異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
孤児院を見舞った翌日。
「あのー、わたしが保管してる魔物、250頭くらいあるんですけど、そろそろ引き取ってもらえないでしょうか?」
「わりーな嬢ちゃん。とても処理できる状態じゃねえ」
「ええ~? なんで!? 町中にはあんなに出回ってるのに、処理できないはずないでしょ!?」
嘆き悲しむマヤの声がホールに響き、何人かの
ここはヘキサリネの領都「ヘキサチカ」のハンター・
北の森の魔物討伐増援隊に参加したマヤは、膨大な収納力のあるストレージ(ただしカチンコチンに凍ってしまう)を持っていたので、参加パーティーが道中の戦闘で倒した魔物を大量にストレージにしまって預かっていた。
一方で、これもマヤによるものだが、ワハイム沼から上がって来た何百頭もの魔物を、「結界(簡単に言えば、この中に入ると酸欠死するのである)」を使ってほとんど倒してしまった。これが今、嘆いている原因になっている。
買い取り係のおっさんの説明によると、マヤが「結界」で倒したオーク、オーガ、スパイダー、ウルフといった魔物達は、体にまったく損傷がないため、まるまる利用できる。つまり価値が高い。
一方で、激しい戦闘で打ち取られた魔物は、えぐれたり、破裂したり、変形するほど衝撃を受けてたり、焼けてたりと、損傷している部分が多く、どうしても利用には適さない状態となってしまった部位が出るのを避けられない。つまり価値が低い。
マヤが預かっているのは後者の方だ。
「探検者ギルドで輸送クエストを出して、嬢ちゃんが倒したっていう魔物を領都へ運んでるんだが、数がおよそ1500頭とかいうとんでもねえ量だから、持ってくるのも大変だし、持ってきたのを解体処理するのも大変だ。それに時間が経つと腐っちまうからな、皆大急ぎの大忙しだ。
運輸ギルドがフル稼働して運んでくれてるんだが、解体が追いつかねえ。商業ギルドも解体を手伝ってくれてるが、それでもひいひい言ってるんだ。
嬢ちゃんのストレージにしまってあるのは凍ってるから、急いでやらなくても大丈夫なんだろう? そうなると、どうしても後回しになっちまうんだ。嬢ちゃんが預かってる魔物は集計も終わっていて、魔物討伐に参加した探検者パーティーへの報酬も分配済み。解体を待つだけだ。嬢ちゃんがちいっと我慢してくれりゃ、こっちも助かるんだ」
マヤがええーっと迷惑そうな顔をすると、買い取り係のおっさんは最後の手段とばかりに言った。
「女神様って呼べば我慢してくれるのか? それくらいでいいなら言うぞ」
「はあ~」
そんな形だけの女神様呼ばわりされてもうれしくない。だけど、ギルド側もそれくらい困ってるってことだ。
「そうですか。わかりましたよ。……どうしてわたしは、やることなすこといちいち足を引っ張られて、先に進めないのかしら。転生主人公は何でもサクッと解決、シュバッと前進じゃなきゃ、テンポよく物語が進まないじゃない」
「嬢ちゃん、人生そうそううまく物事が運ぶことはないってのが世の常だ。それでも嬢ちゃんは探検者の中では成功者じゃねえか」
「Fランクから脱出できなくても?」
「俺に言わせりゃ不幸はそれくらいだ。山がデカければ、谷も深くなる。とにかく今回はすまねえな」
買取係のおっさんに宥めるように諭されて、マヤも
