異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
オーク・ソルジャーを連れてワイバーンのいる広場へ向けて歩いていた魔導師アデマールは、ワハイム沼のガイアスとの魔素通信を試みていた。
「ガイアスは全く出る気配がないな。特待意識の強い
だが、とアデマールは思慮する。
「ヘキサリネ方面は得体のしれぬ不安感を抱かせる。まさか魔素通話回廊そのものが途中で途切れてるということはないだろうな? 領都北の森には十分な魔素を広めてあるはずだ」
アデマールは魔法を作り直してみることにした。
「光の中位精霊よ。森を満たす魔素の海はいかなる地へも通ずる道となる。我はガイアスとの会話を欲せんとす。ガイアスに至る魔素回廊は再び作られん。魔素通話回廊再構築!」
周囲を飛んでいた中位の光精霊が集まってきた。光精霊達はくるくると螺旋を描きながら空へ昇っていき、新たに音声伝達のための魔素の回廊を作り始めた。だが昇っていく途中で、バチッと何かに感電したかのように弾かれて、バラバラとこぼれるように落ちてきた。バラバラとなった光精霊達は、それぞれがびっくりしたようにぴょんと跳ねて、飛び散って霧散してしまった。
「な、何が起こったのか!?」
同時に、それまで戯れていたワイバーンが急に首を持ち上げ、上を見たり、左右に首を振ったりしてそわそわしだした。足元の魔獣達もワイバーンの様子がおかしいと感じ取り、釣られるように辺りを見回し、不安げな鳴き声を上げる。
アデマールは、広場の魔物達が落ち着きのない声を出したり、うろついたりし始めたので顔をしかめた。だがその原因に気付き、顔色を変えた。
「魔素が薄まっている? ……いや、それどころか殆どない!」
後方から危険を知らせるギガント・ウルフの遠吠えが聞こえてきた。慌てて振り向くと、転移門の方へ走る幾つかの影が見えた。影は6つあった。人間のようだった。
「人間!? いつの間に!」
転移門ではファイア・ドレイクが転送途中だ。今襲われるのは非常にまずい。
だが襲撃者はたったの6人。転移門周辺には20頭のギガント・ウルフが守備に着いている。普通に考えれば十分だ。
しかしあれはヘキサリネ兵ではない。冒険者のようだ。
アデマールの頭に、突出した能力を持つ冒険者の可能性が浮かんだ。ヘキサチカ西部の企みを潰したのは冒険者ではないかという、自分が危惧した予想だ。
「ワイバーン!」
ギガント・ウルフだけに任せてはだめだと思ったアデマールは、広場のワイバーンに杖を向けると命令を出す。
ワイバーンがアデマールに応えて吠えた。
だがしかし、ワイバーンは飛び立とうとするが、羽ばたいてもいっこうに飛び上がることができない。ワイバーン達は戸惑った声を上げる。
「ワイバーンが飛べないだと!? ……そうか魔素か。魔素が薄まっているせいか!」
しかし飛べなくてもワイバーンは龍種だ。胴体部分の大きさも象のように大きい。地上で暴れても十分に脅威である。
「魔物達よ、その巨体で蹴散らすのだ!」
ワイバーンと、その周りにいたマンティコアが了解の咆哮を上げると、広場からドドドッと地面を響かせて走り出した。
しかし森の中の道に入ろうとした所で、何かにぶつかったようになってひっくり返った。それは透明な壁のようで、マンティコアの一頭が何とか進もうと、ガリガリと前足の爪で引っ掻く。
「お前さんらはそこで大人しくしてな」
そう声を発して脇の草むらから出てきたのは、冒険者と思われる新たな男が2人。
男達に飛びかかろうとするマンティコアだが、透明な壁に阻まれて全く危害を加えられない。だというのに……
「てやあっ!」
片方の男が槍を突き立てると、壁など無いかのように槍はマンティコアの腹に突き刺さった。他のマンティコアやワイバーンは、慌てて男達から距離を取る。
「おのれ、法力のシールドか! 法力は魔素がなくても関係ないようだな。槍は通過できるとか、いったいどういう仕組みなのか。卑怯極まりない!」
ワイバーンらが当てにできないので、アデマールは自ら転移門に向かって引き返した。
すると転移門に向かっていた冒険者のうち4人が走るのをやめ、アデマールと対峙するようにこっちを見据えた。冒険者といったが、一人は兵士である。他は男の冒険者が一人、少し離れて女冒険者と……メイド?
