異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
ライナーさんは宿の前で死相を浮かべて、せわしなく首を左右に振って歩く人の中から目的の人達を必死に探していた。
「リネールはいったいどこまで飯を食いに行ったんだ!? 宿の食堂で済ませればいいものを、あのバカ者、マヤさんにいいとこ見せようとか思って、関係ないところまで案内してるんじゃないだろうな!?
はっ! マヤさんが大人だと思って、もしやいかがわしい休憩所などに入ってマチガイを……いかん! そもそも本当の年齢ではないかもしれないし、見かけは完全に子供! 捕まる!」
ぶつぶつ唱えるライナーさんの後ろには、ブルーのサーコートが美しい、ミリヤ皇国近衛師団の騎士が仁王立ちして、まだか、まだなのか、と威圧していた。死相が浮かぶ原因である。
走って探しに行っていたチトレイさんが戻ってきた。
「いたか!?」
「駄目です。市場の屋台も一通り見ましたが、何処にもいません」
「いったいどこまで行ったんだ!」
「ライナー殿、あの女は違うか?」
第一近衛師団副団長のチェスター中佐が通りの向こうの女性を指さした。
それはゴリラのような女だった。
あれは人類だろうか? 類人猿? いや、そもそもヒト族ではないのでは……
「ち、違います!」
「そうか。マンモスを素手で投げ飛ばしそうだったのに」
「そんなごっつい人じゃありません。何度も言ってますが、子供を探した方が早いです!」
そこへガラガラと埃を立てて荷馬車が急停車した。続いて2頭の馬と騎乗のハンターが2人。一人は女性ハンターだった。そして荷馬車からもう1人女性が降りてきた。それはケイトだった。
荷馬車はミリヤの商人のもので、商人が近衛兵に挨拶をしている。
「荷馬車と護衛の
「それが、まだ飯から帰ってきてないんだ」
「しょうがないですねえ。置いてっちゃいましょう」
「そ、そうはいかん! マンモスの所有者はマヤさんだ。いや、半分は村で権利をもらったが、価値のある牙は勝手に処分するわけにいかない」
「いーじゃないですか、どうせ売ってお金にするんですから。お金で返せば? 9割でも全額でも」
そこへ今度はハンターギルドのマスターと、似たような大きさの大男、そしてヘキサリネ警備隊の騎士数人がやってきた。
「ライナー殿」
警備隊の中尉が歩み出た。
「盗賊団の討伐おめでとうございます。手配中のリットン盗賊団である事が確認できました。なので討伐報酬を受け取れます。つきましてはその報酬について、領主様からのご伝言があります」
「え、領主様!?」
ライナーさんはびっくりした。ケイトさんもびっくり。そしてミリヤ皇国近衛副団長も怪訝な顔をする。警備隊中尉は咳払いすると、領主の言葉を告げた。
「被害が拡大する前に速やかに討伐した事、真にあっぱれ。直々に討伐報酬の授与、並びに褒賞のお言葉を述べたいので、速やかにヘキサチカ城まで登城せよ、とのことです。今回の商隊メンバー全員です」
「「えええ!?」」
ライナーさんとチトレイさんが同時に叫んだ。
「い、今からですか!?」
「そうです」
「こ、これから急ぎ村へ戻ろうかとしてたのですが……」
「城に寄ってからお立ちになればいい。特に準備はいりません」
「し、しかし……」
ギルドマスターも付け加えた。
「服装等もそのままで構わないぞ。ちょっと労いたいだけだというし、そもそも形式に拘る方ではないからな」
そう言って後ろに立つ大男をちらりと見る。片側の口角を上げて笑っていた。勿論でかい一般市民を装っている領主ヴェルディであった。確かに形式云々言える形相ではない。
「そ、それが、実は数名、食事に行ったきり帰ってこなくて……」
それを聞いたマスターは、後ろの大男に耳を傾ける。
「……そういえば領主様は夕方までに来ればいいと言っておられた。それまでに探しておけ」
「夕方!? それでは困る!」
困ると言ってきたのは近衛副団長だった。
「夕方では、今日はもう村へ出発することができなくなってしまうではないか!」
マスターは近衛副団長が村へ行きたがっている理由は知っている。が、なぜ急ぐのかは分からなかった。
「明日早朝出発すればよいではないですか」
「それでは間に合わなくなる!」
「何を急いでおられるのですか?」
「……内々の事情だ」
マスターはまた、後ろの男の方に耳を向けた。
「……なら急ぎ探して連れてくるのだな。ケイト。お前達も探すの手伝ってやれ」
「人探しは発注してないですよっ」
「ライナーさんか、近衛師団殿に相談したらどうだ?」
「近衛師団が依頼する。至急見つけ出して領主様の館まで連れていけ。我々もそっちで待つ。謁見が終わったら直ちに出発だ!」
「ひゃああー!」
◇◇◇
さて、マヤ達はそんな騒動などつゆ知らず、オーダーメイドの服屋にいた。
「あとね、ズボンの太ももの、ここら辺りにもポケット付けてほしいの。ほら、今わたしが履いてるのみたいに」
紙に絵を描いたり、実物を見せたりしつつ、具体的なイメージをデザイナーに伝える。デザイナーの人は目を輝かせていた。
「なんて斬新なデザインなんだ。画期的です! それにマヤ様の着ている服、縫製の細かさ、技術、どれも素晴らしい」
服屋の店主も飛び上がって喜んでいた。
「サンドラちゃんもいる?」
「わたしにも作ってくれるの!?」
「勿論いいよぉ。あ、同じのもう一着」
「よろこんで!」
居酒屋かここは?
