異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「ジオニダス、温めなおそうか?」
喫茶のマスターが冷めきった昼食を見てそう問う。ギルドのマスターはため息交じりに頷いた。
「そうだな。頼む……」
そこでまたバーンと扉が勢いよく開かれた。いい加減にしてくれとマスターは思った。
入ってきたのは、東国街道の道の駅の、ハンターギルド出張所のメンバーだった。
「お前達か。盗賊団の捕縛護送ということだったが、もう終わったのか?」
「へい。日の出とともに出発して、領都軍と一緒に現場へ行ってみたら、既に盗賊団は木に縛り付けられて身動きできねぇ状態でしたからね。護送車に乗せて連れてくるだけだったんで、カボチャの輸送みてぇなもんでしたよ」
「盗賊団って、予想通りリットン盗賊団だったのか?」
「へい。手配中の首領含め27名。生きてたのは12名です」
「半分以上を殺したのか。さぞ凄まじいい戦いだったのだろうな。それで襲われた方はどうなった? そっちもかなり被害出てんだろ?」
そこで別のところから声が上がった。
「リットン盗賊団、捕まえたんすか? 火焔を放つ法力持ちが加わってから、東のオルデンドルフ王国の街道では大被害が出まくってたんすよ」
声の主はサロンにいた中年のハンターだった。驚いた様子で話に割り込んできた。今日は仕事に出ないつもりらしく、朝からずっとサロンでのんびりしていた奴だ。タバコをもみ消すと、本格的に話に加わってきた。
「首領も強力な『牽引』の法力持ちで、その法力で大岩や巨木を動かして退路を塞いで、包囲襲撃するってのが、あいつらの常套戦法でさあ」
「詳しいな」
「俺ぁオルデンドルフから来た冒険者だ。被害にあった幾人かの商人から直接聞いたんでさあ」
「ここに滞在したければ
「す、すまん」
「……で、ずいぶん組織だった厄介な連中だったようだな。抵抗したのはいなかったのか?」
「全滅した商隊がいたな。たぶんそれが抵抗を試みた事例でしょう」
「ふむ、戦闘力もあると。そんな連中と真正面からやり合ったんじゃあ、甚大な被害出したんじゃねえか?」
マスターは道の駅の出張メンバーに再び聞く。
「あれ、聞いてねえですか? 襲われたのはリトバレー村の荷馬車ですよ」
「リトバレー!? あいつら盗賊団の話なんかしてなかったぞ? 仲間に怪我人や死人が出たというのも聞いてねえ」
「ええ。俺らも聞いてねえっす。昨夜は道の駅で楽しそうにオークシチュー食ってましたよ」
「15人始末して、12人を木に縛り付けて、それで被害もなく、楽しく夕飯だあ?」
呆れるマスター。暇そうなハンターは「こりゃ面白れえ、痛快だ!」と手を叩いて喜んでいる。
「確かに痛快だ。もう少し俺にも話聞かせてくれ」
ギルドの入り口の方からまた別の図太い声が聞こえてきて、みんなは振り返った。入り口の前に、マスターに負けない大男が、肉の串焼きを頬張りながら立っていた。
「領主!」
マスターは、まだ心労の素が来るかと胃の辺りを抱えた。
「うえ!? りょ、領主様!?」
「「領主様!」」
マスターと出張メンバー達がびっくりして一歩下がった。
「ひえええ、ヘキサリネの領主様ですかい!?」
ドスドスと中へ入ってきた30歳くらいの大男。それはここヘキサリネ独立領の領主、ヴェルディ・オヴ・ヘキサリネだった。
しかし、シャツにチョッキ、ゆとりあるダブついたズボンにブーツという、一見平民か? というような軽装でのいで立ちである。いや、一応服の仕立てはいい。縫製も布もしっかりしてはいるのだ。だがそこで領主だと見分けられるような者など殆どいない。顔をよく知っているギルドマスターでないとまず気付けなかった。
「またそんな軽装で街にふらふらと……」
「目立たなくていいんだよ。何かありゃ、さっと民間人の群衆に紛れられるし、身動きもしやすいから逃げるにも好都合だ」
「その図体が目立つんだが……」
ぼそっと呟くマスター。
「何か言ったか?」
「いや、何でもありません」
「それで、その現場はどんなだったんだ? 戦闘の痕跡は?」
領主に質問された道の駅から戻った男は、緊張で引き攣る口を
「へ、ひぇい。げ、現場は東国街道からリトバレーへ通じる村道へ曲がってしばらく行ったところでした。1本道で、太い木の林に、腰くらいの下草が生い茂ったところです。戦闘があったってぇところには、燃えた大木や、地面の焦げた跡がありやした。道の前後を倒木で塞いだみてぇで、その木が燃えたんすね。塞がれた道は100メートルぐれぇです。生き残った奴は大なり小なり火傷してました」
マスターは顎に手をして頷いた。
