異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
翌日。
いよいよマヤの冷凍冷蔵倉庫開業の日である。
倉庫前には、マヤとその奴隷達、サンドラとリネール、孤児院の子供達に院長先生と職員が集まっていた。
カルラとノアナが紐を引いてくす玉が割れ、皆が拍手をした。
「ご主人様、ご挨拶を」
マルリーゼに促されて、強制的に前へ引き出されるマヤ。
「い、いや、わたしこういうの苦手で……。あ、あの、お忙しい中、冷凍冷蔵倉庫『マヤ・レイ』の開業式にお集まりくださり、ありがとうございます」
「別に忙しくないぞ」
「いーから、早く中見せろ」
式典の決まり文句など関係ない男子達である。
「え、えっと、本日開業いたします第一倉庫は、既にハンター・
「「「「「金貨10枚!!」」」」」
「ううぅ、月に金貨10枚も安定した収入が。やったわ、これで施しを受けなくても食べ物の心配はなくなりましたわ。でも万が一のために、庭の草は抜かないでおきましょうね」
若干心の声も出てしまっているが、院長先生は涙を流してマヤを拝んだ。職員の人達も目元を押さえて院長先生の肩を支える。イレムなど一部の男子は、漏れ聞こえた「草」に顔を引きつらせる。
「現在引き続き事務所を建設中です。また第二、第三倉庫も建設予定ですので、こちらの建築作業へも手伝いに来ていただけますと、労働への報酬の他、ノーバートが指導して各種の建築技術を習得できます。卒院後の就職にも有利になりますので、ぜひ参加してください」
「ニコはやってんだろ?」
「もう小屋くらい作れるよ。孤児院の建物が壊れても、僕が直してやるから、町の大工呼ばなくていいよ院長先生」
「あ、ありがとうよニコ。なんて頼もしいんだろう、やったわ」
さらに院長先生の涙腺は崩壊し、下に水たまりができ始める。
「そして卒院後は『マヤ・レイ』を就職先とすることもできます。入った子には第二、第三倉庫を運営していってもらいたいと思います。ラースは氷法力で大きな氷が作れるようになったら、うちで働いてください。こっちからお願いするね」
ラースよかったなあと、男の子達にくしゃくしゃにされた。
「リヴィウ君も来てね。荷物の出し入れにリフト法力の人は欠かせないからね」
イレムがリヴィウを持ち上げると、リヴィウは「お姉ちゃん、ありがとう」と右手を振った。
「可愛い子が身売りすることもなく、危険な探検者になるしかないということもなく、法力があろうがなかろうが努力すれば報われる、そういう働く場となりますよう、盛り上げていきましょう」
パチパチパチと大きな拍手が起こる。
院長先生はもう声にならず、俯いてハンカチで顔を覆っている。下の水たまりは池になっている。職員の人達は近寄れなくなってしまった。
「なんかよくわかんねーけど、俺も卒院後はそこで働いていいんだな?」
「イレム君は、その前にまず計算できるようになってからでないと困ります」
「なんだよガキババア、しゅーしょくさきにできるって言ったじゃんか!」
「努力すれば報われる場だって言ったでしょ! 努力前提!」
「続きまして、お祝いの言葉が届いておりますので、紹介いたします」
掴み合っていたマヤは、えっ? とびっくりした。
リリーが手紙を広げる。少し舌足らずな声で読み上げた。
「領主様からです。直接支援することはできないが、影から応援している。ヘキサリネの未来を担う子供達が健やかに育つことを祈る」
「「領主様からだって!」」
わあっと歓声が上がる。
「もう一通。マリエラお姫様からです」
「「「「「ええーーーっ」」」」」
リリーの舌足らずな朗読が続く。
「ご開業おめでとうございます。開業式には立ち会えなくてごめんなさい。子供達へ。マヤ様が作った会社なら、手出ししたら大変なことになりますから、安心して働いて大丈夫ですよ。マヤ様へ。特許料はいかほどかしら? それか支店を早くミリヤに出してくださいませ。わたくしも利用したいわ。以上」
