異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
わたし達の荷馬車は『東国街道』を東へ進み、道の駅『領都の東4時間』で初日の野営を行った。出発が遅かったので仕方ない。
翌日は村への分岐に入り、緩やかに登っていく村道をひたすら行く。行きに通った道の逆走だね。道中のエピソードは特になく、あの盗賊団に襲われた場所の戦闘の跡地を、ミリヤの騎士さん達が休憩がてら興味深げに見て回っていたくらいだ。わたしはあんなところで休憩なんてしたくなかったのだけど……
2頭の馬に牽かれた荷馬車はライナーさんのよりも大型で、7人が乗っているけど、中の広さは余裕しゃくしゃくだ。乗り心地はさほど変わらないように思える。……そう思っているのはわたしだけ?
それにも拘わらず馬車の速度は速い。馬を見ると早歩きといった感じの足の動きだ。ミリヤの商人さんはスピード輸送に長けた馬車を用意したと言っていたから、馬の種類からして違うみたいだ。事実、ライナーさんの荷馬車の倍の速度で移動していた。これでは人は徒歩ではついていけない。今日のうちに何としても村に着きたい、というのがチェスター中佐の言だ。ライナーさんの馬車で2日かかったところを、1日で走破しようというのだから大変な強行軍だ。だけど速度は倍なわけだし、理論上は行ける計算ではある。あの時は休憩も多かったし、日暮れ前に移動も止めてたし。
護衛のハンター2人のうちの1人はサラさんという女性だった。これはわたしにとってはいろいろとありがたかった。寝る時とかおトイレとか着替えとか、男性の目を気にするところできちっとカバーしてくれる。女性ハンターをメンバーに入れてくれたのは、ギルドマスターの配慮だそうだ。プロレスラーと思ってたけど、意外やそういうところにも気が回る出来る人だったんだねぇ。
そんなこんなで2日目はずっと馬車に揺られ、わたしは景色を眺めたり、お話したり、お師匠様の本を読んだりして、ただひたすら荷物となっていた。いや、本が読めたのは最初のうちだけだ。揺れる車内で本見てるなんて無理! だからできる限り外の景色を見ていた。
日が暮れてからも、魔石ヘッドライトで夜道を照らして馬車は走り続け、日没から1時間程経って、やっとのことリトバレー村に到着した。村の人達はライナーさんがもう戻ってきたのでびっくりしていた。
「ライナーさん、マヤさん、どうされたんですか? それにこの馬車は? うちの村のではないですな」
「マンモスの牙はもう出荷できる状態ですか?」
「え、ええ。ちょうど出来上がったところです」
「よかった!」
村長さんが知らせを聞いて駆けつけてきて、馬車からミリアの商人と騎士さん達も降りてきて、ご対面となった。
「マヤさん、お早いお帰りで。領都には行けたのですか?」
わたしは馬車の揺れで三半規管がまだ乗ってるみたいにふわふわしており、乗り疲れた顔を上げた。そして半分嫌味も込めた返答をする。
「ええ。お肉売って、ハンター登録して、お昼ご飯食べて、すぐ戻ってきました」
「1泊もしてないんですか!? もっとのんびりされて良いのに」
「そうもさせてくれなかったのよ」
元凶たるチェスター中佐に手を向けた。
「こちら、ミリヤ皇国の近衛師団の騎士さん」
「初めまして。ミリヤ皇国第一近衛師団副団長のチェスター中佐です」
「なんと皇帝陛下直属の騎士様ですか!? リトバレー村の村長をしておりますアルフレッドです。こんなド田舎までわざわざお越しになるなんて、いったい何事でしょう?」
自分の村をド田舎と自虐する事もなかろうにと思う。
村長さんの目には警戒の色がちらちらと見える。とは言え、わたしやライナーさんから危機感は感じられないし、ハンターも同行しているので、「危険な状態ではないらしいな、でもこれは何だ?」と、困惑の色の方が大きい。まあそうですよね。
「ミリヤ皇国が、あのマンモスの牙を買いたいんだそうです」
「物凄いサイズのが獲れたのでしょう? 牙だけでなく頭丸ごと譲っていただきたい」
「ほう! あれをミリヤの皇帝陛下に献上されるということですか?」
「我が国の施設で使いたいと思ってます」
「ほっほっほ、なるほど、なるほど。あれの口を入り口にしたいのですな?」
「な! そ、そんなに大きいのですか!?」
「ほっほ、冗談です。いや、出来なくはないかもしれませんけどね」
チェスター中佐は他の騎士や商人と目を丸くしていた。
「と、とにかく一度見させていただけませんか?」
「今日はもう日も暮れましたし、明日にされては?」
「明日の朝には立ちたいのです」
商人さんが1歩前に出てきた。
