異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
マヤは冷凍魔物を届けに、ハンター・
「あれ、サンドラちゃんとリネールさん」
買取窓口でサンドラとリネールを見つけた。
「どうしたの?」
「無毒化したアンフィスバエナの毒液がなくなっちゃったの。それでギルドにあるか聞きに来たの」
探検者が採取した毒液はギルドで買い取られ、ミリヤ大使館に送られて解毒法力者が無毒化し、薬師協会に卸されている。
「ここ数日、アンフィスバエナの買取はないね」
買取係のお兄さんがそう答えると、リネールが肩をすくめて言った。
「乱獲されて、領都周辺からアンフィスバエナがいなくなっちゃったんじゃない?」
「本当にそうかもなの。ヘキサリネは魔素が少ないから小さいのしかいないし、採れる毒液も少ないもんねえ」
ヴェルディ、レオナルド、マリエラによる超回復ポーション制作にあたっての三国密約では、毒液の提供はワリナ王国が担うということになっていた。レオナルド王太子はまだ帰国の途上だろうから、体制のできてないワリナから届いてないのは当然である。なのでそれまではヘキサリネが
「それじゃ一旦わたしのお手伝いも終了かな」
サンドラは前掛けのホコリを掃って伸びをした。
「だいぶ稼いだんじゃない?」
「うん。でもこれはリトバレー村の収入になるの」
「えー、サンドラちゃんの労働の対価が搾取されちゃうの? 酷くない?」
「俺の労働対価も持ってかれちゃうんだよー」
「リネールさんはどうでもいいや」
「ひ、酷!」
「薬作成作業補助者の派遣って、リトバレー村として受注してるの。でもそういった村の儲けから、わたしやリネールさんの宿代とかご飯代なんかの、領都滞在中の費用が出てるんだよ」
「うーん。どっちかっていうと共産主義的になってるってことなのかな。小さい村だし」
「自分のお小遣いはリトルウィングで稼いでるしね。個人指名の依頼もわたしのお小遣いになるの」
「そっか。指名依頼の分が村に取られてないならよかった」
「マヤちゃんは保管してる魔物を渡しに来たの?」
「あ、そうそう。ちょっと行ってくるね」
マヤは買取カウンターの裏へ行き、中庭に降りた。
「おじいさん、今日の分の魔物を渡しにきたよ」
「おう。今日はオークを15頭もらおうかの」
「オーク15頭ね。やっとオークかあ。控えめな数だね」
「オークは装備品をまとってるから、解凍して装備を外してからじゃないと解体できん。装備の鑑定もしなきゃならんしな」
マイナス220度に冷えた金属は触ると危険なのである。
「じゃあ今日は解凍だけ?」
「オークはそうじゃな。今日はサンダーウルフとゴブリンの残りを解体じゃな」
「オークは400頭以上あるんだから、サクサクやってくださいよ。ええっとオークを入れてる
オークの山を入れてあったコンテナをどーんと出す。マイナス220度以下に凍ったオークのせいで、中庭が急激に冷えてきた。コンテナから解体係のギルド職員が、コチンコチンに凍ったオーク15頭をガラガラと引っ張り降ろした。市場で冷凍マグロが下ろされる光景が思い出される。そして再びまだオークが400頭入っているコンテナをストレージにしまう。
「じゃあ、わたしはこれで」
「すまんの。また明日も頼むぞ」
探検者ギルドを出た3人は、定番の商業ギルドのサロンに寄ってデッカーへのつけでパフェを食べ、奴隷達へのお土産にプリンを買い(これはさすがにマヤの自費)、宿へと戻った。
宿の玄関の待合スペースではノアナが待っていた。お辞儀をするとサンドラに手紙を差し出した。
「サンドラお姉さまにお手紙が届いてる」
「ありがとう。お手紙?」
「さっき馬車が届けにきた」
頭の上にはてなマークを浮かべて手紙を受け取ったサンドラ。蝋で封をされた上品できれいな封書は、香を焚いたのか良い香りがする。田舎の村娘の文通には似つかわしくない手紙なので、宿のフロントのお姉さんも気になって見ている。
「あれ、この封蝋の印は、もしかしてミリヤ皇室の?」
「「えっ!?」」
きょとんとするノアナに対し、びっくりした声を上げたのはフロント係のお姉さん達だ。
アンフィスバエナの毒液の無毒化をミリヤ大使館がやってる関係で、サンドラは最近何かと縁があるので、その印影はよく覚えていたのだ。
封を開けて中を見ると、厚紙のカードにメッセージが記してあった。
報奨を贈呈すること、訪問すべき日時(ちなみに明日の10時であった)、マヤにも同行してもらいたいこと、服装は大使館側で用意するので普段着でよい、といったことが書かれていた。
「報奨を贈呈するって書いてあるの……」
「ええーっ!?」
フロント係のお姉さん達は悲鳴を上げて走り去り、宿のおかみさんやら厨房のお姉さんやらを連れて戻ってきた。
「ミリヤからの手紙だったのかい!?」
「ミリヤ大使館からの報奨って、まさかマリエラ様から渡されるのかい!?」
「ま、まあ考えられるとしたらそうなの……」
「見せとくれ! ……こ、これがマリエラ様がお書きになった手紙……」
穴が開きそうな勢いで宿の人達の目線を浴びる厚紙のカード。
「皇女様が直々に書いてはないんじゃない? お付きの人にやらせてると思うの」
「なんでどうしてサンドラちゃんがマリエラ皇女様に呼ばれるようなことがあるの!?」
「作ってるお薬のことかな。マヤちゃんも同行してってあるから、マヤちゃん来てくれる? 明日大使館に10時だって」
「うん、いいょ「何言ってるんだい! マヤさんをマリエラ姫の前に出すなんて危険だよ! 何が起こるかわからないよ!」」
マヤのセリフは厨房のお姉さんに上書きされてしまった。
「なんでわたしそんな評価になってるの?」
「討伐隊から帰った探検者から聞いてるよ。マヤさんの歩いた後には生きてるものがいなかったって」
「あうっ」
あながち嘘でもないからマヤはダメージを受けた。
「マリエラ様はマヤさんのことをよく知らないんだよ。サンドラちゃんと一緒にいることが多いからって不用意に部屋に上げちゃいけないよ」
「だいいち昼まで寝てるんだから、10時になんて間に合うわけないでしょう。遅刻したらヘキサリネと国交断絶するかもしれないよ。あたしが行くよ、今からリトルウィングに入れておくれ!」
「あんたはマリエラ様に会いたいだけだろう」
「おかみさんだってそうでしょう」
あたしがあたしがと、ないメンバー席を求めて争う宿の人達。厨房のお姉さんをはじめ、宿の人は皆マリエラ姫の大ファンなのである。
すったもんだの結果、結局マヤの代わりに行くことは諦め、代わりに変な依頼をしてきた。
「皇女様に会ったら、どんな人だったか教えておくれ!」
「実際の背丈とか、お顔とか!」
「手足の大きさとか、匂いとか!」
「お化粧の具合とかネイルのお手入れとか、匂いとか!
「肌の艶とかきめ細かさとか、匂いとか!」
「みんなの方がよっぽど危険だよ!」
呆れかえるマヤ。
「ああもう羨ましい! マリエラ様に会えるんだったら、この宿を差し上げてもいいよ」
「差し上げてください、女将さん!」
これはいかん。ホストに全てを貢いでしまって人生ダメにする人達だ。