異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
さて、孤児院での法力の話はそれだけじゃなかった。
「ラースもスゲーんだぜ! 氷を出したんだ。なんもないところから氷を生み出したんだぜ!」
孤児院で一番広い『何でも部屋』(遊び場にも食堂にもなるよ)で、バーベキューの支度をしながらシモーナのことを話していたら、イレムが自分のことのように自慢し始めたのだ。ラースとは先日のアイポメアニール採取クエストの時の孤児院パーティーに参加した年長組で、10歳のやんちゃ盛りの男の子の一人だ。
「床下貯蔵庫で、中身の整理をやってたら、ラースがこれ見てって言ってよ。なっ!?」
「氷が欲しいなって思って、出ろ出ろって唱えてたら、小さい氷が出たんだ」
「やってみせてやれよ」
ラースは手を木の小鉢に向けてうんうんと唸る。そして出ろーっと叫ぶと、冷蔵庫で作るキューブの氷を二回り小さくしたようなのが1個、ころんとカップの中に出現した。皆が「おおーっ」と歓声を上げる。ラースはそれだけでも大変な体力を使うみたいで、はあはあと息を荒げたが、どうだとばかりにVサインをした。パチパチと拍手が起こる。
「それにリヴィウは物を持ち上げられるようになったんだぜ!」
イレムが後ろの方にいる子を手招きすると、ニコ(ラースと同い歳のやんちゃ男子仲間だ)が、小学2、3年生くらいだろうか、年少の男の子を前に連れてきた。服の左の袖がぺったんこでひらひらとなびいている。左腕がない子のようだった。
リヴィウはラースの前の小鉢をじっと見つめた。右手をゆっくり上げていくと、小鉢ではなくて、中の氷がゆっくりと浮かび上がった。
「『リフト』じゃないか」
リネールさんが感心した。
リヴィウが、ふうーっと力を抜くと、カランと氷は小鉢の中に落ちた。またも皆が「すごいすごい」と拍手する。わたしも拍手の輪に加わった。
「チトレイさんが持ってる法力と同じのだよね。これ便利なのよ~」
チトレイさんとはリネールさんと同年代のリトバレー村の青年だ。『リフト』は手を触れることなく物を持ち運びできる法力で、チトレイさんは荷物の積み下ろし現場には必ずといっていいほど参加していた。わたしは人間フォークリフトと呼んでいる。
リヴィウは照れてもじもじした。
わたしとサンドラちゃんは、法力を見せてくれた子供達に改めて拍手をした。
「法力持ちの先輩からなんかアドバイスしてあげてよ」
そんな声が上がると、ニコニコしてイレムが立ち上がった。
「そりゃあおめえ……」
「違うよ、サンドラ姉とかリネール兄さんからだよ」
「未熟者のイレムにアドバイスはまだ早いだわね」
「んだとー!?」
まあまあとサンドラちゃんはなだめる。
「発現したばっかりの子にアドバイスっていうと、とにかく毎日練習することね。そうするともっと力が付いて、上手に使えるようになるから。かかさず練習してね、なの」
「そうそう。特に法力の力の発達、大きな物持ち上げるとか、大きな氷作るとかといったものだけど、力の発達は子供のうちにどれだけ練習したかで、後々差が出てくる。法力の上達、つまり上手に使うことは、年齢が上がってからも伸びるから、とにかく今は毎日訓練することだ。
あと最初のうちは法力を人に向けないこと。法力を上手に使う訓練をある程度やってからでないと危ない。法力を人に向けるって、法力によっちゃそんなのあり得ないだろって思うだろうけど、使う場面はないとは言い切れないもんだぜ」
「そういえばリネール兄ちゃんの火の法力も、スパイダーの粘液で腕がくっついて固まっちゃった時、粘液を熱で溶かすのに使ったことあったね」
「そうそう。それも上手に使えるようになったからできたことだ。もう一度言うけど、上達訓練やってからな」
おー、リネールさんがまともなアドバイスをしているよ!
