異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第204話「マヤちゃんとサンドラちゃんは、お昼ご飯をご一緒しました」

 

 時間になり、マヤ達は食堂へ移動した。

 

 さっきマリエラが畏まる必要はないと言っていたように、入り口でマリエラが出迎えてそのまま中へと案内し、丸テーブルに3人して座った。給仕はフィリアがやるようだ。

 

「気楽にしてくださいね。マナーも口調も気にしなくていいですわ」

「あっちに怖いメイドさんとか執事さんとかいるけど……」

 

 入り口に近い辺りの控えスペースに、鋭い目線を送っている護衛侍女長と男性の執事が陣取っている。

 

「観葉植物か何かと思っていればいいわ」

「ひどっ」

「フィリアさんは一緒に食べないの?」

「大使館でマリエラ様とメイドが食事を共にするなどもってのほかです」

「でもわたし、共にしてるのを見たときの方が多いの……」

「シーッ、シーッ! サンドラ様、今日は本気でメイド業をしないとなんですよっ。こっちに専念させていただきますっ」

「上司の目が厳しそうだから仕方ないよ、サンドラちゃん」

 

 マヤは横目で護衛侍女長に目をやる。

 

「残念なの」

「お気にかけてくださり、ありがとうございます」

「さてさて」

 

 マリエラが話を引き戻した。

 

「今日お呼びした一番の目的は、先程のサンドラさんの留学推薦状と、マヤさんの招待状を渡すことでした」

「はい。お手紙貰った時はびっくりしちゃいました」

「お昼ごはんにも驚いたの」

「不意打ちしてしまってごめんなさい。昼食会はわたくしの個人的なものです」

 

 始めてくださいと、マリエラはフィリアに伝えた。フィリアはお辞儀をすると、料理の配膳のため下がっていった。

 

「今回のサンドラさんへの留学推薦、アイディアはフィリアからでしたのよ」

「フィリアさんから!?」

「フィリアは、ミリヤがヘキサリネを併合したら留学させてあげてはどうでしょうって言ってきたんだけど」

「併合前提かい! 相変わらずの上から目線」

「まあまあマヤさん。わたくしはそれを聞いた時、素晴らしい案だからすぐ招待しましょうって言ったの。貴族の出やこちらの薬師の方だと、確かに併合するか政治的な調整が必要でしょうが、サンドラさんは平民で、表立った肩書は何もない、ノーマークです。本国に伺いを立てる必要もなく、わたしくしの権限(思い付き)で褒章を授けるにも最適な身分です。ですから早く来ていただくためにも、帰国前に進呈したかったのです」

「ありがとうございますなの」

「そういえば帰国って……」

「はい。実はわたくし、明後日(あさって)に本国へ帰ることになりました。昨日西街道を通ってミリヤからの迎えが着いたのです。つまり問題なく通れると分かったってことです」

「……とうとうマリエラ様も帰っちゃうんですね」

「残りの日は、もう今までのようにはお会いできなくなる。これが今までのように話せる最後の機会だったのです」

 

 そう言うと、マリエラ姫はリボンで後ろ髪を束ね、二ッと笑った。

 

「ここからは、しばしリエラってことで」

 

 口調も声色も態度も、探検者(エクスプローラー)に切り替わった。

 

 

 

 

 主催が探検者リエラってことだからか、料理はコース料理とかではなく、大皿に盛られて次々と持ってこられ、それを自分達で取り分けて目の前にずらっと並べていった。大衆食堂じみているが、料理じたいは貴族が食べるレベルのものである。

 

「ワインをいただこうかな。マヤさんもどう?」

「えっ、リエラさん、お酒飲むの?」

「1杯くらいしか飲まないけど。ミリヤもヘキサリネも15歳で成人になれば大っぴらに飲めるわよ? マヤさんの国は違うの?」

「わたしのいたところはお酒も煙草も二十歳(はたち)からだから。それにわたしアルコール弱いからすぐ酔っぱらっちゃうし」

「二十歳? 子供が2人いてもおかしくない年齢にならないと飲めないの? 変わってるわねー」

「四十(しじゅう)で初産も珍しくなくなってきてたから、たしかに変わってるかおかしいよね」

「四十で!?」

 

