異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「ただいまー」
サンドラとリネールが薬師協会での仕事を終えて宿に帰ってきた。フロント前のソファーに座ってお茶を飲んでいたマヤが、おかえりーっと出迎えた。
「今日、地震が何回もあったけど平気だった? 何かの前触れかなあ」
「あー、それ……」
リネールの言葉にマヤは目線をずらした。
「……もしかしてマヤちゃんと関係があるの? っていうか、マヤちゃんがやったの?」
マヤの仕草に察してしまったサンドラ。
「ははは……」
「うへぇ、そうだったのか」
リネールも遅れて全てを察し終えた。
「実は酸素を使った爆薬ってのを作ってみてね、倉庫建設予定地の石山で実験したんだ。それで岩を崩せるって分かったから、石山を爆破して削って……」
「「爆破!?」」
「そんなわけで、建物を建てるスペースを作る目処が立ったよ」
「へ、へえー、凄いの……」
サンドラといえど目が点になる。
「それで領都を何回も地震にみまわせて、領都軍か領主様を怒らせたとか?」
「うっ、リネールさんのくせに、なんて鋭い洞察力」
「うわぁ……」
サンドラは半眼になった。
「ま、まあ領主様の方は解決できてるから大丈夫。それよりポーションの方はどうだった?」
サンドラに頼んでおいたことを聞く。
「それなんだけど、やっぱりポーションを売ることはできないって。だからルール関係ない領主様に相談するか、それかもう一つ、お母さんに言われてこれ持ってきたの。洗ってくるようにって」
リネールさんが背負子に縛っていたものを下ろし、包んでいた布を紐解くと、陶器の大きな壺が出てきた。直径は太いところで50cm、高さは1mもある大きなものだ。
「かめ? 壺?」
「これはアンフィスバエナの無毒化した毒液が入ってた壺なの」
「まさかひっくり返せば垂れてくるとか!?」
「逆さにして雫が垂れなくなるまで使い切ってるから、それはないの」
「なんだ」
「でもね、壺の内側には、固くなった毒液が膜になってこびりついてるの」
「膜? それ使えるの?」
「毒液の成分には違いないの。お母さんが言うには、それをなんとかして使って、それでも足りないだろうから、そこはわたしの薬効アップ法力で頑張って効能を増やして作ってみたらどうかって。毒液以外の薬草は手に入れやすいものばかりだから、材料は揃うの」
「なるほど!」
「壺に手を差し入れて、内側を引っ掻いて取ってみようと思うの」
「分かった、手伝うよ! うちの奴隷姉妹が」
「……マヤちゃん、奴隷の使い方が上手くなってるの」
「あうっ」
壺を二階の女子奴隷がいる部屋に持ち込んで、三姉妹に壺に頭を突っ込んでスプーンを使って内側をこそげおとしてもらった。
サンドラはそれをパウダー状になるまですり潰し、熱を加えながら水に溶かして暫く寝かす。溶けずに底に残ったものを取り除き、濾してから煮詰めると、見た目は無毒化したアンフィスバエナの毒液に似た物ができた。
「どう?」
「本物はもっとトロッとしてるの。これはサラサラだから成分はだいぶ薄そうなの」
「やっぱ足りないってこと?」
「でも少ない材料で十分な効能を出すことも法力『薬効アップ』の力だから、やりがいがあるの」
宿の中庭に移動して、リネールが竈を作り火を焚くと、魔女が薬を作る時に使うような釜の小型版を竈にかけ、アンフィスバエナの毒液と薬草を入れて煮込んだ。
サンドラが法力をかけながらかき混ぜていくと、鍋の中がキラキラと光り、時たま金色の粒が螺旋を描いて空に上がっていく。三姉妹はその様子をおとぎ話の世界に入ったかのように感激して見ていた。
「サンドラちゃんは薬師の資格取らないの?」
「取りたいよ。薬師の先生に師事して免許皆伝をもらったら、推薦状を書いてもらって薬師協会に出して審査を受けると、薬師の資格を貰えるの」
「お母さんも薬師の資格もらえてないんだよね?」
「うん。前にも言ったけど、リトバレー村には薬師先生がいたんだけど高齢で亡くなってしまって、お弟子さんも事故で亡くなってしまったからいなくなっちゃって、師事できる人がいないの。リトバレー村の薬師は独特で規格外だったから、薬師協会とはあまり仲良くなくて、なかなかお母さんを引き受けてくれる薬師先生がいないの」
