異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
男性にあてがった部屋へサンドラを案内する。
「マヤです。入っていいですか?」
「おおご主人様、
返ってきたのが元気なしわがれた声だったので、サンドラは驚いた。
「おじゃましまーす」
ドアを開けると、食料を一杯入れてあったはずのテーブルの上の籠の中身がほとんどなくなっており、ノーバートが口をリスのように膨らませていた。どうやらモリモリと食べたのはノーバートらしい。ノーバートは焦った顔をして、トムトはお茶の入ったポットを持ってドアの近くに立っていた。
「氷法力のトムト爺さんと、大工のノーバートよ。二人に紹介するね。この娘はわたしの妹で、薬師見習いのサンドラちゃん。仲良くしてね」
「ほう、ご主人様の妹とぞな」
2人はサンドラに深く頭を垂れた。
「ノーバートの具合を診てもらいに連れてきたんだけど……ノーバート、栄養失調状態で一気にたくさん栄養を取ると、やばいらしいわよ?」
「か、体の中のバランスが崩れて、最悪死んじゃうかもしれないの……」
膨らんだ口の中のものをお茶で流し込もうとしているやせ細った青年に、言葉を失いかけるサンドラ。
「もう遅いのう。さっきから食い続けちょる」
「もがもぐもぐもげ!」
「ひと眠りして起きたら腹が減って、目の前に久々にまともな物が食べ物があったんで、食い始めたら旨くて止まらんかったと言っちょる。死ぬんかこいつ?」
マヤは額に汗してサンドラにお伺いをする。
「こ、これぐらい元気だったら大丈夫かな?」
「わ、わかんない」
結局のところ、ノーバートはそんな繊細な身体の作りではなかったようで、その後も特に体調を崩すこともなく、どんどん元気になっていった。
まあ頑丈な人なのは頼もしい限りだわね。
耳元で「わたしはお葬式をしてあげるためにあなたを買ったんじゃないからねっ」と言い続けたのが一番効いたのかもしれないけどね。
◇◇◇
ノーバートとマルリーゼは、夕方にそれぞれお腹が減ったところでご飯を食べて、お腹を満たしたところでまた横になると寝てしまった。
ノアナもずっと調子が悪かったというのに、奴隷商でマヤに買われて一日中気を使いながら動き回ったので、ここにきて疲れがどっと来たようで、ご飯も食べず寝てしまった。
「ノアナが寝ちゃったのはそれだけじゃなくて、超回復ポーションで傷を治したことにもあるの。すぐ治るのはいいけど、その材料は体の中のものが使われるわけだから、傷が大きいほどに消耗するの」
サンドラは横になったノアナのおでこを撫でながらそう言った。
「そういえば前線基地の兵士さん達も、ポーション飲んだあとはお腹減ったってご飯食べてたもんね。ノアナもせめて何か食べてから寝ればよかったのに」
「しかたないよマヤちゃん。食事より休息を体が求めたのよ」
みんなで食事したかったけど、今日は無理だねえと、マヤは部屋の中を眺めて思った。
「カルラとリリーの食事は、食堂のお姉さんに頼んで部屋で食べられるようにしとくから、今夜はマルリーゼとノアナのそばにいてあげてね」
「わかりましたご主人様!」
「ありがとうございます、ご主人様」
「トムトは下で食べる? 部屋にする?」
「ワシも部屋にしようかの」
「じゃ、トムトのも頼んでおくね。みんなの歓迎会は日を改めてやろうね」
「か、歓迎会?」
「ワシら奴隷じゃぞ? ご主人はワシらのためにそんな催し物をする気か?」
「だってわたしの分身として来てもらったんだから、家族が増えたようなものだもの」
「ご主人は奴隷のワシらをそんな風に思っちょったんか」
「わーん、ご主人様ぁー」
「ご主人様、大好きです!」
リリーとカルラがマヤに抱きついてきた。
「ああーっ、妹のわたしを差し置いてずるいの!」
横で憤慨するサンドラちゃんを、よしよしとマヤは頭を撫でてあげる。
「ご主人様のお世話はしなくてもいいんですか?」
カルラが聞いてきた。
この娘は小6くらいなのによく気が回るなあ。わたしが同じ年の頃は、言われたことしかやらなかったのに。それさえもやらなかったりしたのに。
「わたしは大丈夫。今やってもらいたいのは、まだ元気に動けない人達の面倒を見てもらうことだから。あ、でもカルラもちゃんと休んでね。リリー、カルラが疲れて倒れないように、仕事の分担よろしくね」
「はい、ご主人様!」
「お気遣いありがとうございます、ご主人様」
「じゃあ、ご飯食べたらゆっくり休んでね。明日の予定だけど、ノーバートがどれくらい動けるかによるかな。買った土地を見てもらって、どんなふうに倉庫を作れるか相談して、設計してもらいたいのよね。あと建設に向けて実験したいこともあるんだ。実験の一つにはトムトにも手伝ってもらいたいわ」
「ようけ承った」
と言うことで解散。
マヤは厨房へ奴隷達の夕食の手配をしたら、いつものようにサンドラとリネールとで、夕食を食べに食堂へ移動した。
食堂にはライナーを始めとしたリトバレー村の人達が先に食事を取っていた。マヤは皆に、今日奴隷を買ったことと、ここの二階に部屋を取っていること、療養中だから何かあったら助けてほしいことを言った。健康状態の悪い奴隷を買うなんてと呆れられたのは言うまでもない。
◇◇◇
食事の後は夜のいつものルーチン。