ラースとリヴィウが頷いている。シモーナにはニーシャが必死に黒板に書いて伝えている。
「マヤ姉様からも一言どうぞ」
「わたし!?」
ラース、リヴィウ、シモーナがわたしに真剣な目を向けてきた。一瞬怯むが、お、おほんと咳払いして姿勢を正した。
「そ、そうね。わたしからは、法力を持ってない人にも差別せず向き合ってほしいかな。君達が法力を持つまで、他の子達と苦労を共にして、助け合ってきたはず。それあっての君達の法力だからね。ここにいる皆がいたから法力を持てたのかもしれない。皆がいたから法力が発現するまで生きられたのかもしれない。それを忘れないでね」
ラース、リヴィウは「はいっ」と返事した。シモーナはニーシャの筆記を読むと、頬を紅潮させてこくこくこくと頷いた。
法力はこの世界の人間にとって生きるための力だ。法力がないということは生存率を著しく下げるから、貧しい家や村落ほど法力のない子供は捨てられ、社会では除け者にされる。法力がない人の子供は法力を持たないことが多いからだ。
孤児院にはそういった事情で捨てられた子が半数を超える。
ではこの子達はなぜ法力が発現したのか。
イレムのように法力が発現していても気付かれなかったから捨てられたケースもあったけど。
院長先生がこの子達の身の上話をしてくれた。
「ラースは両親が亡くなったから孤児院に入ったんで、法力がなくて捨てられた子じゃないんです。シモーナとリヴィウは障害があるということで捨てられた子です。こちらも法力がないからということではないので、法力が発現するのは不思議ではありません。ただ障害があるだけに、法力があっても社会が普通に接してくれるかは難しい。独立して生活をするのは並大抵のことではないでしょうね」
多くの孤児を育てて送り出してきた院長先生は、とても辛そうに話をする。きっとこの世界は障害者には優しくないんだろう。
「生活するのが並大抵じゃないなら、なおさらシモーナもリヴィウも、孤児院を卒院するまでに自活できるよう、しっかり鍛えないとだわね」
ニーシャは厳しいことを言う。
「ニーシャだって法力無いんだから、鍛えないとだろ」
「もちろん、あたいだって鍛えて準備してるだわね」
孤児院は15歳になると出ていかなければならない。そうすると社会的な補助が受けられなくなる。孤児院という保護施設から出たら、後はもう一人で生きていかねばならなくなる。
次に卒院の順番が回ってくる最年長者のニーシャは法力がない子だ。美人だし面倒見も良くって器量も良い。欠点は方向音痴なことくらいだ。多少抜けてるところがあるけど愛嬌だ。そんなよくできたニーシャでも、法力がないために卒院したら探検者くらいしか仕事はなく、それが嫌なら身売りするしかないと言われていた。リヴィウ達に厳しいことを言うのは、自分のことでもあるからだ。
まあニーシャは幸い……と言っていいのか、非常に心配だけどイレムが身を引き取ることになってるらしいから、一人市中に投げ出されることはないみたいだけど。
非常に心配だけど、一応『寿』卒院の予定。
悪ガキ イレムのお嫁さん……
って、とっても心配だよ!
「探検者以外の、危なくない仕事に就けられればいいのよね」
「そうだけど、なかなか雇ってもらえないだわね」
わたしは腕を組んで考え込んだ。
リフトと氷の法力。ディオネアと意志疎通できる子かあ。それに法力が発現しないままで卒院する子もたくさん。
「卒院する頃には、あの子達の法力ももっと強力になってるよね?」
「サンドラ姉やリネール兄が言ってたように、毎日訓練すれば、なってると思うだわね」
わたしに一つのアイディアが浮かんだ。
雇ってもらえないなら、自分でやっちゃえばいいのよ。
お昼ご飯は、庭でバーベキューをした。オーク肉と野菜を串に刺した串焼きがメインで、買ってきたコショウやローズマリーとかの香辛料をたっぷり使っている。
わたしは卵をたくさん使って巨大オムレツを作った。中には玉ねぎやジャガイモ、肉の切れ端を細かくしたものなどを入れてあり、トマトと塩、香辛料、酢で作った、ケチャップ風のソースをかけた。
「「「「「美味し~~~い!」」」」」
「マヤ姉様も料理上手なのね!」
「ま、まあ、ご飯作ってもらえない時もあったからね……」
虐げられていた親戚の家が頭をよぎり、首を振って振り払う。
わたしの料理は子供達に好評で、美味しい美味しいと食べてくれている。さらに孤児院の職員の人達も、家の料理より美味しいと涙を流していた。幸せそうに食べてくれる皆の顔を見ていると、いつしか嫌な過去もどこかへ去っていった。
片付けの時、料理で使った卵の殻を集めてもらった。
「シモーナちゃん、チョーク作ろう。皆も手伝ってー」
わたしの呼びかけで、女の子達が集まった。
「チョークって、卵の殻で作るの?」
「売られてるのは石こうで作ったものかもしれないけどね。炭酸カルシウムでも作れるから、卵の殻の他に、貝殻なんかでもできるよ」
「へぇ~~。マヤ姉様、物知り~」
「ふっふーん。わたしの母国は雑学で溢れてるからねー」
集まった卵の殻を水場に持っていく。
「まずは卵の殻をよく洗うよ。内側の膜はきれいに取ってね。洗い終わったらしっかり乾かして」
「「「「「はーい」」」」」
わたしは見本を見せるだけで、作業は基本子供達にやってもらう。わたしがいなくてもできるように、というのは建前で、単に力とか持久力がないからだ。
「乾かしたら、できるだけ細かく砕きます。すり鉢も使ってパウダー状になるまでやってね」
「疲れるね」
「代わりばんこでやろう」
「パウダー状になったら、小麦粉を入れて、熱湯を少しくわえてよく練る」
「粘土みたいになってきたよ」
「よく練ったら、空気をしっかり抜いて、コロコロ転がして棒状にする」
「それ太くない?」
「あんまり細くても、きっと折れちゃうよねえ」
「シモーナ、これくらいの太さでいい?」
「棒になったら使いやすい長さに切ろう」
「シモーナが切るって」
「20本くらいできるかな」
いつの間にか男の子も集まってきて様子を見ている。
「切れたら、お日様の当たるところで3、4日乾燥させたら完成だよ」
「なんだ、すぐは使えないんだ」
「こればっかりはどうしようもないよ。ちゃんと乾燥させないと崩れちゃうからね。男の子も乾かしてる間はいたずらしちゃダメだよ」
「「「「「はーい」」」」」
「「「「「わっかりましたー」」」」」
バットの上に並んだチョークを、シモーナは感慨深げに眺めていた。
「すごい、孤児院でも作れるんだね!」
「これなら買わなくてもいいね」
「俺今度、町行ったら、卵の殻集めとくよ。そしたらシモーナ、また作ろうぜ!」
シモーナは控えめな頷きを返したが、とっても嬉しそうに笑った。