異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
宿に伝言を伝えに行った孤児院の子は、レイヤと数人の年少組の子だった。
レイヤの伝言を聞いたマルリーゼは血相を変えた。
「ご主人様が兵士に捕まった!?」
「ノーバートさんとトムトさんはマヤ姉様を助けに行くから、マヤ姉様が命令した道路の掃除を代わりにやってくれって」
息をのんだマルリーゼは、目を見開いて正面を見、目の周囲をチカチカと光らせた。マルリーゼが法力を発動させたのである。
「カルラ、ノアナ、リリー!」
「「「はい」」」
「3人は山へ行って、ご主人様の命令をやってちょうだい」
「マルリーゼさんはどうするんですか?」
「あたしもご主人様を助けに行きます!」
「まだ体調も完全じゃないのに、無茶です!」
カルラはマルリーゼの右手を掴んで止めた。
「ご主人様に何かあれば、あたし達の存在自体がなくなります。寝ているわけにはいかないわ!」
「そうだとしても、やせ細った今のマルリーゼさんが兵士に何かできるとは思えない」
ノアナも左手を掴む。
「力だけが戦う手段じゃないわ」
「それじゃリリーでも戦えるの?」
「闘いには向き不向きがあるの。ここは大人のあたしに任せて。それにご主人様の命令は無視できない。あんた達に任せるわ」
心配で仕方ないが、説得されてカルラとノアナは掴んでいた腕を離した。
「カルラ。買い物のためにご主人様から預かってるお金持ってきて」
「お金?」
ノーバートとマルリーゼの手足に付けられていた魔導具を魔石化して売ったお金は、奴隷達のために使う資金として奴隷達の部屋の鍵付き棚に入れてあった。
「お金を使うのも戦い方の一つよ」
へえーっと感心する三姉妹。
「マヤ姉様は強いから、平気だと思うけどなあ」
そもそも助けなんているだろうかと首を傾げるレイヤ。
「相手は軍隊でしょ? お強いらしいことは聞いてるけど、成人前の女の子くらいの体格しかないマヤ様に、訓練された集団が相手では、あまりにも分が悪すぎるでしょう」
「そうかなあ」
「悪いけど、誰か一人あたしをその詰所まで案内してください。他の子はこの3人を石山まで連れて行って」
「マルリーゼさん、一人で歩いて大丈夫?」
カルラが心配そうに聞く。
「体調はこの数年で一番良いわ。大丈夫」
「兵隊さんくらいでマヤ姉様が危機になるかなあ」
相変わらず首を傾げているレイヤの言葉など理解できない奴隷達だった。
◇◇◇
奴隷達に心配をかけている当のマヤは、詰め所の取調室の椅子に大人しく縛られて待っていた。
ユスティニアス中隊長はすぐにやってきた。
「マヤさんが何かやらかしたと聞いてすっ飛んできたよ」
「すみません、ご迷惑おかけします」
縛られたままにっこりと笑って挨拶するマヤ。
「縄を解いていいぞ」
「ええ!? ほ、本当にお知り合いだったのですか!?」
しょっ引いた兵士さんは仰天し、中隊長とマヤに平謝りしたが、中隊長は「素性の知れない爆破犯を速やかに捕縛したことは、よくやった」と褒めた。
「あのー……」
爆破犯のマヤはジト目をする。
「マヤさんも、何かやるなら事前に届け出してください」
「そ、そうですね。はい、すみませんでした」
「それで、何だったんです? さっきの地震と何か関係が?」
「実はですね……」
訳を話すと、中隊長は次第に目の輝きを強めていった。そして最後は食いついた。
「マヤさん、それ見せてもらっていいですか!?」
やっぱり興味を持たれちゃったかあ。男の人って爆発とか好きだもんなあ。
マヤはさっきの孤児院の男の子達の反応を思い出す。
中隊長は部下に命令した。
「領都防衛隊司令部、部隊本部、各警備詰所に伝令。孤児院付近の岩山で新兵器のテストを行っている。爆発があるが、予定していたものなので問題ないとな。あと領都邸にも知らせておいてくれ」
「はっ!」
中隊長に話が通り、マヤは無事解放されて詰め所から出てきた。
