異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第2章 マヤちゃん、狩りに出る
第23話「ミリヤ皇国Cランクハンター リエラ」


 

 リエラは大きな麻袋を担いで、1歩1歩ハンターギルドの階段を踏みしめて上がった。入り口の観音扉をぎっ、ぎぎぃい~と開ける。前より軋む音が大きくなった気がする。中に踏み込むと、背中の麻袋の位置を直して、中央通路を奥の買取カウンターに向けて、えっちらおっちら歩き出した。

 

「おいおいお嬢さん、随分重そうじゃねえか。手伝ってやってもいいんだぜえ。今夜一杯付き合ってくれりゃあなあ。ひゃっひゃっひゃひゃ」

 

 リエラはギロリとその男を睨み返す。

 

 まったく、どうしてどこのギルドにもこういうアホがいるんだろう。こんな声掛けして成功した試しが一度でもあるんだろうか。それか、これを専門に請け負ってるパーティーだったりして。

 全国ハンターギルド支部に必ず1名を配置。

 ……凄すぎる。それ結構凄い組織かもしれない。毎回必ず虫けらを見るような目を返され、場合によっちゃ反撃食らってギルドの階段を蹴り落とされ、いらぬタンコブ作って尻尾撒いて逃げる。受けた傷の治療費だってバカになんないだろうに。

 

 そう思うと、その男が酷く哀れんで見えた。

 

「な、なんだその目は! 俺っちをそんな悲しいもの見るようにすんじゃねえ!」

 

 リエラもムカッとくる。

 

「手伝うなら、あと数メートルのとこじゃなくて、せめて城門くらいのところで声かけやがれ! この、すかたん!」

「ぬわんだとぉー!?」

「おお、嬢ちゃん、買取品かい? 大物そうじゃないか、下持ってやろう」

 

 買取カウンターの初老のじいさんが出てきて、麻袋を支えた。

 

「ありがとう、おじさん」

 

 リエラはニッコリ笑ってじいさんに礼を言う。

 

「あと数メートルじゃねえかあ、そのじじいがやってんのおぉ! なんでじじいには礼を言って、俺っちはすかたんなんだああ!」

 

 リエラは、目を三角にしてアホへ言い捨てた。

 

「それが分かんないなら、赤ん坊から人生やり直しな!」

「あんだとてめえぇ! ちょっと躾が足りねえみてえだな、このアマぁ!」

 

 とうとうそのアホは剣に手をかけた。

 しかし鞘から抜こうとしたところで、ガキンと(つか)に何かが当たって剣が抜けない。見れば買取係のじいさんが、獲物を選別する時に使う鉤鎌で刀柄を押さえている。じいさんの眼光がギンと光る。

 

「お前さん、ギルド内で向き身を出したら、やり直すどころか、ここで人生終わりじゃぞ?」

 

 剣はピクリとも動かせられない。アホ男はプルプル震え、

 

「ち、ちきちょうー、次はねえからなあぁ、おぼえてろぉー!」

 

と叫んで外へ逃げていった。

 

 なんというテンプレート悪党。リエラは窓からアホ男を追ってしまった。その辺の角で、

「今日のノルマ達成しましたぜ」

「おお、いつも悪役ご苦労さん。今日の給金だ」

とかやり取りがあるのではと本気で思ったからだ。

 

 うーん、考え過ぎか。そんな全国組織はないみたいだな。

 アホ男は肩を怒らせて見えないところまで行ってしまったので、室内に振り返る。そしてじいさんの首に手を回して抱き付いた。

 

「おじさん、ありがとう。かっこよかったー」

「ふぉっふぉっふぉ、そうじゃろ、そうじゃろ」

「うおおお、じいさん見させてもらいやしたぜ! 本当の声の掛け方ってヤツを!」

「かっけーっ! オレ次やってみるっす!」

「帰って練習しよう!」

 

 ギルドのサロンからはやんややんやの大喝采。

 ドンドンドンと受付のケイト嬢が、険しい目をして木槌でカウンターを叩いた。

 

「ところでお嬢さん。この獲物、触った感じ蛇っぽかったが?」

「ええ。依頼にあったアンフィスバエナなんだけど」

 

 麻袋からずるずると引き出した。

 

「おお、良く肥えとる」

「いやちょっと、肥え過ぎでしょ! これボアとか、ニシキヘビとか、そういう類のですよ。どうしてこんなに太くなるの!?」

「ヘキサリネは魔素が薄くての。魔物のアンフィスバエナも魔素に頼っては生きて行けんのじゃ。それでヤギとか普通の動物ばかり食ってると、こういう体形になっちまうらしい」

