異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
紹介を一通り終えると、マヤはノーバートを連れ、次はどう岩を崩すか打ち合わせを始めた。
他の者達は崩れた石山に目を移し、硬い石山の一角が見事に崩壊しているのを見て、驚愕で目を見張った。爆破がいかに大きな威力であったか、中隊長は驚きと共に感心する。
「これほどとは。マヤさんにはたまげた。俺の破裂玉じゃこうはいかない」
ユスティニアス中隊長の法力は『熱源発生』である。破裂玉とは、鉄球の中心に水を仕込んだもので、その水を熱源で水蒸気爆発させ鉄球を破裂させるのだ。鉄球の中には小さい鉄の玉や釘なども入れて、破裂時に撒き散らして殺傷する兵器で、スタンピードの時にも使われたが、岩を砕くような威力はない。
「ミリヤの秘匿兵器ならできますかな?」
一緒に石山を眺めていたリエラに尋ねる。
「えっ、これをマヤさんがやったの? うちの国のでも最大級の爆発薬持ってこないとできないわよ。でもそれって作成も仕掛けも大変なものですよ?」
対して薬制作の大国であるミリヤには多種多様な秘匿薬の中に爆発薬もあり、酸素爆薬くらいの破壊力をもつ物もあるようだ。しかし簡単に使えるものではないらしい。
中隊長はヴェルディに呼ばれ、マヤとノーバートの打ち合わせに加わった。話の焦点は、突き刺さっている黒岩だ。白い岩に、明らかに異なる種類の黒い岩があたかも打ち込まれたようにあるのは、ヴェルディも中隊長も以前から気にはなっていたのだ。
そして出た結論が、突き刺さっている黒岩の根本を爆破し、あわよくば黒岩を倒してみようということになったのである。考えることが男子中学生レベルだ。
「転がり落ちてきて家屋をぶっ潰したらどうするんですか?」
マヤが聞くと兵士の一人が進み出た。
「私が止めます。法力『バリケード』を持ってますんで」
「バリケード!? なるほどそれはいかにも止めてやるぞって感じの法力ですね。ちなみに法力の『シールド』とはどう違うの?」
「『バリケード』は地面から立ち上がる形でしか障壁を張れないんです。その代わり障壁の厚みや持続時間に長けています」
「ほえ~、壁にもいろんなのがあるんだ」
道路の方に傾くように岩を破壊し、転がってきたら『バリケード』で止めてもらうことになった。
ノーバートとトムトが石山に登っていき、どの割れ目を広げるか、どこに酸素爆薬を埋めるかを決めると、孤児院の子達に岩の割れ目に水を流し込んでもらい、さっきやったのと同じ要領で仕掛けをする。
石山の上で爆破準備が進めてられている頃、
『か、かわいい~。見たところ庶民出身の未成年の奉公人。私が実家での訓練を終えて、住み込みでメイド修行を始めたころのようですよぉ。は、話しかけちゃおうかな。ふ、不審者とか思われないかしら……』
近寄ると恐る恐る声を掛けた。
「あ、あなた方も、マヤさんの奴隷なのですか?」
「はい」
「あたし達姉妹なのー」
カルラとリリーが返事した。
「これまでもメイドをやってらしたんですよね?」
「いいえ。最初は愛玩奴隷で売られるところだったんですけど、あたし達、身体中傷だらけだったので、売れる見込みがなかったんです」
「あたしは片足腐っちゃったし」
「それで家事手伝いって装えばなんとかなるかもってことで、それでも1人ずつだとよけい売れないから、3人セットの子供メイドで特売セールにされまして」
「そこにちょうどご主人様が来て、メイド経験がなくてもいい、子供でもいいって、あたし達をすごく気に入ってくれて、3人まとめて買ってくれたんだ」
カルラとノアナは嬉しそうに語った。
「……なんてことかしら」
あどけない幼い少女の答えに、フィリアは顔を引き攣らせる。
