異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
さて、予定通りマヤはノーバートとトムト爺さんを連れて宿を出た。
まずは買い物と商業地区へ行き、燃料屋に入って、粉炭100kgと、それを小分けする袋を買った。
「運ぶのはお任せください!」
ノーバートがふんっとリフトで100kgの袋を持ち上げた。マヤはおおーっと歓声を上げる。
「重くないの?」
「前はこれの何倍もあるものを家の屋根まで運んだりしたのですが、体力が落ちましね。かなり重さを感じます。体力がつくと、10分の1とか20分の1、あるいはもっと軽く感じるようになるんです」
「へぇ、リフトってそういう感じなんだ」
それでもやせ細った状態で、体感半分だったとしても50kgの重さの物を持ち上げてるんだから、男の人はやっぱ力が違うよ。リネールさんだって細っこい体して80kgのお肉を担いでいたし。でもノーバートはまだ病み上がりなのよね。
「有り難いけど、今日はわたしがストレージに入れて運ぶよ」
固体酸素で粉炭袋を包むと、酸素をしまうのと同じ要領でストレージに入れる。傍から見ているとシュンっと消える。
「き、消えた!」
「どういうことじゃ!?」
「固体酸素で覆ってしまえば、わたしの酸素ストレージにしまえるのよ」
「そのコタイサンソっちゅう氷みたいなもんは、わしの氷とは違うんじゃっけの?」
「水が0度以下になって凍ったのが氷なら、酸素が凍ったのが固体酸素。酸素が凍るにはマイナス219度以下であることが必要だから、どれだけ冷たいか分かるよね? 素手で触っちゃだめよ」
「「マイナス二百……っ!」」
絶句する2人。
他にも道具屋で、大きなさお秤とバケツならぬ桶、タガネやハンマーも買うと、孤児院の近所の石山に向かった。
石山に着くと、山の上の方で孤児院の子供達が遊んでいた。
「あっ、マヤ姉様がやってきたよ!」
マヤを見つけると、皆が降りてきた。ニーシャとイレム、ラース、ニコ、レイヤ、耳の聞こえないシモーナや片腕の無いリヴィウもいた。
「みんなマヤ姉が来るっていうから待ってたんだわね」
「待っててもらっても、今日はなんにもお土産ないよ?」
「お土産いらないよ」
「マヤ姉様に会いたくてきたのよ」
子供達に囲まれるマヤを見て、ご主人様は子供に好かれてるのですねと、ノーバートは微笑む。
「ラース、ちょっとこっちおいで」
マヤはラースをトムト爺さんに紹介した。
「トムト。この子が氷法力を発現させたラースよ。この子に氷法力をいろいろ教えてあげてほしいの」
「おじいちゃんも氷法力持ってるの?」
「そうよ。大先輩じゃ」
トムトはそう言って、目の前に一升瓶くらいの氷を2つ、パキパキパキッと出現させた。
「すげぇ!」
イレムやニコも驚いている。
「トムトは時間かければ、5mもある氷の塊も作れるそうよ」
「お、俺にそれ教えてくれよ!」
「まあ慌てなさんな。でけえ氷ちゅうんは、こんなのを一瞬で出すより、コツさえつかめば簡単にできるんじゃ」
一升瓶氷を持ち上げてトムトは言う。
「滲み出る岩清水が垂れてすぐ凍り、まとわりついて育っていくちゅう。そんなイメージじゃ。こんなふうに」
コロンと出した一口サイズの氷。それが次第に横に広がり、縦に広がりして大きくなっていく。
「核になる氷の上に薄く氷を貼り重ねる。これを積み重ねていくんじゃ。簡単じゃろ?」
「俺もやってみる! ……あれ、薄い氷ってのが難しいぞ」
2人して練習に入ってしまった。皆も周りを囲んで見物である。
なんにしてもすぐ打ち解けてくれて、マヤは嬉しかった。
「ノーバート。このおまんじゅうみたいな岩の丘がわたしの買った土地なの。ここに保冷倉庫を建てたいんだ」
「こりゃまた凄いところを買いましたね」
