異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
魔族の後ろで舞う土埃の中から、ファイヤ・ドレイクの巨体がぬおっと出てきた。
「ぎゃああーーっ!」
「ひいいぃぃーっ!」
マヤとフィリアが黄色い悲鳴を上げる。
リエラもびっくりはしているが、品のない大声は出さなかった。さすが皇女様である。
ファイヤ・ドレイクには転移魔導具からまだ光る粉のようなのが流れ込んでいるが、実体化はほぼ終わったようで、ズシン、ズシンと歩き出していた。口からはメラメラと燃える炎がはみ出していた。
絶望状態だった魔族は、頼りの綱が完成したことで勝ちを確信した。しかし表情が追い付いてこれず、喜びの顔が引き攣り歪んだ状態で叫んだ。
「ふ、ふは、フハハハ! 残念であったな! もうお終いだ。やってしまえ、ファイヤ・ドレイク!」
ドシン!
また一歩近付く。
「フィリア、アンカー! ドレイクの足を止めなさい!」
「は、はひ!」
リエラの声が飛ぶと、フィリアはストレージから一発のロケットランチャーを取り出した。装填されているロケット弾の後ろには鎖が繋がっていて、その鎖はストレージの中に続いている。最前線基地の南門前の攻防で、ワイバーンを落として動けなくしたあの武器だ。
フィリアは導火線に着火してロケットランチャーを肩に担ぐと、斜め上に掲げた。
「発射!」
しゅばあーっと上空へ打ち上がるロケット弾。それに引かれて、じゃあーっとストレージからチェーンが引きずられていった。
ロケット弾は弧を描いて降りてきてファイア・ドレイクの胴体に絡みつき、勢いを増してぐるぐると胴回りを縦に何周か飛んでチェーンを巻きつけた。そして最後にドスッと地面に突き刺さってロケット弾は埋まった。ファイア・ドレイクを取り巻くチェーンは炎をものともせずギチッと巻き付いていた。
「なにいっ、ファイア・ドレイクの炎でも焼き切れない鎖だと!?」
思いがけぬ事態に魔族が狼狽する。
フィリアは仕上げに、ストレージからチェーンの反対端をドスンと落とした。それは巨大な金属の錘。大きさといい形といいテトラポットである。
ファイア・ドレイクは動こうとしたが、ギンッと鎖のテンションがかかり動くことができない。見下ろしたファイア・ドレイクは鎖を忌々しげに睨みつけると、ボワッと火の塊を鎖へ吐いて鎖を焼き切ろうとする。しかしチェーンはびくともしない。
「フィリアさん、あれは!?」
「ふふふ、リエラ様にしごか……いえ鍛えられてストレージが拡張したおかげで装備できるようになった、大婆様のいにしえの道具の一つです。
いったい何者なのーっ、その大婆様は!
ファイア・ドレイクは、火を吹きかけようが引っ張ろうが切れない鎖に怒り、これを括りつけたフィリアに向かって口を開いた。口の中では炎が渦巻いている。
「こっちに火を吐いてくるわよ!」
「うわあああ、確か大婆様の道具に防火マントが!」
フィリアがストレージを開けて引っ掻き回しているが、包丁やまな板や芋が出てくるばかり。
それ食材用のストレージの方じゃない?
次は何が飛び出すのかと期待の目で見ていたマヤだったが、お玉を手にしたところでもう間に合わんとフィリアが固まり、救援要請が飛んできた。
「ひいいいい! タ、タンマ、タンマです! マヤさん、ちょっとあの口の火消してええーーっ!」
「えっ、ここでわたしにバトン渡すの!?」
ぶおおああああーーーー!