「じゃあこれ、(さば)いても魔石出てこないの?」

「出るにゃあ出るだろうが、かけらじゃろな」

「えー、ヘキサリネに来たら魔石は買う事になるって言われたけど、本当だったんだ」

「首は()ねたようじゃが、持っとるか?」

「もちろん。毒腺は頭にありますからね」

 

 ザックから中型犬の頭くらいのサイズの蛇の頭を2つ出す。

 

「おお、でかいのお。ここから毒を絞り出して(かめ)に溜めて、(かめ)ごと土に埋めて、3年寝かして毒抜きするんじゃ」

「大変ねえ。ミリヤ皇国じゃ解毒法力使いに渡して、1週間くらいで毒抜きしちゃうのに」

「それはミリヤならではじゃな。まあ寝かすのも、熟成濃縮されて効能が変わるようじゃて、一概にデメリットでもないわい」

「なるほどね~。それでこっちが生血(いきち)ね。逆さにして吊るして抜いたやつ」

 

 コルクで栓をした大きな陶器の瓶をザックから出した。

 

「3Lくらいあるかの? さすが大物じゃ」

「これで全部です。はーっ、重たかった。ねぇ、これでも報酬はハーフ金貨1枚なの?」

「確かにこれは2、3匹分ある大物じゃの。交渉しといてやるわい。金はすぐ必要かい? 1匹分はすぐ払うぞ。それとも後で増額含めまとめて受け取るか?」

「1匹分先に貰うわ」

「ほい、ハーフ金貨。明日以降また来ておくれ。ご苦労さん」

「ありがとう」

 

 受け取った報酬を綺麗な刺繍の入った巾着に入れ、懐にしまう。

 

「しかしお前さん、いい腕しとるのお。不意打ちで1つ頭やっつけといて、もう1つが毒を吐いて、次の毒を出す前に仕留めたというところか? 毒を吐いた直後でも、踏み込むのには勇気がいるからのぉ」

「私は『解毒』の法力があるからね、あまり気にせず突っ込んでいけるのよ」

「そりゃあ心強いの。しかしこの太い奴じゃぞ? 巻き付かれたら首落としても離れんぞ」

「そこは……根性?」

「はっはっは、大したもんじゃ!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 リエラはギルドでのアンフィスバエナの換金を終えると、市場へと足先を向けた。

 

 市場の場外には屋台がたくさん並んでいて、ここ数日の人気商品はマンモスの肉だった。マンモスはなかなか市場に出回らない。群れで活動しているので、群れのメンバーを襲うと群れ単位で反撃されることから、狩りの対象となるのは1頭だけでうろついているはぐれマンモスとなる。その中でも病気や年寄りでないものとなると、さらに数が限られる。見かけたら食っといて損はないってことだ。

 

 リエラもマンモスの串焼きを一串買うと、美味しそうに頬張った。濃い目のタレをつけて焼いたそれは、所謂ジャンクフードに分類されるだろう。ジャンクフードにはジャンクなりの旨さがある。貴族の上品な料理は確かに美味しいが、下町庶民の飯には活気というか力強さがある。それがこの街(ヘキサチカ)のように、庶民にも余暇を考えられるくらいの生活を営める水準があればなおさらだ。

 特に安心なのは衛生面だろう。死ぬか生きるかのギリギリの生活水準では、少々腐ってようが病気の動物から取ったものだろうが気にしてられない。材料の質などおざなりにされる。だがここ(ヘキサチカ)ならその心配はない。

 

 リエラは賑わう街の様子を眺め、「ここは凄く活気があって民衆が生き生きしてるな」と感心した。

 母国ミリヤは強国だが、最近は何かに怯えるように不安な空気が人々から活力を奪っている。それが何なのか分からないのが不気味だ。そんな中、10年ぶりに国境の往来が両国民に自由化され、非公式だった政府間の交流が正式に復活したのは喜ばしいことだ。ヘキサリネの活気がミリヤをも元気にしてくれる事を願うリエラだった。

 

 リエラはいったん宿に戻り、湯をもらって体を洗うと、汚れたハンターの服から市街を歩くのに適した軽装に着替えた。そして鞄一つ持って再び街へ出る。今度は行政府の建物が纏まっているエリアへと歩いて行った。

 

 行政府エリアに入ると、念入りに周囲を警戒し、前後に人目がないことを確認する。まだ開設(オープン)されてないミリヤ皇国大使館の裏へ回ったところで再び周囲を警戒し、誰の目もないと確信を得ると、隣接する背の低い藪の中にすっと身を隠した。

 

 

 

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