異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第159話「【悲報】アデマール、マヤちゃんの正体に気付く」

 

 ファイア・ドレイクが魔石結晶の粒に変わり果ててしまったことで、腰が抜けたように尻餅をついた魔族は、「ば、ばかな……ファイヤ・ドレイクだぞ。それが……」と呻きながら後ろ向きに這いずっていた。

 横に落ちていた燃えている木の枝を掴むと、マヤの方に向けた。木の枝の先はブルブルと震えている。

 

酸素充填(オキシジェン・フィリング)!」

 

 とたんに、ぼばあああぁぁっと木の枝が爆発したように燃え出し、一瞬で灰も残さず無くなった。

 空になった手を見た魔族は、その手をマヤに向けて指差し、恐怖に震える声で叫んだ。

 

「ま、まま、まさか、お、お、お前はオキシジェン・デストロイヤー!」

 

 なんでまたしても初対面の人が、わたしの法力の正式名を言い当てるかな!

 ってか法力名というより、わたしそのものを指して言ってない? この人!

 

「わ、わたしの名前にデストロイヤーなんて物騒なもの付いてないですけどっ!」

「物騒? は、ははは、何を言っている。オキシジェン・デストロイヤーならこんな程度序の口だ。AAランクなど足元にも及ばない天変地異ではないか!」

「天変地異? わたしのこと? わたしが天変地異だっての? それが、か弱い女の子に向かって投げる言葉ぁ!?」

 

 マヤが言い放つのに合わせ、濃い酸素の塊がブワッと突風となって発せられた。それは魔族を吹き曝し、まだ残っていたワイバーンやマンティコアにも吹き荒れた。

 酸素の塊が通り過ぎると、魔族のフードははだけ、側頭部の魔族特有の角が露になり、髪はボサボサに逆立っていた。

 そして魔物達は、やせ細ったもやしのような貧相な体になっていた。

 

 ザックザックと足音を立ててヴェルディが魔族に近付いた。

 

「大人しく捕縛されろ。抵抗しないなら命は保証する」

 

 見上げた魔族は目を見開いた。

 

「お、お前は、ヘキサリネ領主!?」

「ほう、よく知っているな。そういうそなたは何者か?」

「ヘキサリネ方面軍団(レギオン)師団長(ケントゥリオ)アデマール」

 

 すらすらと答えた魔族アデマールは、自分に驚いた。

 

「そう驚かなくてよい。師団長か。師団長ともなれば相応の扱いをすることを約束する。まずは投降しろ」

「投降……」

 

 アデマールはボサボサになった頭を左右に巡らせて反撃の可能性を探った。だがマヤ(オキシジェン・デストロイヤー)を目にしたとたん、目から生気が薄れ、がっくりと力が抜けた。

 

「バケモノがいては……抵抗の……しようがないではないではないか」

 

 アデマールがそうつぶやいた途端。

 

 カチン

 

 何かスイッチが入ったような、時計の針がセットした位置に来たときのような音がした。

 魔族は頭を持ち上げ、引き攣った笑みを浮かべた。

 

「残念だが、我はここまでという訳だ」

「!?」

 

 ヴェルディがその言葉の意味を捉えようと片眉を上げたその時、アデマールの口からガイアスの時と同じように、感情のこもってない、事務的な言葉(呪文)が紡がれた。

 

「火と光の上位精霊よ、我に応えよ。我の魔力を全て捧げん。魔力が欲しければ応えよ。」

 

 周囲から下級精霊の中でも上位のものが集まりだした。アデマールの頭の上に魔法陣が輝き、そこに何かを吸い取られていき、アデマールが萎み始めた。ヴェルディ、ケン、レオナルドが後ずさった。

 

「まずい、またあの自害魔法だ!」

「魔族のやろう、諦めるの早くないっすか!?」

「何というか、発動条件があるように感じる。本人の意思とは関係なく勝手に動いているみたいだ」

 

 アデマールは脂汗を垂らしながらニヤリと笑った。

 