 絶句するほど驚くリエラ。

 

「四十だったら初孫じゃなきゃおかしいの」

 

 サンドラも理解できず目を丸くする。

 

 まず平均寿命が違うもんねえ。そういう顔になるのも分かるよ。

 

 フィリアがグラスに水を注いでくれて、準備が整った。

 

「さあ、食べて食べて。どれもミリヤ料理よ」

「「いただきまーす」」

 

 肉団子の入ったスープからいただいた。

 

「わあ、おいしいの!」

「サワークリームの酸味かな? 細かく切った野菜とお肉の味が溶け込んで美味しい。わたしこれ好き!」

「お口に合って良かった」

 

 肉料理はスパイスで味を付けたひき肉を使ったものが多かった。スープの肉団子もそうだが、ロールキャベツに似たものとか、大きなパプリカにひき肉を詰めたものとか、ケバブのように焼き固めたものとか。そしてどれもサワークリームをつけて食べるのも特徴的だ。炭水化物的なものには、マッシュポテトと、少し黒っぽいパンが出た。

 デザートはクリームとジャムがたっぷりと乗った揚げ菓子。ドーナツだ。どこかの珈琲屋のデザートみたいだ。生地にはチーズが練り込んであって、チーズの風味が豊かだ。

 

「マヤさんの倉庫建設の方はどうなの?」

 

 フィリアが置いたドーナツに、ナイフを入れようと構えたマリエラが尋ねた。

 

「順調ですよ。今は内装工事中です。それが終われば氷を入れて中を冷やし始めます。明日は商業ギルドに倉庫業者の登録をしに行くんで、わたしのストレージの中の魔物を移したら、いよいよ営業開始です」

「明日か明後日には営業始まらないの?」

「無理ですよおー」

「そっか。残念。開業祝には行けないわね」

「あと1週間いてくれればいいのに」

「ごめんね。ほんと残念。それで、お店の名前はなんてするの?」

「……奴隷の人達がわたしの名前を入れろってうるさいんで、マヤちゃんの冷凍冷蔵倉庫を略して、『マヤ・レイ』ってつけるつもりです」

「マヤさんの……『レイ』?」

 

 切り分けたドーナツにフォークを刺す手が止まった。

 

「あっ、わたしの国で、冷やすっていう字を『レイ』って読むんです。凍らせることを『レイトウ』、冷やして保存することを『レイゾウ』って言うんですけど、その『レイ』ですね」

「わあ、おもしろい。良い名じゃないですか」

 

 切ったドーナツをぱくっとするマリエラ。

 

「まあ、ナントカ冷って、うちの国の実際の会社名にもあるくらいですから」

「わたしは、略さないで『マヤちゃんの冷凍倉庫』の方が可愛いと思うの」

 

 口いっぱいにドーナツを頬張って嬉しそうなサンドラが言った。

 

「いやあサンドラちゃん、それぜったいなめられるって」

「どうせマヤちゃんは、何か言ってきてもやり過ぎてねじ伏せちゃうからへーきだと思うの」

「文句のあるやつは誰だぁ? あたしの倉庫で凍らせてやるっ、てね」

「リエラさん上手なのー」

 

 少しドスをきかせて啖呵を切る真似をするリエラに、サンドラは拍手して喜んだ。きれいなドレスを着ているから、そのギャップも面白い。

 

「どこの暴力組織ですか!」

 

 

 

 

 食後のお茶になると、マヤはしんみりと呟いた。

 

「……とうとうリエラさんも帰っちゃうのかあ」

 

 サンドラも懐かしそうに語る。

 

「寂しいの。わたしもリエラさんとたくさん野山を一緒にしたから」

 

 マヤもサンドラも、マリエラ姫より探検者リエラの時の付き合いの方が長い。

 

「私も本当に楽しかったわ。だから今度はミリヤでお返しするわね」

「ミリヤの野山で?」

「野山でも、町でも。ミリヤの町も美しいんだから」

 

 皇女様もこの時ばかりは16歳の少女が友達を誘うように無邪気に笑った。

 

