移魔道具の破壊だ。それさえやっちまえば戦略的には一つ成功だ。もう一つは魔族だが、あとは臨機応変にやっていくしかない」
レオさんは最後にリトルウィングの方に向く。
「サンドラとリネールとイレムはここに隠れてろ。お前たちは戦闘後の傷の手当とかに備え待機だ」
ええー? とイレムだけ不満で口を尖らせたが、あとの二人は頷いた。
「イレムは周囲を見張ってろ。俺達の戦いに見入ってるんじゃねえぞ。他の魔物が近付いてきたら大声で教えろよ」
「ちぇっ、分かったよ」
「リネールは2人を守ってやれ。特にウルフには気を付けろ」
「おうっす」
「皆大怪我しないでね。超回復ポーションは1人1本しか使えないからね」
いやいや、あのポーションを1本使えますって、死ぬ一歩手前まで戦っていいよって言ってるようなもんじゃん。
「よし、おっ始めるぞ! マヤ、魔素を取っ払え!」
「わ、わかりましたよぅ」
わたしは両手を上にあげた。
「酸素ドーム展開!」