詰所の道路向かいには、何やら物騒な二頭立ての馬車が停まっていた。見ればノーバートとトムトとマルリーゼである。明らかに突っ込んできそうな雰囲気である。しかしマヤが領都軍の偉い人と親しげに連れ立って出てきたので、あっけに取られた。
「ノーバート、トムト、何してるの? マルリーゼは宿で大人しくしてなきゃだめでしょう。なんでそこにいるの?」
「あ、いや、これは……」
なにしろ馬の正面には、棘のある衝立のついた荷車が連結されており、後ろの馬車の荷台を覗くと、粉炭100kgと現金、火種らしき火のついた炭などが積んであった。
「何しようとしてたの?」
「じ、実はですね……」
話を聞けば、マヤを奪還するつもりだったということだ。とはいえ兵士だらけの詰所相手に、どう切り込もうか考えあぐねていたノーバートとトムト。そこへ馬車をレンタルしてきたマルリーゼが到着した。
マルリーゼは、馬の前に連結した荷車の棘付き衝立を使って詰所のドアを破り、マヤを救出。その際に現金をばらまき、兵士や付近の人達がお金を追いかけて混乱している隙に逃走するという作戦を立てていた。お金を拾う人が邪魔で、追手はすぐ来れないだろうという算段だ。それでも追手が迫ってきた時は、馬車の上でマヤに粉炭を使って酸素爆薬を作ってもらい、それを投げながら逃げる、という作戦だった。
「そ、それ、マルリーゼが考えたの?」
「は、はい。法力で成功確率の高い方法を計算しまして」
なんて策士だ。この人の法力は簿記ができるだけじゃないのか。もうそれって軍事シミュレーターだよ。
「逃げるのに成功したとして、その後はどうするつもりだったの? そんな大騒ぎしたら、もう領都に戻れないよ」
「マヤ様さえ無事ならどうとでもなります。どこかへ隠れ、そこでマヤ様の力を使って国を立ち上げればいいのです」
「どんだけわたしは危ない人だよ!」
はっと呆れた視線に気付いて、マヤは背後でジト目をしている中隊長にあせあせと話しかける。
「中隊長、わたしがそんなことするわけないじゃないですか。そもそもできるわけないじゃないですか」
「いや、やろうと思えばマヤさんならできそうな気がするんですが。まあマヤさんにそんな気はないと分かってますんで」
「……安心したような、どう思われてんだろわたしって安心できないような」
マルリーゼはしゅんと縮こまってマヤに頭を下げた。
「マヤ様のお力、人脈がそこまでとは知らず、余計なことをした挙句、お金を無駄遣いしてしまって申し訳ありません」
聞けば大急ぎで馬車をレンタルするのに、通常の3倍の料金を払ったのだとか。
マルリーゼは死んでお詫びをみたいなことを言うが。
「いいよ馬車代くらい。それだけ賢いマルリーゼなら、すぐ稼いでくれると思うから。むしろそこまで頭が回って行動もできる人だと分かったことが知れてよかったよ」
「……ありがとうございます。あたしの命、一生マヤ様に捧げます」
「いやいや、人生もっと楽しもうよ」
◇◇◇
ユスティニアス中隊長は、石山の周辺封鎖のため道具を乗せた馬車とともに1個小隊を引き連れていった。マヤ達はマルリーゼが借りた馬車をそのまま使い、その馬車に乗って移動した。
石山に到着すると、道にはみ出ていた石は片付けられていた。三姉妹が孤児院の子達と協力してやってくれたのだ。
ノーバートらと一緒にマヤがやってきたので、三姉妹はほっと胸をなでおろした。
「ご主人様を無事救出できたんですね」
「でも兵士さん達も一緒にいる」
「きっと兵士さんを打ち負かして奴隷にしちゃったんだ!」
「リリー、物騒なこと言わないで。単に疑いが晴れただけだから!」
マヤは慌てて否定した。
中隊長も驚いた。そこに領主のヴェルディがいたからだ。さらには
「伝令が来てな。マヤが何かやってるって聞いたんで、これは見ておかないとだと思って急いで来た」
「ヴェルディ様が正面玄関から堂々と平民服で出ていったっていう情報があったから、何かあると思って私も追っかけてきたんです。さっき大きな揺れがあったんだけど、マヤさんが原因なの?」
