異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
向かったのは、マヤが下着類をオーダーしているなじみの服屋さんだった。例の領都邸のメイドさん達に大好評だった、クロッチ付きのショーツを作ってるところだ。
「まあ、マヤさん、いらっしゃいませ」
ここの店主は女の人だ。だから女性用の服には理解が高い。こっちの世界の下着に思うところがあったマヤは、改良してもらおうと思ったけど、ジャケットをオーダーしていた店はおじさん店主なので躊躇っていたところ、この店を見つけたのだ。
「あのショーツ、シルクだから高いのに注文が凄くて、増産しようと思うんですけど、どうかしら」
「良いんじゃないですか? できたら綿製のも作って、一般庶民向けの安いのも作れると良いんだけど」
「あの伸び縮みする布はソーイング・スパイダーでないと作れないんですよ。スパイダーは用途によって糸を作り変えていて、ショーツでは伸び縮みする糸を作って多用してるんです。コットンやリネンの糸は伸び縮みしないですからね」
そういえばクモの巣って、いろんな質の糸を瞬時に変えて出して作ってるのよね。すごい能力だよね。
「布が伸び縮みするのは、糸だけでなってるわけじゃないですよ」
マヤは展示品のウールのセーターを取る。
「この編み方を綿の糸でできないですか? 布が伸び縮みするのはこうやって編んでるからなのよ」
「細い綿の糸をこんなに細かく編むのですか!?」
「このセーターって手編みなの?」
「もちろんです。編み物
「機械編みはしないの?」
「織り機はありますが、編む機械なんてないですよ。……いえ、東のオルデンドルフ王国では靴下を編む機械があるって聞いたことがありますね」
「まだ発明されてないのかあ。わたしも仕組みは知らないしなあ」
ああいう機械の動きっていうのは、物理的な仕組みや性質を良く知ってないと作れないのよね。工業高校に行ってるならともかく、普通科で単なる空想好きや電脳頭では実現できないなあ。
「当面はクモさん頼みにするしかないかぁ」
「それで今日はどういったご用件で? ショーツの追加ですか?」
「あ、仲間も増えたからショーツの追加を頼んでおきたいってのもあるけど、今日は新しい機能の服を作ってもらいたくて。ノアナ、試作品を出してちょうだい」
「はい」
「女の子の二次成長期、初潮の前後頃にある悩みへ対処する服なんだけど」
孤児院でも見せた試作タンクトップとキャミソールを渡す。
「まあ。マヤさんはいつもタブー的な領域を攻めてきますわね。それにいよいよ試作品まで作ってしまわれるなんて」
「この子達が被服関係得意なのよ」
「あらまあ、可愛い子供達なのに……って奴隷ですか!?」
店主さんは首輪に気付いた。
「うん。でもそれは制度上しかたないだけで、この子達はわたしの家族だから」
店主さんはほろりとする。
「マヤさんは優しいですねえ。この子だって義足ですし、孤児院にも援助されてらっしゃるし」
「女神になれるかな」
「えっ!?」
さらさらと流れていた会話が、なぜそこでつっかえるの!?
「そ、そうですね……探検者の方をもう少しお控えにされれば……」
そんなにそっち方面では悪評が広まってるのか!
「でもこれ、なかなか思っていてもやれてなかった服ですね。サーニャ、ちょっとー」
プロの眼は服の機能の方に集中する。
店主さんに呼ばれて奥から若い女の人がやってきた。
「あなたの子供にこれどう?」
「えっ? わあ、これ欲しいです! 娘が悩んでて」
「もうそんなに大きなお子さんがいるの!?」
マヤからは大学生くらいの歳の人に見えたので、びっくりした。
「はい。10歳なんです」
「いつ産んだ子?」
「15歳でしたかしら」
わあ早い! へたしたら仕込んだのは成人前……。でもこれが中世的な時代では珍しくないのか。
ノアナが再現できてない細かいところを説明する。
「あたしやリリーくらいの子には、ここを厚めにしただけにして、ご主人様くらい育った子には、ちゃんとしたカップのにしたい。型紙段階から形作って、パッドは交換できるようにしたい」
「成長に合わせて2種類作っておくのね」
「背も大きくなる時だから、それまでの服も着れなくなって買い替えするし、ちょうどいいじゃないですか?」
「この肩ひもが細い方、デザインも色っぽくて、スリップにも似た感じで大人が使ってもいいわね」
サーニャと店主さんは手に取ってあれこれ品評した。
話はとんとん拍子に進んで、今店で売ってる子供用のタンクトップ型の肌着を、さっそく改造してみることにした。作るのはソーイング・スパイダーである。人と共存する数少ない魔物のひとつだ。
スパイダーの部屋に入ると、体長1mくらいある、白いふわふわの短い毛に覆われたハエトリグモに似た形のスパイダーが7匹、せっせと縫物をしていた。それらが急に手(脚?)を止め、一斉にこっちを向いた。
「ま、まあ。驚かせてしまったかしら」
店主さんが慌てた。
するとシモーナが、ちょんちょんとマヤを突っついて、携帯用の小さな黒板に何か書いたのを見せた。
「なになに? こんにちは、って挨拶してみたって?」
「シモーナちゃんが挨拶したらみんな振り向いたの!?」
「もうこれ間違いないよ!」
カルラとリリーが興奮気味に言った。
「もうちょっと話しかけてみてくれる?」
マヤが黒板に書いて伝えると、シモーナはこくりと頷いた。
しばらくすると、クモたちが4本くらい脚をしゃかしゃかと盛んに動かし出し、1匹が歩み出てきた。シモーナが黒板に文字を書く。
「ここに来た訳を話したら、何を作ればいいの? ってこのクモさんが言ってるんだって」
