異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第160話「【悲報】軍団参謀も、マヤちゃんの正体に気付く」

 

 少し前の、魔属領の某所。

 

 ヘキサリネ方面軍団参謀(トリブヌス)のパパンドレウが見守る中、逆さ台形状の転移門(魔導転移装置)の上にはピンク色の光の柱が立ち登り、その中にファイア・ドレイクが立っていた。

 

「ヘキサリネへは既に数千頭を送り込んでいるというのに、その上さらにAAランクとは。他の戦域からも要請されたらどうするおつもりですか?」

「魔王様が許可したのだ。仕方あるまい」

 

 仕方ないとは言いつつも不満そうなダルマ体形の男が答えたその時、急に光の柱の色が黄色を基調にしたものに変わった。

 

「どうした!?」

 

 黄色の光の柱の中で、ファイア・ドレイクがぐらりと傾き、ドシーンと倒れて転移門から転げ落ちたた。そして倒れたまま全く動かない。

 周りの者達がうろたえる中、転移門を監視していた年老いた魔族が顔を上げた。

 

「向こう側の転移門の操作で、転送モードから複製モードに変えられたようじゃ」

「複製モード!? なんだそれは」

「転送対象の体を転移するのではなく、魔石と生体情報だけを転送し、体は向こう側で魔素を使って組み立てるというものじゃ。地脈の流れが非常に細い場合でも、大物や大量の魔物を送りたい時を想定して組まれたものだが、急いで転移を終えたい場合にも使うことができる」

「こちらの残った体はどうなるのだ!?」

「ゴミじゃな」

「ゴミ!?」

「抜け殻のようなもんじゃ。大丈夫、ファイア・ドレイクは向こう側で体が複製される。死んだわけではない」

「そんな転移方法聞いたことないぞ!」

「いにしえの魔族は、どのような状態でも転移を成功させるために地脈をよく研究し、様々な魔法陣を開発したのじゃ。転移門にはそれらが刻み込まれている。だがそれらを準備できる前大戦の生き残りは少ない。アデマール魔導師はさすがじゃのお」

「向こう側の転移門の状態はどうなっているんだ!? 応答がないではないか!」

「今、向こう側の転移門は複製転送の処理中じゃ。これには処理能力のほぼ全てを使う。終わるまで応答ないじゃろう。それと複製される体を作るための魔素は、転移門を構成している魔素が使われる。ファイア・ドレイクほどの魔物となると、相当な量が使われるだろう。転移が終わった後は、向こう側の転移門の性能はかなり落ちるじゃろうな」

「アデマールめ、なんてことをしてくれるのだ!」

「それほどの何かが起こったのではないか? 通常の転移を待てぬほどの」

 

 騒ぎが大きくなり、他方面の軍団参謀(トリブヌス)も集まりだしだ。転移門にまだ引っかかっている、使えなくなったファイア・ドレイクの体を引きずり降ろす作業などが行われていると、光の柱の色が元に戻った。

 

「色が元に戻ったぞ! これは複製転送とかいうのが終わったということか!?」

 

 転移門の下で老魔族が手をかざし、魔法陣を介して操作をする。

 

「ふむ、そのようじゃ。向こう側の転移門の応答もある。地脈は繋がっておる」

 

 年老いた魔族の言葉に、集まった軍団参謀(トリブヌス)達の視線は、ヘキサリネ方面担当のパパンドレウに集中した。

 

「な、なんだね君達。私に見に行けとでも?」

「貴殿の担当地域だ」

「当然であろう」

「いやしかし、地脈は不安定なのでは? 転移に時間がかかるから複製とか言うおかしな方法を使ったのであろう?」

 

 汗をかきつつダルマ男は抵抗を試みるが、

 

「地脈は細いが、安定はしておる。魔族一人、二人くらいの転移はすぐにできるじゃろう」

 

 老魔族の言葉に、退路は塞がれてしまった。

 

「ご、護衛兵を!」

 

 一人で行くものかと、パパンドレウは道ずれの兵士を指名する。

 二人の武装兵がしぶしぶながらやって来る。二人の兵士とパパンドレウを見た年老いた魔族は、魔法陣を介して転移門の状態と見比べた。

 

軍団参謀(トリブヌス)パパンドレウの体では、今の地脈の状態だと地脈を占有しそうじゃ。一人で行ってもらうしかないのう」

「な、なんだと!?」

 

 ものすごい焦るダルマ男。

 

「なに、兵士二人もすぐに送り込む。こちらの二人は同時に送れるじゃろう」

 

 周りの参謀達が笑いをこらえている。パパンドレウのように太った何人かの参謀は、自分の腹をさすったりしながら笑えないでいた。

 

「お、お、お前達もすぐに来るんだぞ!」

 

 転移門に上りながら二人の武装兵を指差して吠えたパパンドレウ。年老いた魔族の操作で転移門が動き出した。ピンク色の光の柱が下に向かって流れるように動き、パパンドレウの体は光の中に消えていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 アデマールが放った赤い玉を回収したら、魔石の粉と肉片に変わっちゃったファイア・ドレイクの横を通り過ぎて、わたし達は小さくなった逆さ台形状の転送装置のところに近付いた。

