異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
投げ売りだったフェアラガード出身者の2人は1人大銀貨1枚(日本円で5千円)、お爺さんが大銀貨1枚と銀貨1枚(日本円で7千円)だった。引き取り手のない3人をまとめて買ったのでまけてくれて、合わせて小金貨1枚と大銀貨1枚にしてくれた。つまり1万5千円。
人間が1人たったの5千円! なんて命が安い世なんだろう。人形やぬいぐるみを買うわけじゃないんだから。
店を出るのに服も必要だから、町民服を3着用意してもらったら、それも小金貨1枚と大銀貨1枚だった。
あなた達、服と同じ値段だなんて……。
「この値段だと、武器の試し斬りか、闇薬師の薬の実験に使われるのがオチだったな」
ヴェルディが恐ろしいことを言うので、マヤは背筋を震わせた。
「しかし手間のかかりそうな奴隷だが、大丈夫か?」
「うーん、確かにしばらくは介護が必要ですよねえ。介護用の奴隷を買っておいた方がいいでしょうか?」
「お前が面倒見れるなら別にいらないだろう」
「わたしがそれにつきっきりになったら、やりたいこともできなくなっちゃう。誰かに分担してもらいたいです」
「であれば人を雇うもよし、奴隷を買うもよし。どちらも自分の手足を増やすようなもんだ。ただ奴隷は、個人の人格なんて無くて主人に逆らえない立場の者だ。命令に忠実に従う分、より自分の分身に近い」
「なるほど。わたしは誰かを雇うでもいいんだけど……。奴隷は買ってしまえばお給金はいらないし、維持費だけで絶対服従。秘密を守るのにも都合がいい……か。それにしても働く前の奴隷にこんなに手間を掛けるのって、変ですかね?」
「いいや、考え方は人それぞれだ」
ヴェルディは、はたから見てるだけである。およそ奴隷の価値と釣り合わないことをしているマヤでも、バカにはしていない。褒めてもいないけどね。懸念や質問には答えてくれるが、意思決定には関わらない。どうなるのか第三者目線で見守っているだけだ。
『でもね、わたしはこの人達がちゃんと働けるようになって、持ち前の優秀な能力を発揮してくれれば、わたしのやりたいことが実現できると思っているのよ。儲けが出るかは分からないけど、孤児院を卒院した子達が明日をも知れぬ生活から少しでも抜け出せられると思うのよ。だから、手間を掛けるだけの価値はきっとある』
決意を確かにすると、マヤは店員に向いた。
「店員さん。身の回りの世話をできる、メイドさんみたいな奴隷をリストアップしてもらえますか?」
「かしこまりました。ちなみに子供メイド3人セットが今セール中なのですが、いかがですか?」
「外の張り紙にあったやつ? それって何歳?」
「12、11、9歳です。姉妹でしてね。店主が、別々に売りに出す前に、1週間だけセット販売を試みている商品でして。別れ離れにならないようにという店主の慈悲ですね」
「その慈悲も1週間までってわけですか。一応見させてもらおうかな」
「では連れてきます。少々お待ちください」
店員が出ていくと、ヴェルディが口を開く。
「従業員と違って給金はいらないといっても、衣食住の維持費は掛かるんだぞ? 子供は成長するから年々上がっていくだろう。まあ、マヤは金にはあまり困ってないんだろうが」
「立ち上げる倉庫業が、それくらいは稼げる商売にならないとってことですね。プレッシャーだなぁ」
それほど待たずして3人の女の子がやってきた。
しっかりとメイド服を着こんでいるじゃないですか。うわぁ、かわいい!
