異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
最後に奴隷の証である首輪を作るという。今首に着いてるのは奴隷商のものだから、マヤの所有物であることを刻んだものに取り換えるのだ。「マヤの所有物のナニナニ」と彫るんだという。
「魔法の世界なら、魔法を使った奴隷契約とか紋章なんかを入れそうだけど、魔法がないからありきたりな物なのね。むしろ焼印を押すとか言わなくてよかったわ」
そんなことを思ってほっとしていると、首輪のカタログとサンプルが並べられた。
「デザインや材質は、この中から選べばすぐ作れます。お金のある方は、愛玩奴隷に宝石入りの装飾品のようなのを特注することもありますよ。いかがです?」
「見栄っ張り? わたしの趣味じゃないなあ。でもあんまりみすぼらしいのも可哀そうだし、あと軽い方が負担も少なくていいかな」
「そうすると、この辺りはどうでしょう?」
マヤはできるだけ軽くて見た目の良いものを選んだ。そのせいか結構値が張った。
「1つあたり、小金貨2枚です」
結構良いもののようだからしかたないが、着ける本人よりも首輪の方が高い人もいて、複雑な気持ちである。
「構いません。それでお願いします」
「奴隷の名前はどうされますか?」
「えっ、わたしが決めるの? 今ある名前は?」
「そのまま使うも、新たに名を付けるのも、主人の思うがままです」
個人のアイデンティティは何もかも放棄させられちゃってるんだね。
そういえば『カタログ』には名前が書かれてなかったな。書いてあったのは首輪に刻まれてた番号だ。
マヤは奴隷達の方に向く。
「元の名前を聞かせてください」
「わしはトムトじゃ」
「俺は……ノーバート」
「私はマルリーゼ……です」
「長女のカルラです」
「次女のノアナ」
「三女の……」
「リリーだったね。さっき聞いたよね」
そういって微笑みかけると、嬉しそうに恥ずかしそうに笑った。
うう、お人形さんみたい。この可愛さにやられちゃいそうだ。
フェアラガード出身者の2人は名乗るのも辛そうだった。
「特に悪い印象もないけど。皆さんが今の名前が嫌いとかでなければ、そのままで良いと思いますが。変えたいって人いますか?」
変えてくれという人はいなかった。
「じゃ、名乗ってくれた今の名前のままで作ってください」
「かしこまりました」
マヤは奴隷達の方へ向く。
「大概は親がつけてくれた名前だと思うけど、みんなそれを大切にね」
大人の3人は当惑したように頷いただけだったが、三姉妹はぱあっと明るい笑顔になった。
購入明細が整理され、奴隷の代金と服代と首輪代を支払った。合計で金貨4枚と小金貨3枚。日本円で43万円を払って、これで一応所有権はマヤに移ったわけだ。
マヤは人生で初めて人間を買ったのだ。自分より年上の人を、さらには孤児院のニーシャやレイヤみたいな子供の娘を3人も買ったのである。しかも人間より服や首輪の方が高いとか!
胸の中で倫理観が悲鳴を上げている。
マヤが胸を押さえて眉間に皺を寄せ、目をきつく閉じているので、マルリーゼが「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。この中で一番状態が悪そうな人に心配をかけるほど辛そうに見えたらしい。
「ごめんなさい、大丈夫です」
「首輪が出来上がるまで1時間くらいかかります。お待ちになる間、この部屋をそのままお使いください」
店員は首輪を作らせるため席を離れた。
『1時間か』
地べたに座っている奴隷達に目をやる。
「みんな床に座ってるのもなんなんで、こっち来て座りましょう」
マヤはソファーを勧める。トムトがすぐ返してきた。
「わしら奴隷じゃぞ?」
「お金も払ったし、どう扱うかは所有者のわたしが決めていいんでしょ? これからいっぱい働いてもらうんだから、今くたばられちゃこっちが困るんです」
ということで、無理やり引っ張ってきてソファーに座らせた。
床で構いませんのに、とマルリーゼは言う。そういうマルリーゼが一番座ってほしいんだけど。
「いいのいいの。遠慮しないで。もう何してもいいんですかね? 腕輪とかを……」
ヴェルディに確認をする。
「それは首輪を着けるまで待った方がいい」