「解かりました。まあわたしは明日のご飯の心配とかはないですからね。現状の問題は、討伐した魔物が多すぎるのが根本原因で、解体が追いつかない、運ぶの大変、早くしないと腐っちゃうって、派生問題が起きてるってことですね」
「俺は嬢ちゃんがそうやってすぐ物事を整理できることに感心するよ。その通りだ」
「マスターはいます?」
「朝はいたが今は知らん。ケイトに聞いてくれ」
「ケイトさん? うう、あの人、わたし苦手なんですけど」
買取カウンターから受付の方に移動する。
ギルドの受付嬢、または影のギルドマスターとも言われるケイトは、受付の後ろで、いつものように雑誌のようなものを読んでいた。
「あ、あのー」
雑誌から片目だけをのぞかせて、話しかけてきた人物を識別するケイト。
「どうしたの、永遠の永久Fランク?」
「あううっ!」
胸を押さえるマヤ。早くこの不名誉な称号を取り去りたい。
「え、ええと、マスターいますか?」
「外出してます。用があるならあたしが聞きますよ?」
「……そのFランクを、永久にしたくないんで、お仕事ください」
「おや、いい心掛けね。昼まで寝てるほど余裕のマヤさんが仕事をねだるとは。そうねえ、塩漬けになってる面倒な案件は……」
「いえ、あの、北の森で討伐した魔物を領都に運ぶのが大変で、腐りそうだとか、運んできても解体が追いつかないとかで、大わらわらしいじゃないですか。おかげでわたしのストレージで預かってる大量の魔物も、引き取ってもらえないし」
ここから勝負だと、マヤは緊張を高める。
「そ、そこでわたし宛に依頼を作って発注してほしいんです」
「ほー?」
「一つは、魔物の輸送です。凍っても構わないんですよね? だったらわたしがストレージに入れて運びます。1回で持ってこれますし、凍るから腐る心配がなくなります。
二つ目は、わたしが預かっている、皆が戦闘で討伐した魔物です。善意で永遠に預かるわけにはいきません。わたしも旅に出たいし、できる限り早く放出したいんです。これも保管依頼にしてください。1日単位の依頼にして報酬というか、お駄賃いただきたいです」
「後者のは、1日単位って、階級差違反のペナルティを減らすためでしょ」
「うっ。ば、ばれました!?」
「そんな姑息な手、すぐ見透かせますよ」
こ、ここで弱気になってはいけないわと、マヤは一度目をつぶってから無理して胸を張って前に出る。
「で、でも有耶無耶のまま放っておくなら、ギルドの中庭に預かってる魔物放り出しますよ。もしくは、接収します」
ケイトは雑誌みたいなのを脇に置くと、カウンターに肘をついてにんまりと笑ってマヤを睨んだ。
「おやおや、いつものマヤさんらしくなく強気ですね。ギルドを脅すつもり?」
「ストレージ容量が有限なら、他のことに使えないわけで、こっちにとっては不利益を被る事案ですもん」
「でも容量にはまだまだ余裕があるんでしょ?」
「それはわたしだからです。余裕があるから目をつぶってるけど、その善意に頼ってるのはちょっと違うんじゃない? って思うわけです」
わたしは正しい、わたしは正しいと、何度も心の中で唱えながら平静を装ってケイトを見つめるマヤ。
ケイトは肘掛けを解いて座り直した。
「しかし、発注してるのに呼び出すまで注文を受けにこない人が、まさか注文よこせとはねえ」
「はわわわ、あの時はすみませんでした!」
しまった、正面対峙を避けて、側面を突いて崩しにかかってきたわ!
「でも保管を続けるなら依頼にしろというのは合理ですね。1日単位はちょっとどうかと思うけど。1週間単位とかかしら?