きゃああーっと喜ぶ子供達。
「祝辞なの!? これほとんど伝言じゃん!」
「最初におめでとうって言ってたよ」
「ミリヤにも作ったら、あたし働きにいくーっ」
「ずるい、俺も!」
「いーから、中を早く見せろー」
ぎゃあぎゃあと騒がしくなってきたところに、アンキロサウルスの引く荷車が敷地に入ってきた。
「遅れてすみませーん」
アデラ商会のアデラとマティアスであった。
「あ、アデラさん。業務提携してくれてありがとうございます」
「昨日マルリーゼさんが話を持ってきてくれて、倉庫利用権を貰えると聞いて、条件反射でサインしたんです!」
「聞きましたよそれ。冷やして保管するものってそんなにアデラさんとこの商品にあるんでしたっけ?」
「シチューパイ用に大っきなお肉を衝動買いしちゃいまして、後から保管どうしようって困ってたんです!」
本当に商売人なの、この人? しかもシチューパイ? と心配になるマヤ。
「えっと、そっちは
「す、すみません。子供の頃の夢がパイ屋さんだったんで……」
恥ずかしそうにして荷車の幌を解いた。
幌の下から出てきたのは、首長竜のアパトサウルスがデーンと1頭まるごとだった。
パイが何年分作れるんだこれ!
「なんてもの買ってんですか!」
孤児院の子供達や三姉妹は大喜びだが、マティアスは頭を抱えて、ハァ~と大きくため息をついていた。
「店番でもなんでもやりますから! どうか、どうか!」
必死に食らいつくアデラ。マルリーゼが側に来て耳打ちする。
「アパトサウルスはとても良い肉付きのを選んで買ってます。目利きはさすがです。ですがこの人、たまにポンコツです」
か。かわいいじゃないか。
「た、頼りにしてますよ……」
いよいよ男子どもが気になってしかたない倉庫の中へと入る。
ディオネアの枯れ葉が入っている分厚い扉を開けると、白い靄がもわああっと出てきた。
そこを突き抜けると真っ白な世界が現れ、床も壁も霜が降りて、天井からも霜が雪のようにパラパラと降ってくる。空気はキンキンに冷えており、吐く息が白く漂う。子供達は「わあああっ」と歓声を上げた。
左腕がないリヴィウは、袖から冷気が肩の方に入ってきて寒いのか、急いで袖口を縛っていた。
「これはよく冷えてるね。トムト、上出来だよ」
「ラースもがんばったんじゃぞ。これじゃ」
入口の横のバケツに、一塊の氷がごろんと入っていた。
「バケツサイズのが作れるようになったんだね。えらいじゃん」
「氷の大きさより、その温度じゃ。この子は温度のコントロールに長けておって、その氷、温度計で測ったらマイナス40度にもなった」
「そうなの!? ラースすごいね!」
「疲れたよぉ。でも訓練してもっと大きいのも作っていくからな。倉庫冷やすのは俺に任せて」
「うん。期待してるよ」
マヤはラースの頭をぽんぽんと撫でる。
アデラが持ち込んだアパトサウルスがさっそく入庫された。ノーバートのグリップリフト法力だけでは持ちきれず、リヴィウのリフト法力がさっそく役に立った。
「小さいのに力持ちだね」
「もっと鍛えて、もっと重いのも持てるようにするから、ここで働かせてね」
「もちろんだよー」
マヤはリヴィウの頭も撫でた。
無事アパトサウルスが収まり、アデラは広い倉庫内を眺めて、ほーっと手に向けて息を吐いた。
「これだけ寒ければ、すぐに凍りますねえ」
「これからもっと温度下げるから、ホントにすぐ凍ると思うよ」
小さい子達は床に溜まった霜をかけたりして遊んでいる。
「ねーねー、マヤ姉さまの氷は使わないの?」
「わたしのは氷って言っても燃えるのを手伝っちゃうから、火事になると危ないのよ。だから使えないわ」
「ふーん、ヘンな氷ー」
