異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
最前線基地で一晩泊めてもらったリトルウィング面々は、翌朝、ヘキサリネ軍の朝食ケータリングを受けた。
戦時ではないので、出される食事は携帯食ではなく、調理当番の兵が煮たり焼いたりして普通の食事を作って提供してくれた。
「わー、おいしそうなの」
「ドイツの宿で出てきそうな朝食だわ」
パン、ソーセージ、マッシュポテトが一つのお皿に盛られ、野菜のスープもついてる。領都の近くだから補給も楽なんだろう。
リネールはパンとソーセージを3人分くらい盛ってもらっていた。
寝床も朝食も提供してもらえたので、マヤ達は片付けもなく、すぐに出発できた。
「女神様ー」
「女神様、また来てください」
「その女神様に、わたしも入ってるの?」
マヤが聞くと、
「も、も、もつろんです」
と兵士は噛んで答えた。
まあ、良しとしよう。
キャンプスプリングへ戻る道の途中で、スタンピードの時ワイバーンの発着場になってた白い山の方へ向かう脇道に入る。すぐに馬車が通れない道となり、御者に留守を任せ、マヤ達は馬車を降りて歩いていく。ほどなく古い倒木が積み重なったキノコ場に到着した。さっそくサンドラは目的のキノコを探した。
目的のキノコはすぐに集まった。木の横に皿のように出っ張った、茶色く硬いもの。いわゆるサルノコシカケ科のキノコだ。他にも漢方薬で使う霊芝みたいなのとか、木の表面をびっしりと覆って生えているひだのようなキノコとか、木にコブのようにでっぱって発達したものなども採取した。
「大量なの!」
満足そうなサンドラちゃん。量にしてドラム缶2本分くらいも採っただろうか。
「凍ってもよいものならわたしがストレージに入れて運ぶよ。硬いものは凍っても大丈夫?」
「大丈夫と思うの。冬場は雪に埋もれてたりもするもんね」
ほとんど木と変わらないような硬いキノコを、マヤは固体酸素で覆ってストレージにしまった。おかげで何度も馬車まで往復する必要はなくなった。
馬車に戻って、ストレージにしまったキノコを木箱に積み替え終わると、本道に戻った。
◇◇◇
昼前には領都に戻ってきて、ハンター・
「どうやって証明すればいいですかね?」
今日の窓口は買取を取り仕切っているお爺さん。お爺さんは獲物を選別する鍵鎌でカウンターを指した。
「何か1匹出してくれ」
「ここに? 凍ってるし、大きいですよ?」
「お前さん、何を出すつもりじゃ? なんなら解体場にしようか?」
解体場に移動すると、輸送した証拠として、こちんこちんに凍ったワイバーンを1頭出した。
「寒っ!!」
「こんなふうに凍ってるのか。石のようだぞ!」
「おいどうするこれ、融けるの待つか?」
買取を仕切るお爺さんは慌てることなく言う。
「ノコギリで切るのじゃ。案外凍ってる方が処理しやすいぞ」
「なるほど! おい、大木切る用のでかいやつ持ってこい!」
解体場は製材所のようになった。
マヤは任務完了を認めてもらい、報酬を受け取った。
「金貨60枚貰ったよ。リトルウィングで山分けしよう」
「それはいらないよ、マヤちゃん」
サンドラは報酬の分配を断った。
「えっ、だって輸送任務で貰った報酬だよ? 馬車だって出してもらったし」
「輸送依頼はマヤちゃんが受けたお仕事。わたし達のキノコ採取の馬車に、マヤちゃんは便乗しただけなの」
「そしたら馬車に乗せてもらったお礼くらいさせてよ」
それもリネールが首を横に振った。
「お礼なんていらないよ。マヤさんに助けてもらったリトバレーにとっては、むしろ恩返しの一つだよ」
御者の人もリネールを肯定した。
