異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
サンドラは待合場の壁にもたれかけてあるザックのところに行くと、中から小瓶を取ってきた。
えっ、超回復ポーション!
マヤはその瓶を見て叫びそうになったのを、慌てて手で口を押さえて止めた。国家の超極秘薬だからだ。リトバレー村の薬師が残した実験レシピを基に、サンドラが完成させたポーションだ。
「どうして持ってるの? 生産者だから?」
「こないだの魔物スタンピードの討伐クエストで、最前線基地で使ったときに使い切ってなかったのが鞄に残ってたの」
「持って帰っちゃったの? 管理が甘いなあ。サンドラちゃんだからよかったけど」
「この娘に使える分くらいがちょうど残ってるの」
栓を開けるとノアナに差し出した。
「全部飲んじゃって。びっくりするほどおいしくないけど、我慢してなの」
震える手で受け取ったノアナは、濃い青色の瓶の中で黒っぽく見える液体を恐ろし気に見下ろし、ごくっと唾を飲んだあと、一気にあおった。とたんに目を大きく開き、口を手で押さえた。見ただけで凄まじく不味いのが伝わってくる。
目尻に涙を浮かべて目をきつく閉じ、なんとか飲み込む。そのまま目を閉じたまま、耐えるようにプルプルと震えていた。
少しして、ぶるるるっと下から上へ大きく身震いすると、涙の滲んだ目を開けた。
「足の、かっかしてるのが消えた。……腕の痛いのも。背中のヒリヒリも」
ノアナは腕を触ったあと、袖を捲った。そして目を大きく見開いた。
「き、傷が、なくなってる」
カルラとリリーも、ええっと声を上げてノアナの腕を覗き込んだ。
さらにノアナはズロースが見えるのも気にせずスカートを捲り上げ、右足の義足を外しにかかる。
「リネールさん、あっち向く!」
「は、はいーっ」
太腿から義足の木の足当てを抜くと、太腿の切断したところに巻いていた布には血や体液が滲んでいた。血は新しいものだ。完全には切り口が塞がってなかったか、化膿していたのかもしれない。気にかけてあげれてなかったことに、マヤは後悔の念が持ち上がる。
でも布を取ると、切断したところの皮膚はきれいに丸くなって塞がっていた。血が出るような傷は見当たらない。
そして残念だが足は再生していない。超回復ポーションにそこまでの力はないのだ。
「足も痛くない」
さらにさらにノアナは、メイド服の上半身も全部いっぺんにすぽっと脱ぎ捨ててしまった。
「わあっ! ここ宿の玄関だよ!? 人が来るかもしれないのに!」
「見ちゃだめなの!」
「リネールさん、引き続きあっち向いてて!」
「向いてるよーっ」
「みんなで囲って!」
女の子4人で円陣を組んで見えなくした。
「まったくノアナは! 場所を考えなよぉ!」
怒るカルラだが、その目はノアナの体に釘付けになった。
4人に囲まれた中心には、ノアナの11歳児らしい可愛いい裸が、それもきれいな裸があった。
手を上げ、首を巡らし、体をひねり、ノアナは上半身をあちこち見回す。
背中を斜めに横切っていた痛々しい大きな刀傷は、もう跡形もない。当然それより小さかった無数の切り傷もない。
ノアナは信じられないという顔を持ち上げた。そしてカルラとリリーはそれ以上に驚いている。マヤはポーションの効果を知っているからそれほど驚かなかったが、奴隷商で目を伏せたくなるような痛々しい全裸姿を一度見ているから、きれいになったことにほっとした。
「こ、これ、さっき飲んだポーションで……?」
ノアナが涙をためて声を漏らす。
「凄いでしょ。サンドラちゃんが作った薬だよ。大きな傷もたちどころに治っちゃう」
「そ、そんな薬、ものすごく高いんじゃ……。ご主人様に負担が……」
ノアナが両手を口に当てて青ざめる。
「高いだろうねえ。売ってないから値段分からないけど。それに存在自体秘密にしてるものだし」
「たまたま残ってたものだから、気にしなくていいの」
サンドラがニコッと笑ってそう言ったので、ノアナはほっとして肩の力が抜けた。カルラとリリーもよかったねと寄りそう。
サンドラはさらにノアナの額や体を触った。
「でも熱はまだあるの。傷は治ったけど、それで起きてる病はまだ治ってないの」
「たぶん傷口から細菌が入って、体の中で悪さしてるんだね」
超回復ポーションは傷は治すけど、抗生物質のようにウイルスや細菌を殺したり、それらによって起こった炎症までは治せないのだ。
「マヤちゃんが前に言ってた、目に見えないほど小さい生物?」
「そうそう。体の中で増えて、いろんな病気を起こすんだ」
小さな虫が体の中にもぞもぞ入って、増えてうごめいているのを想像したノアナは、自分の肩を抱いた。カルラとリリーはノアナの体から虫が溢れ出るのを想像して、「ひぃぃっ!」と小さな悲鳴を上げる。
「怪我を処置した後に飲む薬のレシピってのがあるの。それ飲んでおくと、傷口が悪化したり熱が出たりするのを防ぐんだけど、それってそういう小さい生物をやっつけるものだったのかな」
「きっと感染症を防ぐためのだね。そうに違いないよ」
「じゃ、それ作ってあげるの」
「サンドラちゃん。カルラとリリーにも体中に同じような切り傷があるんだ」
「はいなの。あ、でもここで診るのはやめよう。お部屋へ移動しよう」
確かに。傷を確かめるためにまた服を脱ぐかもしれない。
ノアナに服を着させると、皆は二階のカルラ達の部屋に向かった。