異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
サンドラのお母さんがライナーさんに手を引っ張られて、リトバレーに帰る馬車に乗り込んだ。
馬車には持って帰る荷物が満載されている。主にリトバレーで作る薬の材料だ。そんな荷物の中に、なんとあの超回復ポーションも入っていた。アタッシュケースのような鞄に入れて、5ダースが厳重に梱包されている。後日の便でさらに5ダース持って帰るという。
「領主様からリトバレー村へって、渡されたんですよ」
ライナーさんは大事そうにクッションの効いた場所へしまう。
「売ってほしいって頼んでも分けてくれなかったのに」
マヤが口を尖らせると。
「領地の各所に一定数配るみたいです。その地での非常事態はもちろんですが、何かあった時のために分散保管するとか」
「なるほど。リスク分散ですか」
一箇所に保管していて、そこがもし戦争で陥とされたり、災害でだめになったりしら全滅だからだ。しかし小さな田舎の村のリトバレーに保管してるのが必要になるのは、相当のもしもが起きた時だろう。
「気を付けてお母さん。次か、その次の便で、サンドラちゃんとわたしも帰りますから」
「マヤさんは無理しないで。倉庫の方が大変だろうから。落ち着いたら帰ってらっしゃい。サンドラはお父さん待ってるから、なるたけ早くね」
「もうっ。お父さんに、わたしはもう子供じゃないよって言っといてなの」
「一応伝えるけど、本当に泣いちゃうかもよ?」
苦笑いするお母さん。
「では出発します」
パシッと馬に合図すると、ゆっくりと馬車は動き出した。
「「「「「ご主人様のお母様、お気を付けて」」」」」
マヤの奴隷達が一斉に頭を下げる。トムトは腰に良くないので、代わりに手を振っている。お母さんはやや困惑した様子で手を振り返した。
馬車は領都の門に向けてカラカラと走っていった。角を曲がって見えなくなるまで見送ると、マヤは奴隷達に向き直った。
「さて、今日はいよいよ倉庫に氷を入れるよ。トムトが一日かけて中で氷を作るから、カルラ、ノアナ、リリーは、おじいちゃんに温かいものを作って食べさせてあげてね」
「ラースにもやらせるけ、あやつのも作ってやってくれんか」
「ラース君のも? 他の子も見に来るかもね」
「多めに作っとこう」
「ブランケットも用意しとくねー」
気の利く子たちである。
「ノーバートも倉庫の方に立ち会いね」
「了解です!」
「マルリーゼはホームセンター・アデラに、業務提携の持ちかけをヨロシク。アデラさんの扱うものに冷凍冷蔵するものがどれ程あるかわかんないけど、倉庫利用権の代わりにマルリーゼのバックアップをお願いしたいから」
「ホーム商会ですよね。要はあたしがいない時に店番してもらいたいと」
直近ではそういう事だったのだが。
奴隷をもう一人とも思ったけど、アデラのお店を引き込む方が、結果的に安い投資で発展できるとマルリーゼは考えた。
吸収合併する気かな?
「わたしは探検者ギルドに、預かってる魔物を倉庫へ移転するよってことと、保管料なんかを契約してくるよ。サンドラちゃん、一緒に行って帰りに商業ギルドでパフェ食べてこう」
「マヤちゃんは順風満帆なの」
「ご主人様ー、お土産にプリンがほしいなあ」
リリーが涎の垂れてる口元に指を置いておねだりする。
「こらっリリー! プリンはデッカーさんへのツケにならないって言ったでしょ!」
「いいよいいよカルラ。わたしとサンドラちゃんだけいいもの食べてくるなんて不公平だからね。もともとお土産持って帰るつもりだったから大丈夫よ」
「……パフェ~」
大人の男の人にもおねだりする人がいた。
「なに、リネールさんも行きたいの?」
こうして忙しい一日がまた始まった。
◇◇◇
「孤児院パーティーのディオネアの枯れ葉集めでは、大変お世話になりました」
ハンター・
「気にするな。ギルドでも早く使いたくてな。倉庫の名前は『マヤ・レイ』だったか?」
「はい。わたしの国の言葉で『マヤちゃんの冷凍冷蔵倉庫』を略すとそうなるんです」
既にマヤは商業ギルドに倉庫業者『マヤ・レイ』を登記していた。なので商業ギルドへの上納金、ヘキサリネへの税金、従業員の孤児院の子達への給料を払っていかねばならない立場になったのである。まあ全ての運営はマルリーゼに丸投げするのだが。
「そ、そうか。いいんじゃないか? それでそこの一定スペースをギルドで常時借りておきたいと思っているんだ」
