異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
現地計測から2日で、ノーバートは倉庫の大雑把な設計を終えた。
黒岩が真ん中らへんに突き刺さっているので、そこを避けるように岩をくり抜いた結果、整地した土地は凹形をしている。それに合わせて3棟の倉庫を建てる。
また黒岩の根元を隠さねばならないというのがあるので、そこを覆うようにして事務所建物を作ることにした。
しかしいきなり全部を作るのは時間も資材もかかるので、黒岩周辺の事務所と、凹型の右側の倉庫から作ることにした。中央と左側に当たる倉庫は二次拡張、三次拡張で作る計画だ。
マルリーゼはノーバートの書いた設計図を読み解きながら、ここはどんな材料か、柱は何本、壁板は何枚、釘はどれくらいとヒアリングを行い、必要材料のリストを作った。
マヤはリストを見るも、さっぱりイメージがわかない。
「ディオネアの枯れ葉が1470枚もいるの!?」
「はい。これでも50cm厚の1枚の葉を厚さ10cmに切っての枚数です。実験から10cmでも十分な断熱効果があると分かりましたし、加えて周囲に残した岩壁や床石も、保冷効果を高めてくれるでしょう」
発泡スチロールを越える性能に驚いたが、正直助かった。
「50cm厚のままだと7千枚以上必要だったってことかぁ。実は結構無謀な計画だったのかなあ。手に入るかしら」
「孤児院パーティーの採取だけじゃ心配ですね」
「そうすると一部は買わないとかぁ。これらの資材を揃えるのにどれくらいのお金がいるのかな? マルリーゼ見積もれる?」
「かしこまりました。今日中に調べておきます」
「それで明日、注文しに行こう」
「お金の方は大丈夫なのですか? あたし達を買った時とは桁がいくつも違うと思いますが」
「商業ギルドにたくさんお金預けてるから大丈夫と思うけど。足りなければストックしてる魔石粉を売ってお金作るよ」
おおーっと大人の奴隷達は唸る。
「ご主人様ってお金持ちなんだ」
三姉妹は頼もしいと目を輝かせた。
◇◇◇
翌日、ノーバートとマルリーゼを連れて、建築資材を買い付けるため商業ギルドへ行った。
商業ギルドへ行くと、いつものイケメンお兄さんのリカルドが出てきて対応してくれた。
「いよいよ建てるんだね。しかしよくまああんな土地に建てられる目処が立ったもんだ」
「優秀な大工を抱えてるんで」
とノーバートをポンポンと叩く。肩を叩きたいところだけど、背が高いので届くのは二の腕だ。
「ほほう。で、指定の業者はあるかい?」
「ないです。誠実で、無駄がなくて良い品を揃えてくれる店を紹介してください。安かろう悪かろうとか、不誠実なところはご勘弁です。あとお客の情報は漏らさない口の堅さも」
「そうだねえ……。若い店主がやってる店があるんだけど。よかったら会ってみないかい?」
「お薦め?」
「なかなか良い人だよ。女性でね、うちとしても実績を積ませてあげたいんだ」
「ふむ」
マヤはマルリーゼの方へ向く。
「見極めてもらえる?」
「承知しました」
「オッケー。じゃあいっぺん会ってみましょうか」
さっそくお勧めの店にリカルドが案内してくれた。向かったのは商業地区でも、道具、石や木材、レンガなどを扱っている店が並んでいるところだった。
どのお店も職人らしき人が出入りしたり、荷車から資材を下ろしたり積んだりと忙しそうにしているが、リカルドが向かおうとした店は閑古鳥状態だった。折れたノコギリを持った職人がその店に入ろうとしたら、別の店の人が飛んできて、客をかっさらっていってしまった。
「……」
声にならず、不安な顔をリカルドに向けるマヤ。
リカルドは構わず閑古鳥店に入った。
「ホームさん、いるかい?」
「はーい」