「なかなか良い観察眼だ。しかし前大戦の生き残りとしては、真正士官学校(ストラティオアカディミア)のひよっこ共の魔法にいいようにされたくはない」

 

 アデマールは自分の胸に手を当てると、先程のとは違った、明らかに魂のこもった呪文を唱えた。

 

「魔族を守護する闇の精霊よ、我の魔石を崩壊せしめよ。崩壊の力は全て精霊に捧げられん。精霊達よ、それを以ってこの身を清算せよ!」

 

 突如魔術師の胸の辺りが強烈に光だし、何かが膨れ上がったきた。それは魔石のようだった。

 マヤとクーノが手で光を遮る。

 

「なにあれ、魔石!?」

「魔族は魔物と同系列だ。だから魔石器官を持ってる。体内に魔石があるんだ」

 

 アデマールの体の縮むのが止まった。

 一方で膨れ上がる魔石の青白い光に吸い寄せられるように、別のものが集まりだした。

 

「リエラ様、何かが飛んでます! 集まってきてます!」

 

 フィリアが周囲を不安げに見回す。

 

「これは何? 言魂?」

「あ、人のような形のもありますよ!」

 

 リエラにマヤが身をすり寄せて、恐々と集まってくるものを目で追う。

 

「これは……精霊だ!」

 

 レオナルドが言った。

 事務的な呪文で集まってきた下位精霊は目に見えなかったが、魂のこもった呪文に応えた精霊達は違った。はっきりとはしてないが、薄ぼんやりながらも存在が見える。

 

「ワリナの精霊研究によると、通常の、いや下級の精霊は目に見えないが、強力な力を持つ上位精霊ほど人間でも見えるようになると言っていたが、本当だったな。魔術とは精霊に語りかけ、精霊に事象を起こさせてるんじゃないかってのが、研究者の予想だ」

 

 レオナルドの説明に、マヤは感慨深く精霊を目で追っていく。

 

「へえ、この世界の魔法ってそういうものなんだ」

 

 マヤの目の前をつぅ~と通過した何かは、白い衣を頭からすっぽり被って、2本の足のようなのを衣の下から覗かせたような恰好をしていた。

 

「わ、可愛い。クリオネみたい」

 

 それはクリオネのように愛らしかったが、急に頭の方全体をガバアっと開いた。牙のようなのが開いたところにずらりと並んでいる。愛らしい姿からは想像もつかない変幻もクリオネのようである。

 

「ひいいい!」

 

 そしてその牙で膨れた魔石に食らいつき、かじり取った。他の精霊と思われるものも、次々に魔石を貪り食う。

 そこへ事務的な、前にも聞いた呪文が唱えられた。それはいかにも決められた手順をなぞっているだけに見える。

 

「火の精霊よ。我の中で、我の魔石を火炎と変え、我を内部から燃やし尽くせ。」

 

 アデマールの口からゴォッと炎が吹き上がった。しかしガイアスの時とは違い、あまり激しくない。事務的な呪文で集まった下位精霊と、魂のこもった呪文に応えた精霊とがせめぎ合っている。当然上位である後者の精霊の方が強いようだった。

 それでも決められた手順をなぞって事務的な呪文も紡がれる。

 

「光の精霊よ。赤の光を……高く遥か……山の上まで打ち上げ……よ。」

 

 アデマールの手が上に持ち上げられ、手の先から赤い玉が生成され始めた。

 

「今までのと同じなら、確かこの後、赤い玉を打ち上げるはずだ。クーノ、シールドで飛んでいくのを阻止できるか?」

「やってみます!」

 

 ヴェルディの頼みに応え、クーノがアデマールの上にシールドを展開させる。

 

「頑丈なのにしといてくれ!」

「了解しました!」

 

 だがそれ以上に気になる現象が発生した。胸の魔石があったところで赤みを帯びた光が現れ、どんどんと大きくなってきたのだ。

 

「何だこれは!?」

 

 赤い光が大きくなるにつれ、今や薄ぼんやりとなっていたアデマールの体の輪郭も膨れ上がってきていた。

 

 ええーっ? もしかして魔法使いさん、自爆しようとしてますぅーっ!?

