異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
数日後、ホーム商会が建築資材を現場に運び入れる日が来た。
資材はマティアスが大型荷車を操って運んできた。荷車を引いていたのは、あのアンキロサウルスだった。
「あれえ、この子はもしかして?」
「ええ、あの時のアンキロサウルスです。カリーム商会の取り潰しが決まって資産が没収された時、リカルドさんから真っ先に話をもらいましてね」
「それで買っちゃったわけ?」
「いえ、損害の賠償で譲り受けました」
「わお」
マヤはアンキロサウルスの鼻の頭を撫でた。目をつぶって気持ちよさそうにしている。
「何か縁のようなものを感じたもんですからね。どのみち荷車は欲しいところでしたしね」
「竜使いは雇わないの?」
「操縦は僕でもできますから。どのみち餌代を捻出するためにも竜使いは雇えません」
苦笑いするマティアス。
「あははは。それじゃせめて餌代くらいは稼がないとね」
しかし竜使いもできてしまうとは、マティアスという人は本当に何でもできるようだ。
荷車から資材をノーバートが法力を使って次々と下ろし、資材置き場に積み上げていく。ノーバートのリフト法力は、マヤが『グリップリフト』と名付けたように他のリフト法力の人と違って掴むことができるうえ、掴むポイントを8つも作れるので、とても早い。
「ノーバート、資材の質はどう?」
「良いですよ。見本で見せてもらった通りの物です。この材料ならメンテナンスを怠らなければ建物は長く持ちますよ」
「あっ、竹もある」
「ブンバーですね。足場に使うんです」
「竹足場? うわー香港の高層マンション建築でも使ってるくらいだから、この世界でも使い勝手良いんだろうな」
「俺の国の大工の棟梁は、いつでも使えるよう山でブンバーを育ててましたね。ヘキサリネは北過ぎて育たないでしょうけど」
一緒に積み下ろし作業を見ていたマルリーゼの方へ向く。
「今後もアデラさんの所で取引を続けてよさそうだね、マルリーゼ」
「はいご主人様」
遅れてホーム商会の店主のアデラもやってきた。
「ヘキサリネ兵士が出入りを管理していたのでびっくりしましたよ」
マヤはそうでしょうねと同意した。アデラは採石場のようなマヤの土地を見渡して、ほぉーっと感嘆の息を漏らす。
「ここが建築予定地ですか。岩山を切り崩して作ったところだったとは。そりゃあ基礎石なんていりませんね。地面は全部頑丈な岩盤ですもの」
「この石山を切り崩したのがヘキサリネ軍ってことになってるんですよ」
「ってことになってる?」
「ああ、いえいえ。それでほら、まだ岩が崩れるかもしれないから危ないでしょう?」
「そうですねえ……?」
アデラは広い敷地を見回す。
しかし崩れる心配があるなら、建物建設などできないはずだ。見たところ岩はきれいに垂直に削られていて、問題なさそうに見える。
「あっ、アデラさん。これ追加をお願いしたい資材のリストです。お見積りお願いします」
「まあ、うちにやらせてくれるんですか?」
「うん。引き続きよろしくお願いします」
「承知しました! お安くなるようお勉強しますね!」
受け取ったリストを嬉しそうに胸に抱えるアデラ。
孤児院の子達が、手押し荷車を引いて、シートに包まれた荷物を持ってやってきた。ニーシャがマヤに手を振る。
「マヤ姉ー、ディオネアの枯れ葉を持ってきただわよ。10枚あるだわね」
「おーっ、サンキュー」
10枚と言っても厚さは50cmもあるし、ベッドのマットレスを積み重ねて運んできたみたいに見える。
「南の森にディオネアの木が茂ってるところを、またギルドマスターが教えてくれたから、明日も取りに行くだわよ」
「気を付けてね。葉っぱに食べられないでね」
「今のところイレムみたいになった子はいないだわよ」
ニーシャはからからと笑った。
「ディオネアの枯れ葉なんて、どうなさるんです?」
アデラが不思議そうに聞いてきた。その質問にマヤはうっふっふっふと不気味に笑う。
「これを知ってしまったら、アデラさんはもう戻れなくなりますよ。今後わたしと運命を共にすることになります」
ごくりと喉を鳴らすアデラ。
「その覚悟がおありなら、教えてもいいです。どうします?」
ごくりごくりと唾を飲み込むと、一度きつく目をつぶってから恐る恐る頷いた。
「マ、マヤさんのことはその後、
「い、いや、あの人達のようにはならなくていいけど……」
戸惑うマヤ。
「えっと、ディオネアの枯れ葉はですね……」
マヤはディオネアの枯れ葉の断熱効果について説明した。その効果たるや、炎天下の中でも氷が溶けないのだというのを聞いて、アデラは目を輝かせた。
「す、すごい! それを使って冷蔵、いえ、冷凍倉庫を作ろうとしていたわけですね! こ、これは、物流の革命になりますよ!」
「うん。領主様とも話をして、公開すると革命になっちゃうから、まだ当分は一般に広めるのをやめようってことにしたんですよ。悪いけど、これ使って生鮮食品を運んだりしちゃだめですよ」
「マヤさんは領主様とも通じておられるんですか! そうか、真冬にしかできなかった海の魚を領都にもってくるなんてことが、夏でもできちゃうんですね。う~~、商人魂が疼く~!」
「やったら、アデラさんはお終いですからね」
と、マヤは首を切る仕草をする。とたんにアデラは真っ青になった。
「ぶるぶる。わ、わかりました。ディオネアの枯れ葉を孤児院のパーティーに集めさせているのは、そういうお考えからなのですね。大丈夫。私はもうマヤさんの狂信者です。私も秘密裏の調達を手伝いましょう」
「い、いや、狂信者にはならなくていいから……。でも手伝ってくれると助かります」
「建屋がある程度できあがるまではディオネアの葉は使わないから、まだしばらく時間はありますね。承知しました。目立たないように集めてみます。何枚くらい必要なんですか?」
「必要枚数は……いくつだっけ?」
「最低1470枚です」
「かなりな枚数ですね。でも五、六百枚はすぐ用意できると思いますよ」
「本当!? 助かるわあ、さすがホームセンター」
「ホーム商会ですよ?」
専属の商人を確保してしまったかもしれないと思うマヤだった。
資材の積み下ろしを終えたノーバートがやってきた。
「さっそく建設に取り掛かります」
「うん、よろしく。安全第一でお願いね。怪我して働けなくなったら、それだけ完成が遅くなるんだから、わたしにとってデメリットになるんだからね」
「は、はい! 万全を期して取り組みます!」
「それでも大小の怪我や、事故は起こるかもしれない。その場合はすぐに報告してね。そういうの隠して、後で
ノーバートは目を大きく見開いて、感銘で震えた。安全第一などという考えは、この世界にはまだないのだ。これまでマヤから何度か聞いているノーバートであるが、それでも感動していた。
「一生付いていきます、ご主人様!」
「ノーバートまで狂信者にならなくていいからね」
横で聞いていたアデラも目元をハンカチで拭った。
「私も感激しました! 私も一生付いていきます、マヤさん!」
「わあっ! アデラさんまで!」