異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
結局マヤはお昼ご飯を領都邸でご馳走してもらって、午後は変装したヴェルディと連れ立って奴隷商へ行くことになった。変装って言ったって、探検者ギルドにひょっこり顔を出す時と同様の身軽な町民服に着替えただけだ。大きな体は隠しようもないから、なにか事を起こせば目に止まらないわけがない。
何事もありませんように。
マヤは正式な手続きをふんで正面玄関から入ったので、ちゃんと表から出る。そしてヴェルディに言われた、堀の外の小屋の前で待ってると、お勝手口というか、ゴミなどを出したりするらしい小さな扉からヴェルディが出てきた。
「お掘りの下にトンネルでもあるんですか?」
「秘密だぞ」
ヴェルディはニヤニヤして言う。信用してもらえてるようで嬉しいが、一大事には巻き込むぞと言われてる気がしないでもない。
そういえばマリエラ姫が探検者リエラさんになる時、秘密の出入口から出ていくらしいんだけど、偉い人のお忍びはみんなこんな感じなんだろうか。
マヤは奴隷商へ行く道中で、これから作る冷蔵冷凍倉庫は孤児院の子の就職先にしたいのだ、という考えをヴェルディに打ち明けた。
「なるほどな。なかなか殊勝な考えだが、将来ライバル業者が出てきた時、競争に勝てるかが心配だな」
「……そうですね。少なくとも、不正競争で潰されるような事がないように見張っていてくれたら嬉しいです」
「そうだな。嫌がらせとか、そういった事には目を光らせておくようにしよう」
◇◇◇
奴隷商は商業地区ではなく、ハンター・
クレーターの中に町を造っているヘキサチカは、中心に行くほど重要施設がある。逆に言えば、外輪山に近いほど重要度の低いエリアということだ。外敵が入り込んだ時、防衛戦闘で真っ先に荒らされるところだからだ。もしくは戦闘する上で重要なところが置かれる。奴隷商は前者。後者の例は探検者ギルドだろう。
さて、奴隷商の建物は石造りでなかなかに立派だが、雰囲気はちょっと陰湿だ。
店の前には、「セール、子供メイド3人セット」とか、「用心棒入荷しました」とかのチラシが貼ってある。フィギュア売ってんじゃないんだぞ。およそ人間に対する広告には見えない。
マヤが良心を痛めて顔をしかめているというのに、ヴェルディはスーパーに入っていくかのような気楽さで入口のドアをくぐっていった。
中に入ると探検者ギルドとちょっと似ていて、大きなサロンがあり、奥に奴隷の情報を掲示している大きな掲示板がある。その横に商品閲覧室という大きなドアがあった。奴隷を直接見て選べるところだろうか。
ヴェルディは空いている席に座った。マヤにも座れと示すので、ぎこちなく横に座る。
すぐに布面積がやけに少ない服を着たセクシーな女の子が2人来て、ヴェルディとマヤの横に座った。
「いらっしゃいませぇ。どのような者をお望みでぇ~?」
ビキニの水着のような服に、透け透けレースのスカートという格好なので、マヤは真っ赤になって慌てた。
「な、なになに!? キャバクラ? 風俗? 変なお店に来ちゃった!?」
困惑するマヤに、ヴェルディが手順を説明してくれる。
「まず書類審査をするんだ。希望の条件を伝えてカタログをもらい、そこから候補を選ぶ。候補を選定したら、実際に対面して見定めるという流れだ」
「こ、この人達は?」
「注文を聞いてくれる店員だ」
「店員!?」
「お嬢ちゃん、綺麗な髪ねえ。つやつやで柔らかくてさらっとした黒い髪の人なんて珍しいわぁ」
そう言ってマヤの髪の毛を撫でる。ついでに耳をいじったりするので、「ひぅっ」と変な声が出てしまったりする。
本当に注文を聞くだけの店員ですか!?
