異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「そういうわけで、やり遂げた感で満たされた我ら奇襲部隊は、意気揚々と帰路を急いでいるのであった」
「何がそういうわけなの?」
サンドラちゃんがお約束の突っ込みを入れてくれる。実際達成感もあって体は軽い。
だけどこれは、エナジ草ドリンクが疲労をポンと忘れさせてくれているだけかもしれなくて、帰ってからが怖い。
それにしても改めて見回してみれば、メンバーは三国トップ会談のような顔ぶれとその取り巻きであった。こんなメンツが奇襲部隊というのだから、何やってんだだよねえ。
この三国トップ、ここ最近は喫茶店で会って気軽におしゃべりをしている感的な打ち解け具合であり、ざっくばらんな会話を続けている。ただしその内容というのが、たとえ世間話であってもトップシークレット級になってしまうのが恐ろしいところだ。
まあその話を聞いているのが、腹心の部下と、耳にしても理解できないであろう平民中の平民のリトルウィングなので、警戒心を解いているというのもあるんだろう。
さらに言えば、いつもにも増して打ち解けているのは、ヴェルディ様が見せた法力『真相の打ち明け』のせいでもあった。法力を使っているからっていうのではなくて、使わなくても有るだけで影響をもたらすみたいなものだ。
実はヘキサリネの重臣が皆、やけに素直で開けっぴろげなのは、手の内を隠して策略や腹芸で相手を貶めるといった、貴族間で見られるような水面下の抗争が起きない、というか簡単には起こせないからだという。
後ろめたいものがあればヴェルディ様には近寄りたくない。だから自然と正直な人が集まってくるし、また正直な人に変わっていくのだ。
そういう空間を作ることにもヴェルディ様は努めて気を配っているようなので、場はとても和やかだ。
和やかすぎて、わたしら平民が聞いてていいんだろうかと言うような話題が出てきて、ヒヤヒヤするんだけど。
「驚いたな。ワリナの王女を迎え入れたいと申し出たのはカミワからだというのか?」
「国力の差からして、カミワが
ヴェルディ様とマリエラ姫モードのリエラさんが食いついていたその話題とは、レオさんが急ぎ帰国する理由となった、ワリナ王国の第二王女が、隣の小国カミワ領に嫁ぐとなったことについてだった。
「当然ワリナ側は怒ったさ。だが仲介した貴族が必死に説得してきたことと、最後には第二王女が自ら決断したんだそうだ」
「おおー、もしかして第二王女様とカミワの王子様は幼馴染で、想いを寄せ合う中だったとか? ちなみに第二王女様っておいくつ?」
「マヤ、お前はどうしてそういう解釈ばかりするんだ? 第二王女はもうすぐ15歳だ。二人に面識は全く無い。今でも会ったことさえない。そもそもカミワは、どの王女をという指定はしてこなかった。むしろワリナの中では、形だけの婚姻でよいなら5歳の第三王女でいいという意見が出ていたくらいだ」
「5歳!? うわ、その第三王女様可哀そう。子供を道具としか見てないんですか!?」
「道具としか見てないな。国をいかにうまく存続し発展拡張するか。その為にはあらゆるものを使う。それは家臣でも土地でも民でも、全て対象だ。駒の価値の差だけの話だ」
わたしは呆れと悲しみと、若干の怒りの混じった顔をした。リエラさんの方を向くと、
「私だって皇帝にとっては駒の一つよ。ま、最上級の価値ある駒だけどね」
と返された。あ~、とガッカリするわたし。
「それとカミワは王国ではない。侯爵領という扱いになっている。元は辺境子爵のさらに分家だから、大出世だな」
「ほほう。それでその侯爵家ご子息に何の恋愛感情も持ってないのに、第二王女様は自らの意志で嫁ぐと決断されたと? 考えられないわ。何がいいのかしら」
わたしは理解できないと肩をすくめる。
ヴェルディ様は顎に手をし、リエラさんは頬に片手を当て、その手の肘をもう片方の手で支えながら、さらに世間話を進める。
「同盟を結べば、確かに国力のアップにはなる。あそこは金を稼ぐからな。しかしあそこをシーガルに対する盾とするには土地が小さすぎる」
