異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第166話「イレム仕官する? そしてレオさん今度こそ本当に帰国する」

 

「それじゃあ俺はこれで国へ帰る。おい、イレム」

 

 レオさんは、よく分からない大人の会話に付いてこれず距離をとっていたイレムに、こっち来いと呼んだ。

 

「呼んだか?」

「お前の護衛はここまでだ」

 

 やって来たイレムを見下ろしてレオさんは言った。

 そういえば、そんな無理くり言ってイレムを連れ回してたんだっけ。

 

「えーっと、なんだっけ?」

 

 首を傾げるイレムに、わたしは思わず襟首を掴んで小言を言ってしまった。

 

「あんたねえ、密航してここに入り込んだのよ!? Bランク以上とか規制がいっぱいかかってるところに無断で入ったのよ!? それをレオさんが荒唐無稽な口実を押し通して、いさせてもらってたんでしょっ」

 

 男子ちゃんとしてよっ、て言いたくなる女子の気分である。

 レオさんが「荒唐無稽な」に反応して苦笑いしている。

 

「それっていても良くなったってことだろ? なら問題ねえじゃん」

 

 コイツ……首絞めたろかっ。

 

「感謝しなさいよ、いてもよくしてくれたレオさんにありがとうくらい言いなさいよっ。もう帰っちゃうのに!」

「そうか。ありがとな、レオ兄ちゃん」

 

 こいつ、レオさんの身分分かってんだよね?

 でもイレムの言う「ありがと」には、仕方なく言ったとか口だけとかいうのは一切なく、澄んだ言葉だった。単純なだけに純粋なのだ。大人が悪いと思う事をやるのも、分別がついてないだけのことなのだ。法力が無いと思われた子供をないがしろにした彼の故郷が、この子を育ててこなかったのだ。

 

「テオ兄ちゃんのパーティーじゃ経験できないような事を、レオ兄ちゃんと一緒にいたらたくさんできただろ。それが凄く楽しかった!」

 

 本当に真っ直ぐだなあ。これくらい素直な感想だと、言われた方も嬉しいよね。

 ちなみにテオというのは、孤児院出身の先輩探検者(エクスプローラー)だ。

 

「苦しゅうない。これからも礼を言える人間になれよ。礼儀、仁義は人を結び繋ぎ止める。感謝した分、その人にも恩返ししろよ」

 

 レオさんは説教なのかアドバイスなのかわからんことを言った。

 

「何かわかんないけど、分かった感じがする」

 

 頼りねーっ。

 

「ところで、イレム」

「おう」

 

 ホントにこの子、レオさんの身分分かってんだよね?

 

「ワームの探知、見事だった。地中からの接近という奇襲から、俺だけでなくワリナの騎馬兵も守れたのは、お前のおかげだ」

「へん、俺にかかれば、魔物に隠れるところなんてないぜ。もう何度か経験すれば、地中にいるか地上にいるかの区別もつくんじゃねーか? 見え方がちょっと違ってたような気がするから」

 

 マジか。イレムの探知は魔物特化ってだけじゃなくて、その性能も他の探知法力の人と一線を画しているんじゃないだろうか?

 

「まてよ、これってレオ兄ちゃんが俺にありがとって言ったってことか? ってことは、魔物退治に俺がいてもいいってことにしてくれたレオ兄ちゃんに、恩返しできたってことか?」

 

 レオさんはガシガシとイレムの頭を撫でた。

 

「俺の恩返しにレオ兄ちゃんがありがとって言ったってことは、今度はレオ兄ちゃんが俺に恩返しするのか?」

 

 ガシガシがゴリゴリに変わった。

 

「このやろう、いい気になってんじゃねえぞ。だがそうやって感謝の連鎖を続けるのは大事だ。ただし、感謝や見返りを期待してやるのは一番ダメだ」

「イテテ、分かったよ。なんかそれってカッコ悪いもんな」

「そういうことだ」

 

 レオさんは笑顔でイレムの頭にわしゃわしゃを続けた。

 

「お前、ワリナに来るか?」

「「「「!?」」」」

 

 唐突にレオさんはそんなことをのたまった。

 周りにいた人達が皆、えっ!? と反応した。

 

「一国の王子を救うきっかけとなった功績に、褒美をやらんでもない。俺の下で働くなら、生活は保証してやるぞ。探知法力の能力ももっとアップさせてやる」

「それって、孤児院にいなくても、食いっぱぐれないってことか?」

 

 ちゃんと俺の所で働けばだぞと念押しをするレオさん。遊んでたら追い出すと付け加えた。言うこと聞かず勉強しなかったら追い出すとも付け加えた。

 

「それってイレムの法力を見返りに期待してってことじゃないの?」

「違うぞマヤ。いや法力に期待しているのは違いないが、見合う対価を提示しているだろ。努力すれば出世のチャンスだってある。これはウィンウィンの取引、契約だ」

 

 サンドラちゃんが目を丸くした。

 

「レオ様の所で働くの!? す、凄いことなの。孤児院の子は成人したら卒院しないとだから、その前に仕事を見つけないといけない。男の子はたいてい探検者(エクスプローラー)になるしかないけど、孤児院の子は法力を持ってない子がほとんどだから、生活は厳しいの。それが生活が保証されるだけでも破格なのに、就職先が隣国の王太子様の所って……。行きたいって言ったらぶっ飛ばされるの」

「へー、そうなのか?」

「あんたねえ……」

 

 わたしは頭を揺すってやろうかと思った。その辺が理解できないパーな脳みそなのが悲しい。こう言ったら少しは伝わるだろうか。

 

「ヴェルディ様の所で働くのと同じようなもんよ。魔物倒さない時があっても国から定期的にお給料が貰えるのよ?」

「領主様の? そりゃすげえ! レオ兄ちゃんって、そんなに偉いのか?」

「王太子だってば。次の王様だって言ってんじゃん」

 

 イレムはだんだん興奮して顔が赤くなってきた。飲み込めてきてるのかな。遅いよ。

 

「い、今すぐか?」

 

 イレムはレオさんを見上げて聞いた。

 

「このまま帰国する俺に付いてきて構わねえ」

 

 下を向くイレム。爪を噛み、指をこめかみ辺りに当ててクリクリすると顔を上げた。

 

「俺、ニーシャを引き取らなきゃなんねえんだ。ニーシャが孤児院を出るまで待ってくれねえか?」

 

 きゃあとサンドラちゃんが黄色い声を出す。

 おお、イレム偉い! ニーシャのこと、ちゃんと考えてたんだ。

 

「なんだ嫁付きか? お前達、そんな約束してたんだな」

 

 孤児院から出る女の子、ましてや法力を持たないとなると、よほど才がないと買い叩かれてろくな人生送れないのは目に見えている。だから法力を持たない者同士で一緒になって、なんとかやっていこうとする。その子供も法力を持たない場合が多いようだから、どっちにしても大変な未来しか見えないのだ。

 

 レオさんは頷いた。

 

「分かった。準備できたらいつでも言ってこい。ただし、その時の情勢状況によっては引き取れない場合もある。事にはタイミングってもんがあるんだ。幸運は二度と来ないかもしれない。今断ったことに後悔すんなよ」

「他の国からも声がかかって、あの時無理やり連れていけばよかったって思うくらいに腕を上げておく」

 

 コノヤロウとレオさんは口の端を上げてイレムのほっぺたを引っ張った。

 

「その法力を見つけてやったのは誰だったか忘れんなよ」

 

 

 レオさん、ケンさん、クーノさんは、手を振って黒く重そうな馬車に乗り込むと、今度こそ本当に帰国の途についた。

 

 

 

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