異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
日が傾きかけたころ、マヤは宿に帰ってきた。
「ただいまー」
「あ、マヤちゃんお帰りー」
「やあ、お帰りー」
ちょうどサンドラとリネールも戻ってきたところのようで、玄関横の待合椅子のところで荷物を降ろしていた。
「ご主人様が戻ってきた!」
二階の階段の方から子供の声がした。声の方に目を向けると、玄関を見張っていたらしい三女のリリーがいて、その声を聞くや長女のカルラと共に駆け下り、少し遅れて義足の次女のノアナがカッコンカッコンと階段を下りてやって来た。息が少し荒くなったノアナを急いで引き寄せると、子供メイド3人が横に並んで「ご主人様、お帰りなさいませ」とお辞儀をした。
「マ、マ、マ、マヤちゃん、どうしちゃったの!? この子達、なあに!?」
サンドラがびっくりする。フロント係の人も何事かと首を伸ばした。
サンドラがマヤの方に歩いていくと、3人がガードするように立ちはだかったので、サンドラが憤慨した。
「わたしのマヤちゃんになにするの!?」
「わたしの? あなたもマヤ様の奴隷ですか?」
怪訝な顔でサンドラに問いかける長女のカルラ。
「奴隷?」
これはいかんと、マヤはカルラ達を制止する。
「ああ、違うのよ。この娘はサンドラちゃん。わたしの妹」
「妹? でもこの人は金髪だし、肌の色もご主人様と違うし、この辺りの人みたいだけど」
「ご主人様のような東方の人には見えない」
リリーとノアナはなおも警戒の色を崩さずにいる。
「血はつながってなくてもわたしが妹なの! 妹の座は渡さないのー!」
妹の地位を取られると思ったサンドラが三姉妹とバチバチ火花を散らす。リネールはサンドラの後ろで、どうしたものかと頭を掻いている。
「そっちの男の人は?」
そのリネールに、カルラはさらに警戒を強めた目線を向ける。だというのに緊張感のないリネールは空気を読まない発言をする。
「俺かい? 俺はマヤさんの恋人だよ」
「はあ!? 違います! 面倒になるんで引っ掻き回さないでください! この人は
「単なる……お調子者……」
マヤに間髪入れずに否定され、なんだかショックを受けているリネール。
「実はね、わたし奴隷を買ったんだ」
「「えええ!?」」
サンドラとリネールが目を真ん丸にした。
玄関にお客が入ってきたので、マヤは出入りの邪魔にならないよう、フロント前の待合スペースに皆を移動させる。
観葉植物の鉢を動かして、気持ちフロントの方との目隠しをすると、マヤはサンドラを自分の小脇に引き寄せ、話の続きをした。
「えっとね、わたしとこの娘、サンドラちゃんとは、深い絆で結ばれた仲なのよ」
カルラはどういうことですかと首を傾げる。
「わたしがこの地にようやくたどり着いて、右も左も分からないで途方に暮れてた時に、わたしを助けてくれた命の恩人がサンドラちゃんなんだ。サンドラちゃんの両親も、わたしがもう帰れないだろう遠く離れた祖国に代わって、この地での帰る場所になる、待っている家と家族になるって言って、わたしを受け入れてくれたの。だからわたし達は姉妹になったんだ」
「ご主人様も、あたし達と同じように帰る所がなかったのですか?」
「国が滅ぼされちゃったの?」
三姉妹が心配そうに眉を歪めた。
「あまりにも遠いからよ。それに辛いことがいっぱいあったから帰りたいとも思わないしね」
同じように帰る場所をなくした自分達と重ねているのか、3人は「ご主人様……」と涙ぐむ。
「……まあそのことはそんなに気にしてないのよ。それに今ではここヘキサリネがわたしの故郷だからね。ちなみにリネールさんはサンドラちゃんと同じ村の人だよ。そういうことだから、サンドラちゃんとも仲良くしてね」
「わかりました。よろしくお願いします、サンドラ様」
カルラを筆頭に、3人は頭を下げた。
「さ、様はいらないの。それでマヤちゃん、この子達は奴隷なの?」
「うん。この子が長女のカルラ12歳。こっちが次女のノアナ11歳。一番小さい子が三女のリリー9歳ね」
「サンドラなの。よろしくね。13歳なの」
ノアナとカルラが顔を突き合わせて相談する。
「カルラより上」
「じゃあサンドラお姉様だね」
「様はなくていいよ」
「じゃあサンドラお姉ちゃん!」
リリーの決定打に、サンドラは肩をぴょんと上げて頬を染めた。
「か、かわいいいぃぃ」
サンドラは思わずリリーの頭を撫でてしまう。マヤもうんうんと何度も頷いた。
そうなのよ。この娘の可愛さは尋常じゃないのよ。
「ねえマヤちゃん、なんで奴隷の子を買ったの?」
