異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
面接のために、サロンの奥の「商品閲覧室」の扉をくぐった。すぐに鉄格子の扉がある。もちろん脱走防止ってことだろう。
通路のドン着きにも鉄格子があり、そこまでの両側に部屋が10室ほど並んでいる。ドン着きの鉄格子の向こうが奴隷の部屋なんだろう。陰気臭い雰囲気が漂っているから、牢屋のようになってるのかもしれない。
部屋の1つに入ると、広い応接室となっていた。扉側に広いスペースが取ってあって、扉と反対側にテーブルとソファーが寄せて置いてある。
ソファーに座って待っていると、3人が連れてこられ、扉側の広い所に並ばされた。
こうやって品定めするのか。
みんな髪の毛が濡れていて、着ている服は麻の貫頭衣で、一応きれいなので着替えたようだが、これもちょっと湿っている。来る直前に慌てて身体を洗ったんだろう。かなり雑な洗い方だったようで、デッキブラシででもこすられたのか、女の人など太ももが赤く擦り切れているうえに、体力が落ちているせいもあって震えている。だというのに、3人は唯一の着衣である貫頭衣をはぎ取られて、素っ裸にされてしまった。
「どうぞ近くに寄って、ご自由にご覧下さい」
「はわわっ!」
思わず手で目を覆ってしまう。
「意外とウブなんだな」
ヴェルディにニヤニヤされた。
「か、からかわないでくださいっ」
「身体に傷がないかとか、健康チェックのためにも見ておいた方がいいぞ」
しかたなく、おそるおそる手をずらす。
うう、生の男の人の裸なんて、だいぶ前のお父さん以来だよ。
3人それぞれの周りをぐるりと一周する。3人の中では見るからにお爺さんが一番元気だった。若い男女はやせ細っていて、特に女性は骨格標本に皮を被せたみたいにお腹は凹んであばら骨や骨盤が目立ち、見るのも痛々しい。お尻も肉が落ちてしわしわである。
「わ、わかりましたから、もう服着させてあげてください」
店員は、もうよいのですかとヴェルディを仰ぎ見た。
「買うのは俺じゃなくてこいつだ」
一見子供に見えるマヤが買うと聞いて、店員も奴隷も、えっという顔をした。
次は質問コーナー。
まずはお爺さん。もっさりと髭を蓄えていて、ドワーフかヴァイキングにいそうな雰囲気である。髭は水をはじいたらしく、濡れた形跡がない。
「ドワーフじゃないですよね?」
「少し混じっとると聞いちょる、ます」
「へえっ、ドワーフって本当にいるんだ!」
さすがファンタジー世界だ。会ってみたい!
「クォーターとかですか?」
「まだ人間と交易があったころの話じゃけ、そんなもんじゃなかろう、ます。もっと薄まっとるじゃろ、ます」
へんな語尾を付けるな。イレムが領主様と話す時みたいだ。なまりも強いし。
「あの、無理して敬語使おうとしなくていいですよ?」
「それはありがたい。ぜんぜん慣れておらんけの。気分を害される客が多くて、買ってもらえん」
なるほど。奴隷になまりの強いタメ口で話しかけられたら嫌な人もいよう。
それについては、さほど気にならないマヤは、ドワーフというキーワードの方に興味が行って、期待でキラキラした目をヴェルディに向けた。
「今はドワーフと交易ないんですか?」
「ほとんどないな。ヒト族が戦争に明け暮れているから、他の人族は関わらないよう近付いてこなくなった」
「残念。でも全く交流がないわけじゃないんですね」
「うちの領では接点がないがな」
そうかあ。でもいつか会いに行ってみたい。
「それで法力ですけど、バケツサイズの氷を出せるんですね?」
「時間かけずに出せるのはそれくらいじゃ。時間気にせんなら5m四方くらいいけよう」
「え、凄いじゃない!」
「時間がようけかかる。12時間くらいかけてゆっくり育てんのじゃ。若い頃は4時間くらいでできたんもんだがぁの」