「「「品定めをお願いいたします」」」
可愛らしくスカートの端を持ち上げて挨拶をする三姉妹。
顔を上げた3人はしかし、緊張で強張っている。そしてその目線は、ヴェルディをちらちらと見ていた。
「あ、みんな安心して。お客はこのおっかない大男じゃなくて、わたしだから」
「ぬわにいい?」
おっかない大男呼ばわりされたヴェルディが、心外であるという表情でマヤを睨んだ。
三姉妹は、買うのが大男でないことに一瞬安堵したが、一番上の姉とさほど変わらない年頃に見えるマヤが買い手だと聞いて、それはそれで怯えた顔をした。なんのために? なにをさせるつもり? と不安という文字が顔に書かれている。
「言っときますけど、わたし17歳ですから。立派な成人ですから」
「「「ええっ!!?」」」
不本意ながら三姉妹に驚かれたマヤ。店員や、先に買った奴隷達にも驚かれた。
ヴェルディはこれで溜飲が下がったようで、にやにやして嬉しそうにした。マヤはジト目をヴェルディに向ける。
それはそうとて、マヤは三姉妹の見極めに集中する。
真っ先に気になったのは、真ん中の娘の右足が木の棒になっていることだ。
「ごめんね、嫌なこと聞くかもしれないけど、あなたの右足は、それ義足?」
「……怪我が悪化して腐って、このままでは命も危ないって言われて、腿の途中から切りました」
「うああぁ……」
11歳で足を失うとは。いや、医療の発達が未熟なこの世界では、小さな怪我でも命取りになるのだ。実際この子は顔色もなんだかよくないし、髪や肌の艶も悪い。体調良くないんだろう。
3人とも姉妹というだけあって顔立ちはよく似ている。髪型も同じボブカットなのでよけいだ。シルバーの髪色が白い肌とよく合っている。瞳はダークブルー。末っ娘はダークグリーン? 顔立ちは、日本人からしたら西洋人でくくられてしまう範疇なので、どこの国の人みたいとは言えない。
店員が持ってきたカタログにも目を通す。
3人とも法力は持ってないみたいだ。一番上の子はもう12歳なので、もしかすると発現しない子かもしれない。法力のない人はぞんざいに扱われる世界なので、そのうえ奴隷となると行く末は不安だ。
もう一つ気になるのは、3人とも手足とか背中に切り傷がいくつかあると書かれていることだ。
「傷っていうのを見させてもらっていいかな?」
3人はメイド服を脱がされ、可哀そうに全裸にさせられた。
後ろを向いた時、うっと眉間に皺を寄せてしまった。みんな背中に30cm以上の大きな切り傷が斜めに走っているのだ。
「ひどい……」
傷は雑に縫い合わされており、まだ色も赤くて新しそうだ。そのほか体のあちこちにも大きな傷があって、どれも新しそうなものばかりだ。
「このように傷が多数あるものですから、愛玩奴隷にするには難しく、小間使いの子供メイドとして売りに出したのです」
「愛玩奴隷って、どんな人が買うの?」
「それは、ご勘弁願います」
店員さんは変化のない笑みでするりと逃げた。
テンプレートなら貴族とか富豪とかよね。
女児の裸を鑑賞する趣味はないので、服は着てもらう。
カタログによると、盗賊団によって村が襲撃され両親は亡くなったとある。両親は服の仕立て工房で働いていたようだ。きっと生き残って捕まったこの娘達は、盗賊団によって奴隷商に売られ、ここに流れてきたのだろう。
「家事全般と、体の弱っている大人の男女の世話をしてもらいたいんだけど、できるかな? 介護、介助の経験はある?」
小学生の歳の子には無茶な質問だな、と思ったけど、長女が答えた。
「おじいちゃんが腰が悪かったので、移動とか椅子から立ったり座ったり、ベッドから起きたりするのを手伝ってました。あとノアナ……次女が足を切った時も、しばらくの間自分では何もできなかったので、三女と面倒見てました。あたし達自身も怪我をしていたので、みんなで手当てし合ってました」
意外や丸っきり経験無い訳じゃなかった。