ヴェルディは、横にもたれかかっているもう一人の女の子に手を回して話しかけた。
「経理ができる者と、大工みたいな建築の技術がある者を見繕ってくれ。マヤ、他にあるか?」
「はいぃぃ~、氷を出せる法力者がいたらそれもお願いします」
「あなたも奴隷を買うのぉ?」
髪をいじっていた手が、マヤの肩や背中をなまめかしく撫で回しながら、耳元で囁いた。
「ち、ちょっと人手が必要でして……」
「わたしじゃ、だめぇ?」
「お、お姉さんも、もしかして奴隷ですか?」
「そうよぉ? 15歳だからまだまだ長く使えるよぉ?」
「15!? 年下!?」
「え? お嬢ちゃん、わたしより上? おいくつ?」
「じゅ、17」
「うそお!?」
もう一人のセクシー女の子もヴェルディの腕から抜け出て、マヤの方にやってきた。
「本当に!? お嬢さん、東の方の人よね? あっちの人はいつまでも若いって噂あったけど、本当だったんだ!」
「本当に17歳かなぁ? どうみても12,3歳」
「んなっ!」
「どうやったらそう若いままでいられるの?」
「歳ごまかしてるでしょぉ。確かめてみよぉー」
「やめて服脱がさないで! 何で確かめようとしてるの!?」
ジャケットを剥いて、一人はブラウスのボタンを外しはじめ、もう一人はベルトに手を掛ける。
こ、ここはやっぱり、違うお店なのでは!
するとヴェルディがテーブルをとんとんと叩いた。ありがとう、救世主!
「時間がないんでな。お楽しみは商談が終わってからにしてくれねえか。そいつ置いてってもいいから」
救世主じゃなかった!
「ごめんなさいっ。今すぐ取り掛かります! 絶対その子置いていってね!」
「わかりましたぁっ。すぐカタログ作ってきまぁす! その子帰しちゃだめですよぉ~!」
「いやあ、帰るよわたしは!」
つれないわねぇと、マヤの頬を撫で、指を唇に這わせて、やっとお仕事に向かおうと席を立つ年下セクシーっ子たち。
が、忘れてましたとばかりに、くるっと振り向いた。
「あっ、お待ちの間、何かお飲みになります?」
「そうそう、今はスパイス茶がお勧めよぉ?」
「ほう。それを2つもらおうか」
少々お待ちくださぁ~いと、ようやく奥へ戻っていった。
ヴェルディがにやにやして言った。
「大人気じゃねえか」
「はあはあはあ……。帰る時、お、置いていかないでくださいよ」
「あっちが許すかな」
ヴェルディ様にしがみついてでも帰る!
「ところで、スパイス茶って何です?」
「さあな」
「えーっ、知らないんですか? よくわからない物を、領主様が試しちゃいけないんじゃないですか?」
「スリルあるじゃねえか」
スリルが必要となるものに、わたしを巻き込まないで!
暫くして、さっきの子達とは違う、へそ出しルックの女性がカップを持ってやってきた。
むちゃくちゃスタイルが良い。胸と腰巻きの布は複雑なオリエンタル的な柄で、スリットからすらりと伸びる長い脚は褐色だ。思わず見上げると、目が大きくぱっちりとしていて、中央アジアとかインドに近い方にいそうな顔立ちである。歳も間違いなくマヤより上だ。二十歳前後ってとこか。
そんなへそ出しお姉さんにとっても、マヤは珍しかったらしく、大きな目をさらに大きくして嬉しそうに微笑んだ。
「あたしみたいな黒髪の女の子が来てるって聞いたから来てみたんだけど、まあ可愛らしいお嬢さん。そのお顔の感じは……東の果の方の国がご出身かしら?」
その人も確かに黒髪ではあった。マヤの髪は真っ直ぐでふわっとしてるけど、その人はもっと強くウェーブがかかっており、風が吹いてもセットが崩れなさそうなくらい1本1本の毛髪がしっかりとしている。
「え、ええ。そんな感じです。そういうあなたは、わたしの国と、こことの中間辺り?」
と適当に言ってみる。
「まあそうね。中間でも山脈側です」
そう言われても、この世界の世界地図が頭の中にないので分からん。
へそ出しお姉さんが、陶器のカップに入った見た目はミルクティーな飲み物をテーブルに置いた。ミルクとスパイシーな香りが漂う。この香りは嗅いだことがある。スリルはいらなそうなので一口飲んでみると。
「おお、これはいわゆるマサラティーだね。茶葉をナツメグ、シナモン、ジンジャー、ペッパーなんかと一緒に煮出して、たっぷりの牛乳と砂糖を加えてさらに煮て作るやつ」
「あらよくご存知。飲んだことあった?」
「インドカレーのお店に行くと出てきたなあ。あっ、この香辛料があるなら、カレー料理ってあるのかな。香辛料をふんだんに使った料理。いろんなスパイスを使いこなして、気候や体調にも合わせて、その度にスパイスを挽いて作るんです」
