異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
倉庫建設はどんどん進み、いよいよ柱が立ち、横梁が張られていった。
ノーバートは法力で柱や梁を持ち上げて、複数の法力の持ち手で支え、自分で繋げていくことができるので、クレーンや補助の人などいらずに一人で建築できてしまうのだ。とは言っても意図的にニコ達弟子にも手伝わせている。
この日は領主のヴェルディが町民を装って、ミリヤ皇国第一皇女のマリエラがいつもの探検者服装でリエラになって、様子を見にきていた。もちろんリエラの護衛のフィリアも一緒だ。マヤが案内して建設現場を視察した。
「一週間もかからずに、石でできてた山をこんな風に削って建物を建てる場所にしただなんて、驚きましたね」
「まったくだ。酸素爆薬ってやつの威力には恐れ入る」
「あれを潤沢に使いたい放題なのがもっと脅威ですよ。うちの国で似たようなのは作れても、あんなに簡単には用意できません」
「しかしこの岩はどれだけ大きいんだ? 下にまだ埋まってるんだよな」
「あの黒い岩もどこまで深く刺さってるか気になりますね。オリハルコンの鉱脈もどこまであるのか」
マヤは使い道が明確になるまで、黒い岩は当面放置の方針である。
「ところでマヤ。お前の酸素爆薬を提供してもらうことはできないのか?」
「何に使うつもりです? まあ物騒なことしか思い付きませんが」
「そうでもない。これは夢物語みたいなものなんだがな。東のオルデンドルフ帝国とうちの領との間は標高の高い山脈で遮られていて、険しい峠道で繋がっている。この峠越えには経験や知識、装備が必要で大変な労力がかかるから、交易はうちの領が独占してきた。これをもっと楽に越える方法がないかと、山脈にトンネルを掘るという構想を考えた者が昔いたんだ。当然すぐとん挫したんだが、この爆薬があれば30年とか50年とかかければでできるんじゃないかと思ってな」
「わたしに30年、50年ここにいろと!?」
「爆薬だけあればいい」
「爆発させる時にわたしがいないとなんですけど。直前に酸素を混ぜないとなんで」
「作り置きができないんでしたっけ?」
リエラが聞いてくる。
「そうです。それが酸素爆薬のメリットでもあり欠点なんです。酸素は空気中にどんどん霧散してっちゃいますから、時間が経って爆薬の中の酸素が薄まっちゃうと爆発しなくなります。もし爆薬が欲しいなら、ミリヤに提供してもらった方がいいんじゃないですか?」
「そう簡単に言いますけど、マヤさん並みの威力のものは生産量が少ないんですよ。国が統合できたら考えましょ。たぶん戦争用途に大半はもってかれてしまうと思うけど」
「平和にならないと民間で普及しないってのは、どこの世も同じですねえ」
現場を一周し、広場の一角に張った休憩用テントのところに戻ってきた。
一服するとヴェルディは立ち上がった。
「さて、じゃあ俺は帰る。いいかげん今日は宰相に付き合わないとでな」
「早く帰ってあげてください」
ヴェルディはひらひらと手を振って領都邸へ帰っていった。
「マヤさん、この後の予定は?」
「わたしはハンターギルドに行きます。今日の解体分の冷凍魔物を渡さないとなので」
「ご一緒しましょう」
後ろでフィリアが早く帰りたそうに右手を持ち上げているが、無視されてしまった。
マヤはノーバートに現場を任せ、リエラ、フィリアと探検者ギルドへ向かった。
探検者ギルドに行くと、ニーシャ達孤児院の女子年長組がいた。
ディオネアの枯れ葉を12枚採って帰ってきて、報酬を受け取りに来たのだ。この依頼は、マヤが孤児院パーティーに指名依頼しているものだ。
「マスターが教えてくれたところに、ディオネアの枯れ葉が物凄いたいくさんあるところがあったんだわ」
「へえ、どれくらい?」
「数え切れてないだけど、2箇所で500枚以上ありそうだわ」
「それはすごい!」
「この2箇所は近いんだけど、でもそんなにあると、持って帰るのが大変なんだわ。あたいらでは一度に15枚くらいしか持って帰れない。何回も通って持って帰ってもいいけど、毎回ディオネアの葉っぱだけを沢山担いで領都の門をくぐってたら、さすがに目立つし、なんでディオネアの葉っぱばかり持ってくるのか感付かれかねないだわ」
ニーシャは頭のいい子である。そういったリスクをちゃんと考えながらやってくれている。
「わたしが一緒に行ってストレージで運べばいいのかな」
「遠いから1日じゃ往復できないだわね。2班に分けて採取して集めておいて、1回で持って帰れるようにしたとしても、2日いるだわね」
「うーん、丸1日領都を留守にはしたくはないなあ。建築現場通いと、ギルドに冷凍魔物を届ける日課もあるし」
「私達が行きましょう。フィリアが運べばいいわ」
リエラが名乗りを上げた。フィリアは正当なストレージ法力所有者だ。マヤのように凍らせることもなく何でもしまえるし、容量も鍛えたおかげでかなり巨大なものになっている。
しかしフィリアが首を激しく横に振る。リエラとフィリアが行くということは、ミリヤ大使館をマリエラ姫が最低2日間不在にするということだ。それにフィリアがまた護衛侍女長に怒られることになる。
「フィリアの心配は分かるわ。でも行くなら今しかない。多分最後の機会よ」