およそ建物を建てるに適した所でないので困った顔をしている。
「とっても安かったのよ」
「奴隷だけでなく、土地までいわく付きなものを買うとは。ご主人様の方針なんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど……。わたし考えたんだけど、この岩をくり抜くっていうか、上手に削って壁として残して使った方が、保冷効果が高いんじゃないかなって思うんだけど、どうかな」
「なるほど。木の板の建物より石積みの建物の方が、中の室温が変わりにくいですもんね。しかしこの広さの岩を削るのは、石工を何人も雇ったとしても大変な時間が必要ですよ」
「そこでトムトの氷と、今日試す酸素爆薬ってわけよ」
マヤはトムトを呼ぶ。
一緒にやってきたラースが何かを差し出した。
「マヤ姉、見てこれ! 俺が作ったんだ!」
ラースが持ってきたのはロックアイス。ピンポン玉より少し大きいくらいの氷だった。前見たときは、ビー玉くらいの大きさを出すのがやっとだったというのに。
「この短時間で、このサイズの氷を出せるようになったの?」
「トムト先生が教えてくれた方法で、氷を育てたんだ。いきなりこの大きさの氷が出せたわけじゃないよ」
「あっ、なるほど。でもどういう方法であれ大きい氷が作れるってのは、孤児院に今ある地下保冷庫を冷やすのにも、とっても役立つよね」
「うん! 時間かければもっと大きくできそうだよ! 先生ありがとう!」
トムトはまんざらでもなさそうに、機嫌よくもじゃもじゃの髭を撫でた。
「先生ねえ」
「教えとるんじゃけ先生じゃろう」
「ふふっ、そうだね」
「まさか奴隷落ちしたわしが、ご主人以外の人の役に立てるとはのお。ご主人のおかげじゃ」
「まだまだ役に立ってもらうよ」
次はトムトとノーバートを連れて、石山に突き刺さっている黒っぽい大岩の所まで登る。
そこでマヤは黒い大岩が刺さっているところから四方に伸びる、白い岩に刻まれたひび割れを指さした。
「このひび割れの中を凍らせたいんだ」
「どれどれ」
トムトは岩の隙間に向かって氷を生成する。
「できたぞご主人。どうじゃ」
「むーっ、なんか思ってたのと違う」
岩の隙間はぴっちり氷で埋まっている。隙間のサイズにピッタリの氷のようだった。
「単に氷で埋めるんじゃなくて、水から氷になってほしいの。トムトの法力はいきなり氷が出てきちゃうの?」
「そりゃそうじゃ。氷法力じゃし。氷は出せるが、水は出せんのう。水が欲しけりゃ氷を溶かせば水になるがの」
トムトは髭をもしゃもしゃ撫でた。
「じゃあ水を運んできて流しこむしかないか。大変そうだなあ」
「水なら汲んで運んでくるだわよ」
ニーシャが手を上げた。
「本当? 頼める?」
「任せてだわね!」
胸をどんと叩いて、子供達を率いていった。
「なんて頼りになる子達なんでしょう」
子供といえど、人手がいる仕事ではこれほど頼りになるものはない。昔から子供の労働力というのは馬鹿になんないのだ。だからこそマヤのいた世界では、子供の強制労働ってのが禁止されてたわけだ。
桶に水を入れて子供達が戻ってきた。片腕の無いリヴィウも、リフト法力を使って持ってきてくれた。
「みんなありがとうね」
「だってマヤ姉は、ここにあたいらの働ける場所を作ってくれるんだわね?」
「なら手伝わないとだよね」
「ありがとう。リヴィウも法力で物を運べるならここで働けるからね」
リヴィウはぱあっと笑顔になった。
さっそく水を岩のひび割れに流し込んでもらった。満たしたところで、マヤが液体酸素を流し込む。マイナス190度の液体酸素がみるみる水を凍らせていく。水が凍っていく時に周りの熱も奪うので、石が冷たくなって周囲が急に冷えてくる。
そしてついに、期待していた現象が起こった。
ピシッ! バキンッ!
