異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
わたし達はぞろぞろと孤児院の子供達に前後を囲まれて、宿の前の道まで戻ってきた。
すると宿の玄関前に幾人かの人が密集して立っている。なんだ? と手をかざして遠巻きに窺ったリネールさんだが、その中にライナーさんを見つけ、さらに周りを囲んでいる物々しい集団に焦った風を見せた。
「うおっ、ライナーさんが騎士に囲まれてるぞ!」
リネールさんはダッシュして駆けていく。
「なになに? 揉め事?」
「うわ、あれ外国の騎士だよ。いちゃもんつけられてるのー?」
「ええ! 外国の騎士!? サンドラちゃんは離れたところで隠れてて!」
もし危険な揉め事だったら危ないから、巻き込まれないようサンドラちゃんをここに待たせて、わたしもリネールさんの後を追う。
「ちょっとあんたら、ライナーさんに何の用だ!」
「リネール! やっと帰ってきたか!」
「こいつが連れか?」
騎士はリネールさんとわたしをちらと見ると、目線を通りに戻した。
「帰ってきたのは子供ばかりだな。お嬢ちゃん、超特級のハンターってのはどこだ? 一緒に戻ってきたのか?」
「誰の事?」
「巨大マンモスを倒したという人だ」
「ああ……」
わたしは遠い目をする。
それ多分わたしの事だろうけど、騎士さんがいったい何の用だろうか。面倒な事だったら巻き込まれたくないなあ。
「やっと帰ってきましたね、新人Fランク」
ポンと肩に手を置かれた。その手の人を見ると、ハンターギルド受付嬢のケイトさんである。
「チェスター中佐、この娘ですよ。マンモスを仕留めたっていうのは」
「なんだと!?」
ちょっとケイトさん、事情も分かってないところで、ばらさないでほしいんですけど。
「い、いったい何ですか?」
恐る恐る事情を聞こうとしてたら、急にライナーさんに手を引かれた。
「それどころじゃない! 急いで馬車へ乗ってください」
「な、な、な、何ですかあ!?」
「おいサンドラ、そんな所に隠れてないで、お前も馬車に乗ってくれ!」
「ひえ!?」
「騎士のおじさーん。連れてきたからミッションコンプリートだよ。依頼達成のサインしておくれよ」
「本当にその子供の娘でいいのか!?」
「むがっ! 子供じゃありません!」
「その小娘でいいですよ。ケイトが保証します。君達、私がサイン貰っておくから、ギルドに戻っておいで。報酬を払わないとね」
「ありがとう、ケイト姉ちゃん」
「ありがとう!」
「ありがとう!」
「「わーい!」」
いつの間にか宿の周囲は、何事かと様子を見る人で人だかりになっていた。宿の玄関前から馬車と騎士と騎乗ハンターが大急ぎで走り去り、孤児院の子供達が「わーい」と駆けていくと、残った群衆は何があったんですか? さてねえ、と憶測話に花を咲かせ始めた。
◇◇◇
領主の居城へ向かう馬車の中で、わたし達はライナーさんが慌てていた理由について説明を受けた。
わたし達が昼食後もどこかへバックレて、意図的行方不明になってた事へ怒ってた訳じゃないと分かってホッとしたが、そんなのとは次元の違う大人の事情に、気が遠くなった。
ミリヤ皇国の近衛師団が、わたしの仕留めた“マンモスの牙付き頭骨”を買いたがっているという事。来る途中に撃退した盗賊団の討伐報酬が支払われる事。それを領主様直々にお渡しくださるとかで、今城へ向かっている事。そしてそれが終わったら、直ちにリトバレー村へミリヤの商人と一緒に戻る事。
ライナーさんはとくとくと順序と関連を明確にしつつ説明してくれた。非常に分かりやすかった。
「何ですかそれ!? 領都に着いてからぜんぜん腰落ち着けてないのに、もう村に戻るの? イベント詰め込み過ぎです! 過労死しちゃいます!」
羽を伸ばそうとしてた事をそっちのけで文句をたれる。
「馬車で寝ててください。ミリヤの馬車は性能良いので、うちの馬車ほど揺れませんし」
今乗っている馬車がミリヤ皇国の商人のものだそうだ。確かにライナーさんの馬車よりはサスペンションが効いてるかもしれない。とはいっても21世紀の車に乗り慣れてるわたしにはほとんど誤差だ。シェイカー・マーク2だ。
「それに着替えとかは? 荷物が宿に置きっぱで……」
「お部屋にあったカバンは全部持ってきました。もうこの馬車に積んであります」
「……なんて手際のよい」
むー、チェックインしただけで荷を解いてなかったからな。部屋にあったカバンを馬車に放り込んで終わりだったって訳だ。でもよかったよ、中身出してなくて。一応乙女だし、広げた荷物を他の人にいじられたくないしね。
かっぽかっぽといい音を立てて、馬車は領都の行政府エリアへと進んでいく。
◇◇◇
お城は行政府エリアの奥の方にある。水堀でぐるっと囲ってあるとのことだ。
そのお堀を橋で渡って大きな門をくぐると、円形の車止めに荷馬車は止まった。馬車を降りると、待っていた案内係が中へと導く。
お城と言っていたから、シンデレラ城やヨーロッパの古城みたいのを想像していたのに、尖った高い建物は見張り用の塔くらいで、建物は平屋しか見えない。
近くの平屋の建物に入ると、奥へ向かってタイル張りの渡り廊下が続いていた。この平屋はたんなる玄関だったらしい。渡り廊下を歩いて奥へ奥へと入っていく。
渡り廊下の左右には池があったり、岩が置かれてたりと、一種の庭園のようだ。春らしく黄色い色の花が咲いている。
そしてまた大きな平屋の建物にぶち当たる。その平屋に入ると重々しい立派な木の扉があった。両脇に控えていた者が扉を開けると、そこは広間だった。建物自体は石造りだが、中はふんだんに木が使われており、とても落ち着いた雰囲気。豪華絢爛ではなく、質素な美しさなのだ。ヨーロッパの王宮というよりは、日本の皇室の趣味に合ってるかもしれない。
ここで待つようにと言われ、案内の人はいなくなった。扉を開けた人が今度は部屋の内側で扉の横に立ち、静かに見守っている。広間の前の方は床が一段高くなっていて、立派な椅子が1脚ある。王様用の椅子かな? 横には入ってきたのとは別の開けっ放しの扉があった。
暫くして、開けっ放しの扉から一人のしゃちほこばった人がやって来ると、そこで気を付けをし、やや上を向いて声を張り上げた。
「ヘキサリネ領領主ヴェルディ・オヴ・ヘキサリネ様の御出座である」
わたしは緊張して脂汗が出てきた。
豪族の領主。この一帯を治める王様のようなものだ。
ライナーさんやリネールさんらが片膝をついて少し頭を垂れた。わたしはサンドラちゃんを見本にして、見よう見真似で同じようにする。
カツーン、カツーンと足音が近付いてきた。