ヴェルディは呆れたようにリエラへ首を向けた。
「俺は見張られているのか?」
「その御身分で見張られてないと思う方がおかしいです」
「姫様はよくお目付け役の目をかい潜って大使館を出れたな」
「情報収集は機を逃してはいけませんからね。侍女長の耳に入る前に急いで裏から出ました」
護衛侍女長に怒られるーっと涙ぐむフィリア。
「姫様が情報収集をやらなくてもいいと思うが」
「それをヴェルディ様が言います?」
フットワークの軽いヘキサリネ領主とミリヤ皇国のお姫様である。ワリナ王国にも好奇心旺盛で落ち着きのないレオナルド王太子というのがいたが、先日国に帰ってしまったので、残念なことにワリナはこの件では蚊帳の外だ。
マヤは奴隷達に皆を紹介した。
「あらためて紹介するわ。この大きな人がヘキサリネ領主のヴェルディ様よ」
「「「本当だったんだ!」」」
奴隷達は一応宿で聞いていたとはいえ、実物で確認して改めてびっくりした。
「奴隷商ではお世話になりました。まさか本当に領主様でしたとは。ご無礼をご容赦ください」
マルリーゼが代表して挨拶すると、みんなも慌てて頭を下げた。
右手を上げてそれに答えるヴェルディ。
「マヤは良い買い物をしたようだな。この娘は礼儀もしっかりしているではないか。これからの活躍が楽しみだ」
そうでしょうと満足げに胸を張るマヤ。
続いてヴェルディの横にいる軍人さんを手で示す。
「こちらは領都防衛隊の偉い人、ユスティニアス中隊長」
「どうも、ユスティニアスだ。一応領都防衛の責任者だ」
「「「ええええー!」」」
ヘキサリネの領主様と、領都ヘキサチカの防衛の責任者が並んで目の前にいる。領都内での爆破事件の仲間を自覚する者は死を覚悟した。
続いてマヤはリエラの方へ手を向ける。リエラはマルリーゼ達が何者か知らないので小首を傾げている。
「そしてこちらの美人
「ちょ、ちょっと、いきなりばらさないでよ!?」
「「「こ、こ、こ、皇女……様?」」」
またまた耳を疑う文言が出てきて、固まる奴隷達。
「リエラさん安心してください。この人達はわたしが買った奴隷なんです」
「奴隷?」
「ミリヤで奴隷がどんな立ち位置なのかわからないけど、この人達はわたしの手足となって動いてもらう分身みたいな存在なんで、秘密もできるだけ共有します。それほど重要なパートナーなんです」
「ふぅ~ん。技能奴隷ってことね。分かったわ。皆さんよろしくね」
声を掛けられたものの、奴隷のみんなは固まって動けないでいた。リリーだけは「お姫様なんだあ」と目を輝かせた。
「こんな格好してる時は、探検者のリエラでお願いね」
皆は硬くなった体をなんとか動かして、どうにか頭を下げた。
一探検者が所有する奴隷達に、国家元首を紹介するという訳わからんセレモニーが終わると、ヴェルディはマヤのところに来る。
「ディオネアの枯れ葉のこと、ハンターギルドのマスターにも教えた」
「えっ、ジオニダスさんへ情報漏洩!?」
「倉庫でたくさん使うんだろ? どうやって集めるつもりだ?」
「孤児院パーティーにでも採ってきてもらおうと思ったんですけど」
「何枚使うのか知らんが、集めるのはかなり大変だと思うぞ。しかも目立ちたくないんだろう? となるとマスターを引き込んでおいた方がいい。ギルド内でも一部幹部にとどめておくよう言ってある」
「幹部って?」
「受付嬢や買取の爺さんってとこか」
「受付嬢って幹部なんだ。そういやケイトさんなんか影のマスターですもんね」
「素材屋でも買えるが、店は信用できるところ選べよ」
「分かりました。助けてもらっちゃってありがとうございます」
ヴェルディは二ッと笑って、マヤの肩をぽんぽんと叩いた。
そうしている間に、ヘキサリネ兵が杭とロープで規制線を張って野次馬を追い出し、石山の周辺に人が入れないようにした。これでもう関係者以外は近付けなくなった。