異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第164話「レオさん、毒に好かれすぎです」

 

 最前線基地で一休みしたのち、わたし達は基地を後にし、領都に戻るべく出発した。

 リトルウィングの3人とイレム、リエラさんのパーティー、レオさん御一行、そしてヴェルディ様とその護衛騎士は、まずは北の森の入口(こっちからだと出口?)であるキャンプ・スプリングを目指す。

 

 わたしとサンドラちゃんは帰り際に、まだ後片付け中の『龍の鱗』パーティーのデッカーさんに声を掛けていった。

 

「リトルウィングに大盛りフルーツパフェ奢るの忘れないでくださいね。一生ですよ、一生」

「おじさん、ごちそう様なの」

「すんません、ゴチになります!」

 

 サンドラちゃんが可愛らしくペコッと、リネールさんは直角に腰を曲げて、一応礼を言っておく。

 

「言っとくけど、リトルウィングってこの3人だけじゃないからね。リトバレー村に残ってるチトレイさんとか、他にもメンバーいるからね。リトルウィング全員にって約束だったからね。念を押しておきますよ」

 

 誰が勝者だったか、残酷な現実を突きつける。あんなにすごんでいたデッカーさんが、顔を引き攣らせ青ざめていた。

 

 デッカーさんとの魔物狩り競争は、もう途中で集計するのを止めてしまった。する必要なくなったとも言う。

 最前線基地の北側ではその後も凄い顔をして酸欠死したオーガ兵が続々と見つかってるし、何より転送装置奇襲部隊として行動して、AAランクのファイヤ・ドレイクを、レオさんと共同とはいえ討伐したからだ。AAランクって災害の一種みたいな扱いらしくて、有無を言わせぬものがあるらしい。熊を駆除しましたというのと、台風を逸らしたとか地震を止めたとかいうのとで、どっちが凄い? って比べてるような感じだ。

 横にいたギルドマスターのジオニダスさんがデッカーさんに、それ見ろ言わんこっちゃない、ヘンな約束するなと言っただろうが、もうしかたねえ自業自得だと、デッカーさんの折れた心に止めを刺した。

 

 他の探検者(エクスプローラー)達も任務を終えたので、帰り支度の整ったパーティーから順次出発している。ニエミネンさん、エリンさんのパーティー『ホワイトガーディアン』もまだ残っていたので、近いうちに打ち上げ会でもしましょうと挨拶を交わした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 帰りは歩きではなく、ヘキサリネ軍がイグアノドンの荷車を出してくれたので、リトルウィングとリエラさん、フィリアさん、そしてイレムは、キャンプ・スプリングに持って帰る荷物と一緒に荷車に乗った。

 ヴェルディ様は自分の馬に、レオさんケンさんクーノさんは、ワリナの護衛騎馬兵から馬を奪って乗っている。騎馬兵は可哀そうにも徒歩だ。まあずっと基地で休んでたからいいでしょ。

 そのワリナの人達を先頭に、ヴェルディ様の一団、イグアノドンと荷車という順で、一列になって街道を進んでいった。

 

 それにしても……

 

「あー、揺られてると寝ちゃいそうだわ」

「マヤちゃん、まだ寝ないほうがいいの。ここで気を緩めちゃうと、エナジ草の効果が切れて、疲労が一挙に来ちゃうの」

「む、難しいことゆぅなあ。この一定のリズムで揺れる荷車、ごとごという車輪の音、頬を撫でるそよ風、みんなこっちにおいでおいでって睡眠を誘うんですけど」

「歩いたら?」

「せっかく荷車に乗せてもらえてるのに?」

 

 気の緩みまくっているところに、ビクッとくるまさかの、声変わり途中の少年の声が響いた。

 

「魔物の反応だ!」

 

 ありがたいけど聞きたくない、早期警戒レーダー『イレム』の警報の叫び声だ。もうクエストは終了したと思って気が緩んでたので、その一言は眠気をふっ飛ばした。

 

 反省! 帰るまでが遠足だったよねっ。

 

 ワリナの護衛騎馬兵とヘキサリネの護衛兵が一斉に抜刀して、一瞬で隊が緊張感で包まれた。

 

「とこだ!?」

「レオ兄ちゃんと被さってる!」

 

 荷車から飛び降りたイレムが、隊列の前の方に向かって叫んだ。

 

「俺!?」

 

 レオさんが左右や頭上、足元を見る。

 開けた所にいるうえ、護衛騎馬兵に囲まれているので、魔物が隠れて接近することなんかできないはずなんだけど。

 

「どういうことだ? 見えないくらい小さい魔物か?」

「いや、この反応の大きさはそんなちっぽけなもんじゃねえ!」

 

 実はわたしも酸素を使った周囲警戒をずっとやっていた。レオさんに練習しろって言われてたし、この先の旅で必須になるだろうからモノにしたいっていうのもあって、とりあえずマーキングした酸素を撒いていた。

 でも、わたしの酸素レーダーには怪しい酸素の減りは見受けられなかった。

 

 もしかして、遥か上空?