「あの人は~っ。メイドでなくて子供が欲しかったんですか! 孤児院の子だけじゃ飽き足らずに、とうとう自分が1日中自由に出来る子を手に入れてしまうとは! 幼女趣味にも程があります!」
フィリア、ちょっと勘違いがあるようだが、通常運転である。
「あっ、メイドさん、急にお淑やかな雰囲気がなくなった」
ノアナの指摘に慌てて咳払いするフィリア。
「ゴホンゴホン。いけない、いけない。こんなことで動揺していては、
続いて三姉妹の隣にいる、真剣な顔で崩れた岩を見ている女性に目を向ける。
骨だけのように細い。痩せ方が病的すぎる、とフィリアは感じた。
「あの方もマヤさんの奴隷なのですよね? あんなにお痩せになって、どこかお身体が悪いのでしょうか。それか虐待などをされてたとか……」
フィリアの疑問にカルラ、リリー、ノアナがそれぞれ答える。
「お粥しか食べさせてもらえてないですからね」
「お菓子とか甘い物もダメなんだって」
「量も制限されてる」
「はあっ、虐待していたのはマヤさん!? 奴隷なら何しても良いと思ってるの!? 性癖に任せてなんてことおぉ!」
何を怒ってるのかしらと首を傾げる三姉妹。
「虐待なんかしてないよ?」
「栄養失調で危ないところをご主人様が買ったおかげで助けたと言える」
「ご主人様の妹さんによると、極度の栄養失調では急に栄養あるものを食べると良くないそうです」
「マヤさんの妹っていうとサンドラさん? そ、そうなんですか?」
「ご主人様はとっても慈悲深く、奴隷のあたし達でも普通の人のように気を配って扱ってくださいます」
手を組んで、すっかり酔狂している様子のカルラ。
「……そ、そうですか。マヤさんが道を踏み外してなくてよかったです。確かに気に入られればマヤさんは強い味方です。逆に敵に回すと大変なことになりますけど。魔物など指先一つで文字通り木っ端みじんですから。ぜひマリエラ様の敵にならないようにマヤさんの手綱をしっかり握っておいてくださいね」
「ご主人様はお強いのね!」
「あたし知ってた」
「お荷物にならないよう、あたし達でしっかりお支えしようね!」
横でのこんな喧騒など聞こえないかのように、マルリーゼは砕けた石を拾ってまじまじと観察していた。
「これは、なかなか良質な御影石ですね」
爆薬の場所に目印の枝を立てたら、爆破準備をしていた皆が石山を降りてきた。
「点呼ー。イレムはいるだわね?」
「いるよ! さすがにあの岩雪崩に巻き込まれたくはねーよ!」
ちゃんと全員降りてきたか確認するニーシャは偉い。さすが孤児院の学級委員長である。
仕掛ける様子をすっと観察していたリエラは、爆薬がどんなものかに一番興味を持っていたので、用意された材料が粉炭だけだったことをとても不思議がっていた。
「これって、その辺で売ってる炭の粉よね。これだけで爆発を起こすの?」
麻袋に残っている黒い粉を掬ったリエラはマヤに聞いた。
「それとわたしの
「ミリヤの爆発薬とはちょっと違うようね」
「ミリヤの爆薬って、粉炭と硫黄と硝石ですか?」
「何で知ってるの!?」
やっぱりミリヤのは黒色火薬だったか。
「爆発の仕組みは全く同じですよ。硝石に代わるのが酸素です。ただ酸素はすぐ空気中に散ってしまうから、わたしのはどこかで作って保管しておいて、使いたい時に持ち出すってことができないんです」
「マヤさんがそこにいないとできないってことね」
「それじゃみなさーん、兵士さんの張る『バリケード』の後ろに入ってくださーい」
道路に沿って法力の『バリケード』が張られ、その後ろにみんなは隠れる。法力の『シールド』は透明だったが、『バリケード』は透明度のない黄土色で、まさに土壁だった。
「みんな念のため頭を守って、耳を塞いでー。いきますよー。発破ーーっ!」
目印の枝のところでオキシジェン・プラズマカッターを発動させる。飛んだ火花が酸素爆薬を発火させた。
ドドン!!
ドドドーーン!!
ドドドドドーーーンン!!