明るい声で返事して出てきた店主さんは、20代前半の若い女性だった。背丈はマヤより少し高いくらいなので小さい方だ。相変わらずのこの地方らしい金髪美人である。何をしていたのかエプロン姿であった。
「お客を連れてきたよ」
「まあ、リカルドさんにはいつもお客様を紹介してもらっちゃって、ありがとうございます」
慌ててエプロンを外す金髪女性。
しかしリカルドが連れてきたのが痩せた男女と少女なので、店主さんは誰と話をすればいいのか戸惑う。
「マヤです。よろしく」
一歩前に出て握手を求めてきたのが少女だったので、店主さんはまたも戸惑った。
「ホーム商会のアデラ・ホームです」
マヤとアデラは握手する。
「マヤさんは、最近領都でかなりご活躍の
「こ、子供みたいなとか、大人らしいんだとか、ヘンな紹介のし方しないでください。れっきとした大人です!」
うわあ、これで17歳? 13、14歳くらいにしか見えないのに。
という目でアデラが見ているので、マヤにじとっと睨まれた。
「あああっ、見た目で人を見てはいけませんよね! 私も女というだけで苦労させられてます! マティアス、お茶入れてくださる!?」
みんなは応接セットのところへと案内された。そこへ二十歳そこそこの若い男の人が紅茶を淹れて持ってきた。こちらもこの地方の特徴的金髪美男だ。アデラが紹介した。
「こっちはマティアス。力仕事から事務まで、なんでもこなすうちの商会のメイン戦力です」
「マティアスです。以降お見知りおきを」
「マヤです。こちらはマルリーゼとノーバート」
3人してぺこりと挨拶する。
アデラとマティアスはお連れの2人にも目を向ける。奴隷の首輪をしているのに気付き、少女と主従関係にあるのだろうと察しがついた。しかしノーバートもだが、マルリーゼは異常に痩せているので、食べさせてもらえてるんだろうかとアデラは心配な顔をする。
「お二人はマヤ様の奴隷ですか?」
マヤが答えた。
「はい。奴隷商で買ったからそういう関係になってますが、わたしが2人を買ったのは優秀な技術者だからです。本当なら高額の給料払って雇うところなんですけどね」
「それはそれは、とても高く評価されてるんですね。相応の待遇を受けてらっしゃるのかしら?」
問い掛けられたマルリーゼは、勿論ですと深く頷いた。
「あたし共が痩せているのをお気にされているのでしょう? 奴隷商で餓死寸前のところをご主人様に助けていただきまして、今ではこのように働けるまでに回復しました。全てご主人様のおかげです」
虐待されてるわけではなさそうと分かり、アデラはほっとした。
マティアスは「作業の続きをしてきます」と言って退席した。
「ホームさんは若いのにとても才能があって、ヘキサチカに店を構えてそろそろ5年になるんだけど、高い調達力でリピーターも多いんだ。ただ女性なだけに仕事を回してもらえないことも多くてね。同じ女性で、しがらみもないだろうマヤさんなら使ってもらえるんじゃないかと思って紹介したというわけだ」
「頑張る女性は応援したいね」
「ご期待に沿えるよう尽力いたします」
アデラはマヤにおじぎをした。
見た目子供の(一応自覚はある)、しかも女性であっても、丁寧に対応してくるところにマヤは好感を持てた。
「それでねホームさん。マヤさんは今度ヘキサチカの北地区に倉庫を建てることになってね。その建築用の資材を買い求めに来たんだ」
「倉庫ですか。探検者ですのに?」
マヤは頷いた。
「一時的に保管しなくちゃなものが沢山ありまして。将来的には倉庫業をやろうと思ってます。特別な資材は求めてませんので、こちらで揃えられると良いんですが。マルリーゼ、リストを見せてあげて」
「はい。こちらになります。まだざっくりしたものなので、細々としたものは今後増えていくはずです。また今回作るのは全体規模の3分の1です」
「ということは、今後残りの3分の2の建設も続くと?」
「はい」