 これまで控えていた男性執事がお茶のお代わりを淹れにきた。

 それを合図としたように、リエラは束ねていた髪を解いた。両手で整えると、栗色の髪がふわふわと広がる。そこにはリエラではなくマリエラ姫がいた。本人が前にも言ってたように、カチッとスイッチが切り換わるのだ。雰囲気も皇女様に戻った。

 

「ここでお別れなんですね……」

 

 遠い存在になってしまったリエラに、サンドラが涙をこぼした。

 

「泣かないでサンドラさん。もうヘキサリネでお二人と言葉を交わす機会はないでしょうけど、でもきっとすぐ会えるだろうから、寂しくありません。来てくれる日をわくわくして待ってられるんですもの」

「……そう言いつつ、涙がこぼれてますよ、マリエラ様」

 

 マヤが指摘する。

 

「あれ……?」

 

 マリエラは思いがけずといった感じで目元をぬぐう。

 

「わたくし、帰りたくないのかな……」

「国で皇女様を待っている人がたくさんいるんじゃないんですか?」

 

 マヤが問いかけると、マヤを一瞬見つめたあと、マリエラは俯いてしまった。心配してマヤがマリエラの手を取ると、マリエラの方から抱き着いてきた。

 

「はわっ!?」

「マヤさんはわたくしの味方ですよね……?」

「え……もちろん」

「ピンチになったら、助けに来てくれますか?」

「そ、そりゃあ大切なお友達ですから。駆け付けますよ」

 

 いっそうきゅうっと抱きしめられた。

 

「マヤさんが味方でいてくれるなら、きっと大丈夫。待っていられる……」

 

 肩越しに小さく呟くマリエラ。それにマヤはハッとして目を大きく開けた。

 

 第一皇女として国へ帰ったマリエラは、公務や国の行事、きな臭い周辺国や魔族への対応など、女子高生が友達を待つのとは全く違った境遇が待っているのだ。それはきっと神経をすり減らすことばかりなんだろう。政敵もいるのかもしれない。待ち受ける困難に向かうにあたって、マヤが味方についていると自分に言い聞かせなければならないほどに。

 

 マヤやサンドラを早く招致しようとしたのは、繋ぎ止めておこうとしたのは、道楽や気まぐれや息抜きなんかじゃない。もしかすると自分の勢力を盤石にするためなのかもしれない。

 マヤの方から体を離すと、力強く伝えた。

 

「必要な時はすぐ呼んでくださいね! 超特急で駆け付けるから」

「ちょうとっきゅう?」

「おっと、汽車電車のない世界にはない言葉だった? ええと、すっ飛んでいくよってこと」

「うれしいっ」

 

 マヤはまたマリエラの方からぎゅうっと強く抱きしめられた。十数秒してマリエラはマヤの抱擁を解くと、今度はサンドラを引き寄せて抱きしめた。

 

「はわわわ、こ、皇女様……み、身分が違い過ぎるの……」

 

 リエラとマリエラが同一人物と分かっていても、マリエラに切り替わってしまうと畏れ多い身分の人に感じられてしまうサンドラである。

 

「いいえ、わたくしの大切な仲間です。お友達です。サンドラちゃんのことも大好きです」

「はわわーっ!」

 

 皇女様に大好きと言われ、村娘の心拍数はたいへんなことになった。

 

「マリエラ様。そろそろお時間です」

 

 フィリアがそわそわするだけで何も言わないでいるのにしびれを切らしたか、懐中時計で時間を確認した護衛侍女長が催促にきた。

 フィリアは申し訳なさそうにし、マリエラは名残惜しそうに密着していた体を離す。

 

「ごめんなさい。玄関までお見送りしたいけど、昼食会までという約束なの」

「そうしんみりしなくても、すぐに追いかけるから大丈夫ですよ」

「……そうですね。ありがとうございますマヤ様。サンドラさんも」

「わたしも、村の許可がもらえれば、すぐに向かいます。あっちの学校で学べるのを楽しみにしてるの」

 

 そうして少し寂しそうな笑顔のマリエラ姫と別れた。

 

 

 

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