「どういうこと?」
マヤが聞く。
「もうそろそろ
「!」
考えてみればそうだ。スタンピードが解決し、閉鎖されていた西街道の通行も再開している。VIPが通っても大丈夫と安全が確認されれば、ミリヤ大使館開設行事とヘキサリネとの友好関係再確認で訪問していたマリエラ姫が、ヘキサリネに留まる理由はもうないのだ。
「最後の探検に行きましょ。帰国したらもうできないかもなのよ」
フィリアは口を波線にしていたが、目をつぶって大きく頷いた。そして胸をドンと叩いた。
「分かりました。マリエラ様の貴重な自由時間を護るのも直属
「ありがとう。可愛いわフィリア」
リエラにほっぺたへキスされて、ひゃああーっと茹でだこになるフィリア。
「そしたらわたしは、リエラさんパーティー向けに孤児院パーティーへの護衛依頼を書くよ。葉っぱの輸送って依頼だと、余計なこと考える人がいるかもしれないから」
「オッケー。それでいいわ」
◇◇◇
次の日の夜遅く、リエラとフィリアはミリヤ大使館を脱走し、領都の外で孤児院パーティーと合流した。
「イレムとラースの男子2班が、先行してA地点とB地点のディオネアの枯れ葉を採って道の近くに集めに行ってるだわ。リエラさんとあたいら女子班は、A地点、B地点を回って、ディオネアの枯れ葉をフィリアさんのストレージにしまって、イレムとラースの班も連れて帰ってくる、という流れだわ」
「ニーシャが作戦を考えたの? たいしたものね」
リエラが感心した。
「えっへんだわ。あたいは孤児院パーティーのリーダーなんだから。それじゃ行くだわねー」
「ニーシャ、そっち北街道ー。行くのは南よー」
「え? あれぇ?」
レイヤに指摘されて戻ってくるニーシャ。相変わらずの方向音痴である。
こうしてニーシャとリエラ達は南の森へと向かった。
夜から移動し、翌日昼頃現地到着。男子班が集めてあるディオネアの枯れ葉を回収し、ゆっくりと野営して体力を回復。翌々日早朝から移動し、夕方前には領都に帰るという行程だ。
この旅は大きなトラブルもなく(マヤが参加してないから?)、リエラは孤児院の年長・年中組とキャンプを楽しんで、予定通りに無事帰ってきた。一行はギルドで成功報酬を受け取ってから倉庫建設現場にやって来た。
「おかえりー」
皆の帰りをマヤは建設現場で待っていた。
「皆、怪我はない?」
「ぜんぜん大丈夫だわね」
パーティーリーダーのニーシャは元気いっぱいに答えた。
「一週間の危険地帯採取旅行に比べりゃ、一泊や二泊なんて楽勝だぜ」
ふてぶてしく胸の前で腕を組むイレム。最近は経験値も積んで頼もしくなってきているのだが、マヤに対しては相変わらず当たりがきついので、複雑な思いである。
リエラも実に満足そうな顔だ。
「楽しかったわぁ。強い魔物が現れなかったから拍子抜けだけど、堪能したわぁ」
「領都の近くなんだから、それが普通だわね」
今までが尋常じゃなかったということだ。
「やっぱり魔物を引き寄せてるのはガキババアじゃねえか?」
「はぐううぅ!」
マヤはダメージを受けた。
イレムの言う通り、確かにマヤが同行したときには、何かしら変なのが出ている。
「ディオネアの枯れ葉は786枚採れました。どちらに出せばよいですか?」
フィリアが聞いてくる。
「ええ!? 凄いいっぱい採れたね! それじゃ建設中だけど倉庫の中にいれましょう。ノーバート、案内してあげて」
「はい、こちらへ」
敷地の右側に建設中の倉庫は、外観がほぼできあがっていた。
「もうこんなに出来上がってるなんて……」
建物を見上げてリエラが感心する。ノーバートはまだまだだと言った。
「まだ外側だけです。これから断熱材を入れる空間を確保した内側の壁を作らないとなりません」
「ディオネアの枯れ葉を詰めるところね」
「はい、そうです」
フィリアのストレージが開けられ、子供達が中からディオネアの枯れ葉を引き出して積んでいく。これまで集めたのも含めると900枚くらいあり、積み上げられるとなかなかに壮観である。これだけで巨大倉庫というのが実感できた。
「これでアデラさんのところからも届けば、目標枚数は十分クリアだね。みんなご苦労さま」
「任せてだわね!」
「それじゃみんな、お腹すいたでしょう? うちの三姉妹が孤児院の庭に夕食を用意しているよ」
わああっ、とニーシャ達から歓声が上がった。
「ご、ご相伴してもよいでしょうか?」
聞いてきたのはなんとフィリアである。いつもなら早く帰りましょうと言うところなのに、だ。
フィリアは思いつめたような顔をしていた。リエラはその顔を見て目元を歪ませた。
「フィリア……」
「だって、だってマリエラ様、孤児院の年少の子達とだって、会えるのはもう最後なんですよぉ」
珍しくメイドの装いを維持できず、素が出てしまっている。
「フィリア……ありがとう」
引き寄せて抱き着くリエラ。フィリアは抱き返してぽろぽろ涙をこぼす。
料理を教えたり振舞ったりと、孤児院には色々関わってきたのだ。フィリアだって最後の別れを言いたいのである。
「行こう、リエラお姉ちゃん!」
「行こう、フィリアお姉ちゃん!」
女の子達が二人の手を引く。
手を繋いで楽しそうに晩餐の会場に向かう皆を、よかったよかったと後ろから微笑んで見守るマヤだった。