「それでもその大きさ作れるならいいんじゃないかな。時間かけて凍らせると空気が抜けて、きれいで丈夫な氷になるしね。氷法力が発現したばっかの子がいるんですが、指導できますか?」
「ええがよ」
「うん、合格!」
お爺さんが驚いていた。
1年でも10年でもいいから、生きて次の世代を指導してもらいたい。その方がこのお爺さんにとっても、奴隷商の冷たい床で買われずに老後を過ごすよりいいだろう。
続いてフェアラガード出身者の2人だ。
アッシュブラウンの髪。肌の色は白人系だけど、ヘキサリネの人のように透き通るような白ではなくもっと濃い。瞳はグリーンがかった茶色だ。ここより日差しが強い土地の人に違いない。
問題は腕と足に付いてる輪っかだ。
「腕輪と足輪を見せてください」
腕は手首から肘まで。足は膝下から踝上までにわたって覆っている。表面はつるんとしていて、厚みは5mmくらい。金属ではなく石のようなものでできている。どうやってはめたのか、つなぎ目もない。
腕を持ってみてその重さに驚いた。鉛や金なんてもんじゃない。これじゃバーベルを手足に括り付けているようなもんだ。女性の方は本当に手が上がらないだろう。
何でできてるかわからないけど、それだけ高密度な物質ってことだ。
劣化ウラン? 放射線が出てたりしてないよね? そのせいで元気がなくなってるんじゃないよね?
マヤは女性に質問する。
「これ、生活にかなり支障があるんじゃないですか? 食事する時、フォークやスプーン持てます?」
「持てますが、口まで持っていくことができません……」
「どうやって食べてたの?」
「床に皿を置いて、直接口で……」
食事を取るのにも支障があったってことだ。奴隷に食べさせてやるという手間をかけるものなどおらぬ訳で。
「失礼ですが、月経はありますか?」
「……もうずっとありません」
衰弱の直接原因は栄養失調じゃなかろうか。
しかしこの腕輪足輪の手触り、どこかで触った感触に似ているなあ。
万が一と思って、腕輪に向かって試してみた。
「
腕輪の表面が光り、サラサラと粉が吹いた。
「!!」
マヤは慌てて止めた。
「ヴェルディ様、見ました!?」
「ああ。マヤのオキシジェンに反応したんだな」
腕輪の上に薄っすらある粉を指でなぞってくっつける。
「魔石粉だな」
「ってことは、これ魔導具ですよ」
なんで魔導具なんか、という疑問より、マヤは自分なら取り外せるということで嬉しくなった。
このまま立たせていると倒れるかもしれないので、床に座ってもらった。ついでにお爺さんも歳だからいいよと、座ってもらった。
いろいろ質問して、2人とも技能の方は優秀だと分かった。
男性の方の法力は『リフト』ということだったが、リトバレー村のチトレイが使ってたのと違って、持ち上げるだけでなく、建築現場での部材の結合などで物を押さえたり固定させたり回転させたり、斜めに維持して微妙な位置を調整したりなど、単なる荷物の積み下ろしに使うのとはだいぶ違う使い方をしていた。建設の腕前も、設計から施工まで一通りできるという。
女性の方は大きい商家に住み込みで働いていて、5軒ほどの店を任されて切り盛りしていたというから、相当なもんだ。『暗算』法力では、簿記でいう損益計算書みたいなのをばばばばって頭の中で作れちゃうらしい。
それってもうコンピューターじゃないのかしら。
吹けば飛んで行きそうな2人を見て、マヤは最終判断をする。
『2人とも能力からしたらかなりの掘り出し物だわ。ただどちらも法力が弱っているのが心配よね。だけどそれも、輪っかの魔導具が影響している可能性がある。なので法力を発揮できるかは、体力と体の改善ができるかどうかにかかっている。回復には長い時間がかかるかしら。途中で病気になったら命に係わるかもしれないし。でも病なら強い味方がいるからな。
賭けてみようか』
「2人とも合格!」
2人して物凄く驚いていた。お爺さんも驚いていた。店員も仰天していた。