異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「リネールさんはドアの前で見張りね」
「つまんない役だなあ。あ、見たいわけじゃないよ。サンドラの裸で見飽きてるから」
三姉妹が思いっきり引いている。
「小さい頃の話なのっ」
サンドラは赤い顔をして頬を膨らませた。
「入ります」
カルラがひと声かけてドアを開ける。どやどやと三姉妹に続きマヤも入ってきたので、中にいたマルリーゼは慌てて立ち上がり、ふらふらしながらお辞儀をした。
「おかえりなさいませ、ご主人様。お迎えに行けず、申し訳ありません」
「いいのよマルリーゼ。危ないから横になってて。少しは休めた?」
一緒に入ってきたサンドラはマルリーゼを見るなり固まった。
「あら、そっちのお嬢さんは?」
「わたしの妹のサンドラちゃん」
「ご主人様の妹君?」
「説明は後でね。あと二人説明が必要な人がいるし、まとめてやるから」
一方のサンドラはなんだかとっても慌てていた。
「こ、この人もマヤちゃんが買った奴隷?」
「経理とお店の運営ができる人ってことで買ったマルリーゼよ。着ている服と奴隷の首輪の方が高かったくらい投げ売りされてたから、きっとかなり良くない状態なんだと思う」
「栄養状態が危険なほどに悪いの! 本当に命に関わるの!」
その慌てぶりに、マヤは値段の安さの訳を改めて知る。
「そんなに!? ご、ごめん。治せる?」
「最近食べたものは?」
「お昼に野菜のスープを。この宿に来てパンをひとかけら。その前は奴隷商で屑肉を少し食べましたが、もどしてしまいました」
「野菜スープは飲めるのね。パンは食べても大丈夫だったの?」
「はい。ひとかけらだけでしたけど」
「まだたくさん食べるようなことはしないでね。かえってよくないの。今すぐ薬作るね!」
サンドラはドアを開けてリネールの脇に置いてあるザックを漁る。
忙しくさせて申し訳ないと、マヤはその後ろ姿に両手を合わせた。
ドアのところにいたリネールはびっくりして、ザックの中をぶちまけているサンドラを見つめたあと、振り返って部屋の中を覗いた。そして頬のコケたマルリーゼと目が合い、「し、失礼!」と後ろを向く。マヤは慌ててドアを閉めた。
「こらあ、覗くなーっ」
「ごめんよお」
対してマルリーゼは落ち着いた様子で問うた。
「あの方は?」
「わたしの仕事の同僚なの。リネールさんっていうんだ」
「ご主人様のお仕事仲間? お見苦しいものをあたしも見せしてしまいました」
「何言ってるの。マルリーゼはちゃんとお肉がついたら、誰もが目を惹く美人さんになるんだから」
「ご冗談を。それで妹さんは、薬を作るとか……?」
「あ、そうそう。サンドラちゃんは優秀な薬師見習いで、しかも薬効アップの法力を持ってるのよ」
サンドラは三階の部屋にも行って、乾燥した薬草の入った瓶を何本か抱えて戻ってきた。
「ごめんねぇサンドラちゃん」
「みんなが元気になれば、マヤちゃんのやりたいことができるのよね? ならそれをお手伝いするのがわたしだし、リトバレー村の民の役目なの」
「それじゃまるで、わたしはリトバレーの人達を奴隷にしてるみたいじゃない」
「マヤちゃんのためになりたいっていう個人個人の意思だから気にしないで。それにこの人だって、マヤちゃんに買ってもらわなかったら、あとどれくらいもったかわからないよ。マヤちゃんはまた人を救ったの」
「わたしは買っただけで、救えるかはサンドラちゃん頼りなんだだけど」
「大丈夫、救えるよ。わたしがマヤちゃんをお手伝いしてできることは、マヤちゃんができることと同義。だからマヤちゃんが救ったの。お姉さんは元気になるよ。マヤちゃんのおかげでね」
「はい、解かってます。ありがとうございます、ご主人様。サンドラ様」
「様はいらないの」
サンドラは持ってきた小道具入れを開けて、調合用のすり鉢や棒天秤を出し、それらをテーブルの上に並べた。
棒天秤で乾燥薬草を計量し、すり鉢で挽いて細かい粉にしていく。するとすり鉢の中が輝き始めた。金色の粒が時たま舞う。
「わあキレイ……」
リリーが目を輝かせる。カルラとノアナも驚きと興味で見入っている。
「わたしの薬効アップの法力なの」
「さっきノアナに飲ませたポーションもこうやって?」
「うん。わたしとわたしのお母さんで作ってて、お母さんも同じ法力を持ってるの。わたしより法力が強力だったんだけど」