「そっちの資材調達もホームさんにお願いするかは、今回のを見てだね」
と、マヤはマルリーゼ、ノーバートに語りかけるようにして探りを入れた。そしてアデラの反応を見る。生意気な小娘めと思われるか、意欲を見せるか。
「まあ! 私頑張ります! アデラとお呼びください。それではリスト拝見しますね」
人柄は良さそうだ。上々な反応なのでマヤはほっとした。
リストに目を通していくアデラは、口の辺りを撫でる。
「……ふむふむ。石材は無いようですが、いいんですか? 通常、柱の基礎用に大きなのが必要だと思うのですが」
「石材関係は自前で用意できるので大丈夫です」
「柱も壁板も数が多いように見えます。感覚的に規模に対して倍くらい?」
「確かに、二重構造だもんね」
「特殊な倉庫なのですか?」
「特殊と言えばそうかもね。まあおいおい話せればと思います」
初見でなかなかよく見抜いてくるなあと感心する。
「分かりました。では見積ってみましょう。材料や材質を選んでもらいたいものもあります。サンプルを見ていただけますか?」
「ノーバート、指示してあげて」
「分かりました」
「ご予算の方は?」
「金貨100枚から150枚くらいかなあって、内輪では見積もってるんだけど」
「……ふむふむ。いい線だと思います。では材料を見てもらいましょう。こちらへ」
アデラはノーバートを連れていく。ついでにマルリーゼもそれに付いていった。
ソファーに残されたマヤとリカルド。
「リカルドさん、面通しはしてもらったしもう大丈夫だと思います」
「そうだね」
しかしリカルドは優雅にお茶を飲み続け、立ち上がる気配はない。
「ギルドに帰らなくていいの?」
「僕はまだ仕事中だからね」
「わたしに付き合うことが?」
「そうそう。それに、ここに来たらあれを食べないで帰るわけにはいかない。ねえ、マティアス君」
奥にいるマティアスに声を掛けるリカルド。
「今オーブンに入れたところです。できるまであと40分かかりますよ」
「じゃあ待つよ」
「ええ? わたし達の用事が先に終わったらどうするの?」
「マヤさん達は先に帰っていいよ」
「えええ?」
わたしをほっぽってもいいほど美味しいの?
興味を持ったマヤは、失礼しまーすとマティアスのいる奥の部屋を覗き込んだ。そこは小さなキッチンだった。マティアスは円筒の土台の上にドームのようなのが乗っかったものの前にいて、ドームの正面にある扉から中を覗いていた。そこから漏れ出る熱がこっちへも伝わってくる。
「それって、もしかしてオーブンですか?」
「はい。魔石オーブンです」
「魔石が燃料のオーブン?」
「はい。温度調整がしやすいので良いですよ。ただヘキサリネは魔石が高いので、個人で持つ人はあまりいないですね」
生地の焼ける良い匂いがしてきた。
「どういう構造なんですか?」
「ここが燃料庫です。ここに魔石を粉にしたものを入れましてね」
と円筒の土台にある引き出しを開ける。
「その上に魔石燃焼器があります。よくある魔石コンロの大きいやつとほぼ同じですね。火力はこのダイヤルで調整します」
魔石を入れる引き出しの上がコンロだ。
「魔石コンロに火を点けると、上のドーム内の温度が上がっていくので、必要な温度になったところで、ドームの中に食材を入れて焼くのです。このドームの丸い天井が良いらしいんですよ」
「ははあ、輻射熱が集まってきて良く焼けるのね。石窯のピザ窯やパン窯と同じだわ。これって売ってくれるんですか?」
「もちろん、お望みの大きさのをご用意しますよ」
近くに寄って見させてもらう。
「魔石がなかったら、下で薪を燃やしてもいいの?」
「これは無理ですが、魔石燃焼器と魔石燃料庫が取り外せて、煙突も付いている物なら、薪や炭でもできますね」
「孤児院に買ってあげようかな。パンとかピザとか焼けるようになるかも」
「孤児院ですか?」