爆音とともに幾本もの鼠色の噴煙が立ち昇り、黒岩の手前の石山が崩れる。
「バ、バリケード強化!」
思った以上の岩雪崩が起きたので、『バリケード』の高さが積み増しされた。
「「「「「きゃああああーーっ」」」」」
「「「「「わあああああーーっ」」」」」
子供達が悲鳴を上げる。地揺れが自分たちの方に迫ってくるのはなかなかに恐怖だ。
しかしさすがは『バリケード』。道まで届いた岩はすべて堰き止めた。
土煙が収まったところで検分に入った。
「崩れやすいから足元に気を付けてねー」
石山の道路側のかなりの部分は崩れるかヒビが入るかしていた。問題の黒岩だが、まったく微動だにしていなかった。黒岩の根本の石山は崩れて、埋まっていたところが露わになっていたが、それでも傾きもしていない。予想以上に深くまで刺さっているようだった。
そして驚きだったのは、黒岩の埋まっていたところのあちこちが、赤い色をした鉛のような光沢の、棒状の金属結晶になっていたことだった。
上からのぞき込んだマヤは目を丸くした。
「なにこれ! 何かの金属の結晶じゃない!?」
「この赤み、もしかしてもしかするかもしれないぞ」
ヴェルディが意味深なことを言う。
黒岩の根本で騒いでいると、マルリーゼが三姉妹に支えられながら崩れた石山を登ってきたので、マヤは慌てた。
「マルリーゼ、危ないよ!」
「何が出たのですか? あたしにも見させてください」
ノーバートが支えに加わって黒岩の根本まで下ろし、マルリーゼはしばらくその金属結晶を観察する。その目は次第に大きく見開かれ、顔に赤みがさしていった。
「マヤ様……この山はマヤ様のものなのですよね?」
「そ、そうだけど……?」
マルリーゼは立ち上がると、やせ細った体からは信じられないほどの大声で叫んだ。
「ここにいる者達に告げます。この山のものは一切持ち出しを禁止します! ここにあるものは全てこの土地の所有者であるマヤ様のものです! 取り扱いはマヤ様とその配下の奴隷に限ります!」
石山に登ってきていた兵士や孤児院の子、リエラはぽかんと口を開けた。ヴェルディだけはむうっとしかめっ面をした。
「マルリーゼ、どういうこと? この金属っぽい結晶らしきものは何?」
「マヤ様。ちゃんと調べないとですが、これは赤金色鉱がかなりの量含まれている鉄・ニッケルの合金だと思われます」
「あかかねいろこうって?」
「別名オリハルコンとも言います」
「えええ!?」
リエラが真っ先に声を上げて驚いた。
「オリハルコン!? 異世界モノで有名な鉱物の!?」
マヤが聞き返す。
「……異世界というか、魔大陸の魔鉱物です。魔大陸でしか取れず、魔人と交流があったころは輸入できましたが、魔人を滅ぼした今ではほぼ入手できない幻の金属です。あたしは商人でしたので見たことがあります」
「ほえ~。そんなものがなんでここに?」
「分かりませんが、周りの白い岩とは全く様相が違って、後から打ち込まれたようにありますから、ここにもともとあったものとは考えにくいです。それと下の白い岩ですが、これも良質な御影石です。石材として十分価値があります。城の石垣でも、建物の壁や床でも、需要はあると思います。すべてマヤ様の財産です」
「ほえー、マルリーゼは目の付け所が違うよ。さすがは元商売人だよ」
「それをマヤ、いくらで買ったんだって? ここは売れ残っていた土地、つまり国有地だったらしいじゃねえか」
ヴェルディが聞く。
「うっ、今さら国の物だとか言わないでくださいよ! もうわたし買っちゃったんですから。国の帳簿にも記載されてるはずですよ!」
「くっ、まさか国家権力でもって強制収奪ですか?」
マルリーゼも目を険しくしてヴェルディを睨む。
だがヴェルディは両手を上げた。
「しないしない。強制するにはマヤは相手が悪すぎる。反撃する力がマヤにはあるからな」
マルリーゼはきょとんとなった。
「国家も踏みとどまるほどの抑止力を持っとるんか? ご主人は何者なんじゃ」
トムトも目をパチパチさせた。
「マヤ姉は
「どういうことだ?」
大人達の話についていっていたニーシャは、理解が及ばないらしいイレムに「えぇ?」っと呆れた顔をする。
「イレムにはもう少し賢くなってもらわないと、未来のあたいが困るだわね。場合によっちゃ、こっちから身請けを断るだわね」
「なぬう!?」
12歳のニーシャは将来の夫に不満を持ったようだ。
向こうではマリエラがマヤの両手を握っていた。
「マヤさん、ぜひウチの国と取引させてちょうだい! 悪いようにはしないわ」
「おおっと、国外への持ち出しには規制をかけちまおうかな」
