異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第18話「領主ヴェルディ様登場 なんかコネができたみたいです」

 

 カツーン、カツーンと足音が聞こえてきた。足音は1人じゃない。2人? そのうちの一つは近付くにつれ、ドス、ドスと低音で地面を揺らすようにやってくる。

 やがて開け放しの扉から、マントを翻した大きな男の人と、二回りくらい小さい50歳台くらいの男の人が入ってきた。2人はわたし達の正面で止まると、こっちを見下ろした。

 

「表を上げて楽にせよ」

 

 みんなは顔を上げた。

 大きい……。ハンターギルドのマスターと同じようなヘビー級プロレスラーだ。

 

 これが豪族の(かしら)かぁ。

 古墳時代に日本中に円墳を作った人達とか、有名なところでは飛鳥時代の物部氏とか蘇我氏なんかを豪族って言ってたけど、その辺の人になると、天皇と並んで政治を執ったりするくらい権力を握った人達だったよなあ。途中でなんとかの乱とか起こしたりして。

 もっとも豪族って訳したのは転生特典の脳内自動翻訳だから、日本の豪族のイメージでいいのかは分からない。

 ただ、代々続く権力に乗っかって王冠被ってるだけの王様という雰囲気は全然なくて、自ら騎士団の先頭に立って国を征服して頂点に立ちました、っていう感じの人だ。

 

 領主様はリトバレーの村人を一人ひとり眺めていった。そしてみんなの顔を一通り識別終えると、重低音の威厳ある声で話し始めた。

 

「隣国から入った盗賊団を、被害が拡大する前に無力化し、捕らえたこと、真に大義であった」

「ははっ! 有難きお言葉、恐れ入ります」

 

 ライナーさんがみんなを代表して返答する。

 

「特にそれが、我がヘキサリネの重臣の末裔たるリトバレーの者達であったことは、一際喜ばしいぞ」

「もったいのうございます。我らこれからも変わらず忠義を果たす所存でございます」

「うむ。頼んだぞ」

「ははっ!」

 

 ライナーさんが再び頭を下げたのに合わせ、みんなも下げる。慌ててわたしもお辞儀をした。

 

「では当事案で約束していた討伐報酬を渡す。代表して……」

 

 みんなをぐるりと見渡すと、

 

「そこの黒髪の少女」

 

 と手で示された。

 

 黒髪の……って、え? わたし!?

 

 びっくりして右左のみんなを見回し、最後にわたしの顔を指で指して尋ねた。

 

「わ、わたしですか!?」

 

 ひっくり返った声で叫んでしまった。

 やば! 頭が高いとか、口答えとは無礼なとかで怒られちゃう!?

 

「そう、お前だ」

 

 もう一度みんなを見る。どうしよう、でもどうしようも無いな、諦めて行けって、顔に書いていた。

 し、しかし……と、わたしもどうしていいか、あわあわしてると、領主様の横の年配の偉い人が微笑みながら声をかけてくれた。

 

「どうぞ、前へお進みなさい」

「は、はい」

 

 仕方なく、そろりそろりとみんなの間を縫って前へ出る。

 

「名は?」

「はい。マヤと、申します」

「マヤ、か。勇士トロの弟子というのは、お前か?」

「え、ええ?」

 

 ど、どうしよう! これ、返事していいのかな。でも嘘言ったらすごいヤバそうだし。領主様は尋ねてきてるけど、これ絶対知ってて聞いてるよね!?

 

「は、はいっ」

「うむ。今回はそなたが大いに活躍したのだろう?」

「いえ、ぜんぜん!」

「ふふん。お前が口をつぐもうとも、現場が雄弁していたらしいぞ」

 

 あちゃあ、バレバレだあ。燃えまくってたもんなあ。どこまでわたしの法力のこと知ってるんだろう。

 

「今回の報酬……宰相、いくらだ?」

 

 年配の人がすぐに言い添えた。この年季の入った人、宰相様だったのか。

 

「はい。24.4金貨です。

 内訳は

 首領10金貨

 副首領5金貨

 火焔法力の手配者7金貨

 手下共が1人当り1小金貨で24名、よって2.4金貨となります。

 火焔法力の手配者は遺体が見つかりませんでしたが、証言により死亡を確認致しました」

 

 あの人か、自爆して木っ端みじんになっちゃった人。副首領より賞金高いじゃん。

 宰相様が袋の載ったお盆を領主様に差し出す。領主様はそれを取り上げると、すっと前に出した。

 

「両の手の平を上に向けて差し出せ」

 

 言われたままに領主様の方へ手を差し出した。その手の平の上にじゃらりんと音をさせて金貨が入った袋が乗せられた。

 

「うわ、重い」

「ふん。重いか。国から見ればその金額はまるでたいしたことはない。しかし領と領民にとっては、お前達のその働きはそれ以上に重いものだった。その重み、身をもって感じ取れたようで何よりだ」

「はい」

「この盗賊団、実はかなり厄介な連中だったようでな」

「そうなんですか?」

「東のオルデンドルフ王国では、大きな商隊がいくつも襲われたので討伐隊を出したらしいが、通常の規模では歯が立たず、3部隊をダメにされたそうだ。それで本格的な軍隊に出動を命じたところで国外に逃げられた。つまりうちの領だ」

 

 絶句してしまった。そんなのが相手だと分かってたら、抵抗するなんて考えさえもしなかったんじゃないの?