 

「西の森にあったのと同じくらいの大きさになっちゃってますね」

「形は維持したまま小さくなってるな。ファイア・ドレイクの体がほとんど魔素でできていたということは、空気中の魔素がない現状、転移魔導具の魔素を使って作られたということか」

「魔導具の身を削ってだとしても、機能を損ねないでできるというのが大したものだわ」

 

 わたしとレオさんとリエラさんが考察していると、転送装置の上にまたピンク色の光の柱が立ち始めた。

 

「う、動き出しましたよ!」

「また何か転送してくるのか!?」

 

 ファイア・ドレイクのような強力な魔物の転送を目にした後だっただけに、皆は警戒度マックスで数歩下がって身構えていると、光の柱の中に魔石が形作られ、丸い玉に手足と頭を付け足したようなものが浮かび上がってきた。

 

「魔石だ。今のうちに叩き割ってやる!」

 

 レオさんとリエラさんが近寄ろうとするが、魔石はすぐに丸い本体に包まれてしまった。

 

「なに!? もう魔石が見えなくなった!」

「レオさん、この魔物、それほど大きくはないわ!」

 

 レオさんとリエラさんが言うように、その大きさは2m以下。170か180cmくらいだろうか。しかも……。

 

「いやちょっと待って。ヘンな形をしているけど、これ人型じゃない?」

 

 わたしはそれを人型の魔物だと思った。ゴブリンよりは大きい。オークにしちゃ小さい。ということはもしかすると魔族かもしれない。魔族の可能性に気付いたヴェルディ様も近くにやってきた。

 

 そして、転送は完了した。

 案の定それは、体形は妙だけど、人のようだった。しかも白地に装飾を施したローブまで着ていた。これは魔族確定でしょう。

 

「フィリア、捕縛!」

「はい!」

 

 魔族と断定したとたん、リエラさんが即座に命令を飛ばす。

 それに答えたフィリアさんが先端に分銅の付いた鎖を投げた。それは魔族の丸い体をぐるぐると回って両手と体を縛り付け、身動きを封じた。ぐいっと引いてしっかり巻き付けると、鎖を引っ張って魔族を転送装置から引き落とした。

 

「!!!???」

 

 魔族は何が起こったかわからず、目を白黒させている。

 すかさずレオさんがわたしに向かって叫んだ。

 

「マヤ、転移魔導具をぶっ壊しちまえ!」

「はい! 固体化酸素(オキシジェン・ソリドファイ)!」

 

 台形上の転送装置が水色の固体酸素の氷に覆われた。

 

酸素超分子振動(オキシジェン・ハイ・バイブレーション)!」

 

 酸素分子を高速微振動させる。

 転送装置は魔素で作られている。なので強制的に酸素と結合させることで、魔石という化合物に変わる。結果、逆台形の形をしていた転送装置は、どざざざーっと魔結晶の粉に変わって、赤紫の砂山となった。

 

「!!?!!!?????」

 

 全く状況が把握できてないらしいダルマのような魔族は、地面に横たわったまま困惑で言葉も発することができないでいる。そこにヴェルディ様が近付いてきて、かがみ込むと声を掛けた。

 

「手荒なことをしてすまない。俺はヘキサリネの領主だ。話し合いに応じてくれるなら身の保障はする。そなたは誰だ?」

「な、な!? ヘキサリネ方面軍団参謀(トリブヌス)のパパンドレウだ! 領主? まさかヴェルディ・オヴ・ヘキサリネか!? こ、ここにいたはずのファイア・ドレイクは? 魔導師は!?」

 

 おお、やっぱり魔族。ヴェルディ様の法力によって滑らかに答えてくれた。肩書からして軍事的に偉い人みたいだ。

 

「ここにいた魔導師とは、アデマールという魔族の事か? それとファイア・ドレイクだが……おとなしくしていれば話すぞ。それで、これは何だ?」

 

 ヴェルディ様はアデマールが打ち上げた赤い玉を見せた。

 

「そ、それはレジストラジオネ・ロッサ! その者が見たもの、聞いたもの、全てが書き込まれている記録(ログ)真正士官学校(ストラティオアカディミア)が開発した最新の魔導具だ。まさか、それはアデマールのか!?」

 

 パパンドレウと名乗った魔族の目が、わたし達の後ろに広がる魔石の粉の山に止まった。そこにはファイア・ドレイクの前足部分など、転移門の向こう側に残された体には無い部分が転がっていたのだ。

 

「な、なんだその魔石の山は! まさか、ファ、ファイア・ドレイクがやられたのか!?」

 

 ギガントウルフの死体らしきものも幾つか転がっているのが見える。つまりこの転移門が設置された場所が急襲され、守っていた魔物はやられ、おそらくそれでアデマールは急遽転送モードを変えてファイア・ドレイクの転送を終えようとしたが、むなしくもファイア・ドレイクもやられ、アデマールも自決したのだ。

 そのように察したパパンドレウは真っ青になった。

 

 魔族は右手をわたし達の方へ向けると呪文を詠唱した。

 