「いやあ、それが色々あってね。実は倉庫を建てて、ストレージにしまってある大量の魔物を、ギルドが引き取るまでそこで保管しようと思ったんだ。ディオネアの枯れ葉で壁を覆って冷凍状態で保管できるようにしてね。そしてその魔物が捌けたあとも、冷凍冷蔵倉庫として料金取って一般にも貸し出そうって思って」
「あ、なるほどなの。マヤちゃんのオキシジェンの氷でいつも冷たくしておくのね?」
「ちょっと違う。それだとわたしがずっと領都にいないとになるでしょ。だから氷法力の人に氷を作ってもらった方がいいと思って。そこで孤児院のラースが働けるんじゃないかと思ったの。ついでに荷物の出し入れとかにも人手がいるから、他の孤児院の子達にも手伝ってもらえるといいなあって。そんな倉庫を作れば、孤児院を卒院した後も、安全に働ける場所になるでしょ?」
「わあ、マヤちゃん、孤児院の子達のことをどうにかしたいって言ってたけど、本当に実現させるつもりなんだ!」
「うん。それで孤児院の近くに、もう土地を買っちゃったんだ」
「買っちゃったの!? やること早いの」
三姉妹も、おおっと歓声をあげた。
でもぉ、とサンドラが頬に指を当てた。
「ラースの氷法力はまだ発現したばっかりだから、倉庫を冷やせるほどの氷はまだ出せないと思うの。あと、ディオネアの葉っぱのことは秘密にしておくんだったよね?」
「うん。だから奴隷を買ったのよ。身内で事を進めて秘密が漏れないようにするためにね。氷法力を使える人、倉庫建設ができる人、倉庫経営を任せられる人を探して買ってきたわ」
「それが……この娘達?」
サンドラが首を傾げる。
「それがね、実は建設と経営ができる人は別にいるんだけど、衰弱しちゃっててしばらく看護してあげないとで、今は二階の部屋で休んでもらってるのよ。で、この娘達はその人達の面倒をみてもらうために追加で買ったの。3人セットだったんだ」
「看護が必要な奴隷をわざわざ買ったのかい!?」
リネールがびっくりと呆れを混ぜて声を上げた。
「おかげでとっても安かったのよ」
「そりゃ安いだろうよ」
「安く売られてたってことは、その人達そうとう酷いのよね?」
サンドラはそれ以上に奴隷達の状態を心配した。
「ちゃんと働けるようになるの? 看護のためにこの娘達買ったりとか、かえってお金かかってる気もするの」
「その人達が衰弱した原因は、手足に着けられていた魔導具が原因だったようなのよね」
「「ま、魔導具!?」」
魔導具と聞いて、サンドラとリネールが真顔になる。なにしろ魔導具は魔族が作る物なのだ。それに2人とも魔族と戦いになった場に居合わせてもいる。
「魔導具はわたしが取っ払っちゃったからもう大丈夫。サンドラちゃんには、衰弱した二人の体の具合を診て欲しいんだ。たぶん栄養失調だと思うんだけどね」
「わかったの」
サンドラはお仕事モードに入って、真剣な顔で返事をする。
「ご主人様があたし達を買い求めた経緯は、そういうことだったんですね。お考えを初めて聞きました。なんて慈悲深くて壮大な計画でしょう」
カルラが感激して、うっすらと涙を浮かべている。
「ご主人様の計画を、あたしも手伝いたい」
「よくわかんないけど、あたしも手伝うー」
ノアナは静かに力強く、リリーは元気に手を上げて、マヤに付いてきてくれるという。マヤは嬉しくなった。
その前に、この子達も万全ではないのだ。
「それとこの娘達なんだけど、村が盗賊団に襲われて捕まって奴隷商に売られたんだそうで、襲われた時の傷が体中のあちこちに残ってるの。かなり大きな傷跡になってて酷いのよ」
サンドラは、まあ可哀そうにと3人を見つめる。そしてノアナの木の棒になった右足で目が止まった。
「もしかしてあなたの足も、その時に?」
ノアナはコクリと頷く。
「その時の傷がもとで」
「ちょっと気になってたんだけど、あなたは今も体調悪そうなの」
サンドラはノアナの額に手をやる。手を当ててすぐ目を険しくした。
「やっぱり微熱があるの。少し発汗もある。顔色も良くないし体臭も健康な人のじゃないの。これが足の傷から来てるのなら……最悪命に関わるの」
三姉妹は青ざめた。
「呼吸が苦しくなったり、体のどこかがけいれんしたりはしない?」
「う、動くと少し苦しくなるけど、けいれんはない」
返事をしたノアナはさらに震える声で聞いた。
「あ、足は腐った。だから切った。でも遅かった? あたし、身体も腐っちゃうの?」
サンドラはノアナのメイド服のスカートの中に手を入れて、義足のはまっている太腿に手を当てる。
「熱い。やっぱりここが原因みたいなの」
立ち上がったサンドラを不安な顔で見上げる三姉妹。
「薬取ってくるの」