思ってた以上のブレスが吹き出された。明らかにオーバーキル。都市を焼き尽くすというのも当然だ。これは怪獣映画で出てくるようなやつだ。架空の世界から出ちゃいけないやつだ。
「ぎゃーー!!」
マヤの身体が水色に輝く。
「
先程のファイヤボールを防いだのと同じだが……
「酸素は出し惜しみしないからー!」
桁違いに分厚い酸素の壁が出現した。密度を増して固体酸素になり、水色から青になり、そして赤くなった。金属状態の酸素だ。
ファイヤ・ドレイクのブレスは固体酸素の壁に当たって阻まれた。当ったところからざあざあと膨大な量の魔石結晶粉に変わっていく。壁から弾かれた炎が、周囲の木や草に燃え移る。それをリネールが、わあわあ言いながら飛び回って消し止めた。
「魔法の炎なんか酸素には敵わないのよ! うりゃあああー」
マヤが金属化した固体酸素の壁でブレスを押し返すようにジリジリと前へ進む。
ぶぼおおおおおぉぉぉ……ぶすぶすぶす……ぷすん
ファイア・ドレイクのブレスが出き切った
ブレスは酸素の壁を突破することはできなかったのだ。
息を吐き終わったようにブレスが止まったファイヤ・ドレイクは、悔しげにギロリとマヤを睨みつけた。だがその闘志に衰えはない。また口の中に炎をボブボブと溜め始める。
「あの口の火、消せないんですかー!?」
悲鳴を上げるフィリアに対し、オキシジェン・デストロイヤーモードに入ってしまったマヤは加減というものがなくなっていた。つまり容赦なくなっていた。
「口ごと消してやるわ!
マヤはマイナス190℃の液体酸素を消火放水のごとくファイア・ドレイクの口めがけてズババババと噴射した。青い酸素の水は、周囲に纏う炎を突破してファイア・ドレイクの顔にどばばばばばとかかる。
するとどうだろう。当たったところからファイア・ドレイクの顔がビカビカと光り、その度にザアザアと青い魔結晶の粉が舞って、顔が半分砕けた。
「ええー!? 本当に口ごと消してるぅ!?」
フィリアとリエラが驚いて口と目を真ん丸にする。
「ははーん、これってもしかして?」
顔が欠けたファイヤ・ドレイクは焦りを見せ、まだ溜めができてないながらもブレスを吐こうとした。
「
今度は固体酸素の塊をファイア・ドレイクの周囲にいくつも出現させた。
「
続いてそれを振動させながらファイア・ドレイクを殴るようにぶつけていった。固体酸素の塊が、纏う炎を突破してドゴオッとドレイクの腹をえぐる。ドレイクが絶叫した。当たったところの硬い鱗が鋭く光り、その部分がドサアッと一瞬で青い魔結晶の粉となった。
「ほら次のかたまりぃー!」
ドゴオッ!
ごっそりと体の一部が魔石結晶に変わる。
「マヤいいぞ! その勢いで削りまくれ!」
レオナルドが剣に手をかける。
マヤの攻撃はボクサーのパンチラッシュの様相になった。ファイヤ・ドレイクはKO寸前の棒立ち状態となり、されるがままに酸素の塊で殴られる。何発も当たっていくうちにどんどんと体が削り取られていき、ついに中から大きなスイカサイズの赤紫の魔石が現れた。
「魔石だ!」
「いただきだ!」
レオナルドはその隙を逃さず、飛び込んで灼熱剣を魔石に突き立てた。
パリンと硬質な割れる音とともに魔石が砕け散る。
ファイア・ドレイクが悲鳴を上げたような気がした。
カーッと全身が物凄い線量で光る。
そして砂山が崩れるようにファイヤ・ドレイクの体は上から崩壊していく。
全てが崩れると、ファイヤ・ドレイクがいたところには、体を縛っていた鎖と、青い魔結晶の砂山、赤紫の魔石の破片、そして前脚など一部の実体化した部分の肉塊が落ちていた。
「なん……だと!?」
魔族がまたも真っ青になって固まる。
フィリアも驚愕で震えた。
「ど、どういうことですこれは?」
マヤはふんっと胸を張って答えた。
「魔石になっちゃったってことは、ファイア・ドレイクの体は、ほとんどが魔素でできていたってことじゃない?」
ファイヤ・ドレイクの体の大半は魔素で作られていたのだ。転移が間に合わなかったので、転送終えてない体を魔素で作って補ったのだ。