 

「みんな下がって! 魔法使いが爆発しそうです!」

 

 そう確信したマヤは、両手を前に出し、酸素のバリヤーを張ろうとした。しかしアデマールの方が早かった。赤い玉が上空へ向け発射されたのだ。

 

 ドンッ!

 ガシーン!

 どごおおお!

 

「「「うおおっ!」」」

 

 大量の土が舞い上がって、アデマールの近くにいたヴェルディ、ケン、クーノに降りかかった。

 打ち上げられた赤い玉がクーノのシールドに当たってはね返り、地面に激突して土を舞い上げたのだ。

 

「ヴェルディ様!」

 

 しかしそれどころじゃない。まだアデマールの体は膨れ上がっているのだ。降ってくる土の雨をものともせずに輝く魔族の魔石の光、それは超新星爆発を連想させた。

 

酸素分子振動障壁(オキシジェン・バイブレーション・バリヤー)!」

 

 両手を左右に展開。その動きに合わせるように酸素の膜が張られ、マヤを中心にみんなを酸素のドームが覆った。

 

 刹那。魔族が爆発した。

 

 発せられた衝撃波のようなエネルギーは超振動する酸素の壁に当たり、眩しく光る。マヤ達と反対側の木々は爆風を受けてなぎ倒されていく。しかしマヤの側には赤紫の魔石の粉が酸素の壁の下に降り積もっただけで、足元の小さな草花はそよ風も受けず、何事もなかったように上を向いている。

 

 唖然として口が半開きになっているレオナルドやリエラにフィリア。

 レオナルドの言うとおりなら、この爆発も精霊が起こしたということになる。

 その当の精霊達は、発生させた事象を打ち消して魔石に変えられてしまったことに驚いたようで、特にそれは人型の精霊を見れば明らかだった。一見天使や妖精のように見えるそれらは、怯えと驚愕の表情をしていたからだ。

 

 衝撃波を防いだマヤが、広げた腕の間から目をギロッと空へのぞかせる。空中に浮かぶ精霊達は途端にびくっと身を震わせて、蜘蛛の子を散らすように方々へ飛び去った。取り残された人型の精霊は、顔を引き攣らせ、声が聞こえれば悲鳴を上げていたであろう様相で、走るように飛んで逃げていった。

 

 やがて全ての精霊が見えなくなった。

 レオナルドとリエラは、ようやく肩の力を抜き、はあーっと緊張で溜まっていた息を吐いた。そして空に消えた精霊達からマヤへ目線を移動させた

 

「これがヴェルディの言っていた、魔族共の天敵……か」

「確かに天敵……、魔術を破壊する人(デストロイヤー)ね」

「あ、あなた達、わたしの味方ですか!?」

 

 助けたのに、なぜだれも女神と言ってくれない!

 

「そ、それよりヴェルディ様!」

「そうだ。ヴェルディ、大丈夫か!? クーノ、ケン!」

 

 魔族がいたところには直径3m、深さ50cmほどのクレーターができていた。我に返ったリエラさんとレオさんが駆け付けると、その少し離れたところから土が盛り上がって、3人の男の人が土を落としながら出てきた。

 

「くそっ、なんてこったい」

 

 土を払う3人を見て皆はホッとする。

 

「クーノ、赤い玉は止められたのか?」

「すげえ勢いでぶつかってきた。抜けた感覚はないから止めたと思う」

 

 ケンが聞いてくるのに、クーノが頭に乗った土を落としながら答えると、ヴェルディもその肩を叩いた。

 

「地面に落ちたようだな。クーノよくやった」

 

 クーノの肩を叩いたことで土埃が舞い、3人はゲホゴホとむせぶ。土まみれの3人はクレーターの中を覗き込んだ。遅れてマヤ達もやってくると、クレーターの縁から中を見る。

 ケンがクレーターに入って底の土を掘ると、ビリヤードの玉くらいの真っ赤な玉が出てきた。

 

 

 

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