異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
奴隷ギルドを出たマヤ達。
奴隷の6人は、久々の外の光が眩しいらしく、目を線のように細めている。
すぐに宿まで戻りたいが、フェアラガードの2人は輪っかの重りのせいで移動が難しいので、ギルドの横の空き地に入ってすぐに座らせた。さっそく腕輪、足輪を外しにかかるとしよう。
「下に受け皿を作るよ。
固体酸素の大きな箱が出現する。
「ご主人も氷法力か? いやしかし、なんぞか違いおる」
トムトが少し驚いた顔で青い氷を見る。
「わたしのは水の氷じゃないのよ。そのうち説明するから。これ触らないよう気を付けてね。冷たいなんて感じる間もなく凍っちゃうよ」
手を伸ばしかけていたリリーがビクッと手を引っ込める。
「まずはノーバートの腕輪からやろうか」
固体酸素の箱の上に、ヴェルディに支えてもらってノーバートの腕を置くと、腕の周りに酸素を充填した。
「
ザザーッ
腕を覆っていた筒が光りながらみるみる粉になっていく。
「腕輪が、崩れていく!」
腕輪だったものは固体酸素の箱の中に紫色の魔石粉になって積もった。
「よしよし。これで取り外せると分かったわね」
今度は固体酸素の箱の上に足を持ってくる。足輪の方が重たいので、ヴェルディが右足、トムトと三姉妹が左足を持つ。
「
ドサザーッ
「な、何が起こっているのですか。どういうことですかこれは……?」
足輪が崩れていき、すね毛の生えた足が露わになっていくにつれ、足を支えている人達も重さがなくなっていくので、取り除かれて楽になっていってるのだということを実感できた。
「はい終わり。次マルリーゼね」
マルリーゼは信じられないという顔をしてマヤを見上げた。そして期待によって、次第にこけた頬に赤みがさしてきた。
同じ要領で腕輪と足輪を魔石化していると、マルリーゼの目からは涙があふれてきて、途中から嗚咽を漏らすようになった。
「さあ取れたよ。長い間大変だったね。もうこれで辛かった生活も終わりだよ」
「うっ、うっ、うっ……」
マルリーゼは声にならない。そしてマヤのところに這いずってきて、足にしがみついて泣き出した。マヤは屈んでその頭を撫でてあげる。
ノーバートも横で頭を地面にこすりつけていた。
「ありがとうございます。ありがとうございます! 感謝の言葉もありません!」
「ノーバートも今日までよく頑張ったね。もう大丈夫だよ」
ひれ伏しているノーバートの頭も撫でてやる。顔を上げたノーバートも涙でぐしゃぐしゃだった。
国が滅んだ頃からずっと付いていた重りが、外れたのだ。物理的な重さだけでなく、心の重りもとれたかのようで、二人の顔色も急に良くなった。
三姉妹も感激が伝わってもらい泣きしている。トムトは腕を組んでうんうんと何度も頷いていた。
ヴェルディは固体酸素の箱に積もった魔石を手で掬った。
「さすが魔導具だな。普通の魔石より質が良い」
「でも転移装置のほどではないですよ」
「あれはやはり特別なのだろう」
「ええっ? これ、魔石なんですか!?」
ノーバートが目を丸くする。
「あたし達にはめられていたのは、魔導具だったのですか?」
泣きはらした目でマルリーゼが聞いてきた。
「わたしの法力で魔石になったってことは、魔導具で間違いないわね」
「「「ご主人様、凄い!」」」
三姉妹が感激で目をキラキラさせている。
「法力はどう?」
2人は試してみる。
マルリーゼはどこか遠くを見るようにすると、目や頭の周囲で小さな光がチカチカと輝いた。
「つ、使えます。使えます!」
頬のこけた笑顔をこちらに向けて、嬉しそうに言うマルリーゼ。
何か計算でもしたんだろうか。
その脇では幾つもの大小の石がふわふわと浮かんでいる。
「体力が落ちてるから全盛期とは比べるべくもありませんが、明らかに復活してます!」
そう言ってこちらも嬉しそうなノーバート。それらの石が同時に動いて積み上がっていき、山の上でよく見るケルンのようなのを作ってみせた。
「なんか、私がよく見るリフトと動きが違う気がする」
マヤがそう言うと、ノーバートは石を8つ同時に浮かせた。