なぜここに来たのかというと、マヤは身一つで転生して、着替えを一切持ってなかったからだ。一応サンドラのを一着借りていたのだが、この時代のはどうもしっくりこない。それならいっそのこと好みの物を作ってもらおう、という事になったのだ。高くつこうがお金には困ってないのだ。なにせ日本で家が建てられるほどの収入が入っている。それをいい事に何着も注文していた。
そしてマヤはボーイッシュな服が好みだったので、今着ているのも含め、男でも着れそうなものばかりだ。
「サイズを大きくして、ハンター達にも売ってみよう」
「いい考えです」
店主とデザイナーが商売になると考え始めると、マヤはやっぱりそうなったかと、口を挟んだ。
「このデザイン流用するんだったら、ロイヤリティを取ります」
「ええ!?」
「ちょっとでいいのよ。そうね、わたしのデザイン使った服の売上の5%でいいわ。あとわたしの服を、デザイン変更を伴わない範囲での不満点の手直しを、タダでしてくれること。わたしには慣れ親しんだ着心地や、使い勝手が身に染み付いてるからね。最初の頃は、わたしの思ってるのと違ってる可能性があるわ」
デザイナーの人が少し不満というか、不安顔をする。
「それ、無限に手直しが続くんじゃないですか?」
「そう、歯止めがあった方が安心? そうね、それじゃあ……」
腕を組んで少し思案した。よし、これでいこう。
「それじゃあ、5回までにしましょう」
店主とデザイナーは無料手直し5回までと受け取った。もしそれでも気に入らなければ、その先は有料にすればいいのだと。だがマヤの考えは逆だった。
「5回までは手直し料払います。それでも直らないようなら、その先はタダで徹底的に直してもらうわ」
つまりそれは、無料期間にいい加減な手直しを続けて、有料に持ち込むというのはさせないという事。いやそれよりは、きちんとお金払って直させたのに、お客を満足させられなかったらタダになるのは当然でしょ、あんたらプロなんだから、と職人気質に挑戦しているのだ。
「これは引き下がれませんね」
「領都の技術を思い知ってもらわんとだな」
闘志に火をつけてしまったようで、ビビるマヤ。
「そうだ、サロペットパンツなんかもいいな」
もう一つ頼もうかと思ったところで、「いたーっ!」と店先から子供の叫けぶ声が聞こえた。それも次々と。
「リネールのあんちゃん発見!」
「いた!」
「いた!」
「サンドラ姉ぇも一緒だ!」
「あの人、本当に黒髪だ」
「わあ真っ黒な髪の人もいるー!」
びっくりして振り向くわたし。
「なになに!?」
次々に子供達が現れては指差してくる。
「あ、孤児院の子達なの」
子供達を見たサンドラちゃんが気付いた。
「孤児院? 親のない子供の?」
「うん」
リネールさんが店先へ出て行った。
「なんだお前ら。どうしたんだ?」
「ライナーの旦那様が激おこです。急いでお宿へ帰ってください」
「え!? 何でライナーさん怒ってんの?」
「知りません。俺らあんちゃん達を見つけて伝言を伝えるのと、宿まで連れて行くのがミッションです」
「これにサインしてねー」
差し出された紙には「私はメッセージを聞きました」とあった。
サンドラちゃんが、わいわいと湧いてくる子供の説明をしてくれた。
「この子達、たぶんギルドの依頼を受けたのね。10歳以下の子供はGランク、所謂見習いハンターになれるの。できる仕事は薬草摘みとか、清掃、今みたいな伝言や人探しくらいだけどね。孤児院をパーティーとして登録してるから、頭数が必要な軽いお仕事を発注して、孤児院の財政のお手伝いをしてるのよ。人探しなんか得意中の得意なの」
「ふーん。児童労働は問題ないんだね。そりゃそうか、時代が違うもんね」
「え? なにか問題ある?」
「いいえ。それで、わたし達は人探しの対象になってたの?」
「ってことだよねぇ」
サインをせがんでるリーダー格の子がリネールさんを急かした。
「これでミッションの半分はコンプリートなんだから、早くー」
「ちっ、分割依頼かよ。単に連れて帰るって任務にすると、伝言だけ聞いて内容にビビって逃げちまったら依頼未達になっちまうから、任務を細かく分けて達成分を確実に回収できるようにしてるんだ。しかも俺達が伝言なんか聞いてないぞってしらばっくれる逃げ道も塞いでる。こんなのお前らが出来るわけない。誰の入れ知恵だ?」
「依頼書を書いてくれたのはケイト姉ちゃんだよ」
「ケイトさんか!」
サンドラちゃんは苦笑している。
「おやつのティータイムまで粘るのは無理っぽそうね、リネールさん」
お昼ご飯を食べに行くとだけ告げて、そのままトンズラして、昼食の後も色々見て回ろうよと言い出したのはリネールさんだった。まあわたしも服を注文したいと思い立ったので、店を紹介してくれたのには感謝してるんだけど。商品を卸すのを手伝わずに遊び回ってるのはさすがに怒られたか。
わたしもリネールさんを諭す事にした。
「仕方ないですよ。お仕事終わらせたら、ちゃんと休みもらって出直しましょう。その時また連れてってくださいね?」
そう言ってにっこり微笑むと、リネールさんは顔を赤くしてた。
そしてわたし達は、ライナーさんがどれくらい怒っているのか戦々恐々としつつ、孤児院の子供達に周囲をガッチリガードされて、宿屋へと向かうのだった。