「すごいお母さんね!」
リリーは身を乗り出すほどに感心した。
「だったんだけどっていうことは、今は違うの?」
ノアナはサンドラの最後の言葉の微妙なところを感じ取った。
「最近、ちょっと追いついてきた感じがするの」
「おおっ! てことはいよいよ効能アップが10倍に?」
マヤは嬉しくなって聞き返す。
「うん。でもそれっておかしいの。この1、2ヵ月でこんなに法力が成長するなんて、今まで聞いたことないの」
「このところ探検者活動でいっぱい薬作ったからじゃない? 実戦経験で鍛えられたんじゃないかな」
「うん。マヤちゃんと一緒に探検者やるようになってからなの。マヤちゃんと会ってからなの」
「……は?」
「マヤちゃんと一緒にいるようになってから、法力の力が爆上がりしてるの」
「……え? わたしって法力にバフ付けしてるの?」
「ばふ?」
「能力向上効果っていうのかな」
「うん、それあるかもなの!」
「えーっ? 酸素出し入れしてるだけなのに?」
「サンソにそういう効果があるのかな」
「リ、リネールさーん」
マヤはドアの向こうのリネールに声を掛ける。
「なんだい?」
ドアの向こうからリネールの返事が返った。
「リネールさん、最近自分の法力が成長したって感じある?」
「あぁー、炎の制御が格段にうまくなったね。魔物と戦うことが増えたし、やっぱ俺って、才能あったんだなあ」
「パワーは? 炎の威力が増したとかは?」
「威力も上がったね。もう年齢的に法力の力は上がらないはずなんだけど。俺なんかすごくねえ?」
マヤとサンドラは顔を見合わせる。
「きっと勘違いしてるけど、リネールさんにも効いてそうなの」
「うわあ……」
そうなの? オキシジェン・デストロイヤーにも、とうとうデストロイヤーでない部分がでてきたってことかしら!?
「治療は終わったのかい?」
「あ、いえ、まだ! もうちょっとそこで番しててね!」
「あ~い」
リネールに言われて、2人は治療中だったことを思い出した。
「と、とりあえず、それを確かめるのはまた今度にして、今は薬の方に集中しようか」
「そ、そうね。えーっと、あと最後にお塩をちょっと入れて」
塩を加えると、またキラキラ光っているすり鉢で念入りに擦り、パウダー状になった薬を紙に包んで小分けした。一包はカップに入れて湯を注ぎ、それをマルリーゼに渡した。
「食事の前にこれをたっぷりの湯に溶かして飲んでね。ずっと栄養が取れてなかった人に足りないものが入ってて、体の中の調子を整える薬なの」
「塩とかも入れてたし、電解質が補給できるのかな」
「しばらくはスープとかおかゆを中心に摂ってね。まだたくさん食べるようなことはしちゃだめなの。甘いものも食べないでおいて。急に栄養のあるものを食べると、意識がなくなったり、息ができなくなったりすることもあるの」
「飢餓状態で食べるのって、そんなに危ないんだっけ?」
「そうなの。この薬はそうならないように体の中のバランスを取ってくれるの」
薬湯を飲み干したマルリーゼは、ベッドに座りながら頭を下げた。
「手間のかかる奴隷で申し訳ありません。こんなに良くしてもらってあたしどうすればいいのか……」
「元気になって、わたしのために働いてくれればいいのよ」
「はい。早く回復するようにかんばります」
「えーっと、それじゃああなた達の傷も診ましょうか」
部屋に入るなりサンドラが、一目でマルリーゼがなるべく早く処置しないと危ない状態だと診立てたので、後回しにされていたカルラとノアナとリリーである。さっそくカルラとリリーにはメイド服を脱いでもらって、サンドラに体中の傷を診てもらった。
「ひどい。子供の女の子に平気でこんな傷をつけるなんて……」
傷を見たサンドラは、目元を歪めて口元を覆った。
「これじゃ普通の傷の手当だと、傷跡が残っちゃうの」
「そもそもこれだけ深い傷を受けたんです。跡が残らないなんてこと思ってません」
「でもカルラ、ノアナはきれいになったよ?」
「リリー、それは値段もつかないほど高いポーションを使ったからよ」
「……そうかぁ。」
リリーは残念そうに俯いた。マヤはサンドラに視線を向けた。
「サンドラちゃん、1本なんとか譲ってもらえないのかな。お金なら出すよ?」
「う~ん、一応相談してみるけど、国管理の秘匿薬でしょ。個人的な用途で使わせてくれるかな」
「まあ、ダメだったら領主様に相談してみるよ」
「領主様? 領主様って、ヘキサリネのですか?」