 

「そんな情報が入り始めたばかりで、対策もこれからというところで、お前たちがさっさと刈り取ってくれたのだ。軍隊を組織するとなると手間も金もかかる。被害者の痛みだって馬鹿にならん。それが金貨二十数枚で解決したのだから、安いなんてもんじゃない」

 

 わたしは手にした袋を見下ろした。もう一袋くらい請求した方がよかっただろうか。

 領主様は再び皆に向くと、声を張った。

 

「みな、改めて大儀であった!」

「「「「「ははっ!」」」」」

 

 領主様はさっと皆を見渡すと、声色も変えて豪快に喋りだした。

 

「よっしゃ! 堅苦しい儀式はここまでだ。ここからは本気に楽にしろ。おーい、飲みもん持って来い」

 

 いきなりの変容ぶりに呆気にとられるわたし。

 メイドさんが丸テーブルと、ワゴンにお茶とお茶菓子を乗せて持って来た。3人のメイドさんがテキパキと場を設営していく。

 

「何でもすぐ村に戻んなきゃなんねえんだって? ゆっくり飯でも食わしてやりてえとこだったが、せめて菓子でも食っていってくれ」

 

 ざっくばらんすぎるというか、ギルドにいる荒くれ者のように変わったのでびっくりした。

 

 え!? 豪族は? 地元の権力者様は? なんか田舎の親分みたいになっちゃったけど?

 

 戸惑ってるのは他の人も同様のようで、慌ててないのはライナーさんくらいだろう。ライナーさんは領主様の人となりを知っていたのかもしれない。

 

「俺は格式張った事は嫌いなんだ。だが砕けた態度を誰にでも許しているわけじゃない」

 

 慌てているわたしに領主様はそう言ってウインクされた。わたし達を許された者の中に入れてくれたらしい。

 

「どうぞ召し上がれ」とメイドさんに、切り分けられたケーキらしきものが乗ったお皿を手渡された。サンドラちゃんが恐る恐るそれをぱくりとする。とたんに目が見開かれた。

 

「わあ、あまーい! これ美味しいー!」

「こ、こんなの食ったことねえ」

 

 サンドラちゃんとリネールさんは出されたお菓子に大感激して、バクバクと口に運んでいく。

 この甘さ、砂糖をいっぱい使ってるみたいだ。砂糖はきっと贅沢品なんだろうから、それでもてなす事は待遇の高さを示すと共に、たっぷり使えるんだぞという国力の誇示でもあるんだろう。後者はわたし達には不要だろうけど。

 しかしわたしは舌の肥えた21世紀の日本人。適度な甘さか、ややもすると甘さ控えめが喜ばれる時代の人間なのである。結構大雑把な味付けだなあと思ってしまうのは、威厳を見せつける領主様に失礼だろうか。香料が乏しいのかな。いつか改良して、本当のおいしさを教えてやる。

 

「リトバレーは変わりないか?」

「はい。山も川もとても良い状態です。いつも気に掛けていただいているおかげです」

 

 ライナーさんの返事に、わたしはサンドラちゃんにボソボソと囁いた。

 

「気に掛けてくれてるんだったら、もっと村を近代化してくれればいいのにねえ」

 

 すると領主様はニヤリと笑みをする。

 

 ヤバイ、聞こえてしまった!? オレの領運営を批評しようとは不届き奴、とかいって牢屋に!

 

 青い顔をしていると、ライナーさんが口を開いた。

 

「マヤさん。リトバレーは開発されてはならないのです」

「……え?」

 

 領主様はわたしへのニヤニヤを崩さないで、リトバレーについて説明をしてくれた。

 

「リトバレーは、俺の先祖がこの領を初めて治めた時、腹心の家臣の一人『リト』に拝領させた土地だ。その家臣の家はもう途絶えてしまったが、村民は一緒に入植した者達の末裔なのだ。馬鹿を2つ3つつけるほどに真面目で誠実な家臣だったそうだ」

 

 おお、そりゃこの村の人達には今でも通じる評価だよ。

 

