異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
まだ肌寒く暗い、朝早い時間。
「起きてマヤさん、ヘキサリネ運命の日ですよ!」
ばさああっ
「ふわああああ!?」
マヤのベッドの横に立ってたのは、宿の女将さんの娘にして3階担当の女中さん。
プライベートもなにもあったもんじゃない。部屋のカギは合鍵で開けられ、揺り起こすとかもなくいきなり布団をはぎ取られてマヤはたたき起こされたのだ。
なおモーニングコールを頼んでいてのことなので、訴えることはできない。
「ええぇ、もう起きるの? ま、まだ暗いよ? いくらなんでも早すぎない?」
「何言ってるの、起きてからお茶飲んで朝食もどきを食べて覚醒するまで2時間も要する人なんだから」
敷き布団も跳ね上げられ、床に転がり落ちるマヤ。
「わ、わかった、起きるから。な、なんでヘキサリネ運命の日なの?」
「マヤさんが粗相したら、ミリヤが機嫌を損ねてヘキサリネと断交するか、強制併合するかもしれないって、お母さんに聞きましたよ」
「んなばかなー」
これだけ大騒ぎしてるのに、横ではサンドラが一切目を覚まさず、くーかくーかと寝息を立てている。
「主賓のサンドラちゃんは起こさなくていいの?」
「サンドラさんは時間になれば自分でちゃんと起きるからいいんですっ。はい、顔洗って」
「わたしだけ信用ない……ふごあぁあぁ」
濡れタオルで顔をごしごしさせられた。
「あれ、ご主人様おはようございます。早いですね、起こしに行こうと思ったのに」
食堂でもそもそパンを食べているマヤのところに、カルラがやってきた。
「おはよう、マヤちゃん。起こそうと思ったらベッドが空だったの。もう起きてるなんて、どうしたの?」
三階から降りてきたサンドラだった。
朝弱い人は、目覚まし時計を幾重にもセットしているのである。
マヤは目が覚めてなくて唾液が出てこず、パンが喉を通らないので、ミルクで流し込む。
「げふっ。サンドラちゃんが気付いてないのが恐ろしいよ」
「二階のお部屋には来られますか?」
カルラが聞く。
「もうわたし食べ始めちゃってるから、皆もこっち来て一緒に食べよう」
「わかりました。みんなを連れてきますね」
カルラは二階に上がって奴隷達を連れてくる。
勢揃いした奴隷達は、一斉に頭を垂れておはようございますとマヤとサンドラに挨拶した。
「おはよう、みんな。朝ごはん食べながら今日の予定を確認しましょう」
三姉妹が宿の朝定食を配膳して、揃ったところでみんな手を合わせ、
「「「「「「いただきます」」」」」」
とマヤが教えた食事前の儀式をした。厨房のお姉さん達はそれを微笑ましく眺める。これは食事を作った人や食材を育てたり獲ったりした人、食材そのものへの感謝なのだと、マヤの説明を聞いているからだ。
「今日、わたしとサンドラちゃんはミリヤ大使館にお呼ばれしてるから行ってくるね。ノーバートは倉庫の断熱材埋め込みが終わって、壁板を張る作業でいいんだよね。手伝いはいる?」
「孤児院の弟子達がいるので大丈夫です」
「分かったわ。安全第一でね。カルラ、ノアナ、リリーは、倉庫建設組にお昼ご飯を用意したり、歩哨に立ってるヘキサリネ兵士さんへのお茶やお菓子の差し入れ、お部屋の掃除、洗濯をお願いするわ。悪いけどマルリーゼは作業順序なんかの指導をしてあげてね」
「勿論です。承知しました」
「優しく指導してあげるんだよ」
結構マルリーゼは堅物なので、完全に任せちゃうとスパルタ教育をしそうで怖いのだ。
◇◇◇
9時半頃、ミリヤ大使館の門のところにマヤとサンドラは到着した。
マヤが歩哨の騎士に声をかける。
「今日招待を受けてまいりました、サンドラ・リトバレーと、わたしは同行者のマヤです」
サンドラが手紙を見せると、「お待ちしておりました」と騎士が門を開ける。中ではメイド服の女性が待っていた。
「ご案内します。どうぞこちらへ」
メイドさん(たぶん
建物正面玄関に入ると、マヤが仕留めた巨大なマンモスの頭骨が、迫力満点の湾曲した牙をむいて威圧していた。これよりずっと大きい災厄のファイヤ・ドレイクなんかとも相対してきた2人だが、いまだにこのマンモスからはそれ以上の圧力を受ける。
「うわあぁ、よくこんなの止められたよねぇ」
