異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第172話「孤児院の警備担当」

 

 孤児院の門の所では、院長先生が出迎えてくれた。

 

「まあまあ、リトバレーの子たち。よく来てくれましたね」

 

 品の良い初老のおばさんという感じの院長先生は、実際は見た目より若い。苦労で頭髪が真っ白だからだ。苦労の素は財政難である。だからその目が細く開いてキラリと鋭く光り、リネールさんが担ぐ肉塊をロックオンしたのもいたしかたない。

 

「これわたし達からのお土産なの。みんなで食べて」

「まあ、いいのかい? 嬉しいわ。育ち盛りの子ばかりだから助かるわ」

 

 心の中では「やったあ、これで資金繰りがだいぶ楽になるわ!」とガッツポーズしているはずだが、表面上はあくまでもお上品に装う院長先生である。

 

 どだだだだっと足音と共に男の子達が湧いて出てきて、わたし達は取り囲まれた。率いてるのは、悪ガキの代名詞ともいえるイレム(11歳)である。

 

「リネール兄ちゃん、すげえなこの肉!」

「お、おう。サンドラからの土産だよ。持っていきな。つーか、一刻も早く持っていって……」

 

 肉に今にも圧し潰されそうなリネールさん。

 

「いつもありがとうな! おめーら、集まれ! 調理場へ持っていくぞ!」

「「「「「おおーっ」」」」」

 

 すげー。小学生くらいの子ばっかなのに、80kgと20kgのお肉の塊をいとも簡単に持っていっちゃったよ。なんだかアリの集団を連想してしまう。

 

「あんたら、ちゃんとお礼言うだわよ!」

 

 女の子集団がやってきて、お肉を運ぶ男の子集団を堰き止めると、先頭の娘が腰に手をやって男の子達を叱った。女子最年長のニーシャ(12歳)だ。

 

「言ったよ!」

「みんなでだわよ!」

「ふぁーい」

 

 男の子集団が、頭の上に肉の塊を乗っけている姿勢のままで、どーもありがとーっと言った。そしてこちらの反応も見ずに、また駆け出した。

 

「気持ちがこもってないだわよ!」

 

 男子集団の背中に向かって吠えるニーシャ。

 いつの時代もどこの場所でも、男子を躾けるのは女子の仕事のようだ。学級委員長的立場のニーシャが「まったくもうだわ」とため息をついて、サンドラちゃんに謝った。

 

「ごめんねえ、サンドラ姉。いつもありがとうなんだわ」

「いつものことだから気にしてないの」

「「「「マヤ姉様いらっしゃーい」」」」

「はーい。元気にしてた? こっちはリネールさんとわたしのお土産だよ」

 

 わたしは背負っていた木箱を下ろし、手に下げていた香辛料が入った袋と、サンドラちゃんが持ってくれていた野菜を渡す。

 

「卵だ!」

「ものすごくたくさんあるね!」

「お野菜もあるよ!」

「こっちはいろんなハーブとコショウだ!」

「これあれば、フィリアお姉ちゃんに教えてもらった貴族様のポトフが作れるね!」

「ありがとう、マヤ姉様!」

「リネール兄さんありがとう!」

 

 小さい子達が野菜を抱え、20kgの卵の木箱は、レイヤちゃん、たしか11歳の娘が、一人で抱えて調理場へ持って行ってしまった。

 この世界の子供、すげー。

 

 感心していると、年少の子に服を引っ張られた。

 

「ねえねえ、ディオネアの実が芽を出したんだよ!」

「えっ、もう?」

「実はね、その事で早く来てねって伝言したんだわ」

 

 ニーシャは言った。

 

「早く見せたかったの?」

「そうじゃなくてだわね。ディオネアって意思を持ってる木でしょ。捕まえちゃいけない人とか動物を、予め教えておくんだって」

「へーっ。この人は仲間だよって覚えることができるんだ」

「そうしておけば、マヤ姉様がひょっこりやってきても、食べられたりしないよ」

「そ、それは早く覚えてもらわないとだね」

 

 こっちこっちと、女の子達に手を引かれて、孤児院の庭の奥に連れていかれた。

 

 ディオネアというのは魔物の木で、知能のある捕食植物なのだ。孤児院に植えたのは、その実が食用になるからだったんだけど、ついでに周辺のネズミや昆虫を捕まえて、衛生環境も良くしてくれるだろうという目論見もあったのだ。

 人を区別してくれるなら防犯にも役立つかもしれない。

 

 建物横の藪になっているところに連れて行かれると、そこの中心部にポテチの袋みたいのが土に半分埋まっていて、その袋をやぶって大きな双葉が出ていた。蔓もにゅるにゅる伸び始めている。この蔓で獲物を捕まえてくるのよね。イレムは2回も捕まったっけかなあ。

