異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
孤児院の門の所では、院長先生が出迎えてくれた。
「まあまあ、リトバレーの子たち。よく来てくれましたね」
品の良い初老のおばさんという感じの院長先生は、実際は見た目より若い。苦労で頭髪が真っ白だからだ。苦労の素は財政難である。だからその目が細く開いてキラリと鋭く光り、リネールさんが担ぐ肉塊をロックオンしたのもいたしかたない。
「これわたし達からのお土産なの。みんなで食べて」
「まあ、いいのかい? 嬉しいわ。育ち盛りの子ばかりだから助かるわ」
心の中では「やったあ、これで資金繰りがだいぶ楽になるわ!」とガッツポーズしているはずだが、表面上はあくまでもお上品に装う院長先生である。
どだだだだっと足音と共に男の子達が湧いて出てきて、わたし達は取り囲まれた。率いてるのは、悪ガキの代名詞ともいえるイレム(11歳)である。
「リネール兄ちゃん、すげえなこの肉!」
「お、おう。サンドラからの土産だよ。持っていきな。つーか、一刻も早く持っていって……」
肉に今にも圧し潰されそうなリネールさん。
「いつもありがとうな! おめーら、集まれ! 調理場へ持っていくぞ!」
「「「「「おおーっ」」」」」
すげー。小学生くらいの子ばっかなのに、80kgと20kgのお肉の塊をいとも簡単に持っていっちゃったよ。なんだかアリの集団を連想してしまう。
「あんたら、ちゃんとお礼言うだわよ!」
女の子集団がやってきて、お肉を運ぶ男の子集団を堰き止めると、先頭の娘が腰に手をやって男の子達を叱った。女子最年長のニーシャ(12歳)だ。
「言ったよ!」
「みんなでだわよ!」
「ふぁーい」
男の子集団が、頭の上に肉の塊を乗っけている姿勢のままで、どーもありがとーっと言った。そしてこちらの反応も見ずに、また駆け出した。
「気持ちがこもってないだわよ!」
男子集団の背中に向かって吠えるニーシャ。
いつの時代もどこの場所でも、男子を躾けるのは女子の仕事のようだ。学級委員長的立場のニーシャが「まったくもうだわ」とため息をついて、サンドラちゃんに謝った。
「ごめんねえ、サンドラ姉。いつもありがとうなんだわ」
「いつものことだから気にしてないの」
「「「「マヤ姉様いらっしゃーい」」」」
「はーい。元気にしてた? こっちはリネールさんとわたしのお土産だよ」
わたしは背負っていた木箱を下ろし、手に下げていた香辛料が入った袋と、サンドラちゃんが持ってくれていた野菜を渡す。
「卵だ!」
「ものすごくたくさんあるね!」
「お野菜もあるよ!」
「こっちはいろんなハーブとコショウだ!」
「これあれば、フィリアお姉ちゃんに教えてもらった貴族様のポトフが作れるね!」
「ありがとう、マヤ姉様!」
「リネール兄さんありがとう!」
小さい子達が野菜を抱え、20kgの卵の木箱は、レイヤちゃん、たしか11歳の娘が、一人で抱えて調理場へ持って行ってしまった。
この世界の子供、すげー。
感心していると、年少の子に服を引っ張られた。
「ねえねえ、ディオネアの実が芽を出したんだよ!」
「えっ、もう?」
「実はね、その事で早く来てねって伝言したんだわ」
ニーシャは言った。
「早く見せたかったの?」
「そうじゃなくてだわね。ディオネアって意思を持ってる木でしょ。捕まえちゃいけない人とか動物を、予め教えておくんだって」
「へーっ。この人は仲間だよって覚えることができるんだ」
「そうしておけば、マヤ姉様がひょっこりやってきても、食べられたりしないよ」
「そ、それは早く覚えてもらわないとだね」
こっちこっちと、女の子達に手を引かれて、孤児院の庭の奥に連れていかれた。
ディオネアというのは魔物の木で、知能のある捕食植物なのだ。孤児院に植えたのは、その実が食用になるからだったんだけど、ついでに周辺のネズミや昆虫を捕まえて、衛生環境も良くしてくれるだろうという目論見もあったのだ。
人を区別してくれるなら防犯にも役立つかもしれない。
建物横の藪になっているところに連れて行かれると、そこの中心部にポテチの袋みたいのが土に半分埋まっていて、その袋をやぶって大きな双葉が出ていた。蔓もにゅるにゅる伸び始めている。この蔓で獲物を捕まえてくるのよね。イレムは2回も捕まったっけかなあ。