店主さんはびっくりした。
「まあまあ、この子はしゃべらなくてもスパイダーと話ができるんですか?」
「どうやらそういう法力で間違いないね。シモーナは耳が聞こえない障害があるから、もともとしゃべれないんです」
「そうだったんですか」
サーニャがクモに、サンプルの服を渡して作りたい服を口頭で説明すると、ひょいと脚を1本あげて了解の合図をし、既製品のタンクトップを持って自席(?)へ戻っていった。ソーイング・スパイダーは人の言葉を解するのだ。
そして4本の脚が目にも止まらぬ速さで踊りまくると、なんだか誇らしげな雰囲気を出して戻ってきた。シモーナは顔を赤くして黒板に字を書くと、マヤに見せた。
「シモーナに着てみてって言ってるみたいよ」
店主さんは、まあまあとにっこり笑うと、シモーナを試着室に案内した。
試着して出てきたシモーナは、また違った頬の赤みを帯びていた。両手で胸をゆっくりと触るように揉んでいる。
「着心地いい? シモーナちゃん」
リリーが聞くと、シモーナはリリーの手を取って試着室に連れ込んだ。
「えっ、あたしが着るの? わあっ脱がさないでぇ!」
カーテンの向こうですったもんだがあったようだが、メイド服のスカートに上だけタンクトップのリリーが頬を桜色に染めて出てきた。
「あたしまだお胸なんともなってないけど、これすごく優しくて気持ちいい! そう、気持ちいい!」
気持ちいいを強調してるところに、ん? と首を傾げるマヤ。
シモーナがクモの脚を1本両手で持って、握手するように振る。するとクモは満足そうな空気を、会話できないこっちが分かるくらい発散させてきた。後でシモーナから聞いたところでは、自分やリリーの感想を添えてお礼を言ったんだそうだ。
サーニャはその様子を驚きをもって見つめる。
「スパイダーがこんなに興奮するのは見たことないですよ」
そしてシモーナやリリーの反応を見ていた店主さんは、これはいけると確信した。
「これさっそく量産しましょう! 貴族や金持ち向けのは、後で装飾入りのでも作ればいいわ。まず庶民向けのを作りましょう!」
「素晴らしいです女将さん!」
サーニャも両手を合わせて喜んだ。
「マヤさん、このアイディアは……」
「いつものように売り上げの5%でいいよ」
「ありがとうございます! それでマヤさんのところにはいくつ必要なのですか?」
「えーっと、カルラにカップ入りを、ノアナとリリーにはパッドだけのを、孤児院にパッドだけのを12着、カップ入りを2着。あとわたしとサンドラちゃんにもほしいな。キャミソールのでカップ入りのやつ」
「夕方までに用意しますね! 洗い替え分は後日お届けします」
さあ忙しくなりますよっ、とクモたちにはっぱをかける店主さん。
「それとショーツなんだけど、たぶんあと1ヵ月くらいしたら、わたしも旅に出ると思うから、多めに欲しいんだ。洗い替えだけじゃなく消耗もするだろうから。たぶんサンドラちゃんの分もいると思う。他の町でも手に入ればいいけど、まだここだけでしか作ってないもんね」
「長い旅なのですか?」
「そうなると思う」
「となると、うちの店じゃないですが、マヤさんの
店主はクモの方へ歩いて行った。
しばらくすると、ハンカチのようなものを持って戻って来た。そこには不思議な紋様が刺繍されていた。
「これを訪れた先の服屋のソーイング・スパイダーに見せてください。同じショーツを作ってくれます」
「えっ!?」
「ソーイング・スパイダーどうしで通じる設計図みたいなものなんです。ジャケットの方も、探検者用衣料店のソーイング・スパイダーに同様のものを作ってもらっておけば、補修や、痛み具合によっては新調しないとなことになっても、作り直ししやすいと思います」
「わあ、ありがとう! いいことを教えてもらいました」
「いつもアイディアをもらってるお礼ですわ」
用事は済んだので帰ろうかと思ったら、カルラが展示されているレースのパンティをじぃっと眺めていた。
「どうしたの、欲しいの?」
「い、いいえ! あたしもいつかこんなの履くのかなって思って!」
さすがは長女。色気づくのも一番乗りだねぇと、マヤは心の中で微笑む。
「大好きな恋人ができたら、履かないとだね」
カルラはかあっと真っ赤になった。
ノアナもやって来ると、パンティを眺めた。
「マルリーゼさんなら、大人だから似合うかな」
マヤはぽんと両手を打った。
「ぜったい似合うね。お尻にお肉が付いたら皆でプレゼントしようよ」
マヤが提案すると、2人はぱあっと明るい笑顔になって、それいいと言った。
「ノーバートさんに見せたら喜ぶ?」
「み、見せちゃダメだよ、ノアナ!」
「なんで?」
「なんでって……下着ってそういうものでしょう」
「見せないものに、なんでこんなに手の込んだ模様つけるの?」
答えに窮したカルラはマヤを見上げた。
「鼻血出して死んじゃうからだよ」
孤児院に戻ってシモーナのことを報告すると、みんながよかったよかったと喜んでくれた。
特に喜んだのは院長先生だ。シモーナを抱き寄せると、目元に涙を浮かべて抱きながら頭を撫でた。
「シモーナらしい法力じゃないか。あまり聞いたことのない法力だよ。きっとみんなから頼りにされるようになるよ」
ボードを使わなくても唇で読み取ったシモーナは、嬉しそうに笑った。
そしてリリーのところに駆け寄ると、リリーにハグをした。
「嬉しさを一番リリーに伝えたかったんだね」
「一番活躍した人はご主人様なのに」
「いいのいいの。リリーがわたしの分も受け取っといて」
マヤがニコニコとリリーに微笑むと、リリーも大きく笑って、シモーナを強く抱きしめた。