 わたしは空を仰ぎ見る。

 何も無い。

 

 イレムの探知に今まで間違いはなかった。しかも探知に引っかかるのは魔物だけ。だから必ずいるはずだ。酸素の減りが感知できないところにいるとすれば……

 もうここしかない!

 

「レオさん、地下! 真下の地面です!」

 

 再び足元に目線を戻すレオさん。

 その時、ズズズズと地面が振動した。

 レオさんは地面を見ながらニヤァと口端を上げた。

 レオさんが馬の尻を叩いてダッシュした。とたん、地面が盛り上がり、周りにいた護衛騎馬兵を土と一緒に吹き飛ばして、四つに割れた大きな口を開いた太く長いものが飛び出した。レオさんの馬も足元が崩れたためダッシュしきれず、前のめりに倒れ込む。レオさんは慌てることなく飛び降り、地面で1回転、すぐさま立膝の体制で剣を抜き去った。

 

「ワーム!」

 

 リエラさんが叫ぶ。

 

「気持ち悪う!」

 

 わたしは地面から現れたその姿に卒倒しそうになる。それは巨大なミミズのお化けだった。小さなミミズだって嫌いなのに、それが煙突のような大きさ!

 リエラさんも剣を抜いて隊列の前へ向かって走る。フィリアさんが慌ててそれを追う。

 

「なんでこんなにでっけえんだ!? ワリナにいる奴の3倍はあるぞ」

一時(いっとき)でも魔素濃度が高かったせいで、進化しちゃったんじゃないかしら!」

「ってえことは、ポイズン・ワームになってるのか!」

 

 レオさんとリエラさんがこの一瞬でやり取りする。

 どゆこと!? とリネールさんに視線を向ける。それだけでリネールさんは察して説明してくれた。

 

「ワームの進化系で、大きくなったうえに牙も生えて、おまけに噛まれると毒で全身が痺れて意識を失って、5割くらいの確率で死ぬ」

 

 異世界の毒持ち、毎度のことだけどハンパねーっ!

 

「あとCランクだ」

 

 わたしより格上だー。だけど今は一応ギルドマスターのパーティーに所属ってことになってるから、アンリミテッドパーティーの資格が生きてる。倒しても大丈夫だね!

 

「イグアノドンを下げて! リネールさん、サンドラちゃんをお願い!」

 

 竜使いに退避を指示すると、わたしも飛び降りてリエラさん達を追った。

 

 ワームは長い体を地面からさらににゅるるるると出し、3mくらいの高にまで達した頭の4つに割れた口から牙を剥き出しにして、レオさんに迫った。

 レオさんは周りで土を被って倒れている護衛騎馬兵の位置をちらっと横目で確認すると、灼熱した剣を接近するワームの口めがけ、ジャンプして斬りつけた。ブレードがワームの顔(?)の右端に入り、そのまま縦に左斜めへと斬り抜いた。頭の左の方が削ぎ落される。

 

酸素切断(オキシジェン・カッター)!」

 

 わたしは走りながら酸素の刃を2つ飛ばす。ワームの極太の土管のような体が、頭の方と、その下に輪切りを一つと、続く胴体とに分断された。切れた胴体のところに光る魔石が見えた。

 

「シールド!」

「てええーーい!」

 

 そこへクーノさんとケンさんがワームに突っ込む。クーノさんのシールドは尻もちをついている騎馬兵とレオさんの上に傘のように開いた。ケンさんの槍は、魔石が見える胴体の下を切り裂き、魔石を含む胴体の輪切りをもう一つ作った。

 さすがに魔石器官を取られてしまうと、魔物としては命取りみたいで、まだ地面に大半が埋まってる胴体にヘキサリネ兵が次々に剣を刺し、びくんびくんと痙攣して地面を揺らすだけの存在となった。

 

 が。

 

「ぐおっ!」

 

 レオさんがヘンな声を出して両膝をついた。

 クーノさんがシールドを上に展開したのは、ワームの顔というか、口の後ろの方にある毒袋から飛散する毒液を防ぐため。レオさんがワームの顔を斜めに切り裂いたのは、騎馬兵の方に毒液が落ちないようにするためだった。だけどそれは、レオさんがいる方に毒液が飛ぶということでもある。それ故クーノさんはシールドを張り、レオさんも毒液の飛散を予測して着地位置を決めたのだ。それがよもや滴った毒液が石に当たってはね返るところまでは、予測しきれなかった。