「あたしの出身じゃなくて、もっと南の、海に近い方の料理かなぁ」
「あるんだ! よーし、いつかはカレー料理も再現するぞ」
かれーっていう料理名は聞いたことないけどねと、その女性は言う。まあインドでもそれが普段の食事であって、カレー料理とは呼称しないもんね。日本の白いご飯と味噌汁と漬物に特定の料理名がないみたいなもんだ。おかずとセットになるとナニナニ定食とかナントカ御膳になるけど、不思議とこの3点セットを呼称する正式名称はない。
「君も奴隷なんだな」
ヴェルディがへそ出しお姉さんに聞いた。
えっ、この人も奴隷なのか。雇っている人との違いはなんだろう。
ヴェルディが自分の首をちょいちょいと指す。女性の首を見ると、チョーカーにしてはだいぶ太い金属の首輪をしていた。
そういえばさっきのセクシーっ子達も着けてたわ。アクセサリーかと思ってた。
「はい。ここの店主に買ってもらいました。良くしてもらってるので毎日楽しいですよ」
そう言って微笑んで去っていく後ろ姿はお色気たっぷりで、歩くと布の向こうでふりふりと揺れるお尻が、同じ女性でも目を奪われてしまう。マヤもこういう色気を少し分けてほしいと思った。
「奴隷っていっても、皆が強制労働で虐げられているってわけじゃないんですね」
「待遇は買った者次第だな。まああの娘だって歳取ったらどうなるかわからん」
今は若さゆえに価値があるのか。この先もずっと楽しい人生を送れますようにと、そう祈らざるえない。
「お待たせしました」
男性の店員が紙の束を持ってやってきた。首輪はないので奴隷ではないみたいだ。持ってきたのは一人ひとりのプロフィールが書かれた『カタログ』だった。
年齢、人種や出身地、特技・技能、身体的特徴などがまとめられていた。
「入試の書類選考ってところかな」
ここで異世界転生のテンプレをなぞるなら、格安の人の中から「当り」を見つけなければならないのだろうけど。
うーむ。オキシジェン・デストロイヤーには、人を評価する能力はないな。さっぱりわからん。
安い人ばかり見ていたら、ヴェルディに注意された。
「マヤ、安い人間には安いなりの理由がある。どこか欠けてたり、難しい事情があったりな。見るだけ無駄だぞ」
「そうですよねぇ……」
と思ったが、やたら安い人の中に、若いのにいくつかの店をきりもりしていたという暗算の法力を持つ女性と、リフト法力持ちで建築に携わっていたという男性に目が止まった。女性は21歳、男性は26歳。どちらも『フェアラガード』というところの出身だ。地図上のどこかは分からないけど。
また二人とも法力が著しく弱くなっているという。さらにはどちらも両手両足にやたらと重たい腕輪足輪を着けていて、外れないらしい。そのせいで衰弱してるそうだ。
こういうデメリットをちゃんと書いているところは、お店として偉いね。
他の人もひと通り見たが、安い二人の印象が強かったのか、ピンとこなかった。
「フェアラガードってどこです?」
「ずっと西の方の国だな。いや国だっただ。滅ぼされて消滅したから、民は奴隷にされたんだろう。優れた技術者が多い国だったんだが、ある時から急に国力が落ちて、そのせいで周辺国に攻め滅ぼされたんだ」
「ほー。2人の法力は、どうして弱まっているのかな。法力って強まったり弱まったりすることはよくあるもんなんですか?」
「体力が極端に落ちると弱まるってのはあるな」
「ふうむ。そうすると輪っかのせいで体力削られて衰弱してるからとか?」
どうだろうなと、ヴェルディは肩をすくめる。
いったんそっちは置いといて、氷法力持ちの方も見てみる。
池を凍らせたという人がいて、金貨40枚もした。他はドリンクバーの氷くらいのをコロコロ出せるといったところで、他の技能の方を売りにしていた。それくらいならラースだって鍛えればできるだろう。強力な法力持ちというのは、実はそんなに多くいないのだ。
すると安い人がいた。なんでだろうとよくカタログを読むと、お爺さんだった。
61歳。健康。
この世界の平均寿命が50歳だというから、10歳もオーバーしている。健康と言っても、あと10年生きるのは簡単ではないだろう。先が短いから安いってことだ。
だけど逆に考えれば、平均を超えて生きてるんだからかなり元気な人なわけで、怪我や病気さえ気を付ければ、まだまだ長生きする可能性はある。
法力の方は、バケツサイズの氷を出せるという。
性格が悪くないならいいかもしれない。
「この3人、一度見てみていいですか?」
「本気か?」
ヴェルディに呆れられた。