 発芽した種のそばでは、前髪で目が隠れた女の子が水をあげていた。

 

「この子はシモーナ、9歳。ディオネアの世話はこの子がやってるんだわ。サンドラ姉やマヤ姉を覚えさせようって言ったのもシモーナだし、種をここに植えるって決めたのも、この子なんだわ」

「お世話係ってことね。藪の真ん中に種を植えたのはなんで? ずいぶんと変わったところを選んだね」

 

 話しかけるが、その子は首を傾げるだけ。

 

「シモーナは耳が聞こえないのだわね」

「あ、そうなの。普段はどうやってコミュニケーションしてるの?」

「シモーナは字が読めるから、チョークが手に入れば、板にチョークで字を書いてやってるだわね。あと結構口の動きを見て読み取ってくれるだわね」

「筆談と読唇術かあ。チョークある?」

「今は切らしちゃってるだわね」

「そう。それじゃ」

 

 わたしはジャケットのポケットからメモ用紙とペンを出す。するとその子はブンブンと両手と首を横に振った。

 

「紙なんて高級なものは使えないって言ってるだわね」

「気にしないでいいよ。後でチョーク作ろう。だから今はこれ使おう」

 

 シモーナはまた首を傾げた。

 

「マヤ姉の唇は読み取りにくいのかな? あのだわね……」

 

 ニーシャが伝えると、おずおずと分かったと首を縦にし、紙とペンを受け取った。

 

「わたしって、母国なまりとかがあって口の動き方が違うのかな?」

「聞いてる限りは、そんな感じしないのだわね」

 

 もしかするとだけど、わたしって日本語でしゃべってるんじゃないだろうか。転生特典で音声も直ちに自動翻訳されてるとか。

 それは置いといて、さっそくわたしは、何でここにディオネアの種を植えたの? と、筆談で聞いた。すると驚いたことに、種が「ここがいい」と教えてくれたのだという。

 サンドラちゃんが興味深いねと関心を示す。

 

「へえー、種がここがいいって言ったの? 意志を持った魔物の木だから、種の時点でも自我があるのかな」

 

 そうだと、シモーナはこくりと頷いた。

 

「シモーナは不思議で、普段から動物や植物の考えを察するのが上手いのだわね」

「それって一種の特殊能力じゃない? もしかして法力とか」

 

 わたしはサンドラちゃんに聞いてみるが、肩をすくめられた。

 

「そういった法力は、リトバレーでは聞いたことないの」

「それじゃ勘がいいのかな。それで、ディオネアにわたし達は仲間だよって教えるのはどうやるの?」

 

 シモーナは地面の上でうねうねしている蔓を一本取ると、わたしの手に巻き付け、その蔓の上に自分の手を置いた。そして目を瞑って10秒ほどすると蔓を解いた。

 

「これでいいみたいだわね」

「これだけ? 一度捕食部の葉っぱに捕らわれなきゃいけないのかと思ったよ」

 

 シモーナはサンドラちゃんとリネールさんにも同じことをした。

 

「ディオネアに目はないんだから、何で識別してるんだろうね?」

「さあ……」

 

 サンドラちゃんは首を傾げる。

 

「味かな? 巻き付いたときに蔓が舐めてるんだよ」

「マヤちゃんは独創的過ぎるの」

「この方法はギルドで教えてもらったの?」

「シモーナはディオネアの木から聞いたんだそうだわ。教えたいものを蔓で巻いて、これはナニナニだよって伝えるんだって」

「もしかして目を瞑ってた時に伝えたの? 声出してないよね。でも木と会話してるっていうの? やっぱりこれ、勘がいいとかじゃなくて、法力じゃないのかなあ」

「調べた方がいいよね?」

 

 サンドラちゃんがそう言うと、ニーシャは小首を傾げる。

 

「どうやって調べるのだわね?」

「他の魔物に会わせてみるとか」

 

 わたしが案を出すと、サンドラちゃんはうーんと腕を組んだ。

 

「基本的に魔物は危ないの。使役されてる魔物なら安全だけど。それでも許可取らないと飼えないの」

「ここのディオネアは、寮母のお姉さんが申請して許可取ってくれただわね」

「ふうむ。他に許可取って飼ってる魔物ってどこかにいるかな。あっそうだ、わたしがオーダーしてる服屋さんに、裁縫してくれる魔物のクモさんがいるじゃない」

「ソーイング・スパイダーね! あのクモさんなら安心なの。今度連れて行ってみよっか」

 

 わたしはシモーナに、あなたには魔物の声が聞ける法力があるかもしれないから、今度確かめに行こうと紙に書いた。シモーナは恥ずかしそうにして、こくりと首を縦にした。

 

 

 

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