「是非、お品を拝見させてください。良い品なら、相応の対価を払う用意はできています」
ここからは商人さんが交渉の表に立つらしい。村長さんがライナーさんとわたしに顔を向ける。わたし達は頷いた。
「では準備しますので、ひとまずご休憩されるとよい。急ぎの旅でお疲れでしょう。君、マンモスの牙と頭骨を仮組みでいいので、3号工房で組み立てて用意してくれ」
「おう!」
村長さんは若いのに指示を出すと、村の迎賓館たる村長さんの家へと、ミリヤの人達を案内した。そしてもてなしている間に、村長さん、ライナーさん、わたしは集まって話をする。
「マヤさん、幾らで売りましょうか」
「うん。幾らくらいなら買ってくれますかねぇ。10金貨くらい?」
するとライナーさんが血相を変える。
「何を言ってるんですか。あんな怪物サイズ、100金貨くらいの価値ありますって!」
100金貨? って1千万円!? またそんな額を!? いや、ライナーさんは商人だ。村まで買いに来る程欲しているのを逆手に取って、吹っ掛けようとしてるに違いない。
そ、村長さん!
わたしはバカ正直で定評のある村長さんへ振り返る。村長さんはにこっとして頷いた。
「分かりました。私が交渉しましょう」
ほっ、村長さんなら常識的な取引をしてくれるだろう。わたしは村長さんに全権を委任することにした。
「3号工房に運び入れました」
先程の若い人が報告にやって来た。準備ができたみたいだ。
「おう、すまんな。では皆さんをご案内するとしましょう」
村長さんの家の迎賓室(ちょっとだけ広い食堂)でお茶しているミリヤ皇国の人達と、護衛のハンターを呼びに行き、わたし達は連れ立って、その工房とやらへと向かった。
「さあ、それではよぉーく品定めしてください。そうそう手に入らぬ逸品モノですぞ」
扉を開けたとたん、まず目に飛び込んできたのは、我々を突き殺ろさんとばかりに伸びる、太く長大な牙だった。
「「「「うおおっ!!」」」」
ミリヤの人達のみならず、護衛のハンター2人も盛大に声を上げた。
マンモスの牙の特徴は、とにかく長くて、盛大に湾曲していることだ。アフリカゾウも結構長かったと思うけど、マンモスの方がはるかに長い。湾曲具合もハンパなくて、自分の方に向くくらいぐるりと曲がっている。
そしてその牙を生やした顔! 2階建て住宅そのままと言っていい巨大な奴の顔だよ。厚かましいどころの騒ぎじゃない。それが3号工房という建物の中に収められている。大きな建物ではあるけど、閉鎖空間に詰め込まれているせいで、巨大さが異様に際立っていた。たぶんそういった視覚効果を狙って、ここに組み立てるように指示したに違いない。つまりプレゼンテーションだ。村長さん意外と策士だ。
夜にもかかわらず、沢山置かれた魔石ランプで建物の中は明るいものの、現代のナイター照明のようにはいかないので、陰影がはっきりと出ている。だけどそれがかえって迫力を増す効果を出していて、いい演出になっていた。もし狙ってランプを配置していたならば、「この人、実は元映画撮影スタッフの照明係だった人なんですよ。転生してきたとかで」って言ってほしい。信じる。
頭の骨は衝立のような台に支えられ、牙は頭骨の牙の生える位置に合わせて天井から吊るしている。そしてこの照明効果。仮組みと言っていたけど効果は抜群だ。
「す、凄い! こんなに大きいのは見たことがない!」
「太さ、長さ、形、そしてなによりこの威容と威圧感。まさに皇帝の威厳を表すに相応しい……」
あまりのインパクトに、商人でさえチェスター中佐や騎士の感嘆の声を止める事を忘れてしまっていた。気付いた時はもう後の祭り。自分達で褒めちぎって、これの価値を上げてしまっていた。これでは値段交渉が不利になってしまっても仕方ないだろう。
かと言って、これを買い逃して他の者に渡るなども到底許されない。こんなものが近いうちに再び現れ、仕留められるなどと楽観できたとしたら、それはもう商人ではなく、人に夢を語って気持ちよくさせて高額なお金を取る、エセ占い師に転職した方がよい。
ミリヤの商人は覚悟して交渉に挑んだ。
「で、では値段交渉とまいりましょう。そちらの出し値はおいくらですか?」
「はい。200金貨です」
「ぴぇえええ!?」
村長さんの出した値に、首を絞められた鳥のような悲鳴を上げたのはわたしだった。
どどどうしてそんな涼しい顔してそんな金額をサラッと言いますか!? さっきライナーさんは100金貨って言ってたじゃないですか! 倍ですよ倍! それも100円の倍じゃなくて、1千万円の倍ですよ! 欲のないリトバレーは!? 正直者の村長さんはどこへ行ったんですか!?