歯を磨き、お湯を沢山もらってたらいに張って、サンドラがそのお湯を少し使って体を拭いてから、マヤはその中に入って(正確にはたらいに座って)体を洗う。
「たっぷりのお湯を張ったお風呂に入りたいなあ」
カラッとした北部ヨーロッパ的な気候のこの辺りでは、日本のようなお風呂に入る文化はなく、普段は水浴びや体を拭く程度のことしかしない。なので毎晩追加料金を払って、お湯をたっぷりもらって半身浴しているマヤは、かなり珍しがられている。実際は体の三分の一も浸かってないし、髪も3日にいっぺんしか洗えてないから、これでも不満を持っているのだが。
「マヤちゃん、湯浴みする時、いつもそう言うよね」
たらいを置いている所は、本来は洗濯物を干す所なので、部屋とはカーテンのような仕切りがあるだけだから、マヤの嘆きはサンドラにも丸聞こえだ。
「じゃあマヤちゃん、今度、公衆蒸し風呂に行こっか」
「うん」
領都にローマ風呂はないけど、蒸し風呂はあるのだ。これに慣れてくれば、お湯に浸からなくても結構満足のいく爽快感が得られる。
大量のお湯を作るというのはやっぱり贅沢なのだ。潤沢な水が必要だし、この辺りの水は水温が低いから温めるのにも燃料が沢山いる。断熱のある部屋で、少量の水で蒸気を発生させた蒸し風呂の方が燃料コストが安いのだ。
行水でさっぱりした後は、寝巻に着替えてベッドに入る。
枕もとの魔石ランプを灯して、光量を落として、お師匠様からもらった本を開く。そして寝落ちするというのが毎度のパターン。そのため魔石ランプにはちょっとしか魔石粉を入れておかない。寝落ちしても燃料切れで消えるようにするためだ。
「おやすみ、マヤちゃん」
「おやすみ、サンドラちゃん」
寝つきの良いサンドラは、少々明るくても寝てくれるので、夜更かししたがるマヤにはありがたい。
「さて、寝落ちする前に、最低限の確認はしておかないと」
マヤはお師匠様からもらった本をパラパラ捲り、知りたいことが書かれているページを探す。
この本には、法力『オキシジェン・デストロイヤー』でできることが書かれているのだ。酸素がどういうものか、どういうところから採取できるか、といったことから、マヤが探検者活動でよくやっている、炎を大きくすることや、物を錆びさせたり、エアカッターのような噴出方法、酸素を使った呼吸生物の探し方なども載っている。
マヤはお師匠様から直接技を習うことができなかったから、この本が頼りなのである。しかしこの本はお師匠様が書いたものではないみたいだった。
マヤは思う。
『たぶんお師匠様も、前任のオキシジェン・デストロイヤー使いの人から受け継いだんじゃないかしら。たまに隅っこにメモ書きされた文字からそれが推測できる。文字の筆跡の違い、それどころか文字自体が数種類ある。転生特典の自動翻訳があるから読めてるけど』
「今日のわたしの目的のページはと……」
オキシジェン・デストロイヤーが法力にバフをかけることができるのか調べたいけど、優先順はそっちじゃない。
爆発について書かれているところだった。マヤの元いた世界でも、確か酸素爆薬というものがあったからだ。
「あったあった」
ご丁寧に、「爆発とは」ということから解説してくれていた。
爆発は燃えるものと酸素との反応で起こるもの。同じ反応でも燃焼との違いは、端的に言えば反応の速度と量である。爆発はものすごい勢いで大量の酸化反応を起こすことで、膨大な熱や圧力、ガスとかの産物が発生し、それらが周囲に影響を与える。つまりぶっ壊したり吹き飛ばしたりしてくれる。
爆発を起こすには、反応する物質と酸素を隣同士に置いておくことが重要。例えば酸素で満たした空間に、水素や炭素、鉄、マグネシウムといった燃えやすいものを噴霧し、火を点ければ、一瞬で全てが酸化反応するので爆発になる。
水素爆発や、小麦粉や粉炭で起こる粉塵爆発だねこれは。
鉄やマグネシウムの粉を地面に盛って火を点けても、表面の酸素に触れているところしか酸化反応しないから、燃えるだけで爆発にならない。
一方で地面に盛った黒色火薬に火を点けると爆発するのは、木炭や硫黄といった燃焼物質と、酸素を供給する硝酸カリウムが良く混ざって隣同士にいるからで、空気中の酸素と反応するわけじゃないからである。
って、何気に黒色火薬の成分を明かしているけど、誰だこれ書いた人は。火薬のことを知ってるってことだよね。
ここまで読んだら後は応用してやってみな、となっていた。脇に書かれた何代目かのオキシジェン・デストロイヤーさんのメモ書きに、木炭粉に液体酸素を浸み込ませたものについて、比率などが詳細に書いてあった。放っておけば酸素が蒸発して爆発しなくなるので、不便だが安全でもあるという。
これこそ昔鉱山なんかで使われたっていう酸素爆薬じゃないかな。
他にも化学反応じゃなくて、酸素をぎゅうぎゅうに詰め込んで、酸素同士をぶつけるとかいう方法も書かれていた。その時の温度は1億度以上になるという。
これって核融合? 超新星爆発する前の恒星の中で起こる現象じゃないっけ? あれ、でもオキシジェン・デストロイヤーって、その時の状態の酸素を出すと環境も付随してくるんだっけ。ぶるるる、見なかったことにしよう。
「明日は炭を買いに行こう」
今日は寝落ちすることなく自分で本を閉じ、魔石ランプを消すと、布団にもぐりこんだ。