発芽した種のそばでは、前髪で目が隠れた女の子が水をあげていた。
「この子はシモーナ、9歳。ディオネアの世話はこの子がやってるんだわ。サンドラ姉やマヤ姉を覚えさせようって言ったのもシモーナだし、種をここに植えるって決めたのも、この子なんだわ」
「お世話係ってことね。藪の真ん中に種を植えたのはなんで? ずいぶんと変わったところを選んだね」
話しかけるが、その子は首を傾げるだけ。
「シモーナは耳が聞こえないのだわね」
「あ、そうなの。普段はどうやってコミュニケーションしてるの?」
「シモーナは字が読めるから、チョークが手に入れば、板にチョークで字を書いてやってるだわね。あと結構口の動きを見て読み取ってくれるだわね」
「筆談と読唇術かあ。チョークある?」
「今は切らしちゃってるだわね」
「そう。それじゃ」
わたしはジャケットのポケットからメモ用紙とペンを出す。するとその子はブンブンと両手と首を横に振った。
「紙なんて高級なものは使えないって言ってるだわね」
「気にしないでいいよ。後でチョーク作ろう。だから今はこれ使おう」
シモーナはまた首を傾げた。
「マヤ姉の唇は読み取りにくいのかな? あのだわね……」
ニーシャが伝えると、おずおずと分かったと首を縦にし、紙とペンを受け取った。
「わたしって、母国なまりとかがあって口の動き方が違うのかな?」
「聞いてる限りは、そんな感じしないのだわね」
もしかするとだけど、わたしって日本語でしゃべってるんじゃないだろうか。転生特典で音声も直ちに自動翻訳されてるとか。
それは置いといて、さっそくわたしは、何でここにディオネアの種を植えたの? と、筆談で聞いた。すると驚いたことに、種が「ここがいい」と教えてくれたのだという。
サンドラちゃんが興味深いねと関心を示す。
「へえー、種がここがいいって言ったの? 意志を持った魔物の木だから、種の時点でも自我があるのかな」
そうだと、シモーナはこくりと頷いた。
「シモーナは不思議で、普段から動物や植物の考えを察するのが上手いのだわね」
「それって一種の特殊能力じゃない? もしかして法力とか」
わたしはサンドラちゃんに聞いてみるが、肩をすくめられた。
「そういった法力は、リトバレーでは聞いたことないの」
「それじゃ勘がいいのかな。それで、ディオネアにわたし達は仲間だよって教えるのはどうやるの?」
シモーナは地面の上でうねうねしている蔓を一本取ると、わたしの手に巻き付け、その蔓の上に自分の手を置いた。そして目を瞑って10秒ほどすると蔓を解いた。
「これでいいみたいだわね」
「これだけ? 一度捕食部の葉っぱに捕らわれなきゃいけないのかと思ったよ」
シモーナはサンドラちゃんとリネールさんにも同じことをした。
「ディオネアに目はないんだから、何で識別してるんだろうね?」
「さあ……」
サンドラちゃんは首を傾げる。
「味かな? 巻き付いたときに蔓が舐めてるんだよ」
「マヤちゃんは独創的過ぎるの」
「この方法はギルドで教えてもらったの?」
「シモーナはディオネアの木から聞いたんだそうだわ。教えたいものを蔓で巻いて、これはナニナニだよって伝えるんだって」
「もしかして目を瞑ってた時に伝えたの? 声出してないよね。でも木と会話してるっていうの? やっぱりこれ、勘がいいとかじゃなくて、法力じゃないのかなあ」
「調べた方がいいよね?」
サンドラちゃんがそう言うと、ニーシャは小首を傾げる。
「どうやって調べるのだわね?」
「他の魔物に会わせてみるとか」
わたしが案を出すと、サンドラちゃんはうーんと腕を組んだ。
「基本的に魔物は危ないの。使役されてる魔物なら安全だけど。それでも許可取らないと飼えないの」
「ここのディオネアは、寮母のお姉さんが申請して許可取ってくれただわね」
「ふうむ。他に許可取って飼ってる魔物ってどこかにいるかな。あっそうだ、わたしがオーダーしてる服屋さんに、裁縫してくれる魔物のクモさんがいるじゃない」
「ソーイング・スパイダーね! あのクモさんなら安心なの。今度連れて行ってみよっか」
わたしはシモーナに、あなたには魔物の声が聞ける法力があるかもしれないから、今度確かめに行こうと紙に書いた。シモーナは恥ずかしそうにして、こくりと首を縦にした。