「料理とか洗濯なんかは?」
「お母さんのお手伝いはみんなでよくしてました。パンをこねるのはあたしの仕事でしたし」
「パン焼けるの!?」
「田舎風のごてっとしたものですけど。わたしのいた村は、どこの家も自分でパンを焼いてました」
「お裁縫は? ご両親は仕立て屋工房で働いてたようだけど」
「あたしより次女、三女の方が上手です」
腰を折って9歳とういう三女に目線を合わせる。
「服も作れるの?」
「リ、リリーは、縫うのとか、あと刺繍を練習してました」
「お名前リリーっていうの? へえ、刺繍できるんだ」
少し俯いて恥ずかしそうに頷いた。
次女の方に向く。
「あなたもやってたの?」
「縫うのもできるけど、よくやってたのは型紙からの裁断」
「あそっか。服っていろんなパーツに切ったのを縫い合わせていくんだもんね。型紙も書けるの?」
「書ける。シャツ、チョッキ、ズボン、スカート、下着も一通り覚えてる」
「すごいすごい」
少なくとも服の補修なんかは自前でちゃちゃとできちゃいそうだ。
「いかがです? 体は傷物ですが、小間使いのメイドとしては申し分ないのでは?」
店員が聞いてきた。
「がっつりメイドやってもらいたいんだけどなあ。子供で小さいから、大人の介助をするのがどこまでできるかっていうのが気になるわねぇ」
長女が目を潤まして語りかけてきた。
「子供じゃ……だめですか?」
マヤのハートに何本も矢が突き刺さった。
『い、いや、ダメじゃないのよ! ちょっと値引き交渉に使おうって思っただけなのよ!』
「こ、子供でも、介護経験あるみたいだから、そこは平気かな。子供なのは全然問題ないわ。そう、むしろ子供がいいわ。それでお値段は?」
「3人セットで金貨2枚と小金貨8枚です」
28万円か。さっきの3人が投げ売りだったから差にびっくりするわ。
「一人は義足だし、あまり働けないかもなんだから、金貨1枚、小金貨5枚でいいんじゃない?」
「そ、それはさすがにあり得ません。最低限家事はできますし、体は傷物ですが、3人とも容姿も悪くないでしょう? お客人を迎えるうえでメイドの容姿は重要ですよ。では金貨2枚、小金貨2枚でどうでしょう」
「容姿いいよね! とっても可愛い! あっ、ごほんごほん。確かに可愛いのは認めるけど、皆怪我が思った以上に酷いから治療費とか、かなり掛かりそうなのよね。金貨1枚、小金貨8枚では?」
「……申し訳ありません。金貨2枚でご勘弁願えませんでしょうか」
店員は顔に困った色をにじませている。それだけ価格交渉するんだから買うんだよな? って心配も混ざって見える。
「そうですね。わかりました金貨2枚でオッケーです」
「ありがとうございます」
店員はほっとした。
長女もぱあっと明るい顔になった。
「今着てるメイド服もそのままもらっていいんですよね?」
「そ、それは……」
「なんだ、サービスじゃないの?」
店員はまた難しい顔になってしまった。
ちょんちょんとヴェルディに肩を突っつかれた。
その辺にしとけってことか。能力の高い人は何百万円もしてたし、20万円、30万円の取引なんて、奴隷商売の中じゃぜんぜんたいしたことないんだろうし、それこそ富豪の買い物でもないのに値引きやサービスをごねても嫌がられるだけなんだろう。
そしてマヤは思う。
『それに片足が義足の真ん中の娘は、値はついてないんじゃなかろうか。金貨2枚は長女と末っ娘で、端数の小金貨が真ん中の娘だったんじゃないだろうか。長女と末っ娘だけ引き取られても店側は困るからと、わたしとの値引き交渉の結果、タダになっちゃったのかもしれない』
「わかりました。メイド服も買います。金額に追加してください」
「ありがとうございます。追加、小金貨3枚となります」
メイド服一着1万円か。
先に買った大人たちよりメイド服の方が高いんだけど。
三姉妹はホッとした様子で、嬉しそうに肩を抱き合っていた。