「無視して横を通れば、いくらでも往来できますものね。全く防波堤の意味をなしません。包囲して経済封鎖すればお金も稼げなくなるし、占領するまでもなく力を削ぐことができるでしょう」
「逆にカミワを防衛するのにワリナが出さねばならない出費の方が心配だ。ワリナ国王もよく飲む気になったな」
「そのお金はカミワが出すって言うのかもしれませんけど。カミワ自体でも強い防衛軍を持っているようですし。それにしてもカミワは、どことも与せず中立を保つことで、独立と貿易の自由を周辺国から認めてもらうという国策だったでしょう?」
「そうだな。それが一番周辺の力の均衡が保たれ、自国にも被害が出ない方策だからな」
ここで話の中心になっているカミワ領についておさらいしよう。
カミワ領とは、大国のシーガル帝国とワリナ王国に挟まれた小さな国で、塩の大生産地なのだそうだ。前にサンドラちゃんとリネールさんに聞いた時には、それ以上の情報は出てこなかったけど、リエラさんがもう少し詳しく話を聞かせてくれたことがある。
いわく、特徴的な地形を活かして塩の大生産地になった。ミリヤ皇国も塩消費量の三分の一はカミワの塩を使っていて、ワリナとヘキサリネを経由して輸入するので、たくさんの流通経費を上乗せされている。カミワは塩で儲けたお金で強力な軍隊を持っていて、シーガル帝国やワリナ王国に挟まれていても独立を保てている。
前に聞いたのはそんなところだ。
「ねえフィリアさん。カミワ領は特徴的な地形で塩の大生産地になったって前に聞いたんですけど、どんな地形なんですか?」
「あ、はい。土地の大部分が高い温度を発する地熱地帯なんです。大半が人が住めない所なので、利用価値がなくて誰も手を出さなかったんです」
「地熱地帯?」
「ですが、シーガル帝国の辺境の貴族、子爵の分家で追放された者がいまして、その者が地熱を利用して海水から塩を大量生産する方法を確立したのです。そして地熱のないわずかな土地に住み着いて、塩で巨額の富を築き、独立を宣言しました。それがカミワ独立領になったのです。五十年くらい前のことだったと思います」
「地熱を利用して塩を!? 凄い発想だわ。ちょっと感心しちゃいますね」
「マヤさん、そういうのお好きそうですよね。潤沢なお金があるから、強力な軍隊が整備できるし、食料は生産できなくても外から買える。でも国土は小さ過ぎ、特殊過ぎて利用できる土地があまりにも少ない。ワリナ王国とシーガル帝国が戦争するとなっても、無視していいような大きさで障害にならない。もし武力で占領しようとか、経済制裁で屈服させようとかすると、強力な軍隊で反撃されて痛い目に合う。そういうことで、血を流してまで奪取するには割に合わない国なのです」
「でも富を稼ぐんですよね。なら政略結婚とか同盟とかで、血を流さずに仲間に入れようとはしなかったんですか?」
「独立してすぐの頃に、ワリナ王国が政略結婚を申し出ましたが、突っぱねたそうです。それにワリナかシーガル、あるいは他の勢力のどこと与しても火種になりますから、中立を国策にしたのでしょう」
「なるほど。良く分かりました」
やっぱり
そして国の力とは、経済力と軍事力だというのも良く分かるなあ。暴力で屈服させるという考えを全ての国が放棄しない限り、軍事力を手放すなんてできないよね。野生動物だって基本的には腕っぷしの強さで食物連鎖のピラミッドが決まってるようなもんだから。非暴力・不服従の世界って難しいなあ。
ヴェルディ様とリエラさんの議論を一通り聞くと、レオさんは尋ねた。
「なあヴェルディ。カミワが均衡を破ってまでワリナに擦り寄ろうとする意図って、なんだと思う?」
「それぐらいシーガル帝国からの干渉が脅威レベルになったからじゃないのか? それに対抗するには国策を変更してワリナに付かざる得ないと。ちなみに結婚話を仲介したところは、どんなとこなんだ?」
「カミワ領と接しているワリナの地方領主の貴族だ。ヘキサリネやミリヤに届く塩は、そこを経由して運ばれるからな。普段からカミワと接点の深い貴族だ。昔カミワ領が独立した時、当時のワリナ王が政略結婚の申し出をしたのも、この貴族を介してだった。その時はカミワ側が突っぱねたが、五十年経って承諾されたようなものだ」
