異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第1話「異世界少女との遭遇 ~その1~」

 

 私は泣きっ面でぐしょぐしょだった。

 大泣きし、ようやく嗚咽も収まり、落ち着きを取り戻しつつある。

 目の前には、草が焼け焦げた一帯があった。法力『オキシジェン・デストロイヤー』を使った跡だ。

 わたしはあの人から、この法力を、『オキシジェン・デストロイヤー』を授かった。そして『オキシジェン・デストロイヤー』で、法力をくれたあの人を完膚無きまでに燃やしたのである。塵さえも残すことなく。

 

 ……すみません。読者の皆様。悪者を見るような目でわたしを見ないで下さい。

 これは彼、『トロ』の遺言だったんです。

 

 そう、彼は『トロ』と名乗った。どっかのゲーム主人公がひっくり返ったみたいな名前だったけど、別に関係はない。けっしてマグロでもない。しかし彼は本物の勇士だった。わたしは彼の事を、お師匠様と言うことにする。

 

 お師匠様の法力は先天的なものではなく、人に伝授していくものだという。伝授と言っても修行とかして教えるのではなく、まるで冠を被せるような儀式めいたもので、わたしに渡された。

 伝授するとその人からは法力がなくなってしまうとのこと。今、お師匠様が持っていた法力は、わたしの身体に宿っている。

 息も絶え絶えの中で、お師匠様はこの法力について教えてくれた。

 それはあの怪獣映画に出てくる『酸素破壊剤』ではなかった。だけど、十分デストロイヤーだったと思う。

 

 傍らには遺品となったお師匠様の持ち物がそのまま置いてある。これらは燃やすわけにはいかない。ザックの中の本を読めと言っていたし、何よりお師匠様の次の訪問先の情報があそにはある。

 遺品は弓矢と矢筒、短めの剣、火打ち石、ザック、水筒。ザックの中はいろいろあるようだけど、後で確認することにした。今は見る気になれないのだ。

 

 その時、がさがさっと草むらが揺れた。

 

 ま、また何か来た!?

 火、火を用意しなきゃ!

 

 火打ち石を握るが、火を着火させる燃焼物を集めないといけない。慌てて辺りを見回す。

 あそこに木の枝が! いや、それより火矢の方が……って間に合わなかった!

 

 草むらががさりと掻き分けられて、何かが出てきた。

 

「ひいっ! ……い?」

 

 そこから出てきたのは金髪の少女だった。わたしと同じか、少し年下。15,6歳くらいだろうか。

 

「いい匂い。お肉の焼ける、芳しい匂い……」

 

 彼女の碧眼の目がわたしの目と合って、少女はびっくりして仰け反った。が、次にこんがり焼けた肉の塊、それも牛くらいはありそうな量を見て、これまたびっくりした。

 

「凄いお肉! 何の肉ですか!?」

 

 金髪碧眼の外国の少女に、こっちもびっくりしたが、言葉ははっきり聞き取れたので、少し安心した。

 

「え、サーベルタイガー、だったみたいだけど……」

「サーベルタイガー!?」

 

 少女はお肉に駆け寄った。

 

「この牙……本当だ、サーベルタイガーなの!」

 

 次にわたしに駆け寄ると、わたしの手を両手で握った。

 

「ありがとう、ありがとう! このサーベルタイガーには村の人が何人も襲われてたの!」

 

 ああ、わかるよ。こんなのがほっつき歩いてたらひとたまりもないよね。東南アジアとかインドの方とかでも人襲うようになったトラの被害は聞いたことある。サーベルタイガーはきっとあれより凶暴で強いんだろうね。

 

「あなたがやっつけたんですか!?」

「ああ、えーと、ち、違うの。……わたしのお師匠様が、ね」

「お師匠様! その方はどこに?」

 

 どうしよう。死んだとか言っても、死体もないし……。

 

「仕事は終わったって、もう旅立っちゃいました。腰の軽い人なんです」

「まあ、そうなの?」

 

 少女は再びタイガーの焼肉に目線を戻す。指を咥えてじーっと見ていたが、しばらくして、こっちをちらっと見た。

 

「あ、あの……」

「ん?」

「ちょっと、食べてもいい?」

「ひょえ!?」

 

 素っ頓狂な声を出してしまった。お腹減ってるのかな。確かに、非常に旨そうな匂いしてるし。それにこんな巨大な塊、わたしも処分に困る。まあ火つけて酸素ぶっかけて、なくなるまで燃やしちゃえばいいのかもしれないけど。食べてもらえるなら、タイガーも本望だろう。

 

「どうぞ。好きなだけ食べて」

「本当!!?」

 

 目を極限まで大きくして驚かれた。そしてじりっ、じりっと後ずさりする。

 

「も、もう、気が変わったとか言わないよね! 言わないでね!」

 

 だっと脱兎すると、お肉の塊に飛びついた。どこがいいかときょろきょろし、腰の鞘から小さなナイフを取り出すと、あばらの辺りを切り取る。あの辺りが脂がのってて旨いのかな。カルビとかバラ肉ってあの辺じゃなかったっけ? 魚でも腹身ってあそこだよね。

 200gくらいかなという塊を切り取った少女は「と、取り過ぎた」と青い顔をして、再びわたしの方を向く。いい? 間違って取り過ぎちゃったけど、大目に見てくれる? と目が訴えている。

 

「ど、どうぞ。遠慮なく」

 

 ぱあっと笑顔になると、お肉にかぶりついた。すると、目をきつく閉じて、ふるふる震えながら「くぅ~~っ」と声を漏らす。そして咀嚼終わると、パッと目を開けて叫んだ。

 

「お、美味しい! こ、これが至高のお肉、サーベルタイガー!」

 

 へぇ、美味しいんだ。隣の半島国家は猫ではなく犬の方をを食べるというし、その隣のでっかい国は何でも食べるけど、猫が美味しいという話は聞いたことない。

 しかしその少女は、それはもういい食べっぷりだった。よほど美味しいに違いない。小さな体で200gをあっという間に平らげた。

 興味を持ったわたしもサーベルタイガーの丸焼きに歩み寄ると、その子が食べた辺りを手で裂いて、一口、口に放り込む。

 

「!!」

 

 口に入れたとたん、香ばしくすばらしい香りが鼻から抜け、次に舌の味蕾すべてを喜ばせる衝撃が脳天を突き抜けた。

 

「う、うま……」

 

 恍惚として十数秒意識が飛んだ。

 美味しいって、こんなに幸せなんだね……はっ!

 横で少女が頭をぺこりと下げていた。

 

「貴重なお肉、本当にありがとうございました。一生に一度だって食べることができないものを」

「そ、そんなに貴重なの?」

「そりゃあそうなの! サーベルタイガーなんて仕留められるのは、SランクとかAランクプラスのハンターだけだし、仕留めても貴族階級に売られちゃいますから」

 

 そうなんだ。そうするとお師匠様は凄い人、まさにそのSランクとかいうハンターだったんだ。

 

「あなたは……異国の方、ですよね?」

「そんな堅苦しくしなくていいよ。同じくらいの歳っぽいし。わたしは摩耶って言うの」

「わ、わたしはサンドラ。そ、それじゃ、マヤ、ちゃん」

 

 お友達っぽくていい!

 

「それでいいよ。わたしもサンドラちゃんって呼ぶね」

 

 二人でえへへと微笑みあった。

 

 

 

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