あと前者だけど、あなたに運んでもらうことは、マスターも一応検討はしていたのよ。でもいっぺんに持ち込まれても、こっちが処理できない。その間、あなたがストレージで保管しといてくれればいいけど、マスターは今も預かってもらってるのがあるのに、さらに千頭以上をというのはためらいがあったみたいでね。あたしは頼んじゃえばいいのにと思ったんですけどね。保管依頼にすれば引き受けてくれるかしら?」
「いえ、困ります。預かったらわたし、ここから動けなくなるじゃないですか。いつまでも拘束されるのはちょっと」
「昼まで寝てられるほど暇人なのに、困るとは?」
「そ、それは、い、言わないで……。そ、それに、わたしもそろそろ旅に出たいんです」
「まあ、マヤさんにもやりたいことがあるんですね。昼まで寝て時間を無駄にしていても」
「すみません、ごめんなさい。もうそこぐりぐり突っ込まないでください。生活見直しますから」
普段の素行が悪いせいで、いろんな弱点を突っ込まれるマヤである。まあ自業自得というやつである。
「え、えっと、ネックになってるのは、ギルドの解体処理能力ですか?」
「そうとも言いきれませんね。解体は探検者ギルドと商業ギルドの両方でやってるけど、合わせて1日に処理できる量はおよそ50頭。1500頭処理するには単純割で30日もかかります。温かい季節になってきてるし、途中から鮮度が急激に落ちて品質も悪くなる。捨てるものもでてくるでしょう。
じゃあ解体能力が上がればいいのかというと、処理したものがすぐ売れて消費されるわけじゃないでしょ。ヘキサチカの人だってそんなに食べられるわけじゃないですし。
じゃあ保存が効くよう保存加工するかとなると、そっちは業者も限られるし、処理時間はもっとかかるわ。
だいたい売値が下がっちゃってて、これからギルドに持ち込まれるものは買取価格も下げないと、ギルドが大損しちゃう状態です」
マヤは確信を得た。
「ということは、処理前の新鮮な状態のを長期保存して、必要な時に出すことができれば、一番うれしいってことですね」
「そうですね。今のところ解決策は、マヤさんのストレージに入れて保管するくらいしか思い付かないのよね。保管費用を払えば引き受けてくれます?」
「それだと1ヵ月は、確実にここに拘束されますよね」
「楽ないいお仕事じゃないですか。お昼まで寝てても大丈夫よ。あたしもその間は突っ込まないと約束します」
「……そ、そう言われると、魅力的な気が……いえいえ! だめだめ」
ぶんぶんと首を振って甘い誘惑を振り払う。
「話を戻しますけど、今預かってる魔物の保管と、まだ現地にある魔物を領都まで輸送するの。これを依頼発注してもらえませんか?」
「輸送だけされても困ります。保管まで責任を持ってもらわないと発注できません」
「保管までやりますよ。ただし日単位です」
「週単位にしましょうよ」
「わたしこれ、仕事にしようと思うんですよね。重さとか体積で1日当たりの預かり単価を決めて。わたし商業ギルドにも登録してるから、事業として立ち上げてみようかと。いやでも発注することになりますよ」
ケイトは少し驚いた顔をすると、押し黙ってしまった。
「マスターと相談するわ」
「決まったら宿まで連絡ください」
ニコッと笑顔を作ってマヤはお辞儀をした。
やった、ケイトさんに勝ったかもしれないわ!
追撃を受けないうちにさっさと立ち去ろうとしたら、呼び止められた。
「あ、マヤさん」
「びくうっ! は、はい!?」
「輸送依頼の方は、受付嬢権限で今すぐ依頼を作ります。遅れれば遅れるほど鮮度が落ち、価値が下がってしまいますからね。優先高いと見ました」
「受付嬢権限!?」
受付嬢、すげぇ。即断即決? 優先して仕事を作る裁量もあるのね。
ケイトは脇で計算をしながら、さらさらと発注書を作り、ギルドのタグで発注者と決裁者にタグの紋様を取った。そしてマヤに発注書を渡す。
「うわ、指名依頼料 金貨10枚、輸送対価 金貨50枚! こんな金額、ケイトさんの裁量で決済していいの!?」
「ゴミです、それくらい」
受付嬢、すげぇ! 6百万円をゴミ! 値段とか決める権限もあるんだ!
しかも決済印までケイトさんが持っているんだからやりたい放題だ。裏マスター、ぱねぇ!