「えー、あんなに優秀なのに。派閥争いみたいなのがあってのけ者にされてる感じなのかな。酷いね。でもサンドラちゃんは一応ヴェルディ様の口利きで、領都邸の薬師局の薬師様に教わることができてるのよね?」
「うん。助手という形で出入りができるようになってるの。成人したら正式に薬師局に入って師事することになると思うの」
「凄いや、将来の道が約束されてるんだね。そしたらお母さんがサンドラちゃんに弟子入りして、サンドラちゃんから免許皆伝もらえばいいんじゃない?」
「お母さんに教えるなんてへんちくりんだよぉ。それにわたしのじゃ権威がないよ」
「サンドラちゃんはぜったい大薬師になるって」
「そのころにはお母さんはおばあちゃんだよ」
そんな話をしているうちに、ポーションはできあがったようだ。見た目といい臭いといい、劇
「わたしの法力に効能10倍以上のアップ効果が出てるなら、これでいいはずなの」
布で濾すと、2瓶分のポーションができあがった。キラキラしたものは漉しても液体に残っている。
「リネールさんごめん、お片付けしといてくれる?」
「あいよ。どのみち治療に俺は立ち会えないからね、女子ばっかだから。早く飲ませてあげなよ」
「ありがとう」
「「「ありがとうございます」」」
三姉妹に丁寧に礼を言われ、リネールさんはニヘヘヘと笑った。いい人だ。
女子奴隷の部屋に戻ると、カルラ、リリー、マルリーゼの服を脱がせ、現状をもう一度確認した。マルリーゼは石山まで行って動き回ったことで、足や内股の擦り傷が悪化していた。
「ほらあ。だから今日は大人しくしてようって言ったのに」
「申し訳ございません。ですがご主人様の危機と聞いて、じっとしていられなくて」
「まあしょうがないか。わたしがどれくらいになったら危機に陥るか、まだ付き合い短いから分からないもんね」
「普通、国の組織や軍隊に捕まったって聞いたら、大騒ぎになるのは当たり前なの。やっぱマヤちゃんが悪いよ」
「あうっ。ごめんなさい。みんなごめんなさい」
「いいえ、ご主人様のお力からしたら、この程度のこと慣れろってことかと思います。あたし達も早くご主人様を理解しないとです」
マルリーゼは三姉妹にも言い聞かせるように言うと、三姉妹も頷いた。
「まあ、なんて聞き分けの良い人達なの。マヤちゃんにはもったいない奴隷なの」
「わたしもそう思うよ」
さっそく1瓶のポーションを3人に分けて飲ませた。マルリーゼも思ったより体力が戻ってたのでポーションを飲んでもらう。そしてしばらく様子を見る。
あまりの不味さにリリーは転げ回っていたが、急にパタリと止まった。虫に殺虫剤が効いた時みたいなので、マヤは死んじゃったのではと一瞬心配するが、ぶるぶるぶるっと震えると、ゆっくりと起き上がって身体を見回した。
「治った、治ったよ!」
リリーが大喜びして裸のままくるくると回った。ノアナはつるつるになったカルラの背中を震える手で撫でると、その背中に抱き着いた。ノアナの声は涙声だった。
「カルラの背中の傷も……跡形もない」
「ずくずくしてた痛みがなくなったわ! ああ、もうあの痛みを我慢して寝なくていいんだ。なんて晴ればれした気分なの!」
三姉妹が抱き合って喜び合う。
マルリーゼもピカピカのお肌になったのでびっくりしている。
「すごい。これがサンドラさんの法力の力。これは聖女様と言われるわけです」
サンドラはホッとしていた。
「よかったあ。残りかすみたいなのでちゃんと効く薬が作れて」
「う……そのどうにかしちゃう的なところが聖女様だよね。やっぱサンドラちゃんは凄い。やっぱわたしには聖女は無理だぁ。主人公の座を明け渡した方がいいのかも」
「大丈夫よ、ご主人様!」
カルラに服を着させてもらっているリリーが叫んだ。カルラもそれに力強くうなずいた。
「そうですよ、ご主人様にだって岩山を崩す凄い法力があるじゃないですか! ええと、オキシジェン・ビーナスでしたっけ?」
「ああ、うん、オキシジェン・ビーナ……」
マルリーゼがトドメを刺してしまった。
「孤児院の子達がもっとピッタリのを連呼してましたよ!」
「え? それって……」
「
「ぎゃあああーっ、やめてやめてやめて!」
マヤは耳を塞いで床を転げまわった。