異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
運搬関係の法力者を使った岩の運び出し作業が、機械化の進んだ21世紀顔負けの素早さだったことに、マヤは驚いてしまった。
爆破に3日、運び出しと合わせてたったの5日で、倉庫を立てるための空間作りが終わってしまったのだ。
今はマヤの取り分の岩が残してあるだけである。名目上ヘキサリネ軍は、これの警備ということで引き続き歩哨を立てている。
黒岩はその後は手を入れぬままで、岩の根本周辺の花崗岩を残したままカバーが掛けられてあった。
建設予定地の空間作りが終わったので、マヤは土地の検分をノーバート、トムト、マルリーゼ、カルラと行った。カルラは岩に当たって声が反響する大きな空間に感心しきりだ。
石山は道路側から見て左右と奥を壁として残してある。石の壁は一番高い所で2階の天井くらいあった。床面は道路と同じ高さまで崩し、それより下は埋まったままで残っている。
「これから寸法を詳しく測って、残した岩壁や床を活用した倉庫の設計をします」
「あたしはそれをもとに、必要資材の見積もりをします」
ノーバートとマルリーゼがやる気満々である。
「頼もしいわ。よろしく頼むね。でも二人ともまだ痩せっぽちなんだから、無理しないでね」
二人を気遣うマヤ。サンドラの薬のおかげでマルリーゼも皆と同じ食事を取れるようになり、体力もどんどん回復してきているのは喜ばしい。
「ご主人様のお気遣いには痛み入ります」
「俺の方はもう心配いりませんよ」
「ノーバートも過信しない方がいいよ。事故には気を付けてね。作業の進捗よりみんなの安全が第一だからね。安全第一って横断幕作って張っとこうかしら」
ノーバートとマルリーゼは、それまで聞いたこともない安全第一という言葉に感銘を受けて目を潤ませた。トムトはうむうむと頷いて髭を撫でている。
「トムトはこの後、孤児院へ行くんでしょ?」
「そのつもりじゃ。ラースの法力訓練に付きおうてやらんと」
「ついでにお願いしたいんだけど、いいかな」
「奴隷に拒否権なぞなかろう」
「いや、一応嫌な時は言ってよね。それでもやってもらいたい時は、わたしもできるだけ納得してもらえるよう説得するけど。命令は最終手段」
髭の奥の口が機嫌良さそうに上向く。
「変わったご主人じゃ。それで何をせいと?」
「シモーナに、ディオネアの種をここのどこかに植えてって頼んでほしいのよ。あれって虫やネズミ退治してくれるんでしょう? ネズミは倉庫の大敵だからね。ただここって下のほとんどが岩だから、植えられる場所があるか心配なんだけど」
「場所はあの
「種が嫌がるかもしれないじゃん。土がほとんどないって」
「ふむ。ようけわかった」
「魔物を使役する場合は届け出が必要だったはずです」
マルリーゼに言われて、そうだったと気付かされた。担当部署はハンターギルドである。魔物を刈り取るのが仕事の一端でもあるので、何か問題が起これば駆け付けるには最適。というよりは、やっぱり厄介ごとを押し付けられる何でも屋感がある。
「それは日課の冷凍魔物を届けるついでに、わたしがやってくるよ。孤児院パーティーにディオネアの枯れ葉集めも依頼しなきゃだし」
「冷凍魔物の件がなければ、雑用はあたしがやりますのに」
「いいのいいの。それじゃ皆さん、お仕事にかかってください」
◇◇◇
午後にはシモーナが、ニーシャやレイヤら女の子達と一緒にやって来た。
シモーナが持ってきた、ポテチの袋のようなディオネアの種は、既に皮が破れて双葉が出始めていた。
「それ芽が出かかってるんじゃん」
「居心地よかったから、間違えて出てきちゃったんだって、シモーナが種から聞いたんだわ」
「ははあ、温度とか条件がそろえば、暗闇でも発芽するもんねえ」
「早く植えてって、訴えてるんだって」
世の中の植物の種の声が全部聞こえてきたら、ノイローゼになるなと思うマヤ。
「倉庫予定地のここに、害虫退治で1本植えたいって思ってたんだけど、どうかな」
ニーシャにも説明を手伝ってもらって伝えると、シモーナはこくりと頷いて、種を胸に抱えたまま歩いていった。