「報酬額も納得ってことでいいですね?」
「は、はい」
にまりと微笑むケイト。
「おそらく1500頭を馬車でちまちま運んでると、金貨150枚くらいになると思います。マヤさんに頼むことで、金貨100枚の節約になりました」
おおーっとマヤはぱちぱち拍手をした。
「そっか、値を釣り上げる機会はあったのか。でもわたしが提示額聞いてびっくりしてた時点でわたしの負けですね」
「相場を知らなきゃ釣り上げるのも無理でしょう」
「ケイトさんやっぱ凄いなあ。それにしても輸送費って馬鹿にならないんですね」
マヤ殿への輸送指名依頼。
依頼内容:
北の森ワハイム沼前線基地、およびキャンプスプリングに一時保管している討伐魔物(合わせて2千頭以内)を領都探検者ギルドまで輸送する。輸送においては法力による冷凍を行うこと。
なお探検者ギルドが指定する任意のタイミングに探検者ギルドへ引き渡すまでの一時保管はマヤ殿が行う。(これについては別途マヤ殿へ指名依頼をするものとする)
報酬:
指名依頼料 10金貨
輸送に対する対価 50金貨
「マヤさん、条件がこれで良ければ、探検者タグ貸してください」
ケイトさんが手を差し出す。
「あ、はいはい。それで受注します」
胸から探検者タグを出して渡すと、受注者欄にその紋様を取ってサインもして、マヤの依頼受注が完了した。
「それじゃ、さっそく行ってきてください」
「今!?」
「鮮度が落ちますよ?」
うわー。言い出しっぺなだけに文句言えない。
「え、えーと、最前線基地まで徒歩で1日ですよね。馬とか出してもらえないんですか?」
「その辺の装備準備や経費は知りません。マヤさんの方でやりくりしてください」
うわー。その辺までよく考えておくんだった!
「あとわたし1人で行くと、もし魔物やっつけちゃったら、また階級差違反起こしかねないんですけど」
「知りませんよ。パーティーで行けばいいじゃないですか。どういう体制で輸送するかも、マヤさんの裁量でしょう」
うわーっ! ぐうの音も出ない!
「サンドラちゃん誘って、リトルウィングで行かなきゃ!」
マヤは大慌てでギルドから立ち去ろうと駆け出した。
しかしギルドのドアのところで阻まれる。ドアが開かないのだ。探検者達が力任せに開け締めして歪みまくったドアは、マヤが引こうが押そうがびくともしない。
「開かないよう! 開けて、誰か開けてーっ」
ギルドのサロンで無駄な時間を過ごしているマヤ信者が集まってきた。
「うえっへっへ。マヤさん、蒸留酒グラス1杯で手を打つぜ」
マヤは半眼になる。
「
「……んあ? 急に体が重くなってきた。目が霞む」
「わたしに一生ついていきますとか言っといて、結局たかるだけ? いらんわ、そんな信者。マヤちゃんパンチ!」
ぽこんとお腹の辺りになさけないパンチが当たっただけだが、その男は足がもつれてひっくり返った。そのままひくひくして立てない。その男の顔周辺の酸素を減らしたのだ。つまり酸欠を起こしているのである。
「出た、マヤさんのデストロイ法力だ!」
「何やったんだ? すげーえ!」
「これが見たかったんだ!」
「こいつは俺達がお灸をすえておきやす」
「さあどうぞマヤさん」
探検者の一人が、げえぎゃぎぃとすごい音を立ててギルドのドアを開けてくれた。
「ありがとう」
振り返ると、ひっくり返った男を見下ろす。
「
その男にやっていた酸素の収奪をやめ、酸素吸入をしてやる。
「ぶはあっ! はあはあ。頭が、視界がはっきりしてきた」
「困ってる人には手を差し向ける! 親切をするのに対価は求めない! 皆いい!?」
「「「「「おう!」」」」」
「「「「「ザ・デストロイヤーばんざーい!」」」」」
「やめてえ!」
ダンッ!
背後でデッキブラシを持ったケイトが仁王立ちしていた。
「ここでヘンな布教活動しないでちょうだい!」
みんなしてケイトに怒られたのであった。