「常時? 通年ってことですか? スタンピードの魔物が全部はけた後も?」
「うむ。西街道の安全確保に探検者が大勢駆り出されたせいで、魔物や大型の恐竜がたくさん捕らえられて、マヤが預かってる魔物まで市場に流すと、食肉市場が値崩れして店が潰れかねない状態なんだ。それでマヤが持ってるのはあまり解体できなかったんだ。お前の冷凍倉庫を使って出荷調整をしたいのだ」
マヤは顎に指を置いて考える。
「通年かあ。季節によって利用料変えようと思ってたんだけど……」
「季節で値段が変わるのか?」
「傷みやすい夏場は高く、反対に冬はその辺に置いといても腐りにくい季節だから夏場の半額、春秋はその中間ってな感じに値段設定しようと思ってたんです」
「なるほどな」
「1年契約で毎年更新にするなら、まけてあげようかな」
「お前にコントロールされる日が来るなんて思わなかったぞ」
マスターは苦笑いをした。
「年間契約は安定的収入になるんで、こっちとしてもとても有り難いです。どれくらいの面積必要ですか?」
「倉庫の大きさはどれくらいあるんだ?」
「今度開業する第一倉庫は、長さ100m、幅45mの4500平方メートルです。利用できる高さは5mです」
「半分借りるといくらだ?」
マヤは紙の上で計算する。
「一番安い冬価格で提供してあげるとすると、1平方メートル当り月額賃料千円として、倉庫全体で月額450万円。その半分だから225万円。月当り金貨22枚でどうです? ディスカウント即決!」
「月22金貨か。いいだろう」
「今わたしが預かってる魔物も倉庫半分使うんで、結果的にギルドで第一倉庫一棟借りることになっちゃいますが?」
「マヤ預かりの魔物は1、2ヶ月でなくなるだろうから、構わん。一棟1ヶ月、金貨44枚でいいか?」
「商談成立です。握手」
マヤの小さな手は、マスターの大きな手で見えなくなった。
そこに遅ればせながら、ケイトが紅茶を持って現れた。
「おや、もう終わりですか?」
「ああ、条件は合意した。契約書を作ってマヤと交わしてくれ」
「あたしが交渉すればもっと値切って差し上げますのに」
にまりと笑うケイトに、マヤは身震いする。
「いや、そんなに高くないぞ。それにマヤ個人じゃなく、倉庫会社の売上になるんだし、その一部は孤児院の報酬にもなるんだろ?」
「はい。わたしの取り分なんて考えてないですよ」
「まあ良い心がけ。そうすると、マヤさんの魔物保管契約期間は今日で終わり? 1日金貨1枚の」
「あ、そうですね」
「承知しました。契約終了の手続きと、報酬の方を用意します」
「やった。ペナルティの消化もお願いしますね」
「そういえばそんなのもありましたねえ」
よしよし。魔物保管を1日1依頼として処理してもらうことになっていたのだ。
「ほくそえんでるけど、マヤさんのストレージ保管期間は今日含め28日。よって残念ながらたったの28依頼しか減りませんでした。まだペナルティ残は2300以上。まだまだ永久Fランクですねえ」
「ええ!?」
マヤは肩を落としてギルドの1階に降りてきた。
「どうしたのマヤちゃん?」
依頼掲示板を見ていたサンドラとリネールが、マヤに気付いて尋ねた。
「階級差違反のペナルティが思ったように減らなくて」
「あれはコツコツ減らすしかないよ」
「Fランクのままでもいいんじゃない? マヤさんはパーティーさえ組んでればそんなに困らないし」
「リネールさんのばかあっ。あのおかしな資格を前面に出さないとになるからイヤなんだってばー」
リネールをぽかぽかやっていたら、買取カウンターのおじいさんが気付いた。
「おう、嬢ちゃん。今日もオークを15頭たのむわい」
日課の冷凍魔物を渡しにやって来たのだと思ったのだ。
「おじいさん、実は今日でわたしから渡すのは最後になります」
「ん? まだ千頭くらいあるじゃろ?」
「今後はわたしの仲間が経営する倉庫からもらってください。頼めば孤児院パーティーが格安で届けてくれますよ」
「マスターが言ってたやつか。その倉庫、中のモン融けたりせんのか?」
「強力な氷法力の人が冷やしますからご安心ください」
「そんなに強力なんか? 夏場はどんどん溶けるから付きっきりになって大変じゃろな。過去同じようなことやっとった奴もおるが、だいたい夏風邪ひいて、途中でとん挫しとる」
そうかあ。氷法力の人がいても断熱壁がないから、これまで大きな商売にならなかったのはそういうことなんだ。