「俺のは持ち上げるというより、掴む感じなんです。同時に8箇所まで掴めます。建築では一人で部材を持って組み立てができるんで便利なんですよ。掴んでるから持ち上げるだけでなく、下に叩きつけたりもできます」
勢いをつけてドンッと石を地面にぶつけた。
「いわゆるリフトだと、手を離したように落とすことしかできませんからね」
「へえーっ。掴めるんだ。じゃあ『グリップリフト』だね」
ノーバートは「おおっ!」と感嘆した。
「俺、今後はこの法力を『グリップリフト』って呼びます!」
嬉しそうに笑顔になるノーバート。
マルリーゼがまた感激して泣き出しそうになったので、後でゆっくりその時間作るからと2人を立たせた。
「歩ける?」
「「はい、大丈夫です」」
いうなれば重りを付けてトレーニングをしていたようなものなので、体が軽い、足が軽いと言って歩いてくれた。お腹に食べ物を入れた後というのもよかったかもしれない。それでもやっぱりマルリーゼは辛そうで、カルラとリリーが支えてくれた。
そこまで見届けたヴェルディは、穏やかに微笑むと引き上げると言った。
「じゃあ俺は屋敷に帰るぞ」
「あっ、すみません、ご案内ありがとうございました」
「なかなか面白いものを見させてもらった。あとはうまく開業して営業できるといいがな。困ったらまた言ってこい」
「ありがとうございます」
ひらひらと後ろ手に手を振り去っていく大男を、マヤがぺこぺことお辞儀をして見送ったので、トムトが怪訝な顔をした。
「誰なんじゃい?」
「まあそのうち教えますよ。さて、ノーバートとマルリーゼが持ってきた貢物を換金しましょうか」
「貢物?」
「これのこと」
固体酸素の受け皿から麻袋に移し替えた紫の魔石粉。魔導具の輪っかだった物だ。
魔導具だった時にはあんなに重たかったのに、魔石粉になると12kgくらいにしかならなかった。それでもマヤには十分重たい。物理法則はどうなっているんだろうと思い悩む。
ノーバートは今までついていた腕輪より軽い軽いといって袋を持とうとしたが、やっぱりふらついて危なかったので、トムトが持ってくれた。
「これはあなた達の持参金みたいなものだから、皆のために遠慮なく使わせてもらうわね」
「もちろん構いませんが」
「厄介物だったものがお金になって役に立つなら嬉しいです」
「わしは何も出しとらんぞ」
「おじいちゃんは2人の体力回復を手伝ってあげてね」
さほど離れてないところにある探検者ギルドに行くと、奴隷達を外で待たせて、マヤだけ中に入って、買取カウンターで魔石粉を買い取ってもらった。魔石がインフレしているヘキサリネ価格で60金貨。600万円にもなった。
「「「金貨60枚!?」」」
ギルドの外で待ってた奴隷達に換金額を伝えると、腰を抜かしていた。
「これだけでも元が取れてお釣りじゃらじゃらだね。まあこれはあなた達の当面の衣食住のために使うけど」
「ご主人様のために使ってくださっていいのに……」
とマルリーゼ。
「そのうち、あなた達はこの価値以上のことをやるのよ。その前に、寝場所と食事が必要よね」
ということで、いったんマヤの宿舎であり、リトバレー村の領都出張所にもなってる宿屋に帰った。そして二階の部屋を2つ、1ヵ月借りた。男性用と女性用だ。
そして食堂のお姉さんから、パンとハムと野菜と果物を籠に盛ってもらい、女将さんにお湯を用意してもらって、簡単に6人の新たな宿泊客、というか居候について説明して、もし何かあっても、お金で何とかなるならわたしにつけといてと言って、二階に戻ると6人に湯浴みするよう命令する。清潔は健康に直結するのだ。
「トムトはノーバートを手伝ってあげてね」
「介護する人間が逆じゃないか?」
「女性陣は女性内でうまく役割分担してね。とりあえず長女のカルラが中心になって動いてちょうだい。湯浴みが終わったら、これ食べて体を休めて。後は寝てていいから。とにかく今は、奴隷生活で疲労した体を元に戻すのが先」
と、テーブルの上に食料の入った籠をドンと置く。
「わたしは商業ギルドに行ってくるから。夕方には帰るから。何かあったら女将さんに相談して。それじゃ後でね」
マヤは一通りまくしたてると、部屋を飛び出て、階段の手すりを滑って階下に降りていった。
「忙しいご主人じゃのぉ」
「ご主人様かっこいい」
「かっこいいね」
「かっこいいー」