「ヴェルディ様、ヘンなことすると国を併合しちゃいますわよ?」
マリエラとヴェルディがまたも国家間の争いに発展させそうな勢いである
「お二人とも、そんなことしなくても将来は一つの国になるんでしょ。対等に付き合わないと、わたし支援しませんよっ。これの扱いは相談させていただきます。価値がどの程度かまだ理解が及んでないけど、なんか個人が持つにはかなり覚悟がいる物のように感じますので」
ヴェルディとリエラはいったん手を引いた。
「ということで、はいっ。今日の爆破実験はこれで終わり! 解散しましょう!」
パンパンと手を叩いてマヤは終了を宣言した。とはいえ。
「マヤ、これそのままにして帰るつもりか?」
ヴェルディが黒岩を指差す。
「どういうことです?」
「出たモノがモノなんで、他の誰かに知られたり、盗まれたりしたらえらいことだ」
「あ、なるほど。」
「ミリヤで警備員を出して見張りましょうか?」
「盗るつもりじゃねえだろうな」
「それは……今はヴェルディ様との関係を悪くしたくありませんので。それにマヤさんが許さないでしょう」
「はい、取らないでね。それにあんまり物々しくしても、かえって何かあると怪しまれません?」
「その懸念はありますね」
「ならわたしが、こそっと侵入者を防ぐ仕掛けをしておきますよ。結界を張って……」
「結界!?」
マヤの物騒な案にリエラの肩が跳ねた。
「間違えて入った奴や、動物なんかもみんな死んじまうじゃねえか! んな危ねえもの、市街地にしれっと仕掛けさせるわけにはいかねえ」
ヴェルディもさすがにこれは許さなかった。
マヤの言う結界とは、酸素を抜き取った空間のことである。つまり結界内に入った酸素呼吸する生物は酸欠で死ぬ。目視では存在がまったく分からないので、知らないで入ったら非常に危険なのである。
「ちゃんと看板建てておきますよお。入ったら確実に死ぬから危ないよって」
「「……」」
「ご主人様。領主様と皇女様が完全に引いてますけど……」
「やっぱやばいご主人じゃのお」
奴隷達も半眼になっている。
「ご主人様が用心棒の奴隷を買い足して、ここを警備するというのはどうでしょう」
マルリーゼが提案する。
「うーん。それがきっかけで、いつの間にか用心棒が増えちゃって、それが元でわたしが私兵団なんか組織したりしたら、そのうちマフィアみたいになったり、それこそ国作っちゃったりしそうで、やりたくないなあ」
「国!」
マルリーゼの目が輝き、期待で嬉しそうにする。
「いや、わたしそういう野心ないんで」
「……そうですか」
とたんに残念そうに肩を落とすマルリーゼ。
この人、わたしが世界征服するって言ったら、喜んで付いてきそうだよ。
「マヤさんは1人でも十分危険国家相当よ……」
「リ、リエラさんまでえ!? 前にもはっきりそう言われたことありましたけど!」
中隊長が事態を収拾させるべく割り込んできた。
「と、とにかく、この土地と、土地の中にあるものへのマヤさんの権利は保証します。なので警備だけはヘキサリネ軍にやらせてください」
「それがいい。中隊長がヘキサリネ軍の実験と言って規制線張ったんだろ。なら暫くはヘキサリネ兵が立ってても不思議には思われない」
ヴェルディも中隊長に賛同する。マヤもそれに乗っかることにした。
「そうですか。そしたら倉庫建てるための空間がきるまで、爆破はヘキサリネ軍がやってるってことにさせてもらっていいですか。合わせて付近への立ち入りの制限も。そうすれば遠慮なく爆破ができます。ご迷惑料に崩れた石山の岩を少し持っていってもいいんで」
「それはありがたい。領都入り口の門を直そうと思ってたんだ。中隊長、そういうことで頼んだぞ」
「わかりました」
マリエラも手を上げる。
「ウチも大使館の増築用に少し分けてもらえるかしら」
「しょうがないですねぇ。じゃ、秘密の鉱石が出たことへの口止め料ってことで」
「ありがとう、マヤさん」
「ご、ご主人様、そんな気前よくあげてしまうなんてもったいない。売れますのに」
「まあまあマルリーゼ。ここは良い関係を持っておくために使いましょう」
「……なるほど。周辺国含めた国家権力との太い繋がりを持つためですね。このようにしてご主人様は裏から手を回せられる関係を築いてきたのですね。さすがです」
そうだったのかとノーバートとトムトは手をポンと打った。
「はははは……」
こうして石山の爆破は、ヘキサリネ軍の実験ということで、倉庫を建てる空間ができるまでヘキサリネ軍が関わる代わりに、現場警備と称してオリハルコンの見張りを受け持つことになった。