 

「ちっ! はねた毒が顔に!」

 

 着地で屈んだレオさんの右頬に毒液がかかり、一瞬で痺れさせる。

 

「「「「王太子殿下!」」」」

「「若!!」」

「レオナルド様!」

 

 庇われた護衛騎馬兵、ケンさんとクーノさん、フィリアさんが真っ青になって叫ぶ。

「レオ様!」

 

 そこへダッシュして、レオさんに飛びついたのはリエラさんだった。毒液にかまわずレオさんの首に抱きつき、その顔にガブリと噛みついた。

 

「いってえ!」

 

 隣国の姫が王太子殿下の顔にかぶりついて食べようとしてるかのような光景に、護衛騎馬兵は混乱して固まった。一方フィリアさんは、うちの姫様がまた隣国の王子様にと、一瞬引き攣ったが、すぐ踵をかえして走っていった。

 

 リエラさんは頬にかかった毒液と、わずかに皮膚の下に入った毒を口で吸い取った。そして横に吐き捨てる。そしてまたカッと口を開けると噛みついた。

 

「うわ、俺の顔を食うな!」

 

 リエラさんは構わず同じ事を3回繰り返すと、レオさんのうっ血した頬を覗き込んだ。歯形もついて血がにじんでいる。

 

「レオ様、痺れは?」

「え? ああ、痺れは……ねえかな。だが違う痛みが右頬を襲ってるんだが」

 

 リエラさんはほうっと息を吐いて、肩の力を抜いた。

 

「よかった。毒の侵入は防げたみたいね。ポイズン・ワームの毒は皮膚を溶かしながら中に入って、血に混じるとそれで体の中を巡ってしまうから、急いで吸い取らないとなの。しかも水をはじくから、水では洗い流せないっていうやっかいさもあるわ」

 

 ヴェルディ様が駆け寄ってきて屈んだ。

 

「それで噛みついて皮膚を傷つけて、下の血まで吸い取ったのか。歯形が付いてるぞ。痣みたいな跡もついて、こりゃ痛そうだ」

「痣!? 歯形!?」

 

 レオさんは頬を触って「あいて!」っと痛みで顔をクシャクシャにした。リエラさんはぽっと頬を染めて、ちょっと恥ずかしそうなマリエラ姫モードに入って言った。

 

「うれしくないのですか? わたくしのキスマークですのに」

「そ、そう言われるとちょっと……歯形はいただけねえが」

 

 これがキスマーク……

 

 たぶんわたしは今、ロマンスとは程遠い顔をしていると思う。

 そこへフィリアさんがサンドラちゃんを引っ張って走ってきた。

 

「レオナルド様、サンドラさんにポーションを持ってきてもらいました!」

「毒がかかっちゃったって本当!? でもこのポーションが毒に効くかわからないの」

「大丈夫よ。毒は私が解毒したから。傷だけ治してくれればいいわ」

「それならよかったの。わっ、酷い! 魔獣に噛まれたの!?」

「あ、ああ。凄い魔獣だった。そりゃあもうすげえ魔獣だった」

 

 レオさんはぽきゃっとリエラさんに後頭部をひっぱたかれた。

 

「レオ様。どうも毒持ちの魔物との相性が悪いですね。私心配だわ」

「お、おう。昔から毒持ってる奴にはよく噛まれるんだ。おかげで毒耐性も随分ついたんだが、魔物の猛毒ってのはちょっと別格だな」

「当たり前です。即死級の毒だったら耐性の訓練なんてできません。ミリヤの特級解毒薬か、解毒法力持ちに即処置してもらうしか手はありません」

「特級解毒薬は売らねえって噂だが、マリエラ経由なら手に入るか? 俺、常備しといた方がいいよな」

「ふふ、お任せください。超特級解毒薬の私がおそばに行きますわ。万難を排して嫁いでみせます」

 

 そこにいた女子達は「んま!」と言って手を口に当てて驚いた。

 

「わあ、逆プロポーズ!?」

 

 わたしが顔を真っ赤にして言うと、サンドラちゃんも熱くなった頬を覆う。マリエラ様大好きのフィリアさんは、思わず不満が口に出た。

 

「マリエラ様の毒に当たって死にますわよ!」

 

 レオさんは顔を赤くしてしどろもどろになる。

 

 その様子を見てガッハッハと、ヴェルディ様が豪快に、嬉しそうに笑った。

 

「まったく、毒に好かれる王子だ!」

 

 

 

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