「なるほど」
所有権を証明するのが首輪だ。それを着ける前に、奴隷の価値を下げていた輪っかが取れてるとなると、最悪ごねられることがあるのかもしれない。
それじゃあ支障なさそうな別のことをと、店員を呼ぶ。
「待ってる間、皆で何か食べたり飲んだりしたいんですけど。メニューってあります?」
「サロンで出してるものなら、何でも頼めますよ」
体力の落ちたフェアラガードの2人には、いきなりがっつりはきつそうな気がしたので、胃に優しそうな野菜のスープを選んだ。
「トムトさんはどれにします?」
「わしら奴隷じゃぞ? それにさん付けも変じゃろ」
「……じゃあトムト。好きなのどうぞ」
「……串焼き肉」
「三姉妹は?」
「……パンが食べたいです」
「あたしも」
「リリーも」
「店員さーん」
野菜のスープ2つと串焼き肉1つ、どんなのかわからないがパンを3つ、焼き菓子を2皿と紅茶をポットで頼んだ。
「このご主人、マジで頼みおった」
「わたしには、一番の年寄りが一番脂っこいものを所望した方が驚きですけど」
これだけ元気ならこの老人、当分くだばるまい。
運ばれてきた料理に、三姉妹は目を大きくして喜んだ。
「カルラとリリーは、ノーバートとマルリーゼが食べるのを手伝ってあげて。手が上がらないの。これからはしばらく、二人の体力が回復するまで身の世話をやってほしい。ノアナは体調をみてでいいわ。当面はノーバートとマルリーゼ同様に、自分の回復に専念してね」
「そ、そんなで、いいの?」
ノアナは申し訳なさと不安を混ぜた顔をする。
「あなたが倒れたら、トムトに看てもらうわよ?」
トムトに目をやると、串焼き肉が髭の隙間に消えていくところだった。
「なるたけ早く治す」
「失礼じゃぞ小娘」
新しい首輪が出来上がり、首輪の着け換えが終わった。これで文句なく、彼ら彼女らはマヤのものになったのだ。
うう、良心の呵責が。
店員は、マヤの値引き攻勢に苦労したにもかかわらず、またごひいきにと笑顔で見送ってくれた。
「私も嬉しいんですよ。こんな商売ですが、奴隷達が良い人に巡り合い、この先少しでも良い生活が送れることを願っているんです」
そうか。いわば不良在庫を、変な目的に使うためではなく買ってくれたのが嬉しいらしい。
するとさっきのセクシーっ子たちが走ってやってきた。
「お姉さん、遊んでってよぉ」
「あら、ちっちゃな子買ったの? あらあら、そういう方が趣味だったの」
「えぇ~? そぉなのぉ? 残念だわぁ。お子ちゃま好きかぁ」
「ち、違います! わたしにそういう性癖はありません!」
「そういう趣味、お金持ちに多いのよねえ。お姉さんお金持ちのにおいがするし」
「ちっちゃい子は成長早いから、すぅぐお好みゾーンを外れちゃうから、またすぅぐ買いに来るのよねぇ」
「今度お姉さんに、成長した女の子の魅力を教えてあげる」
「時間かけてゆぅっくり気持ちよくしてあげる~。あたしミア。こっちがアイリー。お店来たら指名してねぇ~」
やっぱりこのサロンって風俗なんじゃ……
ああ、三姉妹がそういう用途で買われたと思って怯えてる!
「成長しても長くご主人様に可愛がってもらいたいもんね」
アイリーって娘が怯えてるリリーの頭を撫でながら言った。
カルラは、はっと何かに気付いたようになって、アイリーに詰め寄った。
「成長した女の子の魅力をご主人様に教える時、あたしも同席させてください! あたしもその方法覚えたいです!」
「そ、それ、片足無くてもできるのかな」
ノアナまでそんなことを言う。多分年上のこの二人、お好みゾーンなるものから外れるのが早く訪れるからと、焦ったに違いない。
「もちろんいいわよぉ。奴隷どうしのよしみでみっちり教えちゃう」
「「ありがとうございます!」」
だめだめ。わたしは風俗店を経営したいわけじゃないのよ!
「必要ありません! 成長したくらいで捨てたりしないから!」
「あらあら」
「じゃあ、必要そうになったらいつでもおいでよぉ」
ミアもカルラとノアナの頭を撫でた。
ミアとアイリーはサロンの端っこまでマヤ達を見送り、そこで立ち止まって、指名よろしくーと手を振った。思うに、この2人はサロンから出ちゃいけないんだろう。
ということで、マヤ達はようやく連れ立って奴隷ギルドを出ることができた。