異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第26話「護衛侍女は、ついでにハンターになりました」

 

 ヘキサチカの宿屋街から商業ブロックへ向かう若い2人の女性。

 一人はハンターらしい野外行動服。栗色のふわっとした髪を大きな三つ編みにして結わえている。

 もう一人はメイド服。ただしそれは通常のものより生地が厚めで、外からは分からないが、内側には隠し武器を入れるところが幾つもあった。今のところ何も入れてないが。

 

 侍女(メイド)とは、屋敷で身の回りの世話や家事一般をするだけではない。屋敷外で主人と行動を共にする時は、主の護衛も努めねばならないのだ。中には護衛専門の侍女を揃えているマニアックな国もあるくらいだった。

 そういった国では彼女らのことを、護衛侍女(エスコート・メイド)と呼称していた。つまり護衛侍女(エスコート・メイド)にとって、メイド服は戦闘服なのである。

 ヘキサリネにはそのような専任部隊はなかったが、考え方が否定されているわけではない。

 

「マリエラさまぁ、本当に行くんですかぁ?」

「しーっ。外ではリエラって呼ぶよう言ってるでしょ。大使館開設式典は当面延期になって暇になったんだから、今がチャンスなのよ」

「だからって、延期が伝えられたその直後に外出だなんて。式典の後だって、いいじゃないですかぁ~」

 

 ミリヤ皇国マリエラ皇女こと、外に出ればCランクハンターのリエラは、在ヘキサリネ ミリヤ皇国大使館付きの侍女フィリアに、ずずずっと顔を近付ける。

 皇女様のお顔のドアップに、思わず赤面するフィリア。

 

 ま、またキスしてもらえるのかしら!?

 あぁん、もう、こんなにカワイイお姫様の侍女になれたもの、大ばあ様のおかげ。私幸せです、大ばあ様。

 

 天国の大ばあ様に感謝を告げるフィリア。

 

「言っときますけど、私は明日も外出しますよ」

「ひっ」

「もちろん、明後日も明々後日も」

「ひいいっ!」

 

 前言撤回です。このお姫様は見かけとは大違いに、なかなかの問題児なのです!

 社交界に出れば本気でお淑やかに、でも野山に出ればガキ大将も真っ青の超優良健康児というジキルハイドっぷりで、私の精神を削りまくるのです。同年代の貴族の御子息でマリエラ様にかなう人はいません。

 後でお淑やかモードの時に、たっぷり甘えさせてもらいますからね!

 

 さて、そんなマリエラは、今は野外活動に特化したリエラモードなので、構わずフィリアの精神を追い詰めてくる。

 

「公爵にできるだけ私を監視するよう言われたんでしょ?」

「か、監視じゃなくて、護衛です~」

「ならなおさら、私にくっついて一緒に行動することで監視しろって意味で、公爵は言ったんでしょ。言葉通りに私の護衛侍女(エスコート・メイド)を務めようとするなら、冒険者、いえこの国でいうところの探検者(エクスプローラー)になってた方がいいんです。私もハンターの資格を使って野外活動してるんだから」

「お嬢様が冒険屋に憧れるのは分かります。け、けど、あれはそんなに優しいお仕事じゃないですよぉ。泥んこになって汚いし、狂暴な動物を討伐しに行ったりで、危険極まりないって聞いてますよぉ?」

「知ってるわよ。私は10歳の頃から屋敷抜け出して、こつこつ実績積んでるんだから」

「10歳!? そんな時から逃亡癖が……いえ! そんな一国の施政者になる可能性がある人が、冒険屋なんかやって身を危険にさらしてちゃ、まずいんじゃないですかあー!?」

「その危険を排除するのがエスコート・メイドでしょう」

「き、危険な所に行くとかいう、そもそもなところを諌める、というのも侍女の役目かと……」

「主の行動を妨げてどうするの。主の取る行動を疎外せず、むしろスムーズに気持ちよく遂行できるよう準備をし、調整し、根回しし、陽動し、痒い所に手が届くよう影から支える、というのこそ、優秀な専属メイドというものです」

 

 持論を展開するリエラ。

 フィリアはメイドという職業がいったい何であったか、再び疑問が湧いてきた。

 

 私の大ばあ様も、大昔皇室に仕えたメイドだったそうです。既に大往生されましたが、その覚えめでたく、ひ孫の私にもお声が掛かったのです。そして皇女様に仕えることができたのも、優秀だった大ばあ様の資質を継ぐものと期待しての事と聞いています。

 お城に仕えることが決まると、おばあ様は大ばあ様の遺品を私に託されました。メイド時代に使っていた物だそうです。

 大喜びして受け取った大ばあ様の遺品ですがしかし、手裏剣やら斧やら小刀やらと、やたらと物騒なのが詰まってて、メイドって何だっけ? と思ったものでした。

 そう、今私は、あの時と同様の疑問を抱いていたのでした。

 

「というわけで、着いたわよ」

 

 フィリアが頭の中で葛藤している間に、いつの間に目的に着いたらしい。そこはハンターギルドだった。

 