「嫁がせるのを第二王女と決めた過程はどんなだったんだ?」
「それは、俺はこっちに来ていてその場にいなかったから分からん。少なくとも第一王女は、もっと大きな国との取引に使うだろう。そういう意味では第三王女か、
「そうか。それは早く状況を知りたくもなるな」
「同盟のための準備や調整に、王太子殿下が関わらないというわけにもいきませんしね。とにかく、カミワ領が中立を捨てワリナ王国に与するというのは、大きな情勢変化ですわ」
レオさんから、まだ知られていない情勢と内部事情を聞いたヴェルディ様と、リエラさんことマリエラ姫は、対策を練っておかないとだなと頷き合った。
なるほどねー。
そういうことで、ヘキサリネに外交訪問して(遊んで)いた(ように見える)レオナルド王太子に急ぎ帰国指示が出て、(もっと遊びたいのに)急遽帰国することになった、というわけなのね。
そんな(超重大な)帰国指示を(伸ばしに伸ばして、やっと)聞き入れ、帰国の途についたと思いきや、途中で(マリエラ姫と一緒にいられる時間がたくさん取れるからと)こんな魔物退治に参加しているんだから、このような(問題)王太子を抱えてワリナという国も大変だなーと思う。
そんなことを思いながらレオさんの顔を眺めていたら、ぎろりと睨まれた。
「おいマヤ。今頭の中で考えてたこと、ちょっと言ってみろ。特に自分の心情部分を忠実に再現しろ」
「ひいいい、なぜ見たように突然そんなことを!? な、なんもおかしなこと考えてませんよ!?」
「嘘だ、絶対余計な修飾着けて考えてたろ。なんならヴェルディの尋問受けるか?」
「ぜんぜん、ぜんぜん、その必要はありません!」
ぶおんぶおんと首を横に振る。
「ちっ。こっちはちょっと雑談をしたいだけだ。聞き耳立てなくていいんだぞ」
うおー怖かった! 『ヴェルディ様の尋問』という言葉を聞いただけで、拷問されるわけでもないのに、この恐怖はなに?
「わ、分かってます、雑談ですね。ヴェルディお兄様にちょっと話を聞いてほしかったんですよね。邪魔しませんから好きなだけお話してください。せっかく奇襲部隊をこのメンバーに削ぎ落したわけだし」
「ぐっ! なぜメンバーを削ぎ落としたことに気付いた!?」
妙に舌が滑らかなわたしは続ける。
「あ、レオさんて好き勝手なことばっかりしてるから、国でそういう相談できる人があまりいないんでしょ。いつも一緒のケンさんやクーノさんじゃ考えが近すぎて、別視点での意見にならないし。ちょっと年上で経験豊かで親身に話を聞いてくれるお兄さん的な人が欲しかったんですよね? それでちょうどヴェルディ様が……」
ケンさんとクーノさんが笑いをこらえて肩を揺らしている。ユスティニアス中隊長は目を丸くしていた。
「マ~ヤ~!」
恥ずかしさで真っ赤になったレオさんが掴みかからんとした。
「ひいいいい! 考えてたこと素直に言ったのに! あれ、もしかしてヴェルディ様何かしてた?」
ヴェルディ様は、いや? と真顔で首を横に振る。
「さっき考えてたのと、今のは違うだろ! そ、それに俺はヴェルディのことを兄などと……」
「『ヴェルディお兄様』? いいですね、素晴らしい相談相手ですわ! 私もそうお呼びしていろいろご意見を承りたいと思います」
よろしいですよね? いいですよね? 良いに決まってるわ、と砕けたマリエラ姫モードになって、ヴェルディ様に半身を寄せているリエラさん。こっちは兄を慕う気持ちを隠そうともしない。
「マリエラ皇女にそう言われるのは悪くないな。しかしレオナルド王太子にお兄様と呼ばれるのは……どうだろうか」
「お、畏れ多いよな!」
「いや、また面倒な弟が何か言ってきたと思うような気がしてならない」
「ヴェルディ~!」
しまった。なんだか変なことを口走って、場を乱しすぎて取り返し付かないことになってるわ。下手するとへそ曲げたレオナルド王子が、ヘキサリネに宣戦布告しちゃうかもしれない。なんとか元に戻さないと。