なにしろここは、石山と言われていたでっかい岩があって使えなかった土地だ。建物を建てる場所を作るために岩を破砕してみたものの、地中深くまで岩はあって、地面と同じ高さまで削ったところで下方向の掘削は止めている。なので敷地内で土があるところは、岩の周囲だけということになる。
シモーナは敷地を一回りして戻ってくると、敷地の北東の、道路に面した辺りに決めたという。これから建てる倉庫の入り口に近い所で、道路が東側にあるから視界が開けていて、午前中は日当たり良いだろう。
「日光の良く注ぐ南の方でなくて、北側にしたのはなんで?」
シモーナ経由で聞いてみると、種から聞いた答えを黒板に書いた。
「北側にある隣の林から獲物が来そうだからだって」
孤児院の方から石山を見えなくしていた林だ。食虫植物の魔物だから、日当たりは関係ないのかもしれない。水が湧くと言ってたし、水を沢山飲めるというのもありそう。
「目がないのによく見てるんだねえ。でも気に入った場所があってよかったわ。これからよろしくね、ディオネアさん」
シモーナにマヤの唇の動きは読み取りづらいらしいので、ニーシャが代わりにシモーナに伝えると、シモーナから種に伝わり、種の感想をシモーナが黒板に書いた。
「喜んでる、だって」
「よかっただわね、マヤ姉」
◇◇◇
シモーナ達にディオネアの種を植えるのを任せて、マヤはニーシャとハンター・
先にギルド中庭の解体場に下りて、冷凍魔物を渡しに行く。
解体係の人が今日はサンダーウルフ15頭がいいというので、ウルフが入った固体酸素コンテナを出す。霜で白くなったウルフがガラガラと石のような音を立ててコンテナから下ろされる様にニーシャは、「マヤ姉のやってることを年少の子達に伝えるのはいつも難しいのだわね」とぼやく。
サロンに戻って受付に行った。
この時間はハンターはみんな稼ぎに行ってるので、受付は暇である。今日はレーナが座ってあくびをしていた。はーい、とカウンターで手を振って呼ぶと、喜んで対応してくれた。
「レーナさん、ディオネアの種を植えたんで、その申請と、孤児院パーティーに指名依頼を出したいんですけど」
「孤児院に続いてマヤさんも植えたんですか? ディオネアの森でも作るつもり?」
「なるほど! ディオネアの森を育てて、実を収穫して卸すプランテーション農業ってどうかな」
「一応ヘキサリネの中央地方でやってるところがありますよ。毎年、実を収穫しに行った農夫が1人はいなくなる危険な仕事ですけど」
「捕まって食べられてるってこと!?」
「実を勝手に取ると怒るでしょう? やるなら領都の外の遠くでやってくださいね。はいこれ申請書の用紙」
「やっぱり魔物の木だなあ」
少し震えながら申請書を書くマヤ。
「こっちは依頼票。ニーシャちゃん、すぐ受注するの?」
「だわね」
「じゃあパーティータグ預かるね。なんの依頼なんですか?」
「ディオネアの枯れ葉集め。これ他の探検者には秘密にしといてくださいね」
レーナは、あっと察した。レーナはマヤとニーシャの近くに顔を寄せ、小声になった。
「マスターから聞いてます。マヤさんの倉庫で使うんですよね。ニーシャちゃん、マスターから採れる場所の情報を聞いてるから教えるわ」
「本当だわね!? ありがとう」
「ディオネアが自然に集まってる場所だから、罠も多いからくれぐれも気を付けてね」
「うん。罠の見つけ方はサンドラ姉に教わってるけど、パーティー組むみんなにも、もう一回注意するだわ」
申請書を書き終え、マヤは指名依頼票を手に取る。
「わたしはニーシャが一番心配だよ。たまにヌケてるから」
「うっ、あたいも自覚あるから心配」
大丈夫かなあとレーナも苦笑いする。
「葉っぱに閉じ込められた時の、葉の開け方は知ってる? 他の人に開けてもらうんだけど」
「サンドラ姉から開け方も教えてもらっただわね。イレムが捕まった時に開けるのを一緒にやった子もいるだわね」
「じ、実践してるところがすごいわね」
「はい依頼票も書いたよ。それじゃニーシャ、目立たないようにやってね。なんでディオネアの葉ばかり集めてるんだろうって疑問に思われると厄介だから」
「バレちゃったら、あたいらの倉庫の仕事が取られちゃうだわね。分かっただわね」
ニーシャは頭が良い子なので瞬時に理解してくれた。