 ぎこーーっと油の切れた音を立てて、観音開きのドアが開いた。中からぬっと現れたのは、顔中に傷のある、ムキムキの筋肉を見せびらかすような、半袖と胸のところをはだけさせた、ごっつい世紀末ハンターだった。背には大剣を担いでいる。

 

「ひえええええええ!!」

 

 フィリアは悲鳴を上げる。

 

 私はハンターギルドというものは、野蛮人の巣窟だと思っておりました。でもマリエラ様は10歳の時からハンターをやっていたとおっしゃったので、実際はそこまでのものではなかったのかと、あれは実物を見たことない人の噂話に尾ひれが付いたものだったのかと、ほっとしていたのでした。

 しかし今、ギルドから出てきた大男は、噂話を具現化した姿そのものでした。これは秩序ある世界が崩壊した後に出てくる人種です!

 

「お、メイドか? 珍しいじゃねえか」

 

 ひゃあああ! 見つかってしまいました! 捕捉されてしまいました!

 

 フィリアがヘビに睨まれたカエル状態になっているのを面白そうに見下ろす世紀末ハンターは、ドアを手で押さえたまま突っ立って、右手の人差し指をくいくいと動かす。。

 

「フィリア、ドア開けて待ってくれてるわよ。早く入りなよ」

「へえええええ!?」

「ありがとう、お兄さん」

 

 世紀末ハンターに笑顔で礼を言うリエラに、傷のある頬がでれっと崩れて赤みをさした。

 

「えええええ?」

 

 親切な行動に加え、あまりに純情な反応に、フィリアは事態を理解できないでいた。いや、脳みそが受け入れるのを拒否している。

 

「フィリア、人を見かけで判断しちゃだめよ」

「ええーーーー??」

 

 リエラに続いて慌ててギルドの階段を上がると、ぺこぺこと恐縮しまくりながらドアをくぐるフィリア。

 その時ちらっとドアを押さえている世紀末ハンターに目を向けた。すると気味悪い笑顔を浮かべて、べろりんと長い舌を出して舌舐めずりする。真っ青になって声も出せないフィリアは、マリエラの背中に飛びついてしまった。

 2人がホールに入るのを見送ると、世紀末ハンターは押さえていたドアを放し、でへへへと、だらしなく緩んだ顔で階段を下りていった。

 

「ひいいい、次会ったら食べられちゃいますう!」

「あら、そんなに気に入られたの?」

「だって舌をべろんべろんと!」

 

 

 

 

 ギルドは朝の依頼受付け処理で混んでいたが、もう峠は越えていた。

 リエラはまずフィリアをハンター登録をさせるために受付へ並らばせて、その間に買取カウンターへと行った。

 

「おはよう、おじさん」

「おお、お嬢ちゃん。アンフィスバエナは5倍に跳ね上がったぞ」

「5倍? じゃあ2.5金貨?」

「それに加えて、皮と肉はそれぞれ専門店に売ったから、プラス1金貨じゃ」

「わあ嬉しい。重たい思いして引きずって来たかいがあったわ」

「ふぉっふぉっふぉ、良く肥えておったからの。もともとの報酬額は昨日渡しとるから、追加分が3金貨。ギルドの手数料引いて2.7金貨がお前さんの取り分じゃ。ほれ」

「うん、確かに」

「それでな、薬師組合が非常に良い品を手早く入荷してくれたのに喜んでな、こんな腕の良いハンターなら、また依頼を出したいと言っておるんじゃ。お前さん受ける気あるか? 1匹7小金貨、勿論今回のように標準サイズ超えは大きさに合わせて増額すると言っておる。期限は1週間じゃ」

「標準サイズ以下でも7小金貨は保証?」

「そうじゃ」

「オッケー。受けるわ」

「ふぉっふぉっふぉ、期待しとるよ」

 

 報酬を受け取って、ホクホク顔で受付カウンターに戻ると、フィリアは受付予備嬢のレーナから、ヘキサリネのハンター心得の説明を受け終えたところで、本受付嬢のケイトがタグを持ってやってきた。

 

「お待たせしましたー、Fランクハンターのタグです。エスコート・メイドの修行ですって? くれぐれも命だけは大切にしてくださいね。遺体は肉食の獣や蟲、猛禽にすぐ食べられちゃいますし、恐竜だと丸飲みですから、ご遺族に渡せるものなんて何も残りませんからねー」

「ひいいいい!」

 

 悲鳴を上げるフィリアの肩にポンとリエラが手を置く。

 

「さあ、これであなたも立派なハンター。さっそく仕事に行くわよ」

「ええ!? マリ、いえリエラさ、さ、さん。も、もう仕事に出るのですか!? け、研修とか、講習とか、受けてからにしましょうよ!」

「これからその実地研修をしてあげようっていうのよ」

「それ、もう実戦では!?」

「実戦に勝る訓練はないわ」

「あ~れ~!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 さて、リエラより一足先にギルドを後にしていたマヤ達は、細くきつい階段で領都を囲む壁を登っていた。

 

 

 

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