「むう。流石はこのサイズ、いい値がしますな。しかし逸材なのは認めますが、その額はちょっと足元を見過ぎでは? 150金貨でどうです?」
「う、う、売ったー!」
思わずわたしは怖くなって声を出してしまった。
「マ、マヤさん!?」
首根っこを捕まえられて、村長さんとライナーさんに後ろへ引きずり込まれた。
「(ぼそぼそ)何で最初の値で落としてしまうんですか! あれは向こうの出せる最低額ですよ!?」
「(ぼそぼそ)だ、だってさっきは100金貨って言ってたじゃないですか~。もうそれを50%も上回ってますよ?」
「(ぼそぼそ)あの関心の様からして、あちらは相当の価値がある事を認めてます。その最低額時点で我々の見積の1.5倍って事ですよ。実際はもっと高い価値があると分かっていて、まずこの額で様子を見てるんです」
「(ぼそぼそ)200金貨に対して150ですから、175金貨は行けましたよ」
「(ぼそぼそ)だ、だって~、あんまりにも高額の空中戦で、こ、怖くて」
「「はあぁ~」」
2人は盛大にため息をついた。
「マヤさんがそれで良いなら、私共が口を挟む余地などありません」
「う……ご、ごめんなさい。せっかくの商機を逃してしまって」
しかし村長さんはにっこり笑った。その顔はいつもの無欲なリトバレー村の表情に戻っていた。
わたし達はミリヤの人達の方へ向き直った。ミリヤの商人が心配そうに聞いてきた。
「だ、大丈夫ですか? 150金貨で」
村長さんは温和な声で返事をした。
「はい。それでお売りします。私共もこれを仕留めるのに大きな怪我人も出しませんでしたし、治療費や恩給を気にしなくて良い分、お安くします」
「あ、ありがとうございます!」
商人さんは物凄く嬉しそうだった。やっぱり安く手に入ったと思ってるんだろうな。失敗したかなぁ。
満面の笑顔の商人さんと村長さんは握手をした。チェスター中佐もホッとしたようだ。ライナーさんとミリヤの商人さんは契約書を交わした。
「支払いは領都の商業ギルドでよろしいですか?」
「構いません。それでお願いします」
契約書に双方サインすると、ライナーさんとミリヤの商人さんが握手をし、取引は終わった。
「お金はここでは貰わないんですか?」
わたしが聞くと、ライナーさんが頷いた。
「貰ってもいいですが、村の中では現金はほぼ不要ですし、使うのは村の外、大部分は領都です。ですから村の資金の大半は領都の商業ギルドに預けています。あちらの商人も商業ギルドに口座を持ってるそうなので、ギルド内でお金を動かせばいいだけです。そうすればここと領都の間で重い金貨を持つ必要も、盗賊に盗まれる恐れもありません」
ほう、商業ギルドは銀行みたいなこともしてるんだ。それじゃこの契約書は手形みたいなもんだね。そんなことができるのも、商業ギルドの信用が凄くあるってことだよね。
「わたしも自分のお金を商業ギルドに預けられるのかしら?」
「10特金貨、つまり50金貨以上あれば開設できますから、マヤさんはもう預けられますね。その方が安全ですし。領都へ戻ったら口座つくりましょう」
「はい。すみません、また教えてください」
「お安い御用です」