「いろいろご縁があってね。あそこの自主独立性とか、環境改善に手を貸してるんです」
「それはなかなか善い行いですね」
マティアスは魔石コンロを消し、ドームの前扉を半開きにした。
「最初は温度を高くして表面を焼き上げ、後半は少し温度を下げて、中までじっくり火を通すんです」
「へぇ~。唐揚げの二度揚げとは逆の手順だね」
そうしておよそ40分ほどで、パイが焼き上がった。
窯の前扉から大きなしゃもじのようなのを入れて、次々とパイを出していく。丸いのと、平べったい長方形のパイがたくさん出てきた。
「なんです? このいいにおい」
「いかん、腹の虫が鳴りそうだ」
マルリーゼとノーバートが、アデラと戻ってきた。
「ちょうど焼けたようですね。皆さん召し上がっていきます?」
「もちろん、そのつもりだよ」
アデラの申し出に、リカルドが一切の遠慮も見せずに真っ先に返事した。
「もしかして、わたし達が来た時にエプロンしてたのは、これを作ってたから?」
「あははは。そうなんです。本業の商売が暇なんで、これ作って近所に売って小遣い稼ぎしてたりなんかしてまして」
アデラは恥ずかしそうに頭を掻いた。
マティアスがお茶を淹れ直し、応接テーブルにパイが並べられた。
「丸いのがシチューパイ。長方形のがアップルパイです。食べてみて」
「いただきまーす。……うっま!」
シチューパイを食べたマヤが口に手をして感激する。
「うめえ!」
「おいしい!」
ノーバートとマルリーゼも目を輝かせて絶賛した。
「サンダーウルフの肉で作ったシチューをパイで包んだものです。このところお肉が凄い安いもんですから」
「それはマヤさんのおかげだね」
「? どういうことです、リカルドさん」
「今肉が安いのは、領都の北で起きたスタンピードで倒した魔物が大量に流通してるからだよ。討伐ではマヤさんが大活躍だったらしいよ。何しろAランクパーティー『龍の鱗』のデッカーさんが討伐対決で負けたくらいだから」
「ええっ、デッカーさんが!?」
デッカーさんを知ってるのか。あの人はヘキサチカではかなり有名人らしい。
「賭けに勝ったマヤさんは、いつも商業ギルドのサロンで、フルオプションのフルーツパフェをデッカーさんのツケで食べてるんだよ」
アデラとマティアスは半信半疑でマヤを見る。
「ということは、マヤさんも高ランク探検者なのですか?」
「い、いえ、Fランクです……」
目線を逸らして恥ずかしそうに答えるマヤ。
「まあその体格ですと、普通は上位ランクにいくのは時間かかりますよね」
「でもデッカーさんに勝ったんですよね?」
呑み込めないマティアスとアデラである。
「それはFランクだけど、アンリミテ……」
「わああああ! もういいでしょそんなことは!」
リカルドにまともでない人自慢みたいな肩書を暴露されそうになって、慌てて遮った。疑問符を浮かべるアデラだが、そこは言いたくない事情があるんだろうと察してあげる優秀な商人である。
「ま、まあ、いろいろご事情はあるのでしょう。……ところで!」
ずいっとマヤの目の前に乗り出してくるアデラ。
「な、なんです!?」
「倉庫建築を始めようとした
「そうなのです。ご主人様はとても崇高な志の持ち主なのです」
なぜかマルリーゼが、ふふんと鼻高々に自慢する。
「あ、いや、そんな大それた思いじゃないですよ……」
「いえいえ、莫大な資金を投入しようとしているじゃないですか。こんな慈善事業に大金をかけようだなんて、どの富豪だって考えやしません!」
預かってる大量の魔物を早く放り出して、旅に出たいだけなんだけどなあ。それに探検者ギルドからしっかり保管料を徴収する目途も立ってるんだけどなあ、と心の中で汗して思うマヤ。
その時、急に店の建物がぐらぐらと揺れだした。
「わわ、地震!?」
続いて、どっしゃーんという大音響とともに壁が崩壊した。