マルリーゼが聞いてくる。
「うん。ほら、あなた達買いに行ったとき、いかつい大男が一緒にいたでしょ? あれが領主様よ。変装してたけど、あれでも一応」
「「「「!」」」」
奴隷の皆が飛び上がって驚いた。
「ご主人様は領主様とも親しいご関係なんですか!?」
「……ははは。まあいろんな理由で、わたしが捨て置けない存在だからなんだけど」
「「「ご主人様、凄い人なんですね!」」」
「ま、まあね」
平和的なじゃない方に凄いんだけどね。
「あ、ちなみにサンドラちゃんも領主様に一目置かれてるよ」
「わ、わたしはマヤちゃんの傍にいたから、ついでに知ってもらっただけなの」
「ノアナの傷を跡形もなく治したポーションを作った人なら頷けます。サンドラお姉さんも凄い人です!」
カルラは拳を握って力説する。
「あたし達、とんでもない方に買われたようですね」
マルリーゼがそう言うと、三姉妹も横に並んでうんうんと頷く。
「カルラとリリーの傷は、いったんポーションが手に入るかを待つとして、マルリーゼにも傷があったよね」
マルリーゼにも服を脱いでもらった。せっかくの大人の女性なのに、あまりにもやせ細っているので目を覆いたくなる。身体中擦った跡が赤くなっていて、しかも強くやったところは擦り傷となって血や体液が滲んできている。特に内股のが酷い。
「わあ、これも酷いの! 女性の大事なところまで傷がついて……何されたの?」
「ご主人様のお目に止まって呼ばれたので、閲覧台に並ぶために事前に身体中をブラシで擦って洗われました。ずっと売られる見込みもなかったので、酷く汚れてましたから。おそらく洗わずにあそこに並んでいたら、酷い異臭を放っていたと思います」
「ごめんねえ、ごめんねえ」
「いいえご主人様。呼んでいただかなければ、あたしは確実に死んでましたから。感謝しております」
「とにかく傷を放っておくと、マヤちゃんの言うところの見えない生物が体の中に入って病気になっちゃうの。それにマルリーゼさんは栄養失調で体力が無さ過ぎて、ポーションで体の傷を治すだけの体力的ゆとりがないから、自然治癒に任せるの。カルラとノアナとリリーの分と合わせて傷薬と、傷処置後の薬を作るから、ちょっと待っててね」
「まあ、ありがとうございます」
「お姉様ありがとうございます!」
「ありがとう」
「お姉ちゃんありがとう!」
皆に服を着てもらうと、リネールを部屋に入れた。皆に改めて紹介すると、サンドラの薬作りを手伝ってもらう。一部火で炙ったり、沸騰させたりする工程があったからだ。
薬ができあがると、リネールにはもう一度部屋を出てドアの番をしてもらう。
中では女性陣がもう一度服を脱ぎ、サンドラが作った軟膏を患部に塗り、薬湯を飲んだ。
「体中がポカポカする~」
「擦り傷のズキズキするのが無くなりました」
「サンドラちゃんの法力で作った傷薬は、塗ったその場から痛みも引いてどんどんよくなっていくよ。ちょっとした傷なら一晩で治るくらい凄いから、これだって超回復薬って言っていいんじゃないだろうか」
マルリーゼの擦ってついた赤みなど、どんどん消えていくし、カルラとリリーの小さな傷なんか、目で見える速度で塞がっていく。
「ほんとうに凄いね!」
「マヤちゃんと一緒にいるようになってから、効き目が爆上がりなの」
喜びあっている三姉妹を見ていたマルリーゼは、それを自分のことのように喜んでいたが、同時に「嬉しさが湧いてきたら、お腹がすいてきました」と言った。
「マルリーゼさんのお食事を作るよ!」
服を着ながらカルラが言った。
「サンドラお姉ちゃん、スープとおかゆがいいのよね?」
リリーがサンドラに聞く。サンドラは、妹ができたみたいだと喜んだ。
「思ったほど悪くなさそうだから、お野菜を細かく切って柔らかくなるまで煮て、少しパンを崩して入れるのでいいの。塩とかは入れないで。味付けはまだやめておこう」
「「はーい」」
「あたしも行く」
「このお金持ってって、厨房のお姉さんかおかみさんに渡して。事情を伝えて、材料や道具を使わせてもらいなね」
マヤは三姉妹に銀貨を握らせる。三姉妹は連れ立って、階下へ下りていった。
「あー、それとサンドラちゃん。申し訳ないけど、もう一人栄養不足な男の奴隷の人がいるんだけど……」
「はいはい、診てあげるよ。技術のある奴隷の人は全部で3人じゃなかったっけ? もう一人は?」
「その人は体は一番心配なさそうなのよね。一番年上だけど」
「へえ」