「つ、土の精霊よ、今ここに石のつぶて現わりて、この者達を打ちのめしたまえ。ストーンバレット!」

 

 当然、何も起こらない。

 

「!!!???」

「あのー、魔法は使えないわよ。ここに魔素はないんだから」

「ば、ばかな! ここには濃度4の魔素があったはず!」

 

 だがパパンドレウも魔素が全くと言っていいほど無くなっていることに気付いたようで、驚愕で目を見開いた。

 後ろを振り返れば、転移に使われた台形状の魔導具も無い。魔石の粉が山になっているだけである。帰ることもできない。

 

「せ、精霊よ……火の精霊、水の精霊、なんでもいい! 我の魔力を捧げん。我に応えよ! ……おかしい、なぜだ、なぜ精霊たちがこんなに怯えているのだ!」

 

 精霊の動きを追っていたパパンドレウが、わたしに目を止めた。

 

「なぜ精霊たちはお前に怯えている? なぜ近付いてこようとしない?」

 

 そこで何かに思い当たったかのように目を大きく開けた。

 

「ま、ま、まさか、お前は……オキシジェン・デストロイヤーなのか!?」

 

 わたしは顔を真っ赤にしてうろたえた。

 

「な、なんで魔族はみんなして、わたしをそう呼ぶのっ!」

 

 拒絶反応の代わりに酸素の塊が発せられ、突風のようにパパンドレウに吹き付けた。

 パパンドレウが纏っていた白かったローブは灰色に変わり、豪華な刺繍も剥げ、ぼろ雑巾を羽織っているかのような風貌に慣れ果ててしまった。飛ばされたフードの下からは、アデマールの時と同じく魔族の特徴的な山羊角を持った頭部が顕になり、驚愕の表情がそこにあった。

 パパンドレウは変わり果てたローブを触って確信を得ると、真っ青な顔で呟いた。

 

「ま、間違いない。オキシジェン・デストロイヤーだ。オ、オキシジェン・デストロイヤーがこんな所に。だめだ、これはだめだ……」

 

 カチン

 

 ダルマ男からスイッチが入ったような音がした。

 

「火と光の上位精霊よ、我に応えよ。我の魔力を全て捧げん。魔力が欲しければ応えよ。」

 

 ダルマ男は自分から発した呪文に驚愕した顔になった。

 

「ちいっ! また自害の呪文だ!」

 

 頭の上に魔法陣が輝き、丸かったパパンドレウが何かを吸い取られて萎むダルマのようになってく。

 

「なんなのこれ!?」

「おい、魔族共は皆、その呪文を唱えて自滅しようとするが、なんだこれは!?」

 

 わたしの疑問をヴェルディ様が魔族に問うてくれる。

 

「その者がもう完全に逃げ場がないと自覚したとき、自動的に発動されるよう魔石器官に刻み込んだ魔術だ。自身の魔石を使って上位精霊に証拠を残さぬよう身を全て焼き尽くさせ、何が起きたかはレジストラジオネ・ロッサに残すのだ。なぜ私はべらべらと秘匿事項を人間どもに教えているのだ!? うごおおオオオ!」

 

 魔族の口から火が出る。

 

「つまりこいつはもうダメだと自分で悟ったということか」

「ええっ、この丸い魔法使い、人生諦めるの早すぎじゃないですか!?」

「マヤさんをデストロイヤーって認識したとたんに、終わったと思ったように見えるんだけど」

 

 スーパー恐ろしいことを言うリエラさんを、ええっ? とにらみ返すわたし。

 

 ごおおおっと魔族の口から出る炎が勢いを増す。わたしは何とかして阻止しようかと考えるが、ガイアスの時に失敗したことを思い出し、やめた。

 

「魔素がなくても魔法が使えてるのは、自分の魔石を分解して魔素に換えて、それを使って体内で魔法が完結しちゃってるからなんだわ」

 

 外から酸素を浴びせても効かないのはそういうことなんだろう。

 

「光の精霊よ……赤の光を高く遥か山の上まで……打ち上げ……よ」

 

 炎が上がる口から辛うじて呪文が紡がれる。言葉が喋れるギリギリの時間まで計算しつくされているみたいだ。ギリギリまで記録(ログ)を取るためだろうか。そして手が上に持ち上げられ、その手の先に赤い玉が生成されていく。

 

「また赤い玉を打ち上げるぞ。クーノ、シールドで止めてくれ!」

「了解!」

 

 魔族の頭の上にシールドが張られ、クーノさんが身構えた。そしてボンと赤い玉が発射された。

 

 カーン、どすん。

 

 アデマールの時とは違い、それほどの衝撃もなく、赤い玉はシールドに当たってはね返り、地面に落ちた。

 パパンドレウは燃え尽きてしまった。

 

「なんだ、拍子抜けだな」

 

 凄い衝撃を想定していたクーノさんはシールドを消した。

 

「それに比べると、さっきのアデマールって魔族は根性ありましたねえ」

 

 わたしは赤い玉を拾う。

 玉を覗き込んでわたしは呟いた。

 

「わたしの顔もこれに記録されているのかな」

 

 

 

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