「これを谷に落とした時は、迫力満点だったなあ(遠い目)」
立ち止まって見上げ、村がなくなるかもという危機感と大混乱のあの時を回想する2人。
「お着替えを用意してあります。こちらへどうぞ」
更衣室とは思えない大きな部屋に通される。するとマネキンにかけられた美しいドレスが2着あった。それぞれ2人ずつメイドさんが横に付いて待っている。
「えっ、これ着るの!?」
「はい。お二人のお体に合わせて作ってありますので、サイズの心配はいりませんよ」
聞きなれた声に振り向くと、マリエラ姫の専属
「フィリアさん」
「わたし達の体に合わせて作ったって、どういうことなの?」
「言った通りですよ。お二人のためにマリエラ様が注文していたものです。サンドラ様のは成長を見込んで調整できるゆとりも設けてありますので、ご成人になられる頃まではお使いできると思います」
いつの間に採寸したんだろう。誰がしたんだろう。考えると恐ろしくなる。フィリアさんだろうか。
「わたしのは成長見込んでないの?」
「マヤ様は17歳ということですので、もうそれほど大きな体形変化はないでしょうから食べ過ぎるとかしなければ、サンドラ様ほどのゆとりは設けてありません。」
「いやいや二十歳すぎくらいまでかなり体形変わるよ! 特に胸とか大きくなるかもだよ!?」
「……」
「なんで黙ってるの!」
「たぶん調整可能な範囲に収まるかと」
「お尻だってきっと大きくなるよ!」
「ウエストさえ通ればスカートの中に十分入りますでしょう」
「わーん、わたしだって成長したいんだよぉー。何いい子ぶってんのさ、普段はもっとぬけてるくせにーっ」
フィリアにつかみかかるマヤ。
「やめてマヤひゃん、落ち着いて! わああここは
フィリアさんに反撃を食らってコルセットでお腹をきゅうきゅう締められ、これじゃ食べられないと窮状を訴えて許しを乞い、ちょっとだけ緩めてもらった。
ドレスは手のこんだ作りを避け、意図的に簡素化され、着やすさ脱ぎやすさを重視したものになっていた。それでいて気品と華やかさは損なわれておらず、若者向けだからか特に華やかさの方に重きをおいてあった。
「こんなの借りちゃって、汚したら大変だよ」
「何言ってるんですかマヤさん。お二人に合わせて作ってあるって言ってるでしょう。これはお貸しするのではなく、お二人専用の物です」
「専用!?」
サンドラが青ざめる。
「い、いくら払えばいいの?」
「サンドラちゃん、押し売りには、たとえお前用に用意した物だって持ってきても、お金を払っちゃだめだよ」
「ええい、押し売りじゃないですよ! マリエラ様がそんなケチなこと言うわけないでしょうが。差し上げます!」
急に周りにいたメイドさん達が一歩下がり、静かに頭を下げて微動だにしなくなった。フィリア以外。
「遅いわねえ。何か問題ありました?」
姿を現したのは、ドレスを着こなしたマリエラ第一皇女殿下だった。例のおっかない護衛侍女長が後ろに付いて鋭い視線を向けていた。フィリアもそれに気付き、慌てて頭を下げる。
「あら、着れてるじゃない。思った通り似合ってますわあ。寸法も合ってそうでよかったぁ」
「マ、マ、マリエラ様。お久しゅうございます」
「3日前にも会ったのモガムゲ!」
3日前に会ったのは探検者のリエラである。マリエラ様ではない。護衛侍女長の手前、まずいと思ってマヤはサンドラの口を即行で塞いだ。
「服まで用意していただき感謝いたします」
「お、お金払えるかわからないの」
「何の心配ですの? それは進呈いたしますからご安心ください」
「ええ、こんな高いものを!? ただほど高いものはないってお母さんに言われてるの」
「サンドラ様はミリヤに大変大きなお取引の機会を作ってくださったのですから、そのお礼に過ぎませんわ。一着くらい持っておいて損はないでしょう? 旅先でも正式なパーティーなどに呼ばれることもありますわよ。お一人でも着られるよう作りを単純なものにしましたから」
「そういうことだったんだ」とマヤ。
「着ることあるのかな」とサンドラ。
「少なくともあと2回は、わたくし関係の用事で必要になりましてよ。フィリア、次の間にお連れしてください」
「かしこまりました」
マリエラはまた後でと笑顔を振りまいて退出した。