マヤは買取係のおじいさん、サンドラ、リネールと解体場へと降りていった。
「おお!」
そこには巨大な首長竜とティラノサウルス系の大型獣脚類、ラプトル系の小型獣脚類がゴロゴロと転がされていた。他にも熊のような魔物もある。
「こりゃあ、肉屋はまた肉の大安売りになるねえ」
30mくらいある首長竜を、リネールは首を右から左へ大きく流しながらそう言った。
「今日もこいつを卸すと言うたら、肉問屋も怒るじゃろうな」
「なるほど。これは確かにわたしの倉庫に一旦入れたくなるわけだ」
マスターが後ろからドスドスと地面を揺らしてやって来た。
「じいさん、マヤの保冷倉庫を借りた。そこへ一旦放り込んで、様子見て2週間後くらいにまた卸せ」
「嬢ちゃん、こんなでかいのも入るんか? いや魔物千頭入れられるんじゃったな」
「はい。でっかい、便利、安いが、冷凍冷蔵倉庫『マヤ・レイ』のウリですから」
「嬢ちゃんも出世したのお。そんじゃこの後、運び入れに行っていいのか?」
「あっそうだ。今日はまだ中を冷やしてるところなんです。明日から営業なんで。そしたら、わたしが一旦預かりましょう、わたしのストレージで。それで倉庫に入れておきますよ」
「そりゃ助かる。なんじゃ、依頼にしてペナルティ減らしてほしいんか?」
「ぜ、ぜひ! タダでもいいからペナルティ減らしてください!」
サンドラが呆れる。
「マヤちゃん、なりふり構わないの」
「だってだって」
「ふぉっふぉっふぉっ。ええよ、依頼にしてやろう。ええか、マスター?」
「しかたねえな」
「やった!」
「大小の恐竜と魔物を合わせて55頭。1日保管と、倉庫への輸送じゃな」
「分けて! 保管と輸送の2依頼、2依頼!」
「調子のいい奴じゃ。ほれ、探検者タグを出せ」
買い取りのおじいさんは依頼票を作成し始める。
ふと上からの目線に気づいて、見上げたとたんに頬をひくっとさせた。マヤもどうしたのとその目線を追うと、「ひうっ!」と悲鳴を上げて横隔膜を縮ませた。
解体場へ降りる階段の上から、ケイトが腕を組んでジトッと冷凍ビームな目線で見下ろしていたのだ。
「2依頼は……ダメ……ですか?」
「……見なかったことにします。どうせタダなんでしょう?」
「あ、ありがとうございます!」
マヤは腰を90度曲げて最敬礼。買い取りのおじいさんも片手を上げて、すまんのぉとケイトに合図した。
「じいさん。今日も大物解体するってんで人集めてたんだが、帰すのか?」
買取係のお兄さんが聞く。その後ろで大きな刃物を持った人がたくさん控えていた。
「そうじゃったの。そうじゃ嬢ちゃん。お前さんが預かってるワイバーンを1頭もらっとこうか。ワイバーンの肉なら、肉問屋も喜ぶじゃろ」
「おおっ、コチンコチンのワイバーンか! 了解だ。みんな刃物は役に立たないぞ。でかいノコギリを用意だ!」
冷凍マグロ同様、凍ってるやつの解体はノコギリでやる方が簡単なのである。
マヤは解体係の人達を中庭の端に避難させて、横たわる恐竜を固体酸素で覆って次々にストレージにしまっていく。
「すげぇ、あっという間になくなっちまった」
「次ー、ワイバーンの入ってるコンテナ出しまーす」
すると中庭の大半を埋める巨大な青い氷が出現した。中庭の季節は一挙に冬に逆戻りする。
「やべえ、氷の中にでかい姿がいくつも見える……」
「1頭って話じゃなかったか?」
マヤが固体酸素だけを回収すると、カチコチのワイバーンが10頭、中庭にばらまかれた。
「さあ、お好きなのをどうぞ。1頭と言わず、2頭でも3頭でも」
「は、端の奴でいい!」
「早くしまってくれ! 寒い、寒い!」
「えー? 遠慮しなくていいのに」
「凍え死ぬーっ!」
地面が霜で白くなり、霜柱が立ち始める。サンドラとリネールは階段を駆け上がって逃げていった。階段の上から阿鼻叫喚となっている中庭を見下ろしていたケイトは、
「こんな無茶苦茶な法力では、また何かの拍子で階級差違反やりかねませんね」
と冷気で冷えた両肩を掴んでぶるるっと震えた。
1頭を残し、マヤは残りを再びしまった。
「それじゃあね、おじいさん」
「おう、ご苦労じゃった。へーっくしょい!」
「さあ、商業ギルドのパーラーに行こうか、サンドラちゃん、リネールさん。あれどこに行った?」
2人を探しにサロンへ戻るマヤ。その後を追うように解体係の全員が階段を登ってきた。
「一回温まってからにしねえ?」
「熱い茶が飲みてえ」