「私もライナーさんも、お礼なんていりませんよ。マヤさんの役に立てたことが何よりの報酬です」
「もう、リトバレーの人達は……」
マヤは涙ぐんだ。異世界に飛ばされて、右も左もわからないマヤを受入れてくれて、無報酬でマヤを手伝ってくれる。今マヤがここにいられるのは、全てサンドラとリトバレー村の人のおかげだというのに。
そんな感傷に浸っているところに、低い猛獣の唸り声のようなのが頭上から聞こえてきた。
「マヤ、ちょっと来い」
マスターが2階から顔を出し、くいくいと指で招いていた。
「ケイト。お茶持ってきてくれ」
「かしこまりました」
お茶を出してくれるってことは、怒られるのではなさそう。
「じゃあ、わたしとリネールさんは、キノコ持って宿に戻ってるね。午後は薬師協会の薬草の加工場に行ってると思うの」
「わかった。付き合ってくれてありがとうね」
サンドラとリネールは先に帰っていき、一人残ったマヤは2階の応接室に上がっていった。
ケイトはいつものように自分の分のお茶も淹れて持ってくると、これまたいつものようにマスターの横に座った。
マヤはまた何か怒られるんだろうかと思ってビクビクしてると、話はマヤが預かってる魔物の保管料のことだった。
「日単位でという条件、了解した」
「いいんですか!?」
「なんで驚いてる? お前が言ったんだろう。変えていいか?」
「いえ、ぜひ、日毎の依頼にしてください!」
「うむ。それで商売にするとかも言ったらしいな?」
「はい。冷凍して長期保管するサービスをやったら、探検者ギルドも、商業ギルドも、運輸ギルドも使うんじゃありませんか?」
「そうだな。最初は使い方がわからんかもしれんが、今回のスタンピードで大量発生した魔物を小出しに出庫してくるのを見たら、商売人は利用価値に気付くだろう。確かにおもしろい商売だ。しかしそうすると、マヤは領都にずっと留まるってことか?」
「いいえ。どこかに倉庫を作ろうかと思ってます」
「倉庫?」
「はい。大きな冷凍冷蔵倉庫です。いろいろ思うところがあるんで、ちょっと領主様に相談しようかと思ってます」
「領主様まで巻き込む気か」
マスターは顎に手をやって、うーむと唸った。
「それで話を元に戻すが、本題はお前が預かってる魔物の保管料についての交渉だ」
「あ、それは重さとか保管で占有する容積をもとに計算するつもりなんですけど、今はまだ商売始める前なんで、倉庫の準備ができるまでは、1日小金貨1枚でいいですよ。今はどっちかというと、階級差違反のペナルティを減らす方に重点置きたいんで」
「たったそれだけでいいのか? それはありがたいが。魔物を何百頭もバラ積みする場所を借りるだけでも、1ヵ月でかなりかかるからな」
「では、マヤさんが倉庫に魔物を移し替えるまでの間、1日小金貨1枚で、今回のスタンピードの、北の森の戦闘で討伐しマヤさんが預かっていた250頭と、最前線基地から持ち帰った1500頭の魔物を、冷凍状態で保管してもらうという指名依頼を作ります。1日ごとに1依頼という条件で」
この辺は仕事が早いケイトである。マヤの気が変わらないうちに、有利な条件を確定事項にしてしまうつもりだろう。
「指名料はサービスしてもらえる? つまり無しでいい?」
「あー、はい。サービスします」
「ありがとうございます」
お上品に頭を下げるケイト。
珍しくケイトに丁寧なお礼を言われて喜ぶマヤ。ケイトにとっては他の人に頼めないような案件のお高い指名料が、一言のお礼で無料になるならお釣りがくるというものである。
「まあ、1ヵ月でも30依頼しか減らないから、そんなもんじゃ永久Fランクの称号は取れないけどね」
「はぐううっ!」
そこはさすがはケイト、せっかくの丁寧なお礼で柔らんだマヤの心を一瞬で吹っ飛ばした。