「あっ、岩にヒビが入った!」
新たに出来たヒビにも水を流し込み、液体酸素で凍らせると、またまたヒビが広がる。
「マヤ姉様、なんで!?」
子供達の好奇心に溢れた目がマヤに集まる。
「水が凍って氷になると、体積、つまり大きさが水の時より少し大きくなるんだ。その時の力っていうのは、今見た通り脆くなってる岩を割るくらいあるの。自然にある岩も、冬場にこうやって氷がヒビを入れていって、長い年月をかけて砕いちゃったりするのよ」
「へー、氷って凄いんだね」
「だからいきなり氷ではだめだったんじゃな」
トムト爺さんは納得した。
「んで、ヒビが広がったところで、今度は酸素爆薬を試してみるよ」
ストレージからさっき買ってきた粉炭を取り出し、小袋に小分けして、液体酸素を注いでよく浸透させた。その間にノーバートは、法力でハンマーとタガネを使って岩のヒビを広げ、爆薬を入れる隙間を作った。ノーバートのリフト法力は掴んで動かす感じなので、持ち上げたものを振り回したり叩きつけたりができる。
そうやって岩の隙間を何箇所か広げてもらって、液体酸素に浸った粉炭袋をそこに詰め込んだ。そして離れても位置が分かるように、目印の木の枝を立てた。
「みんな急いで下まで降りてー」
全員で岩を駆け下りる。
「ニーシャ、点呼! 上に残ってる子はいないわよね? イレムいる?」
「なんで俺だけ名指し?」
「一番危なっかしいからに決まってるじゃん。近くで見てようとかしかねないでしょ」
「す、す、するか、そんなこと」
見透かされたようで、イレムは少しバツが悪そうにそっぽを向く。
「マヤ姉、全員いるだわよ」
「オッケー、みんな屈んで。頭を守っててね」
枝を立てたところに酸素の噴出点を作った。
「火の法力の人がいればよかったんだけど、わたしでもこうやれば火花を出せるでしょう。
酸素じたいに発火能力はないけど、法力オキシジェン・デストロイヤーはその現象を起こす時の環境も一緒に再現してくれる。
目論見通り火花が酸素爆薬に落ちて、酸素と炭素が化学反応した。炭の粉は液体酸素とよく混ざって隣同士にあるので、一つ一つの炭の粒が瞬時に、同時に燃える。つまり激しい燃焼。爆発となる。
どぐわぁーーん!!