マヤはそのヘンな氷のバカでっかいのを出した。昨日探検者ギルドから預かった恐竜らの入った固体酸素コンテナである。固体酸素だけをすぐにストレージに戻すと、中カチコチに凍った恐竜や魔物だけが残った。
「寒う!」
「寒すぎて顔が痛いよ!」
なにしろこっちはマイナス220度で凍っているのだ。これで倉庫内はさらに冷え込んだ。
「ええっ、アパトサウルスが何頭も!?」
アデラは出現した恐竜の中にアパトサウルスがあったのでびっくりした。
「アデラさんが買ったのは、この群れの1頭なんでしょうねえ」
触ろうと手を伸ばす子達をリリーが止めた。
「触っちゃ危ないよ。ご主人様は凄すぎるから、触ったこっちも凍っちゃうのよ」
「わあ、いつものマヤ姉さまのヤリスギってやつだね」
「ヤリスギだ、ヤリスギだ」
「たんに凍らせるだけじゃ足んないんだね」
「だって
こめかみをひくひくさせるマヤ。
「そ、それじゃあ続いて、スタンピードでやっつけた魔物を出していくよ。やっぱ見たいのはワイバーンかな?」
するとイレムが自慢気に説明を始めた。
「これから出てくるのは俺も戦ったワイバーンだぜ。ワイバーンはすごかったぞ。空をすごい勢いで飛ぶんだ。竜の引く荷車が蹴っただけでひっくり返るんだ」
「見たい見たい!」
「ガキババア、早く出せ」
「言われなくても出すよ。そおりゃー」
どどんっと出たのは、何なのか分からないものだった。超巨大なイカ飯を切ったもののように見える。
「これ、もしかして胴体?」
「あっ、こっちに頭と長い首があるよ!」
「ひいいいい、輪切りになってる! ワイバーンが輪切りですう!」
一番驚いていたのはアデラだった。
「あ、これ、イレムが階級差違反しないように、急いでやっつけたやつだ」
ワイバーンを急いで輪切りに!?
アデラとマティアスが衝撃で固まる。
「ご主人様はどれだけお強いんですか!」
ノーバートも驚きだ。
その後もバラバラになったオークや、体が溶けたウフルなど、悲惨なのが次々に出てくる。
「マヤちゃん、これは小さい子には刺激強すぎなの。最前線基地から持ってきた、傷のないのはどうしたの?」
「あっれー? おかしいな。この箱かな?」
また別の固体酸素コンテナを出す。固体酸素だけを収納すると、中身がバラバラと、人型の凍ったのが散らばった。
「あ、これそうだね。オーガじゃない?」
子供達がどよめき立つ。
「オーガ!?」
「うわあ、Aランクだよね!」
「そんな魔物、見たくても見れないよ!」
見に行く子供達。しかしすぐに悲鳴に変わる。
「うわあああ!」
「怖い、怖いー!」
「見ないで、こっち見ないでー!」
しまった。マヤが酸欠死させたものは、むちゃくちゃ苦しんだ顔をして絶命しているのである。
サンドラも、これはダメだと目を覆う。
この異世界をもってしても教育上良くないということで、小さい子達は早々に倉庫を出た。マヤの出した冷凍魔物が冷たすぎて、倉庫の中が危険なほど極低温になったこともある。これは高性能の防寒着を用意しておかないといけない。
大きい子はマヤの冷凍魔物に慣れてもらわないと出し入れができないので、マヤと一緒にクエストに出て経験済みのニーシャが扱い方をレクチャーをした、
「なるたけ目を見ないことだわね。だいたいマヤ姉の強さを知らないからこんなことになるだわね。それを知らずにマヤ姉にケンカを吹っ掛けるから、あまりの力の差にびっくりして、やらなきゃよかったって後悔がこんな顔に現れてるだわね」
「「「なるほどー」」」
こうやってマヤの破壊神神話は根付いていくのであった。
出てきたみんなは、髪の毛やまつ毛が真っ白で、お互いを指さして笑い合っていた。
そのあとは倉庫横の広場に料理を並べて、開店祝賀パーティーが行われた。
なんにしても、マヤの冷凍冷蔵倉庫は営業を開始したのである。
以上、第5部完でございます。
いつマヤは旅に出られるんでしょうね。