「ふむ。火を使った攻撃が行われたのは間違いないな。火焔法力がいたという噂通りだ」
しかしすかさず領主が疑問を呈する。
「だがマスター。燃えたのが道を塞いだ倒木ってのは変じゃないか? 自分の陣地を燃やすか?」
「道路封鎖した倒木を燃やしてより威嚇するってのぁ……いや、リトバレーの小さな荷馬車にそれはやり過ぎですな」
「荷馬車は封鎖した100メートル区間のおそらく真ん中辺りにいたんだろうが、そこは散らかってないのか?」
「へい。殆ど道は乱れてませんでした」
「リトバレーの人間も火を使えるのがいるのか?」
領主はマスターに聞いた。
「火の法力持ちはいますが、火焔を遠くに飛ばすようなものは……いや、1人イレギュラーが混じっていたな」
「ほう?」
マスターは領主の腕を引っ張って後ろへ向かせると、顔を近付けて小声で言った。
「実は、リトバレーの商隊に、東国の勇士トロの弟子というものが1人加わっております。黒髪の外国の少女です」
「なに? ……トロというと、アレか? ミリヤ侵略阻止の……」
「そのトロです。であれば業火は納得いきます」
領主とマスターは、なるほどなぁと向き直った。
「続けてくれ」
「へい。それで盗賊団の首領ですが、実は縛られてなくて、藪の中に倒れて死んでました」
「なに?」
「藪の中で発見されたのは首領含めて7人で、全員火傷どころか、外傷はいっさいねえんです。ただ皆苦しそうな顔して息絶えてました」
なんだそれはと、皆顔を見合わせる。今度は領主がマスターの袖を引っ張って後ろを向かせた。
「トロの法力にそんなものがあるのか?」
「分かりません。そもそも全容は分かってないですからね」
「そうか。……そうだよな」
表に向き直ったが、皆押し黙ってしまっていた。誰も想像つかないのだ。
「ところで領主。その串焼肉はもしかしてマンモスですか?」
マスターは話題を変えた。
「ああ、マンモスだ! 久々に食ったぞ。今日領都に運ばれたらしい。市場近くの屋台で焼いてたんだ!」
「それ、リトバレーの連中が持ってきたもんだと思いますよ」
「なに!?」
「それと、彼らサーベルタイガーの肉も仲買に卸したそうです」
領主の目がカッと見開かれた。
「なんだと!? 本当かそれは!」
「あれはさすがに一般には出回らないでしょうから、おそらく領都邸の厨房に話が行くかと思います」
「そ、それは素晴らしい! いや、いいタイミングだ!」
「うおーい、マスター」
またもギーコラとドアが開いて、入り口から今度は領都の騎士が入ってきた。
「うわ、領主様!」
「なんだ。警備隊の中隊長か」
領都周辺警備隊の中隊長で、盗賊団の護送を指揮していた者だった。
「へ、へっへっへ」
「マスターに用事か? 遠慮すんな。俺はお忍びだ。見えない見えない」
「は、はい。ええとマスター、盗賊団の確認が取れたんで、もしリトバレー村の連中が来たら、討伐報酬を受け取りに警備隊本部へ来いと伝えといてくれ」
「ああ、分かった」
領主は「おう、そう言えば」と見えない人のふりをやめた。
「討伐報酬か。そういや許可したっけな」
領主は少し考えた。そして警備隊中隊長へ向いた。
「おい。その報酬は俺が手渡す。被害が拡大する前に速やかに討伐した事、真にあっぱれ。直々に褒賞したい、ということにしろ。その商隊のメンツ全員、領都邸まで来るように、とな」
「ええ!?」
「領主」
「なんだマスター。お前も来るか?」
「いや、さっき申した通り、1人は外国の者。領地民でない者をいきなり御前にというのは危険というか、警戒しなくていいのかと思いまして。それにあまり能力者に力の事を問い詰めるのはよくないかと……」
「なに、根掘り葉掘り聞くつもりはない。いっぺん
「はあ。……ではくれぐれもお気を付けて。まあ悪い娘じゃありませんから大丈夫でしょうが」
「そうか楽しみだ、はっはっは。それじゃ館で俺は待ってる」
「はい」
頭を下げるハンター達に、ひらひらと手を振って領主ヴェルディはハンターギルドを出ていった。
「おい、ところで」
領主を見送ったマスターは、東国街道の道の駅のギルド出張所メンバーへ振り返る。
「これから荷馬車護衛をやってくれるか? 2名、馬に騎乗してのリトバレー往復だ。1日1金貨出るぞ」
「歩かなくていいんですかい? そりゃ楽ちんだ。やりますやります」
「1人はサラに頼みたい。できるか?」
出張所メンバーに1人だけいた赤毛の女性ハンターにマスターは聞いた。
「いいよ。なんであたいに?」
「たぶん護衛対象の中に女がいるだろうからだ」
にわかに活気づく小国ヘキサリネ。全てはこの数日にマヤが関わった出来事が発端だ。そしてこれらは、ヘキサリネを中心とした大きな時代の流れに繋がっていく……らしい。