大音響と、大地震のような揺れが石山一帯に起こった。
そして爆発は皆が思ってた以上に威力があって、二本のひび割れの間の岩が砕けて、ガラガラとマヤ達の方に向かって崩れてきた。
「わああー、逃げろおーー!」
砕けた岩が、ズズズズっとずれるように道の方にまで流れてきて、道路を半分塞いだ。幸い岩に当たった子はなく、みんな躱し切った。
「おおぅ、さすがは鉱山で山を崩すのに使われてただけはあるわ」
「マ、マヤ姉、危ないだわよ!」
「マヤ姉様、もっと遠くに逃げてないとだよ!」
「もうー、いつもやり過ぎちゃうんだからー!」
「す、すげえーっ! 石山をぶっ壊したぞ!」
「ずりーぞガキババア、こんなことまでできる法力なんか持ちやがって!」
女の子と男の子でウケ方が真逆だ。
「さすがだね! やっぱ
「
「
「いやああ、それはいやあああ!」
「そうは言ってもマヤ姉、この壊しっぷりにはあたいも焦っただわよ」
「ご、ごめん。こんなに威力あるとは思わなくて……。もっとちゃんとした掩蔽壕とかヘルメットとかの安全対策が必要かな。いやこれ、わたしの法力の威力じゃないからね。そこは間違わないでね」
さてノーバートに意見を聞こうと思ったら、ノーバートは立ったまま放心していた。
「ノーバート、岩の破片当たったとかじゃないよね?」
「はっ、ご主人様! こ、これほどのことをやってしまうとは、さすがです!」
気を取り戻したノーバートは興奮気味に捲し立てる。
「見てください。岩がこんなに砕けてしまいました。炭袋を適切にセットすれば、思ったような形に崩せそうです。これなら石工を呼ばなくても岩を削れます。しかも圧倒的に早く。砕けた岩を運ぶ人足さえいればいい。あとは削った岩の面を粗くてもいいので整えられれば、倉庫作るのに問題ありません」
「岩の出っ張ったところを切るくらいなら、わたしの法力でもできるよ。間違って石を切っちゃったことは何回もあるから。
転がってきていた岩の一辺を、シュワンッと切断した。切った面は真っ直ぐできれいに整っている。
ノーバートは口をパクパクした。
「こんなんでいい?」
ノーバートはパクパクした口から声を出せられず、首だけ縦に振って肯定する。
「よかった。倉庫建設の目処が立ちそうね。でもあの黒い岩は、足元削ったら支えを失って転げ落ちてくるかもだよ」
今はまだ動いてないけど、もっと根本近くを爆破したら絶対転がってくるよね。
そんなことを話していると、周辺に住んでる人達が出てきて、ドヤドヤと人だかりができてきた。さらに面倒なことに、野次馬をかき分けてヘキサリネ兵までもがやってきた。
「何事だこれは! どこかの国が攻めてきたのか!?」
「マヤ姉様がやったんだよ、すごいでしょ」
子供は正直である。犯人をバラしてしまった。
「お前が!? 領都を破壊するつもりか!」
「危険人物め、ひっ捕らえろ!」
よく考えてみれば、郊外とはいえ首都で爆破など行えばこうなるのは当たり前だった。
「ご主人様!」
「皆慌てないで! ちょっと待っててね。す、すみません! 領都防衛隊のユスティニアス中隊長と話しさせてもらえますか?」
「中隊長をだと? 貴様何者だ!」
「中隊長がお前のような子供の相手なぞするものか!」
「背後に誰かいるかもしれない。取り調べを行う。詰め所へ連れてけ!」
マヤはいったん連行されることになった。
「ご主人様!」
「薄々思っちょったが、世の中的にもやばいご主人じゃのお」
「ごめんねノーバート、トムト。話しが通れば大丈夫だから。わたしが戻ってくるまでの間、孤児院の子達と一緒に、道に飛び出た岩の破片を邪魔にならないよう脇へどかしといてもらえるかな」
そう言い残して、マヤは近くの防衛隊の詰め所へと引っ張られていった。
不安そうにその後ろ姿を見送ったノーバートとトムト。
「ど、どうするトムト爺さん」
「そうじゃいのお。命令されたことはやらんといけんじゃろ。しかしご主人に万が一があってもいけん。ここの片付けは、宿に残っとる連中を呼んでやってもらって、わしらはご主人の救出に行くちゅうんはどうじゃろ?」
「そ、それだ! 爺さん冴えてんな。急ごう!」
焦る二人に対し、そばで二人を見上げていたニーシャは、後ろ手に組んだ手をひょこひょこさせながら何事も無げに「大丈夫だと思うだわよ?」と言う。
「そうは言ってもお嬢ちゃん、相手は兵士だ。脅されたり、万が一拷問でもされたら、やってもない事をうんと認めてしまうかもしれない」
ノーバートは孤児院の子達に、宿に残るマヤの奴隷達への伝言を依頼した。そして領都防衛隊の詰め所の場所を聞くと、トムトと共に向かっていった。