兵士がしゃがんで地面に片手を突いた。
「熱源発生!」
兵士がそう言ったとたんに、アデマールの足元がぶつぶつと音を立て始めた。アデマールは咄嗟にばっと飛んで、オーク・ソルジャーの陰に入った。同時に詠唱をする。
「土の精霊よ、如何なるものをも遮たる盾は石をもって作られん。盾は今ここに顕現せしめ我を守り給え。ストーン・シールド!」
アデマールとオーク達の前に石の盾が現れた。
その直後、元いた足元の地中の水分が水蒸気爆発を起こした。
爆発によって飛んでくる土石を石の盾が間一髪で遮る……と思われたが、石の盾は薄ぼんやりとしており、殆ど防ぐことができず、土石は盾を素通りした。
「「グオアアアッ!!」」
爆発の勢いで飛んできた土砂はオーク・ソルジャーの全身を叩き、爆発に近いところにいた2頭が絶命した。
「なんだと!? なぜだ、なぜ我のシールドの威力がこんなに弱いのか! ……そうか、これも魔素が殆どないせいか!」
十分な魔素が無いため、精霊は頑丈な石の盾を作れなかったのだ。
アデマールの頬に冷や汗が垂れる。相手は法力を使ってくるというのに、自分は魔法が使えない。正確には魔素がなくて精霊が事象を発生させられないのである。
兵士がニヤリと笑って再び地面に手をついた。
「なかなかにすばしっこいな。熱源発生!」
またも足元がぶつぶつと音を立て始めた。
「くっ、無詠唱でこの攻撃速度。本当に法力というのは厄介だ。接近する! 近寄ればこの攻撃はできん。自分達にも被害が及ぶからな!」
アデマールとオーク・ソルジャーは、兵士のいる方へ回避、というが突進した。
先程いた所の地面が爆ぜる。しかし弾き飛ばされは土砂は、予想通りアデマールの方にはほとんど来なかった。やはり兵士は自分の方に被害がないよう爆発の向きを制御していたのだ。
「接近戦か? 上等だ!」
兵士が剣を抜く。だがその前に、後ろにいた女冒険者とメイド(?)が動いた。
「フィリア!」
「はい!」
メイド(?)が肩に四角い箱を担ぎ上げた。女冒険者がその箱に長細い筒のようなのを入れると、その箱がこっちを向く。
ドシュッ! ドシュッ!
箱から煙を上げて2つの筒状の何かが飛んできた。
オークが大鉈でそれをぶった切る。だが。
パン!
切ったとたんに筒状の物が弾け、中から液体が振り撒かられた。液体がオーク達に降り注いだ。
ぎゃあああー!
液体を被った2頭のオーク・ソルジャーがじゅうじゅうと音を立てて溶けていく。
「溶解する液体での攻撃だと!?」
とんでもないメイドだ。いやあれはメイドという格好をしただけの冒険者だ。
アデマールに焦燥の汗が垂れる。
「これは簡単に転移門の所へ戻れそうにないな。しかもこちらは魔法を封じられている」
このままではファイア・ドレイクが危ない。時間をかけてオリジナルを転送させている暇はない。代替手段は一応あるが、ファイア・ドレイク程の大物にそれを使うとなると、今後転移門が使えなくなる可能性がある。
しかしここを発見され奇襲を受けている現状では、どのみち転移門が無事で済むわけがない。
「ギガント・ウルフ、転移門のモードを変更だ! 複製転送!」
アデマールの指示に、転移門を守備していたギガント・ウルフの1頭が「ぐわおっ!」と反応すると、転移門に飛びついて両前足を掛けた。ウルフからの魔力が通じると、逆さ台形上の台座が黄色く光り、ファイア・ドレイクの影が映る光の柱の色も同じように黄色を基調にした色に変わった。台座が少しずつ削れるようにして光の柱の中に昇華していく。
「転送元の体がダメになるが、こうでもしないとどのみちファイア・ドレイクの転送は間に合わん!」
台座の上にいたファイア・ドレイクの体が、透けていた状態から急に実体を持ち始めた。色が濃くなっていき、浮いていた魔石が見えなくなっていく。