「それで今でもリトバレーの人達の欲のなさが筋金入りなんですね。でも褒美にあげたにしちゃ、随分いな……いえとっても自然豊かなところですね」

「あの自然がリトバレーの財産なんです」

 

 ライナーさんは言う。

 

「後ろの山では非常に高価で効能の高い薬草類が採れます。あそこでしか採れない野菜も多いです。そして下流域も薬草の宝庫なんです。村から領都へ来る途中は美しい森だったでしょう? あの自然は意図してあのように残しているのです。上流部から下まで、あの自然を維持しないとそれらは採れなくなります。都会ずれしたものはあそこには住めません」

「そうか、元々正直な人が、正直でないと暮らせないところに住んでるんだ」

「リトでないと任せられなかったと言われている。だがそれはバカ正直だったからと言うわけじゃない」

「はあ」

「リトは人が裏で考えている事を読める能力があったという。だから騙そうとする者は見分けられたそうだ。法力なのかは分からん」

「もしかして、村長さんも?」

 

 あの欲がなくて人をあっさり信用してしまう様は見てて心配になるくらいだった。だけど実は、腹の中を見抜けるからできた事じゃないだろうか?

 

「普通の人でも、この人は信用できそうだとか感覚的に思う事はあるでしょう? 村長はその精度が高いというのはあります。ですが特殊能力という程ではありません。ゲームなんかではすぐ騙されますしね」

 

 とにかくリトバレーの住民は誠実ないい人達で、それでいてちゃんと抜け目もないところもあるって事だ。

 

「そうそう、サーベルタイガーも獲ったそうだな。さっそくうちに届いた。誰が仕留めたんだ? マヤか?」

「いいえ、トロ様です」

「ほう、そうだったか。トロはどうしたんだ?」

 

 みんながわたしの方を向いた。感心だらけの視線が痛い。

 

「お師匠様は、すぐ旅立ってしまいました。行き先はわたしも告げられてません」

「なんだそうか。一度会ってみたかったのに」

「あれ、領主様はお会いしたことなかったんですか?」

「残念ながらな。この辺りでは南のミリヤ皇国の者が会ったくらいだろう。あまり権力者の前には出てこない奴だった」

 

 ふーん、そうなのか。もっとちゃんと知っておきたかったなあ、法力受け継ぐだけじゃなくって。

 

「何にしてもいいタイミングで助かった」

「え? どういう事ですか?」

「北のワリナ、南のミリヤが我が領に国の出先機関、大使館を作っているのだ。そのうち東の国も作るだろう。来週それらを招いて晩餐会を主催しないとでな。サーベルタイガーなら(もてな)すのに最高の食材だ」

「来週までお肉もつんですか?」

「低温貯蔵庫がある。冷やす法力持ちが厨房にいるんだ。肉ってのはものにもよるが、寝かして熟成させたほうが旨くなるんだよ。いい具合になってるんじゃねえか?」

 

 ははあ、21世紀でも流行ってる熟成肉だね。アミノ酸が増えるってやつだ。あのサーベルタイガーが熟成されたら、どんなに美味しくなっちゃうんだろう。じゅるる。

 

「食いたそうだな」

「はうっ! い、いえそんな!」

「ふふん」

 

 領主様はにやにやした。そして、

 

「困った事があれば相談に乗ってやる。何時でも来るがいい、トロの弟子よ。肉食いたくなったと言って来てもいいぞ?」

 

 なんか領主様にコネが出来てしまったみたいだ。完全にお師匠様の名によるものだけど。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 お茶してだいぶのんびりしてしまったけど、偉い人への謁見なので仕方ない。なんだか領主様にも気に入られたみたいだし、領主様も接しやすい方だったので、悪い気はしなかった。コネ、使うことあるのかな。

 さて車止めのところまで戻ると、ミリヤ騎士団の人達が腕を組んで、指をせわしなく動かし、いかにも待ちくたびれていた。

 

「やっと終わったか。さっそく出発するぞ!」

「ほ、本当に今から?」

「当たり前だ。それで、誰が付いてきてくれるんだ?」

 

 ライナーさんが村へ戻るメンバーを指名した。

 

「私と、マヤさん、チトレイの3人が付き添います」

「あれ、わたし留守番なの!?」

「サンドラは薬の仕入れを進めといてくれ」

「ええー」

「あれ、俺も留守番なのか!?」

「当然だリネール。遊んでる暇あったらサンドラの手伝いでもしておれ。それよかギルドの依頼やってきた方がいいんじゃないのか? いつCランクに上がるんだお前は」

「ほぎぇええ!」

 

 聞いたことない悲鳴が聞こえた。

 ライナーさん、わたし、チトレイさんとミリヤの商人、近衛の騎士さん3名を乗せた荷馬車は、護衛の騎乗